蒼竜世界の勇者 -魔物と心を通わす青年の世界救済の旅-(リメイク版)

mao

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第六章・風の神器ゲイボルグ

アレナの街の大災害

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 ふと、胸の内がざわめくような奇妙な感覚を受けてジュードは目を覚ました。

 辺りはまだ暗く、頼りになるものと言えば窓から射し込んでくる月明りくらいしかない。暗がりに慣れていない目はそのままに寝台の上に身を起こすと、軽く室内を見回す。

 枕元ではライオットが、隣の寝台ではウィルが眠っている。時折楽しげな笑い声が外から聞こえてくることから、寝入ってまだ一、二時間といったところだろう。夜の街は未だ賑わいを失っていないようだった。


「(……まただ、やっぱり気のせいじゃない)」


 頭の中には、眠る前に聞いた気がする地を這うような声が微かに響く。何を言っているかは定かではないが、こちらに何かを訴えかけているようにさえ感じる。それも、繰り返し繰り返し。

 気味の悪いその現象に再び寝付く気にもなれず、ジュードは寝台を降りて再び窓へと寄る。すると、それがよかったのか、はたまた別の理由があったのか、今度は先ほどよりもずっとハッキリとその声が聞こえた。今度は何を言っているかまで。


『――グ、ルジ、イ……ダ、ズ、ゲ……』
「……!?」


 非常に聞き取りづらい言葉だったが“苦しい、助けて”と言っているようだった。
 どこかの誰かが助けを求めているらしい状況にジュードは思わず再び辺りを見回したが、やはりそれらしい姿は目につかない。もどかしいような想いを抱えながら再び窓の外に目を向けた時だった。


「うわッ!?」


 下からズドン、と思い切り突き上げるような衝撃を受けてバランスが崩れる。床に尻もちをついてしまったが、体勢を立て直すだけの暇はなさそうだった。まるで巨大な何かに下から揺さぶられているような錯覚に陥りながら、ジュードは咄嗟に声を上げた。


「――ウィル! ウィル、起きろ! 地震だ!」


 つい先ほどまで楽しげな笑い声を洩らしていた外の者たちからは、喉が裂けてしまいそうなほどのけたたましい悲鳴が上がる。激しく縦横に振られる身は、人の身では到底抗いきれないほどの巨大な力だった。


「にょ、にょおおおぉ!? 何事だにぃぃぃ!?」
「っ、ジュード、無事か!?」


 手前にある寝台が邪魔になって様子は窺えないものの、ウィルもライオットも大きな揺れに反応して目を覚ましたようだ。立っていることさえできない震動の中、辺りからは何かが崩れる音や倒れる音など、悲鳴に混じって様々な音が聞こえてくる。この揺れの中、人間にできることは――何もない。ただこの部屋が崩れないことを祈りながら、鎮まるのを待つしかなかった。


 * * *


 時間にしてほんの数分程度だったそれは、非常に長い時間に感じられた。やがて揺れが鎮まると、ジュードとウィルはほぼ同時に床から立ち上がり、互いの安否を窺った。幸いなことにどちらにも、それにライオットにも怪我らしい怪我はないようだ。備え付けの棚やテーブルは横倒しになっているし、備品はそのほとんどが床に散乱して砕けて原型を留めていないものまである。


「お、大きかったな……外に出た方がいいか」
「ああ、そうだな、マナたちの方も気になるし……向こうも俺たちの方を心配してるかもしれない」


 この後、更に大きな地震に見舞われないとも限らない。一応いつでも逃げれるように建物の外に出ておいた方がいいだろう。仲間の安否確認も必要だ。

 そう判断したジュードとウィルは、ライオットを連れて宿の一室を後にした。廊下も展示されていた甲冑や剣が無造作に転がり、散々な状況だ。同じように考えた宿泊客が次から次へと部屋から出てきては、大慌てで階下へと駆けていく。

 女性陣の部屋は階下に繋がる階段を間に挟んですぐのところだ、彼女たちは大丈夫だろうかと部屋の扉を開けてみたが、室内には既に誰の姿もなかった。しかし、天井の一部が崩れ落ち、寝台に直撃したような痕跡が残る。一度こそゾッとしたが、やはり誰の姿も見えなかった。マナたちは既に避難した後なのだろう。

 仲間が既に避難した後なら、とジュードとウィルも他の客たちに混ざって階下へと駆け下りていった。


「みんな大丈夫かに……」
「シルヴァさんがついてるんだ、きっと大丈夫さ」


 他の宿泊客たちと共に宿の外に出ると、外は外で散々な状態になっていた。先ほど訪れた時は見事な光景を作り出していたドーム状の建物たちは、その半分ほどが半壊し、見るも無残な姿になっていたのである。隙間風がびゅうびゅうに吹き込みそうなその様子は、既に半分以上建物の役割を果たしていない。いつ崩れてくることか。

 地面はあちらこちらが抉れており、地割れが起きている箇所さえあった。それだけで、先ほどの地震が並の揺れではなかったことが窺える。不幸中の幸いだったのは、このアレナの街が海から遠く離れた場所にあるということ。海沿いがどうなっているかは不明だが、少なくともこの場が津波に襲われる心配はないはずだ。


「ジュード! ウィル!」


 変わり果てた街の様子を見ていたジュードとウィルの背に、耳慣れた声が届いた。今にも泣き出しそうなその声は、マナのものだ。ホッと安堵を洩らしてそちらを振り返ったが、その先に見えた光景には思わずどちらの顔にも緊張が走る。


「マナ! ……シルヴァさん!?」


 振り返った先には、マナをはじめ女性陣全員の姿が窺えたが、状況は決してよいとは言えないようだった。近くの壁に凭れかかるシルヴァの左肩には、目を背けてしまいたくなるほどの深い傷が刻まれていて、辺りを真っ赤に染めている。現在はカミラとリンファが治癒魔法と気功術で治療をしている真っ最中だった。


「に、逃げようとしたら柱が倒れてきて、それでシルヴァさんが……みんなを庇って……」
「はは……大丈夫、そう心配しなくていい。少し休めば問題ないよ」
「でも、シルヴァさん顔色悪いですよ……宿が宿だし、なかなか休む場所も……」


 恐らく出血多量のせいだろう、夜の薄闇の中でもハッキリわかるほど、現在のシルヴァの顔色はよくなかった。またいつ余震がくるかもわからない、そもそもあれは本震だったのか。

 そこまで考えて、揺れが起きる直前に聞いたあの声のことを思い出す。あれが地震に関係しているか否かは微妙なところだが、ジュードにしか聞こえない声だったのが気になる。それを踏まえて、正直に話してみることにした。

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