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第六章・風の神器ゲイボルグ
気になる不思議なこと
しおりを挟む無事にアレナの街に帰り着いたマナたちは、元々宿屋だった一角へと足を向けていた。
一時的な避難場所になっている宿屋の前は多くの人であふれ返っていて、人を探すのも一苦労だ。怪我人は別の場所に運ばれたらしくその中には窺えないが、軽傷だったり救助されて間もない人は宿屋前に集まっているようだった。
怪我人の治療にあたっていたカミラとルルーナも当然ながらその場にいたのだが、いち早く仲間の帰還に気付いたカミラはちびの背でぐったりとうつ伏せるジュードと、イスキアに背負われる形のウィルを見て蒼褪めた。自分の足で歩いているとは言え、マナやリンファもボロボロだ。衣服には血が染みついていて、負傷したのだと一目でわかる。
「ジュード、ウィル! ちょっとマナ、いったい何があったの!? アンタたちもボロボロじゃない!」
ルルーナは座していた地面から勢いよく立ち上がると、説明を求めてマナに詰め寄った。
「う、うん……ちょっと、色々あったのよ」
「色々あった、って一言で済む怪我じゃないわよ!」
「ま、まあ……そうなんだけど、危なかったところにイスキアさんが来てくれて、それで助けてもらったの。詳しいことはあとで話すわ、今はジュードとウィルを休ませないと……シルヴァさんは?」
「宿の裏手に倉庫があるから、そこを仮の寝所にしてるわ。重傷人たちはみんなそっちよ」
とにかく、本当に色々なことがあった。それはもう、単純な言葉では説明などできないほどに。今回の一連の出来事を一言で表現するのは無理だ。
その返答に、リンファは宿の裏手の方を見遣る。そこには、確かに倉庫らしき大きな建物があった。とにかく、今はジュードとウィルを休ませることが最優先だろう、依然としてどちらも顔色が悪い。ジュードの身体を支配する熱はまだ上がり続けているようだった。
ルルーナは未だ困惑した様子ではあったものの、やがてその視線はイスキアへと向けた。
「……それにしても、アンタたちの方はあのオネェだったのね」
「え? あたしたちの方は……って……」
「私たちの方には――ほら、相方が来たのよ」
ふとルルーナからかかった言葉に、マナは目を丸くさせると不思議そうに数度瞬いてみせる。するとルルーナは、やや離れた場所で住民たちを見守る一人の男を指し示した。
青み掛かった白銀の髪、いっそ恐ろしいほどに整った風貌。漆黒の外套を身に纏うスラリとした長身は、一度見ればそうそう忘れられない美青年。それは、火の王都ガルディオンで加勢してくれた氷の大精霊シヴァだ。
「あ、あの人……! シヴァさん……!?」
「そのようです、イスキア様とご一緒ではないのかと思っていたのですが……こちらにいらしていたのですね」
「あちこち建物が崩れてきて危なかったんだけど、あの人が凍らせて助けてくれたのよ。お陰で今のところ怪我人は増えてないわ」
今回もそうだが、王都ガルディオンでも――それにジュードは水の国で仲間とはぐれた時も、シヴァとイスキアの二人に助けられたと言っていた。彼らがジュードを見守っているのは、恐らくはそのジュードが精霊族だからなのだろう。
しかし、マナは確かな引っかかりを覚えていた。
先ほど馬車の中で聞いた話が本当なら、イスキアだけでなくシヴァも、この世界を形成する四神柱の一部なのだ。それほどまでに偉大な存在が、たった一人の精霊族をそこまで気にかけるものだろうか。それが疑問だった。
「(シヴァさんとイスキアさんに……精霊たちに関わっていけば、ジュードの昔のこととかもわかるのかしら……ライオットはジュードのご両親のこと知ってるみたいだし……)」
マナはそう考えながら、思考と意識を荒れ果てた街中へと向けた。
気になることは山のようにあるが、今はまず落ち着いて休める場所の確保が最優先だ。
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