蒼竜世界の勇者 -魔物と心を通わす青年の世界救済の旅-(リメイク版)

mao

文字の大きさ
151 / 230
第七章・地の神器ガンバンテイン

品行方正とは程遠い

しおりを挟む

 ジュードたちがアレナの街に帰り着いて約二日。ウィルとシルヴァの体調も随分と回復したため、彼らは街を後にして再び王都グルゼフに向かう旅へと戻ることになった。街のことは不安が尽きないが、地震の原因となったノームが落ち着いたこともあり、今後は揺れに見舞われることはそうそうないだろう。

 街のことを思うのなら、今は一刻も早く王都に辿り着き、アレナの街の惨状を王や貴族たちに報告する方がいい。

 現在、馬車の手綱はリンファが握っている。シルヴァは時折、御者台に通じる小窓から心配そうに、それでいて申し訳なさそうに彼女の背中を見つめていた。


「あのさ、イスキアさん。ちょっと……許可をもらいたいんだけど」
「あら、ウィルちゃんどうしたの? 許可って、何の許可?」


 そんな中、馬車の中で不意にウィルが口を開いた。現在は合流を果たしたイスキアとシヴァの二人も馬車に乗っている。この二人がいれば、例え魔族が襲ってきたとしてもそれほど不安はないはずだ。

 イスキアは不意に向けられた言葉に、不思議そうにぱちぱちと瞬きを打った。すると、ウィルは己の左手中指に我が物顔で鎮座する指輪――神器に視線を落とす。ごく普通の指輪にしか見えないが、これこそが風の神器ゲイボルグだ。


「俺たちの技術を神器に使ってみてもいいかな、って」
「えっ、魔法武具の技術を……神さまが造った武器にも使うの!?」
「ああ、そうしたらどうなるのかなと思ってさ」
「常々思ってきたけど、ウィルってたまにぶっ飛んだこと言うわよね……」


 その言葉に真っ先に声を上げたのはマナだ、彼女の髪には今も鳥を模した髪飾り――火の神器レーヴァテインが鎮座している。

 神器はそれひとつで恐ろしいほどの破壊力を持つが、それで満足しないところが何ともウィルらしい。探求心と好奇心の塊みたいな彼の性格は、ジュードとマナならよく知っている。余計な口を挟むことなく、ジュードは思わずその顔に苦笑いを滲ませた。彼の隣ではすっかり傷も癒えたちびが腹這いになって伏せている。

 その思いもよらない言葉に、ルルーナはやや呆れたように呟きをひとつ。だが、止めることはしなかった。


「うふふ、面白いこと考えるわねぇ。アタシはもちろんいいわよ、神器はあなたを使い手として選んだんだもの、やりたいようにやってみなさい。どうなるのかアタシも興味あるし♡」
「じゃあ、今のうちにオレたちの武器にも光属性をつけておこうか。……またいつ魔族が襲ってくるかわからないし」
「そうだね、光魔法ならわたしに任せて」


 イスキアから許可が返ると、ウィルは安堵したようにやや表情を和らげて馬車の隅に置いてあったカバンを引っ張り寄せた。移動中の馬車の中でできることなど、そうそう多くない。

 ジュードはそのカバンの中から、鉱石の力を引き出す文字を刻んだ台座をいくつか取り出した。そして、次にカミラにパールを渡していく。光属性と相性がいい石だ、これに光の魔法を込めてもらえば魔族に効果的な武器を造ることができる。


「……俺、イスキアさんが来てくれたお陰で助かったけど、悔しくてさ」
「あら、何が悔しいの?」
「神器に選ばれたのは光栄なことだけど、実力ではアグレアスに全然勝てなかった。これからも、神器があるってことに甘えてたら駄目だなと思って」


 ジュードが取り出した台座をひとつ手に取り、何とはなしに眺めながらウィルは悔しげに呟く。そこはやはりジュードの兄貴分、性格に違いこそあれど、こうした負けん気が強い部分は何かと似ている。ウィルのその呟きにジュードは横目に彼を見遣ると、納得したように頷いた。


「オレも神器があったらなぁ……こう言うと不謹慎かもしれないけど、ウィルとマナが羨ましいよ」
「ジュードには交信アクセスがあるじゃない、あれが一番の反則技よ。あたしだって神器を持つ前はジュードに任せっきりで何もできないの悔しかったんだからね」
「そ、そうかな……」


 そんな仲間のやり取りを黙ったまま見守っていたシヴァは、馬車の壁に背中を預けて座り込んだまま暫しジッとジュードを眺めた。


「マスター、お前は伝説の勇者を敬愛しているそうだな」
「え? ……シヴァさんにマスターって呼ばれるのメチャクチャ違和感あるんだけど……うん、それがどうかしたの?」
「お前にその気があるなら、あいつが使っていた技をひとつ教えてやろう。お前はいざという時に一撃が軽いことがある、あれを覚えればそれを補えるはずだ」
「ゆ、勇者様の技を!? ほ、本当ですか!?」


 そのシヴァの提案にジュードは目を輝かせ、ライオットやイスキアは対照的に「げっ」と嫌そうな声を洩らす。その真逆すぎる反応に、ウィルやマナは互いに顔を見合わせた。


「ちょっと、まさかアレを教える気? やーよ、ジュードちゃんがあちこち破壊するようなとんでもない子になったら……」
「は、破壊? 勇者様ってどんな人だったの?」
「道を塞ぐものはとにかく殴って破壊するようなやつだったに、マスターにはそうならないでほしいにね……」


 か細く呟かれたライオットの言葉に、ジュードを除く面々の脳裏には何とも言い難い光景が勝手に浮かび始めた。勇者と崇められるほどの人物ならばさぞかし清廉潔白、品行方正な人だったのだろうと誰もが思っていたが、その印象がたった今、派手に音を立てて崩れていったような気がした。


「……あたし、勝手に抱いてた勇者様像が綺麗に崩れた気がする」
「……俺も」
「勇者様は……少しばかり破天荒なお方だったのかもしれないな」


 不意にシンと静まり返ってしまった馬車の中に気付いたリンファは、背後にある窓から中を窺って頻りに疑問を浮かべていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

処理中です...