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第八章・水の神器アゾット
神の力が宿る石
しおりを挟む今日は非常に長い一日だった、ここ最近の旅の疲れもあってかジュードはいつもよりも早い時間に王城の客間で休ませてもらうことにした。
明日はプラージュの街からカミラとエクレールがヴェリアの民を連れてやってくるだろう。ジュードたちのやることはこれまでと変わらないが、ヴェリアの民はどうすべきか――悩みどころだ。
ジュード一人で考えたところで答えなど出ないこともあり、とにかく心身を休ませることにした。
『ちょ、ちょっと! ジェントさん、今度はどうしたんですか!?』
いつものように訪れた白の宮殿内、そこで待ち構えていたジェントに取っ捕まるなり、いつかの時同様にジェントはジュードのインナーをまくり上げてきた。ジュード自身、この亡霊には振り回されっぱなしだと自覚はしている。
ジュードが上げた声に特に反応することもなく、ジェントはそこで幾分か表情を和らげた。
『……思った通りだ。見てみろ、ジュード。呪いの一部が消えかかっている』
『え?』
その思わぬ言葉に一度間の抜けた声を洩らしてからまくり上げられた胸元を見てみると、不気味な黒い紋様の下の方が確かに一部消失している。腹の辺りにかかる部分だった。一部が消えたからと呪いそのものが解呪されたわけではないようだが、部分的に消えたということは呪いの効力が弱まっている可能性はある。
『……これ、もしかして火の刻印の影響ですか? ジェントさんが言ってた試してみたいことって……』
『ああ、四神柱の力ならきみにかけられた呪いを破壊することもできるんじゃないかと思ってたんだ。まさか交信されるとは思わなかったが……』
結局あの後、三十分ほどしてから勝手に交信の効力は切れた。精霊たちと繋がるのとはやはり違うのか、精神力を消耗したような疲労感もない。その代わり激しい運動を精魂尽き果てるまでやった後のように全身が軋んでひどかったが。それでも、精神力を使わずに交信できるのなら、最も適した対象と言える。問題は――四神柱の力が強すぎて思うように使えないことだ。
『じゃあ、もう一回交信して残りの刻印を使えば……』
『それは駄目だ、一気に残りの刻印全てを使ったらきみの身体が神柱たちの力に耐えきれない。火の刻印を使ってみて何となくわかっただろう』
『あ、ああ、まあ……全身バッキバキでしたけど……』
『火と風の刻印は身体にかかる負担が特に大きいんだ、焦らずにひとつずつやっていくのが一番いい。……きみに何かあっては多方面に申し訳が立たない』
魔法を受け付けない呪いを解呪できても、ジュードの身体が使いものにならなくなっては元も子もない。もどかしさはあるが、こればかりは仕方がないのだ。取り敢えず今は、呪いの解呪に光明が射しただけでも幸運と言える。
それに、ジュードたちが抱えた問題はまだ他にもある。
『そういえばあの雨……どうすることもできなかった、ってライオットが言ってましたけど、四千年前にもあの死の雨ってやつは降ったんですか?』
あの、メルディーヌが降らせた恐ろしい雨。フォルネウスが凍らせてくれたものの、一部の被害を受けた住民たちを元に戻すにはどうすればいいのか、その解決方法はまったく見えていないのだ。ジュードの言葉にジェントは暫し黙り込んだ後、静かに頷いた。
『ああ、アンデット化した者たちを元に戻す方法を色々と調べたが……結局何も見つからなかった』
『そうなんですか……やっぱり無謀なのかな……』
『無謀でも、やるんだろう? 望みは薄いが、聖石に尋ねてみるといいかもしれない』
『せい、せき……?』
ライオットが言っていたように、やはり聖剣か神器で斬って楽にしてやるしかないのかもしれない。そう思えば思うほど、ジュードの内心はやりきれなさで満たされた。けれど、聞き慣れない単語が出れば早々に意識も切り替わる。聖剣や神器はすっかり耳慣れたものだが、聖石というのは初めて聞く言葉だ。
『聖石は人の願いや祈りに応えてくれる聖なる石だ、あれには竜の神の力が宿っている。アンデット化した者たちを救う方法がないか聞いてみるといい』
『その聖石って、どこにあるんですか?』
『この王都からずっと西に進んだ先に深い森がある、昔は森の中に集落があったが……今どうなっているかはわからない。ただ、聖石はそのままあると思う』
竜の神の力が宿る聖石――言葉で言われてもまったく想像がつかないが、何も手掛かりがない以上は雲を掴むような話でも当たってみるしかない。ライオットやイスキアに聞けば、その集落の詳しい場所も、現在どうなっているかもわかるだろう。
かつての勇者一行でも見つけられなかった方法だ、そう簡単に見つかるとは思えなかったが、とにかく駄目で元々、何でもいいからやってみるしかない。
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