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第二章:ウラノスとウロボロス
クランと領地戦争
しおりを挟むオレはリーヴェ・ゼーゲン、二十一歳。取り立てて何の力も才能も持ってない平凡以下の男だ。
何の因果か、オレは婚約していた最愛の彼女にフラれた上に、いきなり神さまなんてものに会って伴侶になってしまった。
わずか数日でオレの人生大幅に変わりすぎじゃない?
取り敢えず、オレの近くにいなきゃいけないとかで神さまと同居生活を送るハメになっちまったわけで。……まあ、別にいいんだけどさ。部屋なら空いてるし。
あの騒動から既に一週間。突然現れた巨大なドラゴンに怯えていた街の人たちも徐々に家に戻り始め、これまで通りの生活を取り戻しつつある。まあ、そのドラゴンってのが神さまのことなんだけど、これは絶対に秘密だ。
もしも神さまがいるなんて世間に知れたら、倒しにくるか、それとも神さまの力を利用しようと企むか……いずれにしても良い方向に転がることはない気がする。
「お前の頭の中はやかましいな」
「そう思うなら覗かなきゃいいだろ」
などと、オレが一人で悶々していると、当の神さま――ヴァージャがツッコミを入れてきた。
そちらを振り返ってみればソファに陣取って呑気に寛いでやがる。テーブルに置いてあった雑誌なんぞパラパラまくりながら。雑誌見てるならわざわざ人の頭なんて覗かなくてよくない? なにその無駄な器用さ、腹立つ。
こうして過ごしてみて思ったのは、神さまと言っても人間とそう変わらないんだなってこと。普通に飯は食うし飲むし、今みたいに雑誌読んだり娯楽の時間も大切にしてる。今のところ、勝手に人の考えを覗き見てくること以外は特に不満もないし、おかしな点もない。だから人の中に紛れても別に問題ないんじゃないかなって思うんだけど。オレも今日から仕事行かなきゃいけないし。
「仕事?」
「そう、オレはこの街の孤児院で働いてんの。あのドラゴン騒動でみんな避難してたけど、そろそろ戻ってるだろうし……」
孤児院ってことでナメられるのか、たまにゴロツキみたいな連中が来てあちこち荒らしていくからコイツがいてくれると安心できるんだけど……神さまに労働を強いるのはやっぱ駄目かな。
「私は別に構わないが」
「え、いいの? あんた神さまのくせに随分フットワーク軽いな」
「永らく俗世から離れていたせいでヒトの生活には疎い、世の仕組みを人々の中で覚えていくのも悪くはないだろう」
まあ、そりゃそうだな。じゃあさっさと弁当包んじまうか。
孤児院に顔を出すのは久しぶりだ。憎たらしいと思うこともあるけど、何日も会わないとあの悪ガキ共が恋しくなるのは人の性みたいなモンなんだろう。
* * *
スターブルの街並みはこれまでと変わらず、あの騒動で壊れた場所もないみたいだ。人の出もすっかり元通りで、商店街の通りも賑わいを取り戻していた。神さまを連れて歩いても誰も不思議そうな顔をすることもない。顔面が整い過ぎているせいでよくジロジロ見られるけど。
そんな視線を気にも留めず、ヴァージャは時折聞こえてくる話や噂に耳を傾けているようだった。
「リーヴェ」
「ん? なんか気になるものでもあったか?」
「人々がよく口にする“ウラノス”とは何のことだ?」
ああ、どう説明したもんかな。クランってわかる? ……わからないよな、そうだよな。いいんだよ別に。
確かに、こうして外に出てみればウラノスの話が右や左で飛び交ってる。あの騒動の最中に何をしていたんだとか、ウラノスがいてくれるから安心だとか。意見は十人十色なわけだけど。
「この世界にはクランっていう……グループみたいな人の集まりがあるんだよ。リーダーがいて副リーダーがいて、その他に下っ端のメンバーがいるみたいな感じ。そのひとつの集まりをクランって呼ぶんだ」
「ふむ」
「ウラノスっていうのは、数多くあるクランのうちのひとつさ。この辺りはウラノスに統治権があるから、騒ぎがあった時なんかは良くも悪くも噂になるんだよ」
「……統治権? この辺りは人間が人間を支配しているのか?」
……しまった、まずはそこからか。
今の世の中で一番偉い人っていうと、遥か北西にある帝国フェアメーゲンの皇帝陛下なんだけど、皇帝が世界そのものを統治してるわけじゃない。帝国の中には小さい国もいくつかあるけど、帝国領を出れば王族も貴族もなく街や村々がただあるってだけ。
でも、有事の際にはバラバラでいるよりも統治者がいた方がいいってことで――帝国領の外では各クランが土地の統治権を争って“領地戦争”なんてものを繰り広げてるんだ。ちなみに、いくら帝国の皇帝であってもクランから領地戦争を吹っかけられて負ければ、一夜にして皇帝の座から引きずり降ろされて国も臣民も何もかもを失う。
この世界はあくまでも力と才能が全てだ。
強いやつだけが上に立ち、弱いやつはその下で大人しく静かに生きるしかない。
強いやつが絶対正義で、弱いやつが悪なんだ。
「……そういう仕組みか」
「そう。支配とか統治権とか聞くとあんまりいい印象はないかもしれないけど、ウラノスの面々はいい連中ばっかりだよ。統治クランによっては、無能や凡人の立ち入りさえ禁止してるところもあるって聞いたことあるし」
でも、ウラノスの連中はそういうことを一切しない。誰でもこの辺りの村や街に立ち入ることができて、住むこともできる、商売だって許可を得れば誰でもできるんだ。
そんなことを思っていると、ヴァージャは少し安心したようだった。その整い過ぎた顔面にそっと安堵が滲む。
そのウラノスを倒してこの辺りの統治権を奪おうとしてるのがマック率いるクラン『ウロボロス』なんだけど……ウラノスのリーダーを務めるサンセール団長を負かすには、いくらマックだって無理だろう。
あの人がいる限り、この辺りの統治権が他のクランに移ることはない。きっと街のみんな誰もがそう思ってるはずだ。
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