闘乱世界ユルヴィクス -最弱と最強神のまったり世直し旅!?-

mao

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第五章:胡散くさい男

初めて役に立てること

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 再び放たれた大砲みたいな一撃は、衝突と同時に改めて大量の煙を発生させた。
 後退したお陰でオレには被害はなかったけど、とにかくこうもくもくしてちゃ状況も何も窺えやしない。煙の向こうからこちらを呼ぶフィリアとエルの声が聞こえてくる、今回もあっちは大丈夫みたいだけど、ヴァージャはどうだ……?


「――よお!」
「!」


 内心ハラハラしながら煙の奥の気配を窺っていると、突然目の前から――リュゼが顔を出した。これ……煙幕のつもりか!
 反応するだけの余裕もなく伸びてきた手に腕を掴まれそうになったけど、それよりも先に目の前に顔を出したリュゼが真横にぶっ飛んでいった。徐々に晴れてきた煙の中に見えたのは、リュゼを横から殴り飛ばしただろうヴァージャの姿。

 ホッとしたのも束の間、その左腕を見れば安堵もしていられなくなった。


「……! ヴァージャ、その腕……!」


 マックの大剣を素手で受け止めたって血ひとつ出なかったくらい頑丈な身体をしてるはずなのに、そのヴァージャの左腕は抉れて血が出ていた。神さまの身に傷をつけるなんて、あの武器いったいどうなってんだ。


「ああ、なかなかの破壊力だ。ただの槍ではないようだな」
「そんな呑気に感想なんて言ってる場合じゃ……」


 その様子はフィリアとエルの目にも留まったようで、どちらも不安そうな面持ちでジッとこちらを見つめている。あの二人もこっちに来たいんだろうけど、いつ矛先が村の人たちに向くかもわからないから傍を離れるわけにもいかない。非戦闘員の研究員もいるし。

 殴り飛ばされただろうリュゼは、当然その一撃でまいってくれるような可愛げのあるやつでもなく、うつ伏せに倒れていた身を起こすなり片手を首横に添えて右左にと軽く倒してみせる。ウォーミングアップは終わり、みたいな様子で。


「ハハハッ、これは陛下のお力が練り込まれた特別な武器だ。そこらにあるなまくらと一緒にされちゃ困るねぇ」
「皇帝の……だからヤバい破壊力なわけか」


 皇帝の顔も姿も見たことないけど、とにもかくにもこの世界で最も強いってのだけは知ってる。それほどのやつだ、当然持ってる力もヤバいレベルだろう。神さまの身に傷を負わせられるのもなんとなく頷ける。慌ててヴァージャの傍に寄って傷に片手を翳すと、その手をやんわりと掴まれた。

 ちらと視線を上げてみれば、いつ見ても整い過ぎた顔面には戸惑いにも似た色が見える。リュゼに見られることを気にしてるんだなとは、深く考えなくてもわかった。


「……どうせもうバレちまってるんだし、今更だろ。それに……」
「それに?」
「もらった力であんたの役に立てるのなんて、今回が初めてじゃん。このくらいのことはさせてくれよ」


 ヴァージャが怪我をすることなんてないだろうと思ってたから、治癒術を覚えたってこいつの役に立てる日が来るとは思わなかった。いつもいつも助けられてばっかりで、力の回復だって普通に近くにいるしかできないのがどれだけもどかしかったか。
 それが、ちょっとしたことでもやっと少しは役に立てるんだと思うと、言葉にならないくらい嬉しいもんだ。

 ヴァージャは、それ以上は止めようとしなかった。翳した手からいつもみたいに光があふれ出すと、その腕に刻まれた痛々しい傷が瞬く間に癒えていく。


「……お? お、おお?」


 当然ながら、それを目の当たりにしてリュゼの口からは驚いたような声が洩れた。どうせ無能には隠し持った力があるってのはもうこいつにバレちまったんだ、今更これが知られたところでそうそう変わらないだろ。

 傷が癒えたヴァージャは――なんとなく、驚いたような顔をして自分の手の平を見つめていた。……い、痛みとか消えてなかったりする?


「これは……想像以上だな、フィリアがあれほどまでに変わるわけだ」
「え? うわッ!?」


 そのまま、不意に抱き寄せられて思わず引き攣った声が洩れた。戦う邪魔になるだろうと離れようとしてもがっつり腰を押さえられてるせいで、それもできない。そんなオレに構わず、ヴァージャはリュゼに向き合ったままフィリアたちに声をかけた。


「フィリア、エル。戦えない者たちを連れて外に出ていろ、崩れるぞ」
「「は、はい!」」


 ヴァージャのその言葉に、フィリアとエルの二人は揃って返事をすると大慌てで村の人たちと研究員たちを外へと促し始めた。……そういや、ここって地下なんだっけ。
 リュゼは――外に避難する連中を見ても追撃を加えようとはしなかった。ただただ胡乱な目をしてヴァージャを睨み据える。それでいて口元は笑ってるんだから、言いようのない不気味さを感じた。


「向こうが狙撃で来るなら、こちらもそうしよう」


 すると、ヴァージャは自らの横髪に触れて、一部分だけ長い房を纏める髪留めを無造作に外した。光の加減で黒にも藍色にも見える丸い宝石みたいなそれは、ヴァージャの手の上で光り輝いたかと思いきや、ふわりと宙に浮かび上がる。煌々とした輝きに包まれたまま、それは次第にひとつの指輪に姿を変え、静かにリュゼに片手を突き出すヴァージャの中指に収まった。


「な、なあ……それ、なに……?」
「……武器だな」


 ぶ、武器? ヴァージャって武器なんて持ってたんだ?
 指輪がひと際眩い輝きを放つと、大気が怯えるように震える。ビリビリとした振動が肌に伝わってきて、いっそ痛いくらいだ。その異様な力の波動は対峙するリュゼも当然感じ取っているらしく、薄ら笑いを浮かべながら再び槍を構える。


「何をしようってんだぁ!? 大人しく死んじまいな!!」


 先んじてリュゼが再び砲弾のような雷撃を放ってきたけど、ヴァージャが突き出した手の周りにぶわりと浮かび上がったいくつもの巨大な魔法陣がその雷撃を弾き、かき消してしまった。それにはオレはもちろんだけど、リュゼも目を見開いて驚愕している。


「私は狙撃は得意ではないのでな、当たりどころが悪くても文句は言うなよ」


 ヴァージャが静かにそう呟いた次の瞬間、展開したままの魔法陣全てから弾丸のような勢いで光弾が放たれ、一斉にリュゼに襲いかかった。

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