7 / 7
第七話「美しきドブネズミ」
しおりを挟む
「ハハハハハっ。これで世界が生まれ変わる。」
宇宙が闇の水に満たされたことを確認してアスカははじめて声を出し大いに笑った。自分の悲願が成就した瞬間だった。そして自分の高笑いとともにその身体は卵の殻のように割れていき、中から光の粒子体が飛び出してその体を再構成した。
「先輩・・・その姿は?」
「これか?これはこの異世界に生まれた宇宙生命体さ。このブラックホールを作り出し。新たな宇宙の創造主となるためのな!」
こうして身体は完成した。人間時代の色白の肌を引き継ぐかのような真っ白い彗星のような流線形。
「しかし君も生きていたとはな。」
アスカの声に応ずるかの如くジミオはその姿を見せた。
「どぶねずみの生命力なめんなよ!」
「君のその生命力・・・有益な実験材料になると思っていたが、抵抗するなら仕方がない。」
そう語るとアスカは引き続き手にした杖に念を込めてその先より雷撃を放った。ジミオはなんとかそれをかわし稲妻の固まりはブラックホールの闇に消える。確かに先輩は殺る気だ!
カウンターとばかりにジミオはムチを放つが、そこには既にアスカはいない。
「!?」
「ただただ虚空の中では、ムチの特性は活かせまい。」
反動させる障害物のない無の空間ではジミオのムチは単調で効果を発揮することができない。
対してアスカは人間のときから愛用の杖を使って呪文で攻撃をかける。しかし、異世界の宇宙生命体と化した彼には高速移動の能力が備わり呪文を唱えるときの隙を見せない。ジミオはいつ自分の懐に入られるかわからない恐怖に冷や汗を流す。
永遠なる無の闇で生き残ったものは誰か?ナナセもまたそのなかで目を覚ますことができた。周りにはジミオに使役するG郞たち三体のモンスターがフィールドをはっている。
「ありがとう、でもどうして?」
多くのものたちが無に消えたなかでなぜ自分が行かされたのかを自問自答しながらナナセはこの闇のなかを文字通り模索した。
(ひかり・・・?)
ナナセの前に輝くもの。それが一縷の望みと信じ闇を遊泳する。
光の主であるアスカが放った雷撃の玉はジミオをとらえた。苦しむジミオはついに自分の最後を感じはじめた。もう何度目の事だか忘れたが、自分を殺める相手が知っているものというのがその予感を大きくさせる。
ジミオは死の瀬戸際の闇に女神をみる。まるで幼なじみのナナセのようだ。しかし、自分の死の淵でみる最後の女神が相手の女であることに沸々と怒りを覚える。
(このまま死にたくない!)
まとわりつく雷撃に対してジミオは手にしたムチを最後の力を込めて自分の太ももに叩きつけた。
「ギッ、ゲッ、グゲゲゲーーーッ!」
ジミオの奇声は既に人を捨てた獣の声だった。自分を魔物として自身を使いパシる。いつの間にか身体中の痛み苦しみが消えていた。ジミオが目覚めた野性の本能で目の前の敵を見出だし同じく人を捨てた光の生命体に向かっていった。
「やめろ!」
ふたつの光は衝突を繰り返しながらやがて闇の渦の中に消えていった。その流星型の美しさをナナセは最後まで見届けた。消えた光がふたつあることに思い当たる二人の人物が重なってしまう。
やがて闇の渦からひとりの男が帰ってきた。その男は下水道をトボトボと歩いていた頃と変わらない力のない足取りであった。
「アスカは?アスカは無事なの?」
その問いかけにジミオは答えられず棒立ちとなった。全身は筋肉痛で震えが止まらない。
男は今にでも彼女に抱きかかえて欲しかった。
「いや!触らないで!」
倒れ込もうとした身体はピタリと止まった。彼女を見ると愛する人を失い、それを怒りの対象にぶつける目が刺さる。
転生した魔物つかいの姿はいつの間にか元のボサボサ頭に戻っていた。
「私は・・・許さないんだから。何もかも汚してしまうあなたを・・・。」
「そんなことはない。だって僕は君の事が・・・。」
そういいかけて、それ以上言葉にするのをやめた。先の台詞はブラックホールの虚無に消えていく。
「なんなのよ。」
「別に・・・。」
ジミオはそう言ってナナセに背を向けて再びトボトボと進んでいった。
「なんなのよ。」と「別に・・・。」というやりとりはしばらくふたりの道中に続いていた。
宇宙が闇の水に満たされたことを確認してアスカははじめて声を出し大いに笑った。自分の悲願が成就した瞬間だった。そして自分の高笑いとともにその身体は卵の殻のように割れていき、中から光の粒子体が飛び出してその体を再構成した。
「先輩・・・その姿は?」
「これか?これはこの異世界に生まれた宇宙生命体さ。このブラックホールを作り出し。新たな宇宙の創造主となるためのな!」
こうして身体は完成した。人間時代の色白の肌を引き継ぐかのような真っ白い彗星のような流線形。
「しかし君も生きていたとはな。」
アスカの声に応ずるかの如くジミオはその姿を見せた。
「どぶねずみの生命力なめんなよ!」
「君のその生命力・・・有益な実験材料になると思っていたが、抵抗するなら仕方がない。」
そう語るとアスカは引き続き手にした杖に念を込めてその先より雷撃を放った。ジミオはなんとかそれをかわし稲妻の固まりはブラックホールの闇に消える。確かに先輩は殺る気だ!
カウンターとばかりにジミオはムチを放つが、そこには既にアスカはいない。
「!?」
「ただただ虚空の中では、ムチの特性は活かせまい。」
反動させる障害物のない無の空間ではジミオのムチは単調で効果を発揮することができない。
対してアスカは人間のときから愛用の杖を使って呪文で攻撃をかける。しかし、異世界の宇宙生命体と化した彼には高速移動の能力が備わり呪文を唱えるときの隙を見せない。ジミオはいつ自分の懐に入られるかわからない恐怖に冷や汗を流す。
永遠なる無の闇で生き残ったものは誰か?ナナセもまたそのなかで目を覚ますことができた。周りにはジミオに使役するG郞たち三体のモンスターがフィールドをはっている。
「ありがとう、でもどうして?」
多くのものたちが無に消えたなかでなぜ自分が行かされたのかを自問自答しながらナナセはこの闇のなかを文字通り模索した。
(ひかり・・・?)
ナナセの前に輝くもの。それが一縷の望みと信じ闇を遊泳する。
光の主であるアスカが放った雷撃の玉はジミオをとらえた。苦しむジミオはついに自分の最後を感じはじめた。もう何度目の事だか忘れたが、自分を殺める相手が知っているものというのがその予感を大きくさせる。
ジミオは死の瀬戸際の闇に女神をみる。まるで幼なじみのナナセのようだ。しかし、自分の死の淵でみる最後の女神が相手の女であることに沸々と怒りを覚える。
(このまま死にたくない!)
まとわりつく雷撃に対してジミオは手にしたムチを最後の力を込めて自分の太ももに叩きつけた。
「ギッ、ゲッ、グゲゲゲーーーッ!」
ジミオの奇声は既に人を捨てた獣の声だった。自分を魔物として自身を使いパシる。いつの間にか身体中の痛み苦しみが消えていた。ジミオが目覚めた野性の本能で目の前の敵を見出だし同じく人を捨てた光の生命体に向かっていった。
「やめろ!」
ふたつの光は衝突を繰り返しながらやがて闇の渦の中に消えていった。その流星型の美しさをナナセは最後まで見届けた。消えた光がふたつあることに思い当たる二人の人物が重なってしまう。
やがて闇の渦からひとりの男が帰ってきた。その男は下水道をトボトボと歩いていた頃と変わらない力のない足取りであった。
「アスカは?アスカは無事なの?」
その問いかけにジミオは答えられず棒立ちとなった。全身は筋肉痛で震えが止まらない。
男は今にでも彼女に抱きかかえて欲しかった。
「いや!触らないで!」
倒れ込もうとした身体はピタリと止まった。彼女を見ると愛する人を失い、それを怒りの対象にぶつける目が刺さる。
転生した魔物つかいの姿はいつの間にか元のボサボサ頭に戻っていた。
「私は・・・許さないんだから。何もかも汚してしまうあなたを・・・。」
「そんなことはない。だって僕は君の事が・・・。」
そういいかけて、それ以上言葉にするのをやめた。先の台詞はブラックホールの虚無に消えていく。
「なんなのよ。」
「別に・・・。」
ジミオはそう言ってナナセに背を向けて再びトボトボと進んでいった。
「なんなのよ。」と「別に・・・。」というやりとりはしばらくふたりの道中に続いていた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる