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第三章・永遠なるタガイー魔剣士・デュラハンー
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カッシムは妻・シホリーの18歳の誕生日に花束をプレゼントした。妻は少女に戻って喜んだが、これを機会に一つの疑問を夫に投げかけた。それは本物のカッシムは既に亡く別の男の魂に乗り移っていることだった。シホリーは弦のないヴィオラを携えてカッシムに差し出した。
(しまった!あの時に気付いていたのか。)
入れ替わったカッシムは花散ら士として戦略部隊で戦略アプリの開発を行なっていた。この時代はもっぱら人形を操るかの如く、サックがついた紐を使ってプログラミングを行う。ある時、 プログラム操作に必要なピアノ線が切れた。 仕方がないので男は手近にあったバヴィオラの弦を使用して操作キーを修復した。
シホリーはその様子を見て数秒止まっていたことをカッシムに成り代わった男は気づいていなかった。
シホリーと出会った当時、ヴィオラの音色で花を愛でていたあの頃の夫はもういなかった。
「ずっと知っていたわ。老師が死ぬ間際に魔術でカッシムに移り変わる瞬間を。あなたはその時の老師では?ってね。」
「知っていて何故俺を恐れない。」
「あなたは永遠にいきる術がある。あなたの持つ永遠に比べたら、若い命なんてつまらないものだわ。」
カッシムは妻がなぜそんな発言に至ったのか理解に苦しんだ。永遠の愛を誓った相手が別人と分かったとしても悲しむ素振りを見せない女の業を恐ろしいとさえ感じていた。
とはいえ、成り代わったカッシムはシホリーを幸せにする自信はあった。花散ら士としての戦略システムの構築。トリアージ国では戦略に必要なアプリ内に、2,300通り以上存在している。カッシムはその戦略に新たなルートを構築して城主にコーチングする。戦略の一覧をみるとどれも自分が転生する度に構築したものばかりだ。そしてその度に手柄をたてて人生を満足に全うする。家族にとっては家族ではないが皆満足のいく暮らしを提供できた。
今回の妻のシホリーも日に日に笑顔を見せることが増えてきた。慣れない社交会のダンスも次第にこなれるようになっていく。この日はシホリーのステップに周囲の高官は皆目を見張っている。こんな生活は元のカッシムが一介の剣士からここまで成り上がることは想像つかないことだろう。
こうして老師は数千年の時を見守っていた。移し代わった男たちの魂がどうなったのか解らない。知ったことではない。
しかしこの日の深夜に恐るべき相手がトリアージ国に攻め入ってきた。デュラハンである。首のない魔人は永遠を生きる人間には天敵だ。
(もしかするとこれらの兵団はかつて入れ替わりの秘術でこの世をさったものたちか?)
そう思うと戦場の指揮にも熱が入る。社交会場に非常事態のアラートが各花散ら士隊のウォッチに鳴り響き、それを受けて武装した隊員たちが、礼服の高官と入れ替わる形で続々と入ってきて鎧の壁となった。
「通常の斬撃は効果がない。魔術師を前面に出して呪術払いを行うのだ。火炎放射隊は援護に回れ!」
カッシムの指示を受けた部隊長のゲキが飛ぶ。パーティー会場の広間を呪術部隊、両側のテラスには火炎放射部隊と銃剣部隊がそれぞれの武器を構える。
デュラハンの部隊はおよそ30体。100名を超える花散ら士の舞台としては防ぎ切ることのできる数である。しかし、ここでは鍵となる呪術部隊が覚束なかった。デュラハンの呪術を解く呪文を知らぬもの。首のない異様な兵士の姿に恐れをなして逃げ出すもの。呪術レベルが低いために結果剣戟となり、デュラハンの刀のサビになるもの、援護の銃撃部隊に誤射されるものなど、戦果は燦々たるものだった。テラスの火炎放射隊も敵が投げ飛ばした首の見開いた眼から放たれるレーザー光線に焼殺される。それでも火炎放射器の燃液が漏れたことで会場内いっぱいに爆破の衝撃が広がり魔物側もまた多くが焼失した。
残ったデュラハンはついに高官らが匿われている最上階の執務室にやってきた。残った敵は2体となったが、彼らは戦うことの知らない高官たちの悲鳴は誰よりも大きなものであった。
「全く、戦闘部隊は何をしているんだ。」
カッシムは思わず吐露した言葉をそばにいたシホリーは聞き逃さなかった。
(確かにこの男はかつてのカッシムとは違うのね・・・。)
守備役の部隊長は即座に敵との間合いに迫り抜刀して一体を両断するが、それに集中するだけで敵の首に殻発するレーザーに目を焼き切られる。
「グアーーーッ。」
さらに抵抗できないものたちは一人、またひとりとデュラハンの餌食となった。カッシムもその一人となったが、幸いにも急所を外していた。「グホッ、グホッ。」と鈍い咳を繰り返すほど、デュラハンたちはその男に目をつけて剣を構えた。
しかし、その執行は叶わなかった。背後からの銃撃がデュラハンの首を撃ち抜く音を響かせる。そこには一人の銃剣士が怪物の前に立ちはだかった。イロスというこの青年もまた先の爆破で既に体は黒焦げだった。青年はそれでも周囲を見回して一人息があるシホリーを目視した。
「大丈夫ですか?」
シホリーにはそれが一瞬、救世主の声にも聞こえた。しかし、首を失ったデュラハン身体はその矛先を変えてイロスに向かっていった。イロスも銃剣を身構えて必死の打突を試みる。結果は双方の刃はお互いの身体を貫き、どちらも同時に倒れ込んだ。
それと同時に立ち上がった男がいる。カッシムだ。
カッシムは瀕死の最中、そばにいたイロスに目をつけた。次の肉体を必要としていたからだ。しかし、シホリーはイロスの銃剣を手に力いっぱいに剣先をカッシムの心臓を突いた。
「!?・・・シホリー何を・・・。」
「あなたは変わってしまったわね・・・。」
カッシムはその時、単に妻の浮気心を恨んだ。
「あなたは命を繰り返す度に人ではなくなったようね。だから終わらせてあげる。最後は人としてね!」
女は永遠の命を持つ怪物を殺めた。魂を失ったカッシムは紛う事なきシホリーの最愛の存在である。洋館の広間の真ん中で、はじめて若き亭主を失ったことにひとり涙した。
-第三章・終-
(しまった!あの時に気付いていたのか。)
入れ替わったカッシムは花散ら士として戦略部隊で戦略アプリの開発を行なっていた。この時代はもっぱら人形を操るかの如く、サックがついた紐を使ってプログラミングを行う。ある時、 プログラム操作に必要なピアノ線が切れた。 仕方がないので男は手近にあったバヴィオラの弦を使用して操作キーを修復した。
シホリーはその様子を見て数秒止まっていたことをカッシムに成り代わった男は気づいていなかった。
シホリーと出会った当時、ヴィオラの音色で花を愛でていたあの頃の夫はもういなかった。
「ずっと知っていたわ。老師が死ぬ間際に魔術でカッシムに移り変わる瞬間を。あなたはその時の老師では?ってね。」
「知っていて何故俺を恐れない。」
「あなたは永遠にいきる術がある。あなたの持つ永遠に比べたら、若い命なんてつまらないものだわ。」
カッシムは妻がなぜそんな発言に至ったのか理解に苦しんだ。永遠の愛を誓った相手が別人と分かったとしても悲しむ素振りを見せない女の業を恐ろしいとさえ感じていた。
とはいえ、成り代わったカッシムはシホリーを幸せにする自信はあった。花散ら士としての戦略システムの構築。トリアージ国では戦略に必要なアプリ内に、2,300通り以上存在している。カッシムはその戦略に新たなルートを構築して城主にコーチングする。戦略の一覧をみるとどれも自分が転生する度に構築したものばかりだ。そしてその度に手柄をたてて人生を満足に全うする。家族にとっては家族ではないが皆満足のいく暮らしを提供できた。
今回の妻のシホリーも日に日に笑顔を見せることが増えてきた。慣れない社交会のダンスも次第にこなれるようになっていく。この日はシホリーのステップに周囲の高官は皆目を見張っている。こんな生活は元のカッシムが一介の剣士からここまで成り上がることは想像つかないことだろう。
こうして老師は数千年の時を見守っていた。移し代わった男たちの魂がどうなったのか解らない。知ったことではない。
しかしこの日の深夜に恐るべき相手がトリアージ国に攻め入ってきた。デュラハンである。首のない魔人は永遠を生きる人間には天敵だ。
(もしかするとこれらの兵団はかつて入れ替わりの秘術でこの世をさったものたちか?)
そう思うと戦場の指揮にも熱が入る。社交会場に非常事態のアラートが各花散ら士隊のウォッチに鳴り響き、それを受けて武装した隊員たちが、礼服の高官と入れ替わる形で続々と入ってきて鎧の壁となった。
「通常の斬撃は効果がない。魔術師を前面に出して呪術払いを行うのだ。火炎放射隊は援護に回れ!」
カッシムの指示を受けた部隊長のゲキが飛ぶ。パーティー会場の広間を呪術部隊、両側のテラスには火炎放射部隊と銃剣部隊がそれぞれの武器を構える。
デュラハンの部隊はおよそ30体。100名を超える花散ら士の舞台としては防ぎ切ることのできる数である。しかし、ここでは鍵となる呪術部隊が覚束なかった。デュラハンの呪術を解く呪文を知らぬもの。首のない異様な兵士の姿に恐れをなして逃げ出すもの。呪術レベルが低いために結果剣戟となり、デュラハンの刀のサビになるもの、援護の銃撃部隊に誤射されるものなど、戦果は燦々たるものだった。テラスの火炎放射隊も敵が投げ飛ばした首の見開いた眼から放たれるレーザー光線に焼殺される。それでも火炎放射器の燃液が漏れたことで会場内いっぱいに爆破の衝撃が広がり魔物側もまた多くが焼失した。
残ったデュラハンはついに高官らが匿われている最上階の執務室にやってきた。残った敵は2体となったが、彼らは戦うことの知らない高官たちの悲鳴は誰よりも大きなものであった。
「全く、戦闘部隊は何をしているんだ。」
カッシムは思わず吐露した言葉をそばにいたシホリーは聞き逃さなかった。
(確かにこの男はかつてのカッシムとは違うのね・・・。)
守備役の部隊長は即座に敵との間合いに迫り抜刀して一体を両断するが、それに集中するだけで敵の首に殻発するレーザーに目を焼き切られる。
「グアーーーッ。」
さらに抵抗できないものたちは一人、またひとりとデュラハンの餌食となった。カッシムもその一人となったが、幸いにも急所を外していた。「グホッ、グホッ。」と鈍い咳を繰り返すほど、デュラハンたちはその男に目をつけて剣を構えた。
しかし、その執行は叶わなかった。背後からの銃撃がデュラハンの首を撃ち抜く音を響かせる。そこには一人の銃剣士が怪物の前に立ちはだかった。イロスというこの青年もまた先の爆破で既に体は黒焦げだった。青年はそれでも周囲を見回して一人息があるシホリーを目視した。
「大丈夫ですか?」
シホリーにはそれが一瞬、救世主の声にも聞こえた。しかし、首を失ったデュラハン身体はその矛先を変えてイロスに向かっていった。イロスも銃剣を身構えて必死の打突を試みる。結果は双方の刃はお互いの身体を貫き、どちらも同時に倒れ込んだ。
それと同時に立ち上がった男がいる。カッシムだ。
カッシムは瀕死の最中、そばにいたイロスに目をつけた。次の肉体を必要としていたからだ。しかし、シホリーはイロスの銃剣を手に力いっぱいに剣先をカッシムの心臓を突いた。
「!?・・・シホリー何を・・・。」
「あなたは変わってしまったわね・・・。」
カッシムはその時、単に妻の浮気心を恨んだ。
「あなたは命を繰り返す度に人ではなくなったようね。だから終わらせてあげる。最後は人としてね!」
女は永遠の命を持つ怪物を殺めた。魂を失ったカッシムは紛う事なきシホリーの最愛の存在である。洋館の広間の真ん中で、はじめて若き亭主を失ったことにひとり涙した。
-第三章・終-
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