4 / 13
第四話「遠島の父上」
しおりを挟む
「あの子も父親と同じさ。親のクジ運がない」
荷下ろし仲間たちは口を揃えていう。一正という名のその童はその声を背中に受けて今日も紀ノ川の下流の先を見つめている。寒多郞もその罵りを毎日聞いては苦笑いを浮かべる。
(嫌な職場だ・・・)
紀ノ川の下流まで御上への献上用の材木を運ぶ都合、役人の見聞が厳しい。割りの合わない仕事にどの渡し舟の船頭も陰口が多くなる。その槍玉はいつの間にか海を眺める少年に向けられた。
父親である作治は今日も積荷作業に現れない。毎日、瀧安寺の富籤に性を出す日々だ。とはいえ籤の才はないとは同じ荷下ろし仲間の弁。大人しく荷下ろしの仕事をやってればいいのにと誰もが嗤う。
「だから言ってやったんだよ、お前の本当の父親の話を・・・」
「本当の父親がいるのか?」
寒多郞は思わず聞き返したが、それは荷下ろしの仲間達が憂さ晴らしのために揶揄いのためにでたデマカセでだった。一正の本当の父親は花房盛正という戦国時代に名を挙げたという武将だという話。現在は主君である宇喜多秀家とともに島流しされたが、その嫡男は要として知れない。一正のマサの字は盛正のマサの字から取られていることが証拠だという根も葉もない話を一正に吹聴して大人たちは盛り上がった。
しかし、一正はその嘘話を間に受けて以降、毎日海をみつめては微笑を浮かべる。大人たちはそれを見てさらに馬鹿馬鹿しい笑いがこだまする。
(嫌な職場だ・・・)寒多郞は繰り返す。
一正というその少年が見つめる方向は伊豆七島だというので大人たちはさらに嘲笑う。方角も違うし目をこらしても見える距離じゃない。誰もが少年に指を指す中、寒多郞は少年に近づき小声で囁いた。
「本当の父親、会いに行く気はないか?」
「本当か!?」
その時初めて寒多郞は一正の声を聞いた。少年の甲高い声は心地よかった。明日で下流へ積荷を運ぶ仕事のかたがつく。昼行灯が性に合っている自分に取り留めのない愚痴話に飽き飽きしていた。
決行は今夜の亥の刻。
その後も一正は海を見ていたが、日暮れになっても家に帰ることはなくじっとして動かない。迎えも誰も来ない。
やってきた寒多郞は頭をひとつかいた。
「本当にいいのか?今日の海のシケは強いぞ」
「かまわん!今日も誰も迎えはないんだ」
寒多郞は海のそばに着けてあった小舟に飛び乗った。櫂を使ってこぐふたり乗りのもので当然ながらこれで伊豆七島に着けるはずもない。
話では花房盛正という男は八丈島に果てたというの報せがある。着いたところでどうすることもできない話だ。
会いに行けるかどうかのカギは寒多郞の妖刀にかかっていた。
寒多郞は持ち出した磁石にひもを提げて包囲を南東へ進めた。前方には闇夜のなかが続きつまらなくも不穏な空気ばかりが流れ否が応でも背筋の伸ばさせる。
少年は無言だった。
「引き返してもいいんだぞ」
寒多郞は都度忠告したが、一正は応えずに船首の先に目を凝らしている。足元は震えて舟の縁に手をギッと握りおさえている。
(腰が抜けたか・・・)
この冒険も少年が飽きるまでと決めていたが、動かない少年の後ろ姿を見て意外にも根競べとなった。
寒多郞が慣れない櫂の返しで腕がしびれ始めた頃、一艘の舟が前方より交差してきた。寒多郞の乗り込んだ舟と同じくらいの大きさでこちらと同じ速度で近づいてくる。
その舟にはひとりの鎧をまとった男が膝を地につけて座っている。船頭は見当たらず惰性で進んでいるかのようだ。
(チッ!)
寒多郞はムキになってより力強く櫂を漕いだ。奇妙な舟とすぐにでも通りすぎるようにとその舟の船頭の顔を確かめるためである。
ギィギィギィ・・・と軋む音を強めて対する舟の様子を舐めるように眼を流した。
しかし、その舟には船頭はおろか誰の姿はなかった。遠目に見たときには鎧武者の影が確かに存在していたが、闇夜と共に大海の真ん中で下船していたのだ。
「父ちゃん・・・?」
寒多郞が困惑する頭を叩きつけるように一正は声をあげた。呼び掛ける声の先を確認すると寒多郞たちの舟の船首には消えたはずの鎧武者が仁王立ちしている。
(花房盛正だな!)
舟に重みを感じない様子を感じとり、寒多郞は眼の前の男がこの世ならざるものと確信した。そしてすぐさま足元に横たわる妖刀を手にした。
「やっぱり父ちゃんはかっこいい!」
「一歩たりとも城から逃がすな!女子供とて同じだ」
「えっ?」
盛正の霊魂は若々しかった。全盛期に数々の城攻めを敢行したときの勢いがあった。城一帯に火を放ち、制圧のためなら老若男女問わず皆殺しにする作戦も厭わない男の狂気がそこにあった。全ては天下平定のためである。
今まさに武将の勇姿が一正の眼前で執り行われようとしていた。
盛正の振り落とした刃が寸前のところまで迫ったとき、寒多郞の妖刀が反対側から突き上げてそれを弾き返した。亡霊と少年の間に滑り込んだ寒多郞は刀とは反対の左肘で一正のみぞおちを突いた。一正は声をあげる間もなくその場に突っ伏した。
「子供の冒険はこれで終わりだ」
寒多郞は一正を拾い上げて小舟の後方に寝かしつける。その間、背中を向けた寒多郞の姿を盛正の亡霊は見逃さなかった。
「紀州に与する寺社侍め、太閤の命により成敗いたす!」
亡霊の剣は上段より振り下ろされたが、寒多郞はそれを見越して振りむき様に回転を加えて敵の前に刃を叩き込んだ。
「グァァァァァッ」
武者の身体は瞬時に燃え上がった。斬られたことによる痛みよりも妖刀の力による浄化の炎による苦しみの叫びが辺りに轟いた。
花房盛正は数年前に幽閉の末に亡くなった。この魂は以前の戦国の世の姿であった。魂がかつての全盛であったときの姿で人々の前に姿を現すことはよくあることだ。彼もまた乱世の時代こそが華やかであったと懐かしんでのことであろう。
(女、子どもとて虐殺する姿が全盛とは哀れなヤツだな・・・)
寒多郞は手を合わせながらも心に呟いた。
日は明けて少年は目を覚ました。そこにはいつも見つめていた海岸線があった。ひとつ違うのは隣にはひとりの男が一正と同じく大の字に倒れていた。
「・・・父ちゃん?」
作治はやがて陽の光の暖かさに目を覚ました。海からあがって、まだ身体の自由がきかない状態から手首を動かしてポンポンと一正の頭を撫でるとまた目を閉じた。一正にはそれで嬉しかった。
ふたりを見つめる寒多郞の息は絶え絶えとしていた。これで父親は富籤家業から足を洗うかは知れない。しかし、ここでの仕事を終えた以上どうすることもできず下流での仕事を後にする。
荷下ろし仲間たちは口を揃えていう。一正という名のその童はその声を背中に受けて今日も紀ノ川の下流の先を見つめている。寒多郞もその罵りを毎日聞いては苦笑いを浮かべる。
(嫌な職場だ・・・)
紀ノ川の下流まで御上への献上用の材木を運ぶ都合、役人の見聞が厳しい。割りの合わない仕事にどの渡し舟の船頭も陰口が多くなる。その槍玉はいつの間にか海を眺める少年に向けられた。
父親である作治は今日も積荷作業に現れない。毎日、瀧安寺の富籤に性を出す日々だ。とはいえ籤の才はないとは同じ荷下ろし仲間の弁。大人しく荷下ろしの仕事をやってればいいのにと誰もが嗤う。
「だから言ってやったんだよ、お前の本当の父親の話を・・・」
「本当の父親がいるのか?」
寒多郞は思わず聞き返したが、それは荷下ろしの仲間達が憂さ晴らしのために揶揄いのためにでたデマカセでだった。一正の本当の父親は花房盛正という戦国時代に名を挙げたという武将だという話。現在は主君である宇喜多秀家とともに島流しされたが、その嫡男は要として知れない。一正のマサの字は盛正のマサの字から取られていることが証拠だという根も葉もない話を一正に吹聴して大人たちは盛り上がった。
しかし、一正はその嘘話を間に受けて以降、毎日海をみつめては微笑を浮かべる。大人たちはそれを見てさらに馬鹿馬鹿しい笑いがこだまする。
(嫌な職場だ・・・)寒多郞は繰り返す。
一正というその少年が見つめる方向は伊豆七島だというので大人たちはさらに嘲笑う。方角も違うし目をこらしても見える距離じゃない。誰もが少年に指を指す中、寒多郞は少年に近づき小声で囁いた。
「本当の父親、会いに行く気はないか?」
「本当か!?」
その時初めて寒多郞は一正の声を聞いた。少年の甲高い声は心地よかった。明日で下流へ積荷を運ぶ仕事のかたがつく。昼行灯が性に合っている自分に取り留めのない愚痴話に飽き飽きしていた。
決行は今夜の亥の刻。
その後も一正は海を見ていたが、日暮れになっても家に帰ることはなくじっとして動かない。迎えも誰も来ない。
やってきた寒多郞は頭をひとつかいた。
「本当にいいのか?今日の海のシケは強いぞ」
「かまわん!今日も誰も迎えはないんだ」
寒多郞は海のそばに着けてあった小舟に飛び乗った。櫂を使ってこぐふたり乗りのもので当然ながらこれで伊豆七島に着けるはずもない。
話では花房盛正という男は八丈島に果てたというの報せがある。着いたところでどうすることもできない話だ。
会いに行けるかどうかのカギは寒多郞の妖刀にかかっていた。
寒多郞は持ち出した磁石にひもを提げて包囲を南東へ進めた。前方には闇夜のなかが続きつまらなくも不穏な空気ばかりが流れ否が応でも背筋の伸ばさせる。
少年は無言だった。
「引き返してもいいんだぞ」
寒多郞は都度忠告したが、一正は応えずに船首の先に目を凝らしている。足元は震えて舟の縁に手をギッと握りおさえている。
(腰が抜けたか・・・)
この冒険も少年が飽きるまでと決めていたが、動かない少年の後ろ姿を見て意外にも根競べとなった。
寒多郞が慣れない櫂の返しで腕がしびれ始めた頃、一艘の舟が前方より交差してきた。寒多郞の乗り込んだ舟と同じくらいの大きさでこちらと同じ速度で近づいてくる。
その舟にはひとりの鎧をまとった男が膝を地につけて座っている。船頭は見当たらず惰性で進んでいるかのようだ。
(チッ!)
寒多郞はムキになってより力強く櫂を漕いだ。奇妙な舟とすぐにでも通りすぎるようにとその舟の船頭の顔を確かめるためである。
ギィギィギィ・・・と軋む音を強めて対する舟の様子を舐めるように眼を流した。
しかし、その舟には船頭はおろか誰の姿はなかった。遠目に見たときには鎧武者の影が確かに存在していたが、闇夜と共に大海の真ん中で下船していたのだ。
「父ちゃん・・・?」
寒多郞が困惑する頭を叩きつけるように一正は声をあげた。呼び掛ける声の先を確認すると寒多郞たちの舟の船首には消えたはずの鎧武者が仁王立ちしている。
(花房盛正だな!)
舟に重みを感じない様子を感じとり、寒多郞は眼の前の男がこの世ならざるものと確信した。そしてすぐさま足元に横たわる妖刀を手にした。
「やっぱり父ちゃんはかっこいい!」
「一歩たりとも城から逃がすな!女子供とて同じだ」
「えっ?」
盛正の霊魂は若々しかった。全盛期に数々の城攻めを敢行したときの勢いがあった。城一帯に火を放ち、制圧のためなら老若男女問わず皆殺しにする作戦も厭わない男の狂気がそこにあった。全ては天下平定のためである。
今まさに武将の勇姿が一正の眼前で執り行われようとしていた。
盛正の振り落とした刃が寸前のところまで迫ったとき、寒多郞の妖刀が反対側から突き上げてそれを弾き返した。亡霊と少年の間に滑り込んだ寒多郞は刀とは反対の左肘で一正のみぞおちを突いた。一正は声をあげる間もなくその場に突っ伏した。
「子供の冒険はこれで終わりだ」
寒多郞は一正を拾い上げて小舟の後方に寝かしつける。その間、背中を向けた寒多郞の姿を盛正の亡霊は見逃さなかった。
「紀州に与する寺社侍め、太閤の命により成敗いたす!」
亡霊の剣は上段より振り下ろされたが、寒多郞はそれを見越して振りむき様に回転を加えて敵の前に刃を叩き込んだ。
「グァァァァァッ」
武者の身体は瞬時に燃え上がった。斬られたことによる痛みよりも妖刀の力による浄化の炎による苦しみの叫びが辺りに轟いた。
花房盛正は数年前に幽閉の末に亡くなった。この魂は以前の戦国の世の姿であった。魂がかつての全盛であったときの姿で人々の前に姿を現すことはよくあることだ。彼もまた乱世の時代こそが華やかであったと懐かしんでのことであろう。
(女、子どもとて虐殺する姿が全盛とは哀れなヤツだな・・・)
寒多郞は手を合わせながらも心に呟いた。
日は明けて少年は目を覚ました。そこにはいつも見つめていた海岸線があった。ひとつ違うのは隣にはひとりの男が一正と同じく大の字に倒れていた。
「・・・父ちゃん?」
作治はやがて陽の光の暖かさに目を覚ました。海からあがって、まだ身体の自由がきかない状態から手首を動かしてポンポンと一正の頭を撫でるとまた目を閉じた。一正にはそれで嬉しかった。
ふたりを見つめる寒多郞の息は絶え絶えとしていた。これで父親は富籤家業から足を洗うかは知れない。しかし、ここでの仕事を終えた以上どうすることもできず下流での仕事を後にする。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
花嫁御寮 ―江戸の妻たちの陰影― :【第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞】
naomikoryo
歴史・時代
名家に嫁いだ若き妻が、夫の失踪をきっかけに、江戸の奥向きに潜む権力、謀略、女たちの思惑に巻き込まれてゆく――。
舞台は江戸中期。表には見えぬ女の戦(いくさ)が、美しく、そして静かに燃え広がる。
結城澪は、武家の「御寮人様」として嫁いだ先で、愛と誇りのはざまで揺れることになる。
失踪した夫・宗真が追っていたのは、幕府中枢を揺るがす不正金の記録。
やがて、志を同じくする同心・坂東伊織、かつて宗真の婚約者だった篠原志乃らとの交錯の中で、澪は“妻”から“女”へと目覚めてゆく。
男たちの義、女たちの誇り、名家のしがらみの中で、澪が最後に選んだのは――“名を捨てて生きること”。
これは、名もなき光の中で、真実を守り抜いたひと組の夫婦の物語。
静謐な筆致で描く、江戸奥向きの愛と覚悟の長編時代小説。
全20話、読み終えた先に見えるのは、声高でない確かな「生」の姿。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる