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第七話「はぐれもの」
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「操縦者自制心向上機能」
それはエルの星でオルガリオンの機体にナイフの細工をしたのと同様に、エスの機体に仕掛けられたシステムであった。
パイロットの復讐心を掻きたてる。もたれるシートには微細な振動が発生してパイロットの精神状態を高揚させる。そして興奮状態のパイロットの脳内に直接ヴィジョンが映し出される。それはそのものに対してもっとも最悪の出来事・・・。
(先輩はそのシステムに気づいた時には手遅れだったのだろう。それは、そろそろ私にも・・・。)
エスは戦闘中ながら少し目を擦った。身体にきたす震え、目の前にはシーという悪魔がいう憎むべきカタキがいる。彼はエスの両親を殺めた記憶が流れ込む。孤児であった自分にはそんな記憶が偽物であることが知っているがシートに押さえつけられたベルトに押さえつけられて身体が言うことを効かない。
「おのれ、ここでヤツを殺らなきゃ・・・。」
言葉でさえ思ってもないもので溢れてくる。
「エス!心をしっかり持て!」
「エスさん、憎しみにとらわれていてはダメだ。」
エルとアールの声もエスには聞き入ることはできない。あるのは目の前にてきを打ち倒す闘争本能だけだった。
シーのロボット群はどれも身体を鎖状になって四方に広がり続けた。チェーン化した敵の身体は雁字搦めにして押さえつけた。奇しくも自分の苦しみを汲んでいるかのようだ。オルガリオンはもがきながらも力尽きそのままビヨンド星の引力圏に引きずり込まれた。
落下するオルガリオンの姿はひとつの流れ星を思わせる。
「あれはなんだろう。」
「行ってみよう!」
この星でエスが見かけた子どもたちは興味本位で落下地点へ向かう。それは彼らが全力で走れば20分ほどの距離だ。
落下地点ではエスが浄化した水が変わらず流れ続けていた。取り戻した自然のなかで子どもたちははしゃぎ遊び大の字になって寝転がっていた。
今のオルガリオンは同じ大の字の態勢であるが、自由はきかない。それはエス自身もそうだ。
「先輩!私たちは何をしているんですか?」
エスは失われる意識のなか叫んだ。本人は叫んだかどうかもわからないほどに五感が失われていく。モニターには人影が映し出された恐らくはシーなのだろう。
「あなたはここにあるような自然を求めた。しかし、その自然を私たちは鉄の塊をもって踏みにじった。私たちは憎み、争い、そして自然を汚している。」
「シーよ、もうやめようぜ。所詮、俺たちははぐれものなんだよ。軍に馴れ合えず、ノケモノにされてこんなところで不毛な争いをしている。オルガリオンなんて平和の使命がありながら、結局はこの自然すら相容れない鉄の塊なんだ。」
エルが割りに入った。アールはそのことを聞き軽くうなずく。
「今さらこんな復讐を果たしたところで・・・。」
「うるさい!正義とかではない。俺の頭がうずくからそうしているんだ。」
その憎しみをもってさらにオルガリオンの身体をつぶそうとした。
しかし、締めつけようとする鎖が突然ゆるんだ。それはシーの操作の及ばぬところだった。オルガリオンはその機をみてスルリとその中から抜け出した。しかし、中腰のまま立ち上がろうとするとバランスを崩して再び前のめりに倒れこむ。
「まさか、この機体がゲノミーに侵食されたというのか?」
シーはパットを叩きつける。しかし、コマンドを打ち込むパットの画面は黒く塗りつぶされて何もできなかった。それどころか金属変化を起こしてアメーバ状の鉄の巣がコックピット内に広がる。シーに脱出する道は塞がれた。
シーの機体はチェーンを広げようとしたがそれはビヨンド星の地表に向かって無数に伸びていた。オルガリオンのパイロットたちは誰もがその機体がゲノミーに乗っ取られたのだとわかる。
「どうする?エス、自分の責任にかけて何とかするんじゃないのか。」エルは冷やかしエスの意識の生存を確認する。
「そうね・・・わたしの・・・手で・・・。」
「強制解除しよう、これ以上はダメだ。」
アールが合体解除のコマンドをいれようとする。しかし、目の前にはいるゲノミーの伸ばした触手の先に3人の子どもたちが木陰から顔を覗かせた光景がエスの目に飛び込んだ。
(守らなきゃ!)
血管が浮き出ていまにも噴き出しそうな腕をもってオルガリオンは伸びるゲノミーの前に背中を向けて立ちふさがる。反対に巨神に見下ろされた少年たちは震えたまま動きだせない。
(子どもたちは逃げられない。なら、ゲノミーを倒すしかない!)
オルガリオンは振り返るとすぐさまその腕を伸ばした。そこから放たれるプラズマにゲノミーは金色に感電していく。金色への変色はゲノミーの触手の拡がりよりも速く、やがてその全身を包んだ。
その時、微かにゲノミーの身体がフワリと浮き上がりこの地から離れはじめた。
(エス、これで止めをさせ!お前のもつ復讐をこめて・・・。)
シーが語りかけたような気がした。そのこと言葉に従って全力をもって敵に飛び込んだ。
(ありがとう先輩、そしてまた会いましょう・・・。)
その攻撃をもって怪物は完全に焼失した。その爆風によって木々は吹き飛び、河川は干上がり、草原はふたたび砂漠になった。
オルガリオンが再び地に降り立ったときすべては荒野だった。何とか岩影に逃れた少年たちは事態がおさまったことを感じてひょっこりと顔を出した。
子どもたちは目一杯の声でさけぶ。
「たすけてくれてありがとー!」
その声に受けても動じることもなく巨神の姿は雄々しく草原の前に立ちすくんでいた。
それはエルの星でオルガリオンの機体にナイフの細工をしたのと同様に、エスの機体に仕掛けられたシステムであった。
パイロットの復讐心を掻きたてる。もたれるシートには微細な振動が発生してパイロットの精神状態を高揚させる。そして興奮状態のパイロットの脳内に直接ヴィジョンが映し出される。それはそのものに対してもっとも最悪の出来事・・・。
(先輩はそのシステムに気づいた時には手遅れだったのだろう。それは、そろそろ私にも・・・。)
エスは戦闘中ながら少し目を擦った。身体にきたす震え、目の前にはシーという悪魔がいう憎むべきカタキがいる。彼はエスの両親を殺めた記憶が流れ込む。孤児であった自分にはそんな記憶が偽物であることが知っているがシートに押さえつけられたベルトに押さえつけられて身体が言うことを効かない。
「おのれ、ここでヤツを殺らなきゃ・・・。」
言葉でさえ思ってもないもので溢れてくる。
「エス!心をしっかり持て!」
「エスさん、憎しみにとらわれていてはダメだ。」
エルとアールの声もエスには聞き入ることはできない。あるのは目の前にてきを打ち倒す闘争本能だけだった。
シーのロボット群はどれも身体を鎖状になって四方に広がり続けた。チェーン化した敵の身体は雁字搦めにして押さえつけた。奇しくも自分の苦しみを汲んでいるかのようだ。オルガリオンはもがきながらも力尽きそのままビヨンド星の引力圏に引きずり込まれた。
落下するオルガリオンの姿はひとつの流れ星を思わせる。
「あれはなんだろう。」
「行ってみよう!」
この星でエスが見かけた子どもたちは興味本位で落下地点へ向かう。それは彼らが全力で走れば20分ほどの距離だ。
落下地点ではエスが浄化した水が変わらず流れ続けていた。取り戻した自然のなかで子どもたちははしゃぎ遊び大の字になって寝転がっていた。
今のオルガリオンは同じ大の字の態勢であるが、自由はきかない。それはエス自身もそうだ。
「先輩!私たちは何をしているんですか?」
エスは失われる意識のなか叫んだ。本人は叫んだかどうかもわからないほどに五感が失われていく。モニターには人影が映し出された恐らくはシーなのだろう。
「あなたはここにあるような自然を求めた。しかし、その自然を私たちは鉄の塊をもって踏みにじった。私たちは憎み、争い、そして自然を汚している。」
「シーよ、もうやめようぜ。所詮、俺たちははぐれものなんだよ。軍に馴れ合えず、ノケモノにされてこんなところで不毛な争いをしている。オルガリオンなんて平和の使命がありながら、結局はこの自然すら相容れない鉄の塊なんだ。」
エルが割りに入った。アールはそのことを聞き軽くうなずく。
「今さらこんな復讐を果たしたところで・・・。」
「うるさい!正義とかではない。俺の頭がうずくからそうしているんだ。」
その憎しみをもってさらにオルガリオンの身体をつぶそうとした。
しかし、締めつけようとする鎖が突然ゆるんだ。それはシーの操作の及ばぬところだった。オルガリオンはその機をみてスルリとその中から抜け出した。しかし、中腰のまま立ち上がろうとするとバランスを崩して再び前のめりに倒れこむ。
「まさか、この機体がゲノミーに侵食されたというのか?」
シーはパットを叩きつける。しかし、コマンドを打ち込むパットの画面は黒く塗りつぶされて何もできなかった。それどころか金属変化を起こしてアメーバ状の鉄の巣がコックピット内に広がる。シーに脱出する道は塞がれた。
シーの機体はチェーンを広げようとしたがそれはビヨンド星の地表に向かって無数に伸びていた。オルガリオンのパイロットたちは誰もがその機体がゲノミーに乗っ取られたのだとわかる。
「どうする?エス、自分の責任にかけて何とかするんじゃないのか。」エルは冷やかしエスの意識の生存を確認する。
「そうね・・・わたしの・・・手で・・・。」
「強制解除しよう、これ以上はダメだ。」
アールが合体解除のコマンドをいれようとする。しかし、目の前にはいるゲノミーの伸ばした触手の先に3人の子どもたちが木陰から顔を覗かせた光景がエスの目に飛び込んだ。
(守らなきゃ!)
血管が浮き出ていまにも噴き出しそうな腕をもってオルガリオンは伸びるゲノミーの前に背中を向けて立ちふさがる。反対に巨神に見下ろされた少年たちは震えたまま動きだせない。
(子どもたちは逃げられない。なら、ゲノミーを倒すしかない!)
オルガリオンは振り返るとすぐさまその腕を伸ばした。そこから放たれるプラズマにゲノミーは金色に感電していく。金色への変色はゲノミーの触手の拡がりよりも速く、やがてその全身を包んだ。
その時、微かにゲノミーの身体がフワリと浮き上がりこの地から離れはじめた。
(エス、これで止めをさせ!お前のもつ復讐をこめて・・・。)
シーが語りかけたような気がした。そのこと言葉に従って全力をもって敵に飛び込んだ。
(ありがとう先輩、そしてまた会いましょう・・・。)
その攻撃をもって怪物は完全に焼失した。その爆風によって木々は吹き飛び、河川は干上がり、草原はふたたび砂漠になった。
オルガリオンが再び地に降り立ったときすべては荒野だった。何とか岩影に逃れた少年たちは事態がおさまったことを感じてひょっこりと顔を出した。
子どもたちは目一杯の声でさけぶ。
「たすけてくれてありがとー!」
その声に受けても動じることもなく巨神の姿は雄々しく草原の前に立ちすくんでいた。
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