魔法世界の綺沙羅

みちづきシモン

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綺沙羅続き(仮)

24。新緑王国へ

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 綺沙羅は驚いた。自分なりに出した答えが聞き入れられなかったのかと思ったからだ。
「正確には今は無理だということだ。神殿は火山と繋がっている。今は火山が活性化していて、危険なのだ。だが、収まれば許可しよう」
「紛らわしいな!」
「僕はびっくりしたよ」
「なんでやねん!って思ったやん」
 一行はホッと胸を撫で下ろす。真那は神殿へ向かえる時期について尋ねた。
「活性化し始めて間もないからしばらく待つことになる」
「それでは他の国へ行き、先に他のオーブを集めた方がいいと思うお」
「そうだな。まず新緑王国に向かうと良いだろう。紹介状は必要ないかも知れないが一応書いておこう。良き旅路を祈ってるぞ」
 炎王は書簡をしたためて、真那に渡した。
「火のオーブ以外を手にしてから来ても十分過ぎるくらい火山が不安定だ。長い旅になるかもしれないが、しっかりとな」
「ありがとうだお。炎王様」
「ありがとうございました!」
 綺沙羅達は左手の掌を右手の拳と合わせて頭を下げ礼を言った。
 退出して行く綺沙羅達は、宿へと戻った。陸也も戻る。
 宿の主人に、火耐性の服と帽子と御守りを保管しておいてもらうよう頼み馬車で準備をする。
「さて、行くお」
 綺沙羅達は馬車に乗り込み、真那がテイオーとシンオーを走らせた。
「次行く新緑王国はどんな所なんですか?」
「森の中にある国だお。ここから北西に行くと緑が生い茂る街に着くお。そこから少し北東へ行くと新緑王国だお」
 進むにつれて暑さがだんだん和らげてくる。やがてあたりは草原になった。蝶々が飛んでいる。
 どんどん進み草木が生い茂る中、街が見えてきた。
 今回は街で休まずにそのまま通過する。街中でゆっくり歩を進めるテイオーとシンオー。
 中から街を見ていると街は活気づいていた。美味しそうな香りもしてくる。
「新緑王国についたら、うんと食べるお。今は我慢するお」
 街を出て、馬車を走らせていると木々が増えてくる。やがて林の中森の中と言ったふうに入り組んでくる。
 道はなく、ガタガタと激しく揺れる。男三人は、酔いそうになった。
「しっかりするお。あと少しで着くお」
「大丈夫?優君、番ちゃん、陸也君」
「これくらいでしょうがないやつらやなー」
 綺沙羅と来夢は平気の様子だった。やがて、新緑王国に到着する。
 門で身分証を提示した綺沙羅達は中へと入っていく。
 中も木々が生い茂っていた。中央に大きな樹が見える。
「あの中央の樹にこの国の女王様がいるお」
 まず中央の樹に向かわせる真那。門内は木々だらけで、店なども木の中にあるようだった。
「大きな木を掘った中に店があるんですね」
「そうだお。掘っても成長を続けるのがこの国の木々の特徴だお。だから木魔法で調節するんだお」
 中央の樹に着くと、見張りの兵に炎王の紹介状を見せる真那。
 兵が紹介状を女王に見せに行ってる間、真那は軽く伸びをした。
「先生まだ疲れが残ってるんじゃないですか?」
「平気だお。どのみちここで休むことになるお」
 その言葉に首を傾げる綺沙羅。真那はふふふと笑って兵を待った。
「お待たせしました。女王様がお会いになるそうです」
 一行が奥へ進むと、小さな部屋に一人の、服を着込んだ女性が椅子に座っていた。
「やあ、久しぶりだね。真那君」
「おっおっおっ。樹海女王様、久しぶりだお」
「相変わらず薄着だね。寒くないのかい?」
「そういう樹海様は厚着だお。暑くないお?」
「僕はこれくらいが丁度いいのさ」
 どうやら服装に関して折り合いがつかないのか、バチバチと音が聞こえそうな睨み合いを続ける二人。
「先生と女王様は仲が悪いんですか?」
「悪いよ」
「いや、嘘はいけないお。服装に関しては言い合いになるけどね。他はウマが合う仲良しだお」
「ふふふ、そうかもしれないね」
「ふん。話を前に進めよーぜ」
「僕達の目的を話さないと」
「せやで、はよ終わらせてご飯食べよーや」
「俺もお腹がすいたぜ!」
 ご飯の話をする来夢と番樹にクスリと笑った女王は、木魔法でテーブルと椅子を出現させた。
「なら、ご飯でも食べながら話をしようじゃないか。食事を持ってこさせよう」
 その場が食事会になった。新鮮な野菜や、キノコ類が運ばれてくる。肉はなかった。
「おいおい、肉がねぇぞ?」
「植物と暮らす僕らは野菜やキノコや果物などしか食べないんだ」
 樹海女王はそう言う。陸也と番樹は、項垂れるように肉を求めた。
「まぁたまにはいいじゃん。僕は好きだよこの料理」
「せやせや。健康にもええと思うで」
「そうだよ美味しいよ。私も優君と同じで好きだな、この国の料理」
 優と来夢と綺沙羅は気に入ったようだった。
 真那は、食事をとりつつ話をした。
「樹海女王様、今木のオーブはどこにあるお?」
「この森のどこかにある」
「それってどういうことですか?」
 綺沙羅の疑問に女王が答える。
「この森は生きて動いているんだ。この国の所在は変わらなくても木の生えている場所が変わる。それを利用して、オーブの番人は交代でオーブの保管場所を移動しつつ隠している」
「それじゃあ女王様も今どこにあるかわからないんですか?」
「そういうことだよ」
「おっおっおっ、探すのはあたい達がするお。問題は許可だお」
 女王はふぅとため息をついて語る。
「君たちが嘘をついてるとは思わないが、本当に今オーブを一つにするべきか僕は悩んでいる。一人の人間に任せて平気なのかと」
 綺沙羅はこれに対して、覚悟を述べた。
「私は、この先ずっと子孫にもしっかり大切に悪用せずに正しく使うことを誠心誠意伝えていきます」
「それはそうかもしれないけどね。どうも踊らされてる気がするんだ。神羅様にね」
「おっおっおっ、失礼な話だお」
 真那は嬉しそうに笑った。綺沙羅は疑問に思って尋ねた。
「神羅様が信用できないのですか?」
「そうと言うと、失礼だけどそうだ。僕は神様を信用していない」
「ふん、じゃあどうするのがいいっていうんだ?」
「君達の話を聞いたら闇のオーブと光のオーブは吸収したらしいじゃないか? それならそれだけで、あとは他の国に管理させるべきではないか? 特に影響はないだろう?」
「本当にそうかお?」
女王は真那の顔を見て訝しげな表情をした。
「違うと言うのか?」
「光のオーブは神羅様の顕現で、まやかしの光を人々に浴びせたお。火のオーブは火山を活性化させているかもしれないお。木のオーブも例外とは言えないお」
 ふむ、と顎に手を当てて考える樹海女王。パンと手を叩き、こう言った。
「ではこうしよう。悪影響が出た場合譲る。どうだい?」
「やっぱりそうなるかお」
「その間他の国を回ってもいい。この国に滞在してもいいよ」
「では、この国に滞在させてもらうお」
こうして、食事会は終わった。綺沙羅は真那に尋ねる。
「他の国を回って待った方がいいんじゃないですか?」
「これはあたいの直感だけど、もうこの国には悪影響が出てると思うお。気づかないところでね」
 それを聞いた綺沙羅は何故それを女王に言わなかったのか聞いた。
 すると真那はこう言う。
「勘だけでは国は動かせないお。とにかく目に見えるところまできたらすぐ許可を貰ってオーブを取りに行くお」
 こうして、新緑王国で少しの間暮らすことになる。番樹と陸也は肉がないことを嘆いた。
「そう言うと思ってとって置いてあるお」
 真那は新鮮な肉ではないが、保存してあった肉を温めた。当分の間は宿での生活になる。
 綺沙羅達は長期戦を覚悟していた。そしてその通りになった。
 いくら待っても変化が起きず一週間が経っていた。
「むぅ、あてが外れたお?」
「綺沙羅、書の妖精に聞いてみようよ」
 優がそう進言した。綺沙羅は神羅の書を開く。
「わっショーい! 久しぶりの登場の気がするでショ」
「書の妖精さん。この国に異変がないか調べたいんだけど、どうかな?」
「それなら木魔法を使うでショ。番樹ショん、前へくるでショ」
 そうして調査が始まった。書の妖精はいち早く異変に気づいた。
「ショー!番樹ショん、木魔法をここに使ってみるでショ」
「よーし、いくぞ!」
 番樹がある木魔法を使うと木の色が変わった。
「やっぱりでショ。この辺の木々は、徐々に腐っていってるでショ」
「どうしてそんなことが?」
「魔力の過剰摂取でショ。魔力が流れ込みすぎて侵食してるんでショ」
「おっおっ、この事を早く樹海女王様に伝えるお」
 女王に謁見すると、驚く回答が待っていた。
「木々が腐っているのは知っているよ」
「なら、どうして対策をしないのですか?木のオーブのせいかもしれないのに!」
「日当たりの悪い場所もある。一概にそうは断言できないよ」
「おっおっおっ、そんな悠長なことを言っていたらこの国も呑まれるお」
「ううむ……」
「明らかに悪影響が出ていますよね?言ってることが違います!」
「こういうのはどうでしょうか?木のオーブを僕らに譲って悪影響が収まったら完全に譲る。それまでは、神羅様のオーブには吸収しないし、持ち出すだけ。僕らは旅に出て他の国のオーブを集める。女王様はここで悪影響が収まれば、神羅様のオーブに吸収する許可をください」
 優が提案した案に、女王は乗った。
「それでいい。懸念材料もなくなって安心できる。君、なかなか頭が冴えるね」
 褒められて優は照れた。真那も頷きそれで行こうと言う。
「それじゃあ木のオーブを持ち出す許可をください」
「わかった。持ち出すといい。今はこの国から北東の方角の森にあるという報告を受けている。とはいえ、森は動く。十分準備をして行きたまえ」
 綺沙羅達は礼を述べ頭を下げた。一行は早々に準備をし、森の北東を目指す。徒歩での移動のためかなりの時間がかかったが、神殿へとたどり着いた。
木の上に建つ神殿には番人が立っていて女王様からの手紙を渡し、中に入れてもらう。
 神殿の中にも木の根のようなものが張っている。奥に木のオーブが飾られていた。
綺沙羅が手にとると風がどこからか吹いた。
「力を感じます。とてつもない自然の力を」
「おっおっおっ、丁寧に仕舞うお」
 女王に渡された保管の箱に仕舞うと神殿を出た。
「昨日のうちに、この国を出る手筈は整えたお。このまま北東に向かい、湖水王国を目指すお」
「テイオーとシンオーの馬車はどうするんですか?」
「どのみち湖水王国は馬車で入れないお。世話は樹海女王様の下僕殿に任せてるから安心するお」
「ということは徒歩でこの森を抜けて湖水王国を目指すんですね」
「そういうことだお」
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