バック=バグと三つの顔の月

みちづきシモン

文字の大きさ
24 / 42

旅行編 ウェイ=ヴォイスの弱点

しおりを挟む
 ホテルにチェックインして、普段通り談笑する三人。シャルは何かをしていたようだが、特に何か害があるものでもないだろう……と、思っていた。
 夜ご飯を食べてすっかり暗くなった頃、エラがまだ起きていたいと言うので夜遅くまで起きている。
 不意に電気がカチカチと点灯する。カタカタと物音が聞こえる。
「何だろう、このホテル何かおかしいね」
 バックが不審がる。お化けなんてものはこの世には存在しない。そんな存在がいるなら殺しに来てもいいからあの日死んだ皆に来て欲しいと願うくらいだからだ。
 ウェイに対応してもらおう。そう考えた時だった。
「ウェイ? ウェイ! どうしたの?」
 頭を抱えて震えながらウェイは縮こまっている。あのウェイがこんなに脅えている、もしかしてウェイは……お化けが怖いのか?
「大丈夫よ、ウェイ。お化けなんていないの」
「違いますのよ、バック……お化けはいるんですの……」

 話にならない。バックはウェイを抱きしめて言い聞かせる。
「大丈夫、大丈夫」
 その後も怪奇現象らしきものは起こり、電気が消えた。
「わっ!」
 懐中電灯を顔に当てたエラが驚かす。
「いやああああああ!」
「落ち着いてウェイ!」
 エラはケラケラ笑っている。
「エラ、やり過ぎだよ」
 バックは呆れてウェイを抱きしめながら慰める。
「違いますの……いますのよ……ほら、そこに……」
 ウェイはエラの後ろを指さした。
「馬鹿だなぁ、お化けなんていないよ」
 振り返ったエラは、怪物に化けたシャルを見て悲鳴をあげた。
「あなたも驚いてどうするんですか」
 呼吸を整えるエラに、仕返しですわと弱々しく言うウェイ。

「お化けが怖いの?」
 バックは尋ねると涙目のウェイは本気で泣き出した。
「わかっていませんわ! お化けはいますのよ! ワタクシお化けだけは倒せませんの! お化けが襲ってきたら勝てませんの!」
 こんなにも真剣に、ウェイが泣きながら話すのだからお化けはいるのかもしれない。
「本当にいるの? 詳しく教えて」
 ウェイは震えながら話す。
「昔、ある土地の屋敷に向かった時ですわ。師匠と共に行動していたんですの。その後、分断されて一人で対象の殺し屋の処理をしていた時ですわ。屋敷の奥から声が聞こえるんですの。そして中に入ると少女のような何かが、笑っていて楽しそうにしていたんですの。この後が失敗でしたのよ。ワタクシ声をかけてしまいましたの。どうして笑っているのか気になりましたの。そしたら少女は怒り出してこちらに向かってきましたの。ワタクシ必死に抵抗しましたわ。ですが全く攻撃が当たりませんの。そして少女は笑いながらワタクシに抱きついて離れませんでしたの。その後師匠が来るまでワタクシ少女を振り払おうと必死でしたわ。ですが効果なく、師匠が来た時消えていきましたの。それ以来ワタクシはお化けの存在を信じていますの。確実にいますのよ!」

 バックはウェイが泣き腫らした目で見ながら話すのを聞いていて、シャルを見た。
「師匠さんがイタズラした可能性はないの?」
「詳しくは聞いてないですね。ウェイはお化けが苦手だとしか」
 それを聞いて安心したバックはウェイに話し出す。
「多分ウェイは師匠さんにからかわれたんだよ。ホログラムや映像でいくらでもそういう物はできるよ。師匠さんと分断されたのが証拠と思わない?」
 だがウェイはフルフルと首を横に振る。
「違いますわ。その時だけではありませんの。それが初めてだっただけで、師匠と一緒にいた時も男性の霊に殴りかかられたりしましたわ。痛くも痒くもないと思っているでしょう? そんな事ありませんのよ! 痛みや苦しみだけはこちらにはきますの!」
 それを聞いていたエラは寒気がしてきた。
「それ本当の話なの?」
「ワタクシが嘘を言っていると思っているならそう思ったらいいですわ。ワタクシ今まで何度も見てきましたもの。もしバックを守ってる時に現れたらシャルに対応してもらおうと思っていましたくらいですもの」

 バックは真剣に話を聞いていた。もしこの世界に霊というものがあるのなら希望が持てる。会いたいと思った。だが……そうは上手くいかなかった。
「会えるかな?」
「何にですの?」
 ウェイは震えながら言う。
「皆に」
 それを聞いた瞬間、ウェイとシャルが固まった。エラが尋ねる。
「会いたい人たちがいるの?」
「うん。皆に会いたい」
「誰々に会いたいの?」
 ウェイが立ち上がって無粋なエラの頭をコツンと叩く。そして言った。

「月呪法は体ではなく魂を消していく呪いですわ。それはバックが一番わかっているはずでしょう? 霊は魂ですの。ですから、バックの言う皆には会えませんわよ」
 エラもそういう事かと引っ込む。バックはため息をついて、そうだよね、と言った。
 とりあえずこの件は一件落着……とはいかない。
「さて、エラ、シャル、分かっていますわよね?」
 エラがビクリとする。シャルからは笑顔が消えている。
「仕返しですの。ワタクシのターンですわ」
 次の日の予定を決めていくウェイ。それはウェイの別荘に行くことだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...