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雪降る地で
望んだ生活
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寝室は春の柔らかな朝日で満たされている。光は弱々しいけれど眩しく、そして清々しい。
「いーち……にっ……さん……し……」
日の出と共にベッドから寝ぼけ眼で這い出して、軽いストレッチを行うところから私の一日は始まる。
あのとき倒れてから、二度と少し季節が巡った。あれはもう、はるか遠い昔の出来事のようにさえ思える。身体と心が分離しているような、ふわふわとした感覚はいつの間にか消え去っていた。前世の年齢まで年が近づいてきたおかげだろうか。この十三年間、色々なことがあったような、退屈だったような、思い返せばどこか感慨深いものがあった。
あれ以来、華々しい社交界デビュー……なんてことはなく、私は私がそう望んだように、慎ましくて平穏な日々を送っている。
ストレッチを終えて階段を降りると、ヘメドウィフさんに鉢合わせた。花弁が一片、肩に乗っている。丁度外から戻ってきたところらしい。
「お早う御座います、お嬢様」
「おはようございます。やっと暖かくなってきましたね。今朝の献立はどうしましょう?」
「今日は久しぶりに鳥がみな卵を産んだようですから、贅沢に使ってしまいましょうかねえ」
そう言って持ち上げた籠の中には、卵が幾つも転がっていた。
「やった。ずっと数が少なかったから心配していたんです」
「心配しなくても、そういうものだと申し上げましたでしょう。もう煩いくらいに元気で元気で」
「ふふ、よかった」
台所に入り、フライパン片手に朝食作りを手伝う。この世界で私に披露できる知識はほとんどなかった。知っている特別なレシピを再現するには、足りないものがあまりにも多すぎる。
この世界の少ない食材をいかに調理するかという知恵と工夫は、ここらの人には全く敵わない。私がこの世界に最も貢献したと言えるものはたぶん、いろいろな形のフライドポテトを披露したことくらいだろう。
とっ、とっとっとっ、とっ、とっとっ。お母様が階段を降りるいつもの不規則な足音が聞こえた。低血圧ぎみなお母様は、いつも朝食が出来上がる頃にヘメドウィフさんに起こされてふらふらと姿を現す。
「お母様、おはよ!」
「おはようレシィア。何か良いことでもありましたか?」
「うん。鳥達がまた元気になったの。今日は卵尽くしだよ」
「まあ、それは喜ばしいことです。長らく気にしていましたものね」
炒めた野菜を包んだオムレツを横に並べて、食卓につく。
「今日はどうする?」
「そうですね……。お裁縫もひと段落しましたし、たまにはのんびり過ごしましょうか」
「わかった。じゃあ、また後でね」
洗い物はヘメドウィフさんに任せて、掃除にかかる。私が掃除をするようになってから、屋敷内に埃が積もっていない空間が少し広がっていた。昔はあんなに埃っぽい場所にもためらわずに入り込んでいたなんて、今では信じられない。
鼻歌まじりに廊下を磨いていると、甲高いエオの鳴き声が聞こえきた。カーテンに隙間を作ると、裏の畑にはまだ小さな身体をした個体が二匹、仲良く寄り添っている。新顔だった。
ウマとウシは去年の冬を越す前にいなくなっていた。覚悟はしていたはずだったけれど、ここは命との距離が近い。豪勢に彼らのお肉が振る舞われた日の夜、ベッドの中でこっそり泣いた。
今は新たにうちにやってきた子たちの名付けをどうするか悩んでいる。
ただ、私は未だにあの二匹にこの手で触れたことがない。それは三年前のあの日から、屋敷から一歩たりとも出る事を禁止されていたからだった。
原因は、やはりこの髪にある。
ところで、あの行商人が再び顔を見せることは無かったけれど、彼は最後にスティカの実践問題集を一冊と、物語本を何冊か用意してくれていた。
物語は全て、英雄となる人物が各地へ旅を続けながら、困っている民のために戦うというストーリーになっている。
その中に出てくる悪役は、人と何か他の生き物が混ざった姿で登場して、非道の限りを尽くす様子が多く描かれていた。魔人と呼ばれる彼らは人間とは区別され、恐れの対象だった。……その中には、私のような見た目をしたモノもいたのだろう。
純粋な人間か、そうではないか。人間の国の価値観において、世界にはこの二種類の人種しか存在しない。言っておくけれど、こんな私だって純人間だ。……まあ、そう伝えられただけであって、本当のことを確かめる術はなかった。どうしてこんな髪になったのか、原因は不明で、そう信じたいというのが正直なところでもある。
魔人がどの程度人間から離れているかはそれぞれだけれど、少しでも自分たちと違えば全てひっくるめて迫害、排除の対象だというのは、ちょっと酷いと思う。
少ないけれど、過去には私のような存在が認められていた例もあるそうだ。しかし、私が人間かどうかを判断するのは私ではない。
もしも悪い方に捉えられ、魔女狩りのような目にあったら…?
想像するだけで、嫌な汗が背中を流れる。お祭りのときに着た服に似せて作ってもらった、特製パーカーのフードを前に引き寄せた。
屋敷の中だとしても、できるだけ髪を晒さないように服の中にしまい込むのが私の習慣になっていた。そのためのぶかぶかパーカーだ。更に中の髪は紐で纏めてから、紐にハンカチを挟んだものを垂らすようにして覆ってある。幸いにというべきか、後ろ髪の毛先を中心としてこの現象は起きていたので、腰上ほどまでの長さをキープしていれば隠しやすかった。
意識して誰の目にも触れずに暮らそうとするのは、これまでよりもよっぽど寂しいものだった。でも、仕方ない。誰も悪くはないのだから。
掃除道具を片づければ、既に時刻はお昼前。朝食ついでに作り置きしていた軽食をお供に、階段を上る。
扉を開くと、開き始めた花の香りを乗せた風が廊下に吹き込んできた。お母様によって中の窓が開けられている。
少しでも外に出られない私の気が晴れるように、という気遣いだろう。
「今日は窓を開けていても寒くないですね」
「……いい匂い。そうだ、お茶を入れようよ」
「いいですね。まだ豆茶は残っていたでしょうか」
「大丈夫。三人分くらいはあるはずだよ」
スティカをしながら、お昼の軽食を摘まんだり、掃除中に発掘した古い楽譜について聞いたりしているうちに、あっという間に楽しい時は流れていく。
ふと、お母様が思い出したように言った。
「あら、そういえばそろそろ……」
「あっ、忘れてた!」
予定があったことを思い出した。慌てて立ち上がる。
「行かなくちゃ。また夕ご飯で!」
「はい、いってらっしゃい」
小さく手を振るお母様に、こちらも手を挙げて応える。一段飛ばしで階段を駆けおりて、勢いよく部屋に飛び込んだ。
「先生、遅れました!」
「やらなくてはいけない事がありましたので。丁度よい時間でございます」
先生と呼ばれた、動きやすい服装のベヨルンおじさんがこちらを向く。
「それよりも、常に慌てず騒がず。まだまだですな」
「うっ、はい……」
何の先生かと言えば、護身術だ。
それは、あまりにも実践的なものだった。急所を狙うのは当たり前、手に取れる範囲のもの全てを武器とみなしてあらゆる手段を使う。複数人を相手したり、狭い室内での争いなど、様々な状況を想定したルール無用の技術。
「――がここに立っています。そして、扉の外には二人。さて、この状況でどうしたしますか?」
「窓の外はどうなっているのでしょう?」
「見える範囲には不審なものはなく、物音もないようですが、詳細は不明でございます」
「うーん。なら、目の前の……、いえ、外に……?」
しかし、相手を制圧するのが目的ではなく、状況を見てまずは安全なところへ逃げることを考えるというのが基本だと、繰り返し言い聞かされている。
「では、武器を構えた二人が左右から接近し――」
「えーっと、そうしたら……あれ?詰みました?」
「どうやらそのようですな。それでは、初めからやり直しましょう。まず、相手の目的はどこにあるとお考えでしたか」
「えっと、その……人殺しでしょうか?」
「そこから間違えておられるのです。外に何も見えなかったという事はつまり――」
この時間は色々なシチュエーションを想定して、どう動くかを考えさせる訓練が基本だった。ただ対処を考えるだけではなく、表面的な設定からはわからない隠された設定を推理することまで要求される。優しい口調だけれど、やっていることは結構厳しい。名探偵じゃないと、正しい対応は答えられないんじゃないだろうか。
前転、後転といった、体育の授業みたいなこともやった。むしろ最初はそれが中心で、身体を思い通りに動かす事に慣れるまでに、かなりの時間をかけた。実戦でも使える簡単な技を練習し始めたのは前の夏ぐらいからで、あまり組み手のようなことはしてもらえない。
「状況に応じてすべきことが自然と出てくるよう、思考を訓練する。それだけでも十分に危険から逃れられる可能性を高められるというものです」
というのが先生の言葉である。危ない事をさせたくないのはわかっているけれど、本当はそんなこと気にせずにやってもらいたい。
「では、今日はここまでにいたしましょう」
「はい。ありがとうございました」
同じように、明日にはヘメドウィフおばさんからは料理を教わる予定があった。
護身術に始まって、家事全般、言葉遣い、その他いろいろな常識。これら全てを、自分から希望して教えてもらっていた。
それぞれの仕事もあるから、本当に少しづつしか勉強は進まなかった。しかし、数年もやればなんでもそれなりに形にはなってくる。
夕飯を済ました後にまた軽く家事をこなし、冷たい水を浴びて汗を流すと、みんなにおやすみを告げて寝室に入った。
ちぎれ雲の向こう側で夕陽が暮れていく様子を、椅子に座ってひとり眺めている。
……まだ、外へ出る事を全く諦めたわけじゃない。いつか自分の身をちゃんと守れるようになって、安心して外に出してもらえるくらいになれれば、きっと近くの町に出ることくらいは許して貰えるんじゃないか。
私はいつか実力を認めて貰える日に備えて、努力をしている。それが何年後になるかはわからないけれど。
今夜は雨になりそうだ。しばらくまた寒い日が続くだろう。ベッドにもぐりこみ、布団にしっかりとくるまって目を閉じた。
「いーち……にっ……さん……し……」
日の出と共にベッドから寝ぼけ眼で這い出して、軽いストレッチを行うところから私の一日は始まる。
あのとき倒れてから、二度と少し季節が巡った。あれはもう、はるか遠い昔の出来事のようにさえ思える。身体と心が分離しているような、ふわふわとした感覚はいつの間にか消え去っていた。前世の年齢まで年が近づいてきたおかげだろうか。この十三年間、色々なことがあったような、退屈だったような、思い返せばどこか感慨深いものがあった。
あれ以来、華々しい社交界デビュー……なんてことはなく、私は私がそう望んだように、慎ましくて平穏な日々を送っている。
ストレッチを終えて階段を降りると、ヘメドウィフさんに鉢合わせた。花弁が一片、肩に乗っている。丁度外から戻ってきたところらしい。
「お早う御座います、お嬢様」
「おはようございます。やっと暖かくなってきましたね。今朝の献立はどうしましょう?」
「今日は久しぶりに鳥がみな卵を産んだようですから、贅沢に使ってしまいましょうかねえ」
そう言って持ち上げた籠の中には、卵が幾つも転がっていた。
「やった。ずっと数が少なかったから心配していたんです」
「心配しなくても、そういうものだと申し上げましたでしょう。もう煩いくらいに元気で元気で」
「ふふ、よかった」
台所に入り、フライパン片手に朝食作りを手伝う。この世界で私に披露できる知識はほとんどなかった。知っている特別なレシピを再現するには、足りないものがあまりにも多すぎる。
この世界の少ない食材をいかに調理するかという知恵と工夫は、ここらの人には全く敵わない。私がこの世界に最も貢献したと言えるものはたぶん、いろいろな形のフライドポテトを披露したことくらいだろう。
とっ、とっとっとっ、とっ、とっとっ。お母様が階段を降りるいつもの不規則な足音が聞こえた。低血圧ぎみなお母様は、いつも朝食が出来上がる頃にヘメドウィフさんに起こされてふらふらと姿を現す。
「お母様、おはよ!」
「おはようレシィア。何か良いことでもありましたか?」
「うん。鳥達がまた元気になったの。今日は卵尽くしだよ」
「まあ、それは喜ばしいことです。長らく気にしていましたものね」
炒めた野菜を包んだオムレツを横に並べて、食卓につく。
「今日はどうする?」
「そうですね……。お裁縫もひと段落しましたし、たまにはのんびり過ごしましょうか」
「わかった。じゃあ、また後でね」
洗い物はヘメドウィフさんに任せて、掃除にかかる。私が掃除をするようになってから、屋敷内に埃が積もっていない空間が少し広がっていた。昔はあんなに埃っぽい場所にもためらわずに入り込んでいたなんて、今では信じられない。
鼻歌まじりに廊下を磨いていると、甲高いエオの鳴き声が聞こえきた。カーテンに隙間を作ると、裏の畑にはまだ小さな身体をした個体が二匹、仲良く寄り添っている。新顔だった。
ウマとウシは去年の冬を越す前にいなくなっていた。覚悟はしていたはずだったけれど、ここは命との距離が近い。豪勢に彼らのお肉が振る舞われた日の夜、ベッドの中でこっそり泣いた。
今は新たにうちにやってきた子たちの名付けをどうするか悩んでいる。
ただ、私は未だにあの二匹にこの手で触れたことがない。それは三年前のあの日から、屋敷から一歩たりとも出る事を禁止されていたからだった。
原因は、やはりこの髪にある。
ところで、あの行商人が再び顔を見せることは無かったけれど、彼は最後にスティカの実践問題集を一冊と、物語本を何冊か用意してくれていた。
物語は全て、英雄となる人物が各地へ旅を続けながら、困っている民のために戦うというストーリーになっている。
その中に出てくる悪役は、人と何か他の生き物が混ざった姿で登場して、非道の限りを尽くす様子が多く描かれていた。魔人と呼ばれる彼らは人間とは区別され、恐れの対象だった。……その中には、私のような見た目をしたモノもいたのだろう。
純粋な人間か、そうではないか。人間の国の価値観において、世界にはこの二種類の人種しか存在しない。言っておくけれど、こんな私だって純人間だ。……まあ、そう伝えられただけであって、本当のことを確かめる術はなかった。どうしてこんな髪になったのか、原因は不明で、そう信じたいというのが正直なところでもある。
魔人がどの程度人間から離れているかはそれぞれだけれど、少しでも自分たちと違えば全てひっくるめて迫害、排除の対象だというのは、ちょっと酷いと思う。
少ないけれど、過去には私のような存在が認められていた例もあるそうだ。しかし、私が人間かどうかを判断するのは私ではない。
もしも悪い方に捉えられ、魔女狩りのような目にあったら…?
想像するだけで、嫌な汗が背中を流れる。お祭りのときに着た服に似せて作ってもらった、特製パーカーのフードを前に引き寄せた。
屋敷の中だとしても、できるだけ髪を晒さないように服の中にしまい込むのが私の習慣になっていた。そのためのぶかぶかパーカーだ。更に中の髪は紐で纏めてから、紐にハンカチを挟んだものを垂らすようにして覆ってある。幸いにというべきか、後ろ髪の毛先を中心としてこの現象は起きていたので、腰上ほどまでの長さをキープしていれば隠しやすかった。
意識して誰の目にも触れずに暮らそうとするのは、これまでよりもよっぽど寂しいものだった。でも、仕方ない。誰も悪くはないのだから。
掃除道具を片づければ、既に時刻はお昼前。朝食ついでに作り置きしていた軽食をお供に、階段を上る。
扉を開くと、開き始めた花の香りを乗せた風が廊下に吹き込んできた。お母様によって中の窓が開けられている。
少しでも外に出られない私の気が晴れるように、という気遣いだろう。
「今日は窓を開けていても寒くないですね」
「……いい匂い。そうだ、お茶を入れようよ」
「いいですね。まだ豆茶は残っていたでしょうか」
「大丈夫。三人分くらいはあるはずだよ」
スティカをしながら、お昼の軽食を摘まんだり、掃除中に発掘した古い楽譜について聞いたりしているうちに、あっという間に楽しい時は流れていく。
ふと、お母様が思い出したように言った。
「あら、そういえばそろそろ……」
「あっ、忘れてた!」
予定があったことを思い出した。慌てて立ち上がる。
「行かなくちゃ。また夕ご飯で!」
「はい、いってらっしゃい」
小さく手を振るお母様に、こちらも手を挙げて応える。一段飛ばしで階段を駆けおりて、勢いよく部屋に飛び込んだ。
「先生、遅れました!」
「やらなくてはいけない事がありましたので。丁度よい時間でございます」
先生と呼ばれた、動きやすい服装のベヨルンおじさんがこちらを向く。
「それよりも、常に慌てず騒がず。まだまだですな」
「うっ、はい……」
何の先生かと言えば、護身術だ。
それは、あまりにも実践的なものだった。急所を狙うのは当たり前、手に取れる範囲のもの全てを武器とみなしてあらゆる手段を使う。複数人を相手したり、狭い室内での争いなど、様々な状況を想定したルール無用の技術。
「――がここに立っています。そして、扉の外には二人。さて、この状況でどうしたしますか?」
「窓の外はどうなっているのでしょう?」
「見える範囲には不審なものはなく、物音もないようですが、詳細は不明でございます」
「うーん。なら、目の前の……、いえ、外に……?」
しかし、相手を制圧するのが目的ではなく、状況を見てまずは安全なところへ逃げることを考えるというのが基本だと、繰り返し言い聞かされている。
「では、武器を構えた二人が左右から接近し――」
「えーっと、そうしたら……あれ?詰みました?」
「どうやらそのようですな。それでは、初めからやり直しましょう。まず、相手の目的はどこにあるとお考えでしたか」
「えっと、その……人殺しでしょうか?」
「そこから間違えておられるのです。外に何も見えなかったという事はつまり――」
この時間は色々なシチュエーションを想定して、どう動くかを考えさせる訓練が基本だった。ただ対処を考えるだけではなく、表面的な設定からはわからない隠された設定を推理することまで要求される。優しい口調だけれど、やっていることは結構厳しい。名探偵じゃないと、正しい対応は答えられないんじゃないだろうか。
前転、後転といった、体育の授業みたいなこともやった。むしろ最初はそれが中心で、身体を思い通りに動かす事に慣れるまでに、かなりの時間をかけた。実戦でも使える簡単な技を練習し始めたのは前の夏ぐらいからで、あまり組み手のようなことはしてもらえない。
「状況に応じてすべきことが自然と出てくるよう、思考を訓練する。それだけでも十分に危険から逃れられる可能性を高められるというものです」
というのが先生の言葉である。危ない事をさせたくないのはわかっているけれど、本当はそんなこと気にせずにやってもらいたい。
「では、今日はここまでにいたしましょう」
「はい。ありがとうございました」
同じように、明日にはヘメドウィフおばさんからは料理を教わる予定があった。
護身術に始まって、家事全般、言葉遣い、その他いろいろな常識。これら全てを、自分から希望して教えてもらっていた。
それぞれの仕事もあるから、本当に少しづつしか勉強は進まなかった。しかし、数年もやればなんでもそれなりに形にはなってくる。
夕飯を済ました後にまた軽く家事をこなし、冷たい水を浴びて汗を流すと、みんなにおやすみを告げて寝室に入った。
ちぎれ雲の向こう側で夕陽が暮れていく様子を、椅子に座ってひとり眺めている。
……まだ、外へ出る事を全く諦めたわけじゃない。いつか自分の身をちゃんと守れるようになって、安心して外に出してもらえるくらいになれれば、きっと近くの町に出ることくらいは許して貰えるんじゃないか。
私はいつか実力を認めて貰える日に備えて、努力をしている。それが何年後になるかはわからないけれど。
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