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メルディ国編

リジーさんの怒涛(?)の日々だヨ 雑事編②

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 簡易トイレの考察(?)が終わったので、サージット隊長にお礼を言ってその場を後にした。
 本来なら片付けるのが筋なんだろうけれど、サージット隊長が固辞するものだから、簡易トイレの保管場所等を兵士以外に教える訳にいかないのだろうと考え、そのままにする事にした。
 お礼は言ったし、大丈夫だよね?

 これにて、隊舎内で出来る本日の予定は終了。この後は、割り当てられた部屋に行って、テントを広げて(笑)、テントの中で諸々の作業をすれば良い。
 そんな訳で、あたしは部屋の前に戻ると後ろを振り返り、黙って付いて来ていたネスとルベル――実はカレーパーティー後もずっと居た――の頭をポンポンと撫でる。

「今日はこれで終わり。お疲れ様!」
「ん……」
「お疲れ様じゃ~」

 ネスは薄っすら頬を赤らめ頷き、ルベルは嬉しそうに頭をあたしの手に突き上げてくる。あんたホントに撫でられるの好きだね~。
 頑丈な赤竜だから遠慮せずグリグリしつつ、あたしはネスを見て明日の予定を確認する。

「買い戻し交渉の前にギルドへ行って依頼を受けたいんだけど、大丈夫かな?」
「ん……いつも、開いているから平気」
「あ、そうなんだ」
「ん」

 そう言えば、冒険者ギルドって24時間――じゃない、20時間営業だっけ。……何か語呂的にすっごい違和感がある……慣れるしかないんだろうけど、何だかなぁ……。

「じゃあ、明日は少し早起き――そうだなぁ……2の鐘の2時間前位に起きて朝ご飯を食べ、ギルドに行って適当な依頼を受けよう」
「ん……」

 嬉しそうに頷くネスもグリグリと撫で。

「じゃ、おやすみ! また明日!」
「おやすみ」
「おやすみなのじゃ~」

 挨拶して、とっとと部屋に引っ込み、念の為、あたしとネス達の部屋に侵入不可の結界を張り、テントの出入り口にも使った『あたし以外の出入り禁止』魔法をあたしの部屋全体に掛け、テントをど真ん中に置く。中は異常だけど、大きさは普通の1人サイズテントだから、ど真ん中においても大丈夫。周辺にそれなりのスペースがあるから、出入りも問題ない。
 これまた念の為に周辺をマップ見て、緑の点が2つ隣で大人しくしている以外、赤や青の点が近くにないのを確認してからテントに入る。面倒事に巻き込まれるのは御免だから、チェックは必須だよね、うん。

 さて。このだだっ広い内部のどこで作業すれば良いのか……って、これはもうアレだ。あの錬金エリアで作業するしかないよ。
 テントの出入り口から見て右側に真っ直ぐ進み、突き当たり――確か図書エリア――を左折。観音開きっぽい木製の豪華なドア――やっぱり無駄に意匠が凝っている――を素通りし、真っ直ぐ真っ直ぐ進む。
 なんかもう、呆れるしかないくらい広い。空間拡張を無駄に遣り過ぎだっての。しかも、あたししか居ないってのに、色々な所が滅茶苦茶豪華だ。写実的な絵画とか、左右対称の壺? とか、等間隔で飾ってあり、あ、花まで活けてある。ホント、無駄。いつか絶対に改造してやる。
 決意を固めつつ直進。階段とトイレを通り過ぎたら漸く、シンプルなドアがいくつか見えてきた。
 ……このドア、元の世界で見慣れた教室のドアっぽいのは気の所為だろうか?

 一番手前の『錬金』と書かれたドアをガラガラガラ――というよりは、カラカラカラと軽い音を立てて開ける。中は……理科の実験室……。

 ちょっと待て! 何でここで学校!? 誰だ! こういう作りをこの世界に広めたのはっ!!?
 普通『錬金術』とか言うと、大きな鍋が何かしらをグツグツ煮込み、作業台の上にはすり鉢とか試験管なんかの調合器具があり、棚等には薬品とか材料が並んでいる――なんて光景を思い浮かべない? それなのに、なんで学校の理科室なのっ!? 方向性は似ていても別物でしょっ!!?

 慌てて他のドアを確認してみる。
 二番目にあったドアは『木工』で、中は小学校とかでよく見た図工室。三番目は『金属』で技術室。電ノコっぽいのまである!?
 他にも、『被服』で家庭科の被服室。『絵画』? で美術室。『音楽』で音楽室――って、それもうアイテム関係ないよねっ!?
 錬金エリア……特別教室エリアとでも改名した方が良いのでは? いや、図書室とか調理実習室がないからそこまでではない――。
 ……頭の中をよぎったのは、今通り過ぎてきた図書エリア。あれってもしや、豪華なドアの中はまんま図書室……? もひとつおまけに思い出した2階のキッチン、食堂エリア。もしかして……?

 ……。

 ……うん。

 息を吸って……。

「誰だっ!! 異世界に『学校』を持ってきたド阿呆はーーーーーーーーっ!!」

 もう、お腹の底から絶叫してやる。
 剣と魔法のファンタジーな世界に、それらを全く考慮していないリアル学校持ってくるか、普通!?
 しかもそれがテント内で使われているって事は、この少人数では絶対使いにくい教室が世間一般に浸透している可能性があるって事だよね?

「ずえったいっ!! 大馬鹿だーーーーーーーーーーーーっ!!!」

 テントの外に声が漏れる心配はない――こんだけ広いんだから大丈夫だろう――から、あたししかいないとか気にせず絶叫。
 うん、どこかのネジが吹っ飛んでいるであろう頭のおかしな同郷――多分――異世界人に対するツッコミは溜め込んじゃいけない。アホはアホと、馬鹿はバカとしっかり言わないと、あたしのストレスが溜まる。

 ――叫んだお蔭で、ちょっとすっきりした。

 あたしは大きく息を吐き出し、頭の中にさっき見せてもらった簡易トイレを思い浮かべる。
 取り敢えず、アレ、さっさと造っちゃおう。と言う訳で、マル、いる?

『何でしょう?』

 あ、いた。絶叫していたあたしに対して何も言ってこないからいないのかと思っていた。

『いえ……リジーの考えた事から察するに、叫ぶのは当然だと推測しました』

 ああ、なるほど。あたしの思い浮かべた物を見て、各教室の用途が分かったと。

『はい。……正真正銘『偉大な変人』は、バカでアホな変人だった様です』

 またそいつかーーーーーーーーーーっ!! そいつがこの『教室』の元凶って事だよねっ!!?

 ったく。何なの、そいつ。何でこんな訳分かんない痕跡ばっか残してるの?
 こんなにツッコミどころ満載なアホな事ばっかり遣るって、な~んか、元の世界にいるあたしの知り合いに似ていて頭痛くなってくるんだけど?

『……あの変人に似た人が……』

 その『偉大な変人』がどこまでの変人具合かは知らないけど、知り合いの変人っぷりは迷惑を被りまくったあたしがよーーーーーーーーーーーっっっく、知っている。
 頭のネジがどこかに吹っ飛んだと言うより、どこかに何かを置き忘れてきたような変人っぷりが似ている様に感じてしまう。

 あれ……?

 ……アレと同じ変人がもう1人……?

 ……却下。絶対に面倒な事になる。

 マル。その変人の痕跡がない場所って存在する?

『……』

 無言での返答、やめいっ!!
 ないの? ないんかいっ!?

『ありません。アレは……世界をくまなく歩き回りましたので……』

 ……アホな痕跡は?

『……この教室? ですか? こういった系統の置き土産? は、チラホラと……』

 ……これはあれか。あたしにツッコミ行脚あんぎゃしろという事ですか!?

『……リジーなら、間違いなくツッコミを入れる気がします』

 一体、どんなレベルのアホを置き土産にしてるんだ、その『偉大な変人』はーーーーーーっ!!

 はぁ……。もう、精神的にドッと疲れたかも……。
 マル。取り敢えず、頼まれた事だけでも終わらせたいから、どうすれば良いか教えてくれない?

『材料等は資源神、使用されている魔道具は魔術神と技工神が既に準備していますので、錬金の部屋で成形をすれば良いだけです』

 ……至れり尽くせりだね~。まあ、疲れちゃってる今回は助かるけど。

 微妙に重い体――多分、精神的なもの――を引きずり、一番最初の理科室――じゃない『錬金』部屋に行く。
 部屋の中にある机や椅子達は全てトキの中に片付け、資源神が準備した材料と、魔術神と技工神が準備した魔道具を取り出す。あ、簡易トイレの中で見たのと全く同じ魔道具だ。

『今回はリジーが使う訳ではありませんので、普通に作ったそうです』

 あたしが使う物でも、普通の作りにしてよっ?!

『リジー。『時空神の贈り物』の中に、技工神が描いた簡易トイレの設計図がありますので、その通りに作成して下さい』

 スルーかい。はぁ……。

 マルの言う通り、トキの中に設計図が入っていた。その手順通りに成形していくと……あら不思議。百貫デブが収まるサイズの簡易トイレがちゃんと出来ちゃった。

『? 出来るのは当然では?』

 いや……何かしら妙な仕掛けをされているのではないかと勘ぐっちゃって……。

『ああ、なるほど……』

 マルが納得するという事は、その可能性もあったという事で……。

 あ~……もう今日は、ツッコミ入れるのも疲れたから、これ以上、考えるのは止めよう……。

 造らなくちゃいけないものは造ったし、部屋、戻ろう……。
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