おばあちゃん(28)は自由ですヨ

美緒

文字の大きさ
16 / 74
メルディ国編

15 獣人ですヨ

しおりを挟む
 断り文句を色々考えていると、突然、兵士の一人が飛び込んできた。
 一応、見た目おばあちゃんだし、今回の事件のきっかけになった重要人物だからって、兵士長と差しで話す為、ギルド内にある貴賓室の様な部屋に来てたんだよね。貴賓室と言う事から分かる様に、ちゃんと上質っぽいソファやテーブルが常備された部屋である。
 その部屋のソファにのんびり座って、兵士の誰かが淹れたであろうお茶まで出て……普通に緑茶が出てきた時は驚いた。ホント、この世界の時代設定とか文化とか、元の世界と比較すると妙だね。うん、変だ。
 まあ、そんな風にお茶しちゃっていたとこに飛び込んできた若い兵士――兵士長も見た目は若いけど――は、何故かバタバタと手を振り回し。

「隊長! 大変ですっ! ユキヒョウのネスフィルが来ましたっ!」
「何っ!?」

 あれ、隊長? 兵士長じゃないの? 兵士とか騎士とか、階級が良く分かんないわー。
 それにしても、どっちも見た目が若いから、片方が偉そうで片方が敬語って微妙に違和感あるなぁ。
 なーんて関係ない事を考えているうちに、その名前(?)を聞いた兵士長改め隊長は立ち上がり、兵士へ詰め寄る様に話し始めた。

「本当かっ!?」
「はいっ! 今、ギルドに来て、何があったのかと周りに聞いてます!」
「分かった! 申し訳ありませんが、少しだけお待ち下さい」

 前半は兵士に、後半はあたしに言うと、隊長は大慌てで駆け出し、兵士もそれに続いた。
 うーん……ユキヒョウ? の、えーと……? あ、ネスフィル? それ誰?

『ユキヒョウのネスフィル』
 希少種であるユキヒョウの獣人の男性。現在26歳。今年、成長が止まったばかり。
 Aプラスランクの冒険者で、Sランクに上がるのは時間の問題と言われている。

 へぇ……結構凄い人が来たんだね。どうしてここに? ――は? 冒険者なんだからどこ行こうが自由?
 ……あっそう。何か、マルの投げやり感がアップしてる気がする……。
 じゃあ、どうしてあの隊長達は慌ててたのかは分かる?
 Bプラスランク以上の冒険者はその強さから一目置かれる? 今回の護送の協力依頼にでも行ったんじゃないかって?
 ……Aプラスランクを雇えるほど、ここの兵士ってお金あるの?
 え? どうせ国が出すから大丈夫? ……なるほどね。
 うん? そう言えば、ここの兵士ってそんな強くないの? 冒険者に協力依頼するなんて……。
 あ、ピンキリ。納得。

 ティーカップ――湯呑みじゃないのが不満――に注がれた緑茶を飲みつつ、マルと会話しながらまったり待つ。
 はぁ……何か、この世界で初めてのんびりしてるねぇ……お願い事は面倒だけど。
 それなら、さっさとここから消えればいいと思うかもしれないが、この部屋、ギルドの中にあるから逃げようものならどこかで兵士に必ず会ってしまう。面倒だけど逃げられないんだよねぇ。

 そうして。時間的に5分か10分くらい待っていると、消えた隊長と共に一人の男性が入ってきた。
 その顔を見た瞬間、あたしは呼吸困難に陥りそうなほど驚いた。

 けっ、ケモ耳があるぅーーーーーーーーーーーっ!!!

 ちょっと黄色味掛かった灰色の髪に埋もれるようにして見える小型の三角形な耳。基本的な色は髪と同色のようだけど、先の方が黒くなっている。
 ふ、ふかふかな毛に覆われた耳が時々ピコピコ動くのが可愛らしいんですけどぉっ!
 あれ、猫ねこネコ! 猫の耳っ! あの形といい、ピコピコ具合といい、絶対にそう! はうぅ。
 え? 気色悪い?
 うるさいっ! あたしだって女だ。可愛いもの好きで何が悪い! 猫好きで悪いかっ!!

 マルと遣り合いながらもあたしの視線が猫耳に固定されていると気付いたのか、ちょっと大きな手がその耳を隠す。
 むむむ、何故隠す――と、手を持ち上げた当人を見てあたしは首を傾げた。

 ふわっふわな黄色味掛かった長めの灰色の髪を後ろで一つに結び、くっきりしたアーモンド形の灰黄色の瞳はちょっとだけ釣り目。鼻筋は通っており、肌は白い。顔は普通に人間で、猫耳があるけど、髪の色と相まって似合っている。見た目は今まであたしが出会った中では断トツ一位なイケメンである。
 一見すると優男っぽいのに、体つきは結構がっしりしていて身長は高め180くらいはありそう。うーん……細マッチョ系? 多分、だけど。RPGとかで考えると、魔法使い系ではなく、戦士系って感じの見た目。
 服装は……時代がおかしい。な・ん・で! 軍服なの? 余計な装飾を取り払い、かなりシンプルにはしているけど、形は海兵隊とか海軍でよく見られる詰襟型の軍服。色は紺。他に鎧とか付けてる気配なし。魔物とかと戦うんだよね? 大丈夫なのかって思う。
 腰には帯剣ベルトがあり、うーん……? 何か違和感を感じる剣が差してある。
 で。そんな細マッチョに似合わないモノが軍服の裾から見え隠れしている。
 うん。言わずと知れた尻尾。猫――と考えると違和感しかない、太く長い尻尾。全体的にちょっと長めな毛に覆われている。

 で、そんな男があたしを睨んでいる。はて? 何故?

 マルが看破魔法を使わない所を見るに、彼はマル基準なあたしの敵認定はされていないという事だろう。
 それなのに、初対面で睨まれる意味が解らん。
 ジッと灰黄色の瞳を見ていると、彼はスッと目を伏せ、溜め息を吐いた――って失礼だな。

「オレは、ユキヒョウの獣人であるネスフィル。あんたは?」

 うん? 自己紹介? って、あ、この人がユキヒョウのネスフィルなんだ。獣人って、ホントに獣人って姿をしてるんだねぇ。王道、乙。
 って、ちゃんと名乗ってる人を放置しちゃマズイか。偽名だけど、名乗るよー。

「あたしはリジー。一応、人間」

 多分、おそらく、きっと……人間だよね? 異世界召喚されて種族とか変わってないよね?
 あ、マルが呆れた様に『当然です』とマレットに表示してる。良かったよかった。

「何故、一応?」

 そこツッコムなぁーーーっ!
 もう、何て答えればいい? ……とか思った時、ネスフィルの横に立つ隊長が目に入った。ああそう言えば……あたし、変人扱いされてたっけ……じゃあ、それを利用しようか。

「変人だろうと言われたからね」

 隊長がギョッとして、視線をあっちこっちにさ迷わせる。うん。自分が言った自覚あるんだね。くそう。睨み付けたる。
 で、あたしのどうでもいい感じの答えを受け取ったネスフィルは。

「そうか。なるほど」

 へ……? 納得するの?
 あれ? もしかして、あたしが隊長を睨んでいるのに気付いてない……?
 ん? えー? 戦士系じゃないの? あたしの見立て違い?
 でも、剣差してるし、あたしが凄い人って言った時、マルは肯定――というか、否定してなかったよね?
 それなのに、あれぇ? この空気に気付かないの?


 何か微妙に……この人、




 もしかして




 天然、入ってますか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...