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メルディ国編

27 一部便利ですヨ

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「リジー。夜飯を食べないのか?」

 あたしが色々とダメだしという名のツッコミを脳内で繰り広げているうちに、ネスはすっかり落ち着いたのか、明かり代わりの火をおこして携帯食を食べ始めていた。あんた、マイペースだね……。
 あたしはもう一度だけテントを見遣り、溜め息を零す。過保護の結晶を見てテンション上がるかっての。

 もう見ない振りを決め込み、踵を返し……ネスの隣に「どうぞ」と言わんばかりに空いていたスペースに座る。
 さっきのテントのスペースといい、ここといい、ネスは何を考えているんだろう? あたしに隣に居て欲しい理由でもあるんだろうか?
 まあ、いいや。考えても分からないからスルーしよう。うん。

 それよりも……現在、再びな大問題が発生。
 はぁ……朝食、宿で塩味の何かを諸々。昼食、ルベルの背中の上で携帯食。うん、二食共に味気なさ過ぎ。夕食くらいは普通な物――いや、この世界ではこれが普通なのかも? ――を食べたい。美味しいは、可愛い(&もふもふ)に次ぐ正義だっ!!
 ――とはいっても、あたしが持っているのは携帯食のみ。これ一択しか道はない。
 でもなぁ……。

 朝になにかオーソドックスなパンだけ食べて、昼にカロ○ーメ○ト。そして夜にもカ○リーメイ○を食べたいと思う?
 特にダイエットしているという訳じゃないんだから、夕食くらいはまともなもの希望! そう思ってなにが悪いっ!!

 まあ、調理器具はあっても食材や調味料がない以上、作って食べるなんて無理なんだけどね。
 諦めるしかないか。

 トキを手繰り寄せ、少しでも味の違う携帯食がないか中を確認しようとした時。
 ぱぱらっぱっぱっぱ~的な音が。へ? レベルアップ?
 あ、違う。トキがなにかをアピールしてきてる。なに?

『食品:New』

 ……なんで英語表記?

 ああ、違う違う。ツッコミ入れるとこはそこじゃない。
 そもそも、何も手に入れてないのに、何が新しくなったの?

『食品:New
 ▽穀類:New
 ▽魚介類:New
 ▽肉類:New
 ▽卵類:New
 ▽野菜類:New
 ▽果物類:New
 ▽その他:New
 ▽調味料:New
 ▽非常食』

 ……はい? え? 非常食以外、おニュー? 何が?

『食品:New:資源神が没収した新鮮な資源が贈られてきた』

 ……そうか、資源神の過保護が顔を出してきたんだ。
 で、没収した新鮮な資源? それって、食品なのは間違いないだろうけど……まさか、クズ国の? あれ? お金だけじゃなく、食品にまで呪い(笑)の代償が拡大しちゃった?
 あ、違うか。もともとあった資源神の呪いの恩恵(?)かな?

 ……どうもそのようだ。否定する言葉がどこにもない……。

 えーと……ま、いっか!
 あたし的に、食品はありがたいし! クズ国から没収って、結局はあのクズ達からだけ・・だろうし! うん。問題ないない!

 こう言っちゃなんだけど、資源神のこの過保護はグッジョブだよね! 餓死しない程度に没収しちゃえ!
 そうと決まれば何かを調理! さて、どうしよう――って、まずは調味料の確認! あ、他は表示しなくていいから。ついでに、『New』はもう消して。

『食品
 ▽調味料
  ▽塩系
  ▽砂糖系
  ▽酢系
  ▽醤油系
  ▽味噌系
  ▽酒系
  ▽油系
  ▽ソース系
  ▽香辛料系
  ▽その他』

 …………スゴイネ…………。
 これはあれか? 召喚されちゃった人達の食欲が爆発した結果? 味噌と醤油に和食に対する意地の様なモノが見える気がする……。
 もうこれ、調味料の基本『さしすせそ』どころじゃない……ある種、マニアックな部分が……。

『食品
 ▽調味料
  ▽香辛料系
   ・スパイス
   ・コショウ
   ・黒コショウ
   ・白コショウ
     略
   ・ターメリック
   ・ナツメグ
     略
   ・カレー粉
   ・バニラ
   ・シナモン etc.』

 妙な部分にまでこだわり見せるなぁーーーーーーっ!!
 なんなの、コレ。バリエーション豊富過ぎない!? 元の世界の料理人でも召喚した訳っ!!? 名前がそのものズバリなんだけどっ!?
 酒系の所にも、『泡盛』とか『みりん』、『コニャック』、『オレンジリキュール』、果ては『マディラ酒』とか、その道の人じゃなきゃ分かんないだろ!? 的な物もあるんだけどっ!?
 って、マディラ酒って何よ! それ、ただの酒じゃないの? 調味料に分類していいものなの? そもそも、知らない物は使えないっての! 

 あああああ~塩ひとつとっても、『粗塩』、『精製塩』、『岩塩』等々盛り沢山……普通の家庭でそんなに使い分けるか――って、使い分ける人は使い分けるか。あたしは使い分けるなんて面倒な事はまずやらないけど。
 はあ……。
 これって、食にこだわりまくる人にはいいけど、そうじゃない人には無用の長物だよね……。
 というか、あのクズ国にこれほど沢山の物があった事に驚きだよ……。犯罪のかほりがする。

 はあ……。
 あ~……溜め息が多いなぁ……溜め息の数だけ幸せが逃げるとか言われるけど、この分じゃあ、あたしの明日はドブ色? い~や~だ~~~~ぁ。
 溜め息は押し殺し、気を取り直して食事の準備しますか。
 えーと……昨日の夕食は塩味の肉だった気がするから、今日は魚にしよう。何があるかな?

『食品
 ▽魚介類
  ▽海系魚
   ・グロマ:召喚者達の中でこれを『マグロ』と呼んでいた者がいる
   ・ズィーオ:『カツオ』
   ・ノビー:『ヒラメ』 etc.』

 ああ、魚の名前はやっぱり違うんだ。でも、それを食べたか見たかした人が、自分の世界の名前を呼んだと。で、それをマルが……勉強していたのか?
 ……返事ないから放っておこう。

 トキの中をそっと覗き込んでみる。あれって……まるごと1匹? ……解体しろというの? 三枚おろしくらいならなんとかなるけど、流石にマグロの解体なんてショーでしか見た事ないよ……。
 トキの中からそっと視線を逸らす。
 資源神……できれば、切り身にした状態で入れておいて欲しかった……。

 ん?
 また、レベルアップ音(違う)が……。

『食品:New:技工神が腕を揮った!』

 …………。
 トキの中を再び覗き込む。
 魚が様々な形に切り分けられてる……しかも、焼き、煮、蒸し、刺身等々、調理に合わせてある。……うん、技工神、スゴイね……。
 あ、肉も解体された様だ。ひき肉からステーキまで素晴らしいの一言に尽きる品揃え。スーパー並み? いや、専門店並みかも。
 ……神の過保護、スゴイよ。

 迂闊な事は言えん(考えられん)な、ホント……。

 反省しつつも美味しく頂くのがいいよね、うん。
 さて、メニューどうしよう……うーん……塩味じゃないものがいいんだけど……焼き魚や煮魚は時間が掛かるからパスでしょ。そうなると、手っ取り早い刺身? うん、そうしようか。
 じゃあ、穀類に……パンとか色々あるけど、やっぱり米だよね! あ……生米しかない? いやいや、あったあった、炊き立てご飯……これも技工神や資源神が腕を揮ったようだ……。
 えっと、うん! 白米にしよう!(現実逃避)
 あ、大根のツマや紫蘇もある! 醤油にワサビ――って、食器がないっ!?

 ……毎度おなじみ(?)レベルアップ~♪

『日用品:New:技工神と資源神のこだわりの逸品』

 ……なんというか……神の過保護が突き抜けてきたなぁ……。

『日用品
 ▽食器類:New
 ▽カトラリー:New
 ▽箸:New』

 なんで箸がカトラリーに含まれてない……こんな所でなぜ和洋を分ける。意味不明。
 あ、全部、木製や銀製、陶器製などがある。ホントにこだわったんだね……。
 ……。
 せ、せっかくのお刺身だから、陶器製の皿に盛ろうかね、うん。あ、醤油用の仕切りがある刺身皿発見! これでいいや。

 炊き立てのご飯に~お漬物……これもバリエーション豊富……食に対するこだわりがスゴイよ。漬物はオーソドックスにきゅうりと白菜! あ、お味噌汁が欲しいから、これだけは作るか。
 うーん……野菜を食べたいから、具だくさんでいこう。野菜は適当に、っと。
 あ、調理器具セット出して――コンロないや。……よし。かまどを魔法で作ってみよう。願えばなんとかなるかな?

 うん、なっちゃった。これも魔術神の加護の賜物?
 時々、加護がありがたいねぇ――って、やばやば。褒めちゃダメだ。調子に乗って過保護がパワーアップする可能性がある。
 水や火……魔法でなんとかなっちゃうもので悩むだけ時間の無駄ムダ。
 味噌汁の出汁は……うん、昆布とかつおで。味噌は、今回はなんとなく合わせ味噌な気分! ……ちゃんとあるのが凄いよ……。
 あ、つい癖で多めに作っちゃった。夕食の時にまとめて作って、次の日の朝食にもって元々やってたからなぁ……まあいいや。トキの中に入れておけば問題ないでしょ。

 と、まあ、準備をしていたら……うん、視線を感じる。真横と上から……。無視する訳にもいかないよね……。

 まずは、チラッと真横を見る。
 耳をピンと立て、目はあたしの手元……食事をチラチラ。尻尾もピンと垂直……うん、分かりやす過ぎ……食べたいんだね……。
 あたしは持っていた皿をネスの方に差し出し。

「食べる?」

 試しに聞いてみると、すごい勢いで首を縦に振ってきた。首振り人形ですか……。
 ユキヒョウもネコ科だから、魚好き? まあ、いいけど……。
 あたしはホイッと皿全部をネスに渡すと、全く同じセットを作って見上げる。金色がこっちを凝視している。

(ルベル……あんたも食べるの?)
(食べてよいのかのぉ?)

 そう返事しながらも、聞こえてくる声(?)は滅茶苦茶嬉しそうな響きを持っている。

(良いか悪いかで言ったら、別にいいけど……そのままじゃ食べられないでしょ? 人化したら?)
(うむ!)

 やっぱり嬉しそうな声が頭の中に響き。
 それと同時に、ルベルの体が淡い赤の光に包まれ、ゆっくりと小さくなり、それは人型を取り――。

「……」
「人化したぞ、リジー!」

 頭の中で聞こえていた声が耳に届く。
 ポカンとしているあたしに構わず、ソレが手を差し出してくるから条件反射で持っていた食事を与えると、ウキウキした様にあたしの隣に座り、食べ始めた。
 人間と同じものを嬉しそうに、美味しそうに食べてる。竜って雑食なんだね……。

 まあ、それはいい。それはいいんだけど……。

 あたしはルベルを見る。
 えーと……赤い髪に金の瞳。うん、これはルベルの特徴そのもの。
 赤いトカゲの尻尾の様なものも、竜が人化した時の定番といえば定番だよね。
 服にこだわりはないのか、簡素なローブというか……貫頭衣? 時代が一気に古代に逆行? ホントによく分かんない世界だなぁ……。

 と。
 つい、現実逃避したくなるけど……。

 改めてルベルを見る。
 うん、あたしの見間違いじゃない。
 何度確認しても、『そうだ』としか言えない。

 ……あのさぁ……

「な・ん・で・ショタジジイなのよーーーーっ!!?」
「っ!?」
「む?」

 そう。
 人化したルベルは……10歳くらいの男の子(?)だったのだ……。



 あんた、2千歳超え……。
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