おばあちゃん(28)は自由ですヨ

美緒

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メルディ国編

28 ご機嫌ですヨ

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 2千歳超えのショタっ子って誰得よ……とか思うが、もう、この世界なら何でもありだと考える事にした。神が加護持ちに対して過保護過ぎな事以上の問題ってないもんね……。

「何の事かのぉ、その、しょた? とか言うのは」

 いや、それ聞かれても、説明に困る。
 ショタの由来って……なんだっけ? 誰かの名前だっけ? なんか、普通に浸透しているから、由来なんて知らなくても問題なかったし。
 だいたい、10代前半くらいまでとか、半ズボンが似合う美少年とか? 定義が色々あり過ぎて説明が面倒……ショタ萌えについてはその道の同好の士としてくれ。あたしに説明を求めるな。
 あたし的な意味としては……。

「……今のルベルの様に、見た目が10歳前後のお子様の事」
「そうなのじゃな……」

 ルベルはジッと手の中の皿を眺めていたかと思うとあたしを見上げ、眉を八の字にした。

「ワシとて、最初からこの姿だった訳じゃないのじゃがのぉ」
「へ?」

 え? 違うの?

「人化できる様になった頃は、ワシの見た目は人間の普通の若者くらいだったのじゃ……」

 なんというか……すっごい遠い目をしている……。一体、どのくらい前なのよ。

「1千年くらい前じゃったかのぉ……成長神のお告げみたいなものがあり、『力』が最盛期の時で成長が止まる様になったのじゃ」
「い、1千年前……」

 どんだけ昔なのっ!? てか、神々っていくつ!? そんな昔から、こんなに過保護なの? まさかでしょ!?

「その頃からじゃ。ワシが人化すると、この姿になるのは」
「はあ……」

 え? と、いうことは……?

「……その姿が、ルベルの最盛期……?」
「……認めたくはないのじゃがのぉ……そのようじゃ」

 な・ん・で・す・と・っ!?
 え? お子様年齢で成長が止まるのもいるの!?

 あたしが混乱しているうちに何かを吹っ切ったのか。ルベルはひとつ頷くと食事を再開した。
 ただ、その食べ方が……。
 手掴みした刺身に醤油をたっぷり付け、数種を一気に頬張る……美味しそうに食べてはいるが……手は刺身や醤油でベトベト、貫頭衣もシミだらけ……。
 これ、あれだよね? 乳幼児が「自分で食べるんだもん!」と自己主張しながら食べている時と同じ……。ルベルあんた……

「……本当に、2千歳超えてるの?」
「む?」
「なんでこんなに食べ方汚いのっ! ちゃんとフォーク出してあげたんだから、それ使えばいいでしょ!」

 流石に、箸で食べるのは難易度が高いかと思って、ネスにもルベルにもフォークを出してあげたのに手掴みって……。

「そうは言うがのぉ……ワシは、人間の食べ物などほとんど食べた事がないからのぉ」
「じゃあ、なんで食べたいと言った」
「うむ。主と同じ物を食べたいと思ってしまうのは、召喚された契約獣の『さが』というものじゃな」
「そうなの?」
「うむ。契約とは結局のところ、召喚してきた者を気に入ったとか、好きとか思ったからするものじゃ。もっと仲良くなりたいという欲求が常にあるからのぉ。同じ事をして、同じ物を食べたいとか思ってしまうのじゃ」
「……それ、ルベル限定じゃなく?」
「ほぼ全ての契約獣達がそうなると聞いておるが、ワシもその現場を見た事がないから詳しくは知らんの。ワシは、リジーと同じが良いからねだってみたのじゃ」

 顔中を醤油と刺身の汁でベタベタにしながら笑うルベル。
 うん。例に漏れず、美形――というより、可愛らしい顔立ちをしているだけにベタベタなのが残念だ。
 あたしはトキの中から使っていないタオルを取り出し、魔法で出した水で濡らしルベルの顔を拭く。あーあ。赤い髪にまで醤油がはねてるよ。
 手も綺麗に拭き取り、フォークの持ち方と食べ方を教える。醤油は付け過ぎない! 折角の刺身の風味が落ちるでしょ!
 ルベルは一生懸命あたしの真似をして、ひとつずつ食べては「美味しいのぉ」とご満悦だ。なんというか……世話が焼ける。

 ……ん?

 もしかして……ルベルがショタっ子なの、この所為じゃない?
 だって『力が最盛期』って――今ルベルが言ったよね? あたしに説明した奴等は『魔力が』って限定していたけど……ルベルは限定してないよね?
 という事は……色んな『力』が必要って事だよね?

「ルベル……聞くけどさぁ」
「うむ?」
「あんたさ……他種族とか他の竜とか……交流あるの?」
「ないのぉ」

 ドキッパリ断言しつつ、ルベルは再び刺身を頬張る。

「ワシは基本的にひとりで、寝床にしている火山地帯の最高峰にあるマグマ溜りの洞窟でのんびりしておるからのぉ」

 ……ボッチだ……。

「ワシの寝床の場所を知っておるのは、今生きている中では青竜王と黄竜王くらいじゃが、あやつ等は炎やマグマが苦手じゃから近寄ってこんし……物好きな、ワシにこの言葉を教えた召喚者とも、たまたま外で日向ぼっこしておる時にうたくらいじゃったからのぉ……」

 ボッチの上に引き籠りかいっ!!

「それがどうしたのじゃ?」
「……マジで分かってないの……」

 2512歳にもなって、この無知っぷり……。

「つまり、様々な意味で知識が足りない所為でルベルの成長がそこで止まってるって事じゃない?」
「む? ワシの知識量は凄いのだがのぉ?」
「あんたの言う『知識』って、結局のところ『知っている』だけでしょ? その知識を披露する相手もいなければ、活用する術もない。成長するうちに自然と学ぶ対人関係……いや、あんたは竜だから対竜関係? が構築されず偏っているから、バランスの取れた成長ができず、子供の姿に留まっているんじゃないの?」
「むぅ……だがのぉ……色々、大変じゃろ……関わると……」
「そうやって面倒くさがっているから、あんたの姿がお子様止まりなんでしょ。チビッ子になったのは、あんた自身のズボラの所為。元の若者の姿に人化したければ、対人関係をしっかり構築しろ」
「むぅ……」

 こらこらこら。フォークを噛むんじゃないっ!
 あ、壊した……流石は竜。歯が丈夫――と思ったらレベルアップ音がして壊れた分が補充された様だ……神よ、あんた達は暇なのか……。
 まあいいや。新しいフォークと壊れたフォークを交換しよう。ほら、危ないから寄越せ。

「……リジーは……」
「うん?」
「若者の姿の方が好きかのぉ?」

 フォークを回収したあたしを上目遣いで見てくるルベル。その仕草、あざとくね?
 って、うん? 若者の姿の方が好きか? いや、それ、考えた事ないし……というか。

「この世界、若者ばかりなんだから、好きも嫌いもないでしょ」
「……では、若者の姿なら、普通に接してくれるかのぉ?」
「は?」

 何言ってんの?

「十分、素で接してるけど?」
「そ、そうか。そうなのじゃな」

 ……なんなの、こいつ? またまたご機嫌になった?

 と、ルベルの面倒を見たり、話していたりしたら。
 うん。反対側の袖が引かれた。そちらには、ネスしかいないんだけど……。

 あたしがネスを見ると、既に食べ終わった空の食器を手に持ったまま、あたしを覗き込んだかと思うと、あっちにふらふら、こっちにふらふら視線を彷徨わせている。
 だからあんた、分かりやす過ぎ……。

「ネス。もっと食べる?」
「い、いいのか?」
「いいよ」

 というか、できれば沢山食べてくれ。
 さっきトキの中を覗いた限りでは、一人では一生かかっても食べ切れないんじゃないかと思われる量が詰め込まれていた。魚だけでそれという事は……他の食材合わせたら……。
 ……神には『加減』という言葉が存在しないとは。過保護で加減知らず……ホント、迷惑以外のなにものでもなくね?
 そんな訳で、たくさん食べるなら食べてくれ! これに関しては自重は要らない。(神は自重しろ!)

「どのくらい食べる?」
「その……」

 既に日は落ちている為、暗がりの中、焚き火の明かりで浮かび上がるネスの顔は……赤い。うん。炎の赤さじゃなく、物理的な赤さだ。つまり、言うのが恥ずかしいと思われる量?
 ……これはどっちだ? 多いの? 少ないの?
 うーん……よし! 多い方に一票!!
 という訳で、さっき盛っていたのと同じ量――よりかなり多く空になった皿に乗せたら、ネスの瞳がキラッキラに輝き出した。
 あ、正解だったんだね、うん。

 尻尾をゆらゆらさせながら、刺身をひとつずつ味わって食べている。時々、喉がゴロゴロいってるから、かなりご機嫌な様だ。
 うん、やっぱ、分かりやす過ぎじゃない? これで……もう直ぐSランクな凄腕冒険者? こんなに感情ダダ漏れで大丈夫なの? 普通、凄腕の人ってある程度は警戒心とかあるよね? 今の所、ネスにそれ皆無じゃない?
 あ、最初に会った時は警戒していたかも? 耳を隠されちゃったし……。でも、その時だけだよね? それ以降は、なぜか懐かれている気がする。

 やっぱり……可愛いとか思っちゃうのは間違いじゃないよね? おかしくないよね? 普通だよね?
 これってもう、ユキヒョウがどうとか、ネコ科がどうとかの問題じゃなくて、『ネスフィル』って存在そのものがあたしの心の中の『可愛い』のツボを刺激してるんだよね?
 うんうん。全開に懐かれて、可愛いと思わない方が変だ! だから、愛でても問題ない! ないと決めた!!

 刺身を頬張るネスに手を伸ばし、撫でてみる。
 ネスは目を丸くしたけど、嫌がる素振りは見せず、目を細めてぐりぐりとあたしの手に頭を擦り付けてくる。

 や、うん。マジで可愛いんですが!?

 食事中に撫でても問題ないようだから、あたしは気にせず撫でる。
 はぁ……最初に撫でた時から思っていたけど、ネスの髪の毛、空気を含んでふわふわ。長くて、ちょっと癖があるんだけど、指通りはサラッとしていて絡まない。癖になるかも。
 調子に乗って頭全体――耳を含む――を撫でまくっていたら。

「リ、リジー……」
「うん?」
「その……つ、続きは、食べ終わってからでいいか……?」

 ち ょ っ と 待 て ! な ぜ 赤 く な る !?

 と い う か 続 き !?

「あ、うん……」

 思わず、ほんっとーに思わず返事をすると。
 ネスはへにゃという感じに笑み崩れ、そそくさと食事を再開した。

 なんだろう……色々、負けた気がする……。
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