精霊に誘われて異世界で魔女をやってます

美緒

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本当に大変だったようです

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 マナの『全種族』発言に、アルフレッドは呆然とし、聞いていただけの王子は衝撃を受けはしたが、即座に反論してきた。

「嘘を吐くな! 精霊が全種族見える者など、歴史上、一人もいないのだぞっ!」
「見えないのに、何故嘘だなんて言えるの?」
「ぐっ」

 ああ、この人。一応勉強はしていて、ある程度の事は頭に入ってはいるんだ……と、マナは妙な事に感心しつつ反論する。
 事実、王子は精霊が見えないのだ。人を嘘吐き呼ばわりして非難出来る立場ではない。

「あの、本当に……全種族見えるのですか?」

 この場で唯一反論出来るであろう人物は、マナの言葉に半信半疑らしい。困惑が見て取れる。

 面倒くさいなぁ……。

 マナは嘆息し、クー、ルルー、ドリーを見渡し「ああ、そうだ」と呟く。

「見えないなら、一時的にでも見えるようにして証明すれば良いのか」
「あ、ホントだ」
「やっちゃえマナー」
「一時的なら問題ないにゃあ」

 マナの呟きに精霊達が同意し、マナはそれならと魔法をイメージして発動する。

「な――!?」
「は?」

 アルフレッドと王子は、突然見えるようになったマナの肩の上に座る空色の小人、黒い猫、手の平の上に乗っている緑色の小人に唖然とする。突然、何が……。

「こっちが空の精霊で、こっちが闇の精霊。それから、これが樹の精霊ね」

 一人ひとり指差して説明するマナ。アルフレッドと王子は今だ何も言えず。

「そして、そこに居るのが剣の精霊、布の精霊。そこの袋から顔を出しているのが、火の精霊、水の精霊。足元に居るのが地の精霊で、そこら中を飛び回っているのが風の精霊」

 そう。ここにはマナと会話していた精霊だけが居た訳ではない。マナと会話はしなくとも、数多くの精霊が居たのだ。

「精霊って、ほとんど何にでも宿っているから、見えないからといって雑に扱わないでよね」

 マナが溜め息交じりに言うと、薄汚れた白銀の髪、鈍色の瞳と服を着た剣の精霊がうんうんと頷く。

「良くぞ言ってくれた! コヤツ、剣の扱いが雑で困っていたのだ!!」
「うわっ。だからそんなに汚れちゃってるんだ。大変だったね」
「分かってくれるか!」

 嬉しそうに破顔した剣の精霊が、自身が宿っている剣からポンッと飛び跳ね、マナの手の平の上に着地する。
 そうすると……元々乗っていたドリーのに着地したものだから、ドリーはたまったものではない。「ぐえっ」と潰される。

「こらっ剣の精霊! 仮にも樹の精霊の長に対して、こんな真似をするなー!!」
「何だ。本物の樹の長だったのか」
「長に本物も偽物もなーいっ!!」

 剣の精霊の下から這い出し、ドリーがプンプン怒りながら地団太を踏む。
 地団太を踏む時点で威厳などなく、可愛いだけである。――とマナは考えた後、あれれ? と首を捻った。

「え、ドリー。樹の精霊の長だったの!?」
『えっ、今更!?』

 素っ頓狂なマナの叫びに、その場に居た全ての精霊の言葉が重なり、様々な色の瞳がマナを見る。

「ええ~だってー……」

 疑いの眼差しでドリーを見るマナ。マナがドリーをどう見ているか、これで良く分かる。
 クーは苦笑すると、マナの肩をポンと叩く。

「諦めて、マナ。一応、ドリーは本当に樹の精霊の長やってるから」
「一応ってひどいよ!?」
「自分でさっき、『仮にも』って言ってたにゃ」
「うぎゅ」

 ルルーのツッコミに撃沈したドリーをよそに、クーはにっこり笑い。

「ちなみに、僕は空の精霊の長。ルルーは闇の精霊の長だよ」
「へっ!?」

 まさに青天の霹靂。寝耳に水。ほぼ一緒に居る精霊が長?

「長といっても仕事なんてほとんどないから、マナと一緒に居ても問題ないにゃあ」

 マナの疑問に応えるが如くルルーが言うと、クーとドリーが頷く。

「あ、そうなんだ」

 それ以外に何といえと言うのか。マヌケな答えであるのは分かっているが、どうしようもない。取り敢えず頷いて、困った様に周囲を見渡し――固まった。
 マナが固まったのを不思議に思った精霊達は、マナの視線を追い其方を見て……同じく固まる。
 そこには、精霊達を見詰め、無言で滂沱の涙を流すアルフレッドが居た。

「な、な、な……何事!?」

 思わず声が引っ繰り返ってしまったが仕方ない。マナは精霊達を抱えたまま、焦ってアルフレッドを覗き込む。
 その困惑の瞳を間近で見て、アルフレッドは「すみません」と謝るが涙は止まらない。

「こ、な、に……精、霊様、が、いらっ、しゃ、とは、思っ、なくて……」

 自分より年上だろう男が泣きながら話す事に耳を傾けつつ、マナは若干引いていた。精霊が居るから泣くって意味解らん。
 マナの引き具合に気付いているのかいないのか。アルフレッドは途切れ途切れながらも泣き出してしまった理由を説明してくる。

 それによると、どうも、ダジゲートから――というより、世界中から、精霊が減ってきているそうだ。
 精霊が減れば、恩恵が減少する。今は残った精霊が頑張ってくれているらしく何も起きないが、将来に渡って国に対して何も起きないとは言えない。
 いつも居た場所に精霊が居ない。不安に思った王宮付き精霊術士や民間の精霊術士が、原因を探る為に協力したが、調査は芳しくなく、全くと言って良い程に理由が分からず仕舞い。
 そんな状況が一月以上続き、困った国王が精霊の森に居るであろう精霊王に理由を尋ねに行くよう、第2王子とアルフレッドに命じたそうだ。
 だからここへ来て、真っ直ぐ中心を目指していた、という事らしい。

 漸く、ここへ来た理由が分かり、マナとしても「なるほどね」とは思うが……疑問も尽きない。

「ねえ。聞きたい事があるんだけど」
「は、い。何、で、しょう」
「……貴方、樹の精霊が見えるんだよね?」
「は、い」

 いい加減、泣き止んでまともに返答してよ!
 聞き取りにくい返答にマナは少しだけイラッとしながらも言葉を続ける。

「樹の精霊が居なくなった樹。普通の状態なの?」
「は?」

 マナの問いに、アルフレッドは緑の瞳に涙を溜めつつポカンとする。
 そんなマヌケな顔を真剣に見つつ、マナは至って真面目に尋ねる。

「だーかーらー。樹の精霊が居なくなった樹。全く変わりないの?」
「は、い。普通に、青々とした葉を付けて、立っています」

 マナの真剣な様子に思わず涙を引っ込め、アルフレッドも真面目に返答する。
 それを聞き、マナは盛大に顔を顰めた。

「それ、おかしい」
「え?」
「精霊の状態が自然へ返る様に、自然の状態もまた精霊へ返る。精霊と自然の関係は、ほぼ直ぐに影響が出ると言って良い。仮に精霊がもしくはのなら、その精霊が司る自然は精霊と共に直ぐに
「な……」
「そ、それは本当か!?」

 漸く我に返った王子がマナ達の会話に割り込んでくる。
 マナはそんな王子に対しても普通に頷く。

「精霊の力が強ければ、司る対象は増える。残った精霊が力の強い者である可能性もあるけど、街に居る精霊が強い力を持っている事は……」
「ないね」
「ないにゃ」
「ないない」

 マナの言葉をクー、ルルー、ドリーが即座に否定する。
 そんな精霊達を王子とアルフレッドが縋る様に見詰めるが……。

「それが事実だよ。人の住む街は『穢れ』が強い。そんな場所にあるモノを司る精霊が強い力を持つ事なんて無理だよ」
「精霊の森に居る精霊も、強い力を持つ事が出来るのは、ほんの一握りの存在だけにゃ」
「僕達精霊は『穢れ』に弱い。街に居る精霊は、力が弱くなって事はあっても、力が強くなって事は絶対にない」
「数が減ったのに、その精霊が司るモノが無事という事は、精霊も筈にゃ」
「でもー。普通、自分が司る対象から離れる精霊って居ないよー」
「うん。だから、マナの言う通りんだよ」
「そもそも、突然力が強くなるとか、精霊が居なくなるとかの異常事態があったにゃら、精霊王様に緊急事態を伝える為、どこかの精霊が森に来る筈にゃ」
「それがないという事は、異常事態じゃない。もしくは……」
「……伝えに来れない、伝えに来れる状況じゃない、という事だね」
「うん」
「にゃあ」
「だね~」

 長クラスの精霊達とマナの言葉に、王子もアルフレッドも絶句するしかない。
 精霊が消えているのは事実だ。国に居る精霊術士達が揃って証言している。
 だが、その精霊が司っている『自然』は今まで通りだ。それは一体、何を意味する?

「何だかなぁ……」

 ドリーの言っていた「精霊が大変」とはこの事か。
 予想以上の大事に、マナはクーやルルーと顔を見合わせ。

「本当に、大変だったようだねー」
「うん……」
「にゃあ……」

 大変さが伝わらなかったドリーの報告を思い、溜め息を零す事しか出来なかった。
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