精霊に誘われて異世界で魔女をやってます

美緒

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お遊び企画 新年を迎えました

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「暇……」

 その日、マナは暇を持て余していた。
 この世界でも年末年始や名前は違うがいわゆるクリスマス等々、イベントが盛りだくさんある。
 過ごし方はそれぞれの国や地域などで違うが、マナは日本人なので日本的な過ごし方を推奨しているのだが……日本のお正月はテレビや読書三昧だったマナにとって、そういった娯楽のないこの世界は暇以外のなにものでもない。
 寝正月にしてしまおうと思うほど色々捨ててはいないので、なんとかしてこの暇を解消したい。
 どうしたものかと考えていた時、何故かイクシオンとアルフレッドがダジゲートからマナの居る精霊の森へと遣って来た。

「遊びに来たぞ! マナ!」
「きちんと挨拶くらいはして下さい。仮にも王子なのですから」
「仮って……」
「マナさん、明けましておめでとうございます」
「うん。おめでとーアル」
「……明けましておめでとう、マナ」
「おめでとーイクス」

 年が明けても変わらない二人の遣り取りに苦笑しつつ、マナは新年の挨拶を返す。
 それよりも……。

「……新年の挨拶の為だけにここまで来たの?」
「いや? 最初に言っただろう。『遊びに来た』と」
「……」
「……」

 無言のまま、マナとアルフレッドは視線を交わす。イクシオンの言葉は本当なのか問うマナに、アルフレッドは諦めた様に遠い目をする。それだけで、事実であるのが分かった。

「……王子なのに暇なの?」
「うっ!」

 マナのツッコミにイクシオンが胸を押さえる。
 マナはよくわからないが、王族である以上、新年を迎えた行事や仕来りなどがある筈だ。それを無視してきたという事だろうか。

「役に立たないので追い出されました」
「ぐっ……」

 アルフレッドの辛辣な言葉にイクシオンは撃沈する。それが全てのようだ。

「まあ、イクスだしね~」
「はい」
「……」

 第二王子は結構重要なポジションであるにも関わらずこれで済む。イクシオンのが良く分かるというものだ。

「あれ? マナさん、精霊様は?」
「新年のお祝いと言って、最深部でお祭り騒ぎ」
「……」

 この精霊の森の中では、マナが許可した者のみ全ての精霊が見えるようにしている。
 アルフレッドとイクシオンは、色々すったもんだがあったが、まあ悪人ではないし、精霊に危害を加える様な者ではないからとマナは許可を出している。
 その為、普段ならマナの周りに居る三人の精霊の姿が見えず、疑問を口にしたアルフレッドだが……マナの答えは予想外。精霊がお祭り騒ぎって……。

「せ、精霊様がお祭り騒ぎ……」
「諦めて。精霊はかなりお祭り好き」
「い、イメージが……」

 この世界の人間――というか精霊術士? ――が精霊にどんな幻想を抱いているのか知らないが、娯楽に溢れた世界出身のマナからすると、精霊がお祭り好きなのはもはや常識の一つ。イメージがと言われても、ねぇ?

「「「マナー!」」」

 と、苦笑しながらアルフレッドを見ていたマナの耳に馴染みの声が聞こえた。
 振り返ると、最深部の方向から飛ぶように戻ってくるクー、ルルー、ドリーと……三人に置いて行かれまいと懸命に走る精霊王サーシュの姿が。精霊王って一体……。

「ただいまー! マナッ!!」
「お帰り~。もうお祭りは良いの?」
「うん!」
「いつもと同じで飽きたっ!!」
「「「……ドリー……」」」
「ぶっちゃけ過ぎにゃっ!」
「えー」

 いつもの遣り取り、いつもの賑やかさ。
 クーとルルーがドリーにツッコミを入れていると、漸く追い付いたサーシュが勢いのままマナに抱き付いた。

「マナ!」
「「「あーーーーーーーっ!!!」」」

 甘えるように擦り寄るサーシュに絶叫しつつ精霊王をパシパシと叩きはじめる精霊達。本当、精霊王って一体……。

「……ここは変わりませんねぇ」
「平和だな」

 ある種、見慣れてしまった光景に、アルフレッドが遠い目をし、イクシオンが楽しそうに笑う。

「あれ? アルにイクス! 来てたんだ」
「はい。明けましておめでとうございます、精霊様」
「「「おめでとー!」」にゃ」
「おめでとう。……暇なのか?」
「明けましておめでとう。暇だ!」
「「「「「……」」」」」

 イクシオンのぶっちゃけた言葉に全員が沈黙し。

「マナ! 遊ぼっ!!」

 ドリーのイイ笑顔に、精霊達が頭を抱える。
 うん。ドリーとイクシオンの思考回路は、やっぱり似ているようだ。

「遊ぼうと言われても、ねぇ……」

 遊びに来るイクシオン――アルフレッドはお付きというか監視役――と精霊達に乞われ、元の世界の遊びは色々と教え尽した。
 後は、と考えて、そう言えば新年の遊びはまだ教えていなかったと思い出す。面倒だし、これ系で良いか。

「年明けに遣る遊びがあるけど、これで良い?」
「えっ! そんなのあるの!?」
「マナの世界は、本当に色々と豊富だな!」

 脳筋達(多分)の言葉にマナは呆れる。
 なんだかんだ言って、『暇』は『娯楽』の最高のスパイス。過去の遊びの考案者も彼等も、つまりはそういう事ではないだろうか。
 思わず出てくる溜め息を全く堪える事をせず、マナは魔法で道具を取り出す。
 羽子板と羽根、凧、この世界の文字に翻訳されたいろはかるた、福笑い、双六すごろく、メンコ、お手玉、コマ、けん玉、ダルマ、竹馬等々。お正月? と疑問が出てくる物まで様々だ。

「うわ! いっぱい!」
「色々あるな」
「遊び方が思い付かないね」
「マナさん。これらは、どういった意味のある遊びなんですか?」
「え? えっと……私もよく知らないけど、厄除けとか戦略を練るとか、新年早々思い切り笑って福を呼ぶとか?」
「なるほど。奥が深いですね」

 日本のお正月遊びの由来なんて、殆どの現在人が詳しく知る訳がない。何となく、どっかで聞いた様な? 的な事を伝えると、アルフレッドが感心した様に道具達を観察する。
 そんなアルフレッドとは全く違うキラキラした瞳で精霊達とイクシオンがマナを見る。

「どうやるの!?」

 普段は結構なしっかり者である筈のクーですらこれだ。
 マナは苦笑すると「じゃあ、やってみますか」と腕まくりし。

「あ、アルとイクスはこの塔以上、奥に行かないでね」
「分かってる」
「心得てます」




 と、言う訳で。
 異世界で日本の正月遊びが始まりました。
 空を自由自在に飛べるクーが羽子板に夢中となり、負けたドリーの顔は墨だらけになったり。
 凧揚げ合戦で、他の凧を墜落させ、得意げに踏ん反り返るイクシオンが居たり。
 いろはかるたで運動神経が他に追い付かず、ボロ負けした涙目のアルフレッドが黄昏たり。
 福笑いで、どうしても顔が逆さまになり、悔しそうに紙に書かれた顔を叩くルルーが居たり。それを見て大笑いしたドリーがクーとルルーにド突かれたり。
 実は運が良かったサーシュが双六で何度も一番で上がり、妙にテンション高くなってうざかったり。
 マジになった男衆がメンコ大会を繰り広げ、マナとルルーが呆れたり。
 何故かこれだけは不器用だったクーが、お手玉片手に凹んだり。
 コマが上手く回らず皆で笑い、けん玉が頭に当たって笑い、強く叩きすぎてダルマが森の奥に飛んでいったり、竹馬でバランスが取れず尻餅突いたり等々。
 日が暮れるまでマナと精霊達、イクシオンとアルフレッドは遊び尽し。

「今日は楽しかった! マナの世界の遊びは面白いな!」
「遅くまで申し訳ありません。でも、楽しかったです」

 流石に遅くなったイクシオンとアルフレッドがマナの魔法で国へと帰り。
 精霊の森に普段の静寂が訪れ――

 ――なかった。

『クー、ルルー、ドリー、精霊王様ばっかりズルいっ!!』

 と言う、様々な精霊達の涙目な抗議を受け、日が暮れ、月が昇る精霊の森では正月遊びが続き。

「今日は面白かったな!」
「……いくつかは、この世界でも再現できそうですね」
「よし! 作って遊ぶぞ!」

 微妙にハマっていたアルフレッドとイクシオンにより、マナが教えた正月遊びがいつの間にか王宮で遊ばれるようになり。
 それは、あっという間に民間に広がり、商人によって他国へ広がり――。
 娯楽のなかったこの世界で爆発的ヒットとなり、新年定番の遊びとなるのはこの数年後。

 そんな世界情勢など関係なく、精霊の森では、今日も明日も明後日も。賑やかな、それでいて平和な笑いが響き渡るのであった。
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