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2話 彼との出会い
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あれからどれ位時間が経ったんだろうか…
急に部屋の静けさに違和感を感じた俺は、ふっと辺りを見回すと既に大樹はいなくて、時計の音だけがやたら大きく響いていた。
少し休憩しようと立ち上がり、冷蔵庫を開けてみたものの何かを作る気にもなれず、コンビニでも行こうかと財布だけ持って部屋を出た。
そもそもこの家は、いずれ一緒になる筈だった人と暮らすために買った平屋の一軒家。
だがそれも叶わなかった今、無駄に広いだけの家に俺一人。
まぁそれにも慣れてしまって、もう寂しいとも思わなくなったけど…
ぼんやりとそんな事を思いながら、壁にかかった鏡を覗き込み、緩んだ襟と帯を直して玄関に並べられた下駄を履く。
何でも形から入りたいタイプなので、普段から着物を着ているせいか、近所ではちょっと目立ってしまうがそれもまた楽しい。
そして古民家風の引き戸を開け外に出れば、空は生憎の雨模様…
仕方なくお気に入りの番傘を差して、いつもの様に下駄を鳴らし、のんびり歩きながらコンビニへ向かった。
そして、いつものように狭い路地の角を曲がろうとしたその時…
勢いよく走ってきた男と出会い頭にぶつかり傘がふわりと飛んでいった。
「わっ!」
「っ…てぇ…」
いきなりぶつかってきて文句の一つでも言ってやろうと思ったが、尻もちを着いた目の前の彼を見れば、最初から傘を持っていなかったのか既に全身ずぶ濡れの状態。
しかも額や口からは血が流れ、頬には赤く痣が出来ていて、寧ろ心配になってしまい余計な気を使ってしまった。
「怪我…っ、してるみたいだけど…大丈夫?」
「はぁっ…はぁ…だっ、大丈夫…です…」
後ろを気にしながら息を切らし俺を見上げた彼をよくよく見れば、肌は女の子の様に白くとても綺麗な顔立ちで、つい見蕩れてしまっていた。
「あの…す、すいませんっ」
「あっ、いや…」
謝られてはっと我に返り、吹っ飛んでいった傘を慌てて拾い上げると、ずぶ濡れの彼の頭上に傘を掲げた。
そしてそっと手を差し伸べると、彼は少し戸惑いながらも俺の手を掴み立ち上がった。
「あ、ありがとうございますっ…あの…っ」
そして間もなく、遠くから聞こえてくる怒号に彼はビクッと体を震わせ、逃げようと俺の手を離した。
けど、こんな手負いで逃げ切れるのか?
事情も何も分からないけれど、これじゃ捕まるのも時間の問題だろうと、俺は後先も考えず咄嗟に彼の腕を掴み身体を壁に押し付けた。
「なっ…!?」
「逃げてもすぐ捕まるぞ…」
「けどっ…」
「しぃーっ、黙って…」
彼が見えないように俺と傘で覆い隠すとそのすぐ後に、彼を追いかけてきたであろう治安の悪い連中が、物凄い勢いで路地に入ってきて俺にも緊張が走る…
俺の着物を掴む彼の手は小刻みに震えていて
バレたら俺も終わる、と思いながら無意識に
彼を抱きしめていた。
そして、徐々に静けさと共に雨音だけが響き、人の気配が消えた感覚に辺りを見渡せば、何とかやり過ごせた様でほっと胸をなでおろした。
そして俺は、震えながら俯き続ける彼の頭にポンと触れた。
「行ったみたい」
「…あ、ありがと……」
そう言いながら目を潤ませ、力なく俺を見上げた彼がとても儚くて見えて、このまま置いていったら消えてしまうんじゃないだろうか…などと、何故か離れ難い気持ちに押し潰されそうになったその時、突然彼の手が緩み膝から崩れ落ちていった。
俺は慌てて思考を現実に戻し、直ぐ様彼の腕を掴み抱え込んだ。
「おいっ!大丈夫か!?」
「あ…はい、大丈夫…です…っ」
どう見ても大丈夫では無いくらい顔色の悪い彼をここに置いて帰る訳にも行かず、俺はコンビニを諦め、彼を抱え来た道を戻り自分の家に連れて帰った。
急に部屋の静けさに違和感を感じた俺は、ふっと辺りを見回すと既に大樹はいなくて、時計の音だけがやたら大きく響いていた。
少し休憩しようと立ち上がり、冷蔵庫を開けてみたものの何かを作る気にもなれず、コンビニでも行こうかと財布だけ持って部屋を出た。
そもそもこの家は、いずれ一緒になる筈だった人と暮らすために買った平屋の一軒家。
だがそれも叶わなかった今、無駄に広いだけの家に俺一人。
まぁそれにも慣れてしまって、もう寂しいとも思わなくなったけど…
ぼんやりとそんな事を思いながら、壁にかかった鏡を覗き込み、緩んだ襟と帯を直して玄関に並べられた下駄を履く。
何でも形から入りたいタイプなので、普段から着物を着ているせいか、近所ではちょっと目立ってしまうがそれもまた楽しい。
そして古民家風の引き戸を開け外に出れば、空は生憎の雨模様…
仕方なくお気に入りの番傘を差して、いつもの様に下駄を鳴らし、のんびり歩きながらコンビニへ向かった。
そして、いつものように狭い路地の角を曲がろうとしたその時…
勢いよく走ってきた男と出会い頭にぶつかり傘がふわりと飛んでいった。
「わっ!」
「っ…てぇ…」
いきなりぶつかってきて文句の一つでも言ってやろうと思ったが、尻もちを着いた目の前の彼を見れば、最初から傘を持っていなかったのか既に全身ずぶ濡れの状態。
しかも額や口からは血が流れ、頬には赤く痣が出来ていて、寧ろ心配になってしまい余計な気を使ってしまった。
「怪我…っ、してるみたいだけど…大丈夫?」
「はぁっ…はぁ…だっ、大丈夫…です…」
後ろを気にしながら息を切らし俺を見上げた彼をよくよく見れば、肌は女の子の様に白くとても綺麗な顔立ちで、つい見蕩れてしまっていた。
「あの…す、すいませんっ」
「あっ、いや…」
謝られてはっと我に返り、吹っ飛んでいった傘を慌てて拾い上げると、ずぶ濡れの彼の頭上に傘を掲げた。
そしてそっと手を差し伸べると、彼は少し戸惑いながらも俺の手を掴み立ち上がった。
「あ、ありがとうございますっ…あの…っ」
そして間もなく、遠くから聞こえてくる怒号に彼はビクッと体を震わせ、逃げようと俺の手を離した。
けど、こんな手負いで逃げ切れるのか?
事情も何も分からないけれど、これじゃ捕まるのも時間の問題だろうと、俺は後先も考えず咄嗟に彼の腕を掴み身体を壁に押し付けた。
「なっ…!?」
「逃げてもすぐ捕まるぞ…」
「けどっ…」
「しぃーっ、黙って…」
彼が見えないように俺と傘で覆い隠すとそのすぐ後に、彼を追いかけてきたであろう治安の悪い連中が、物凄い勢いで路地に入ってきて俺にも緊張が走る…
俺の着物を掴む彼の手は小刻みに震えていて
バレたら俺も終わる、と思いながら無意識に
彼を抱きしめていた。
そして、徐々に静けさと共に雨音だけが響き、人の気配が消えた感覚に辺りを見渡せば、何とかやり過ごせた様でほっと胸をなでおろした。
そして俺は、震えながら俯き続ける彼の頭にポンと触れた。
「行ったみたい」
「…あ、ありがと……」
そう言いながら目を潤ませ、力なく俺を見上げた彼がとても儚くて見えて、このまま置いていったら消えてしまうんじゃないだろうか…などと、何故か離れ難い気持ちに押し潰されそうになったその時、突然彼の手が緩み膝から崩れ落ちていった。
俺は慌てて思考を現実に戻し、直ぐ様彼の腕を掴み抱え込んだ。
「おいっ!大丈夫か!?」
「あ…はい、大丈夫…です…っ」
どう見ても大丈夫では無いくらい顔色の悪い彼をここに置いて帰る訳にも行かず、俺はコンビニを諦め、彼を抱え来た道を戻り自分の家に連れて帰った。
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旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
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