Black Rose

むらさきおいも

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キズ

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願いを込めながらギュッと手を握ると、恭介の指先がピクッと動く…


「…っ、恭介!?」


静かに恭介の瞼が開くと、ぼうっと天井を眺めた後、ゆっくりと俺に視線を向けてきた。

俺は喜びと不安で手を震わせながらも、もう一度恭介の名前を呼んだ。


「恭介…っ」

「…ひか…る…」

「恭介っ、恭介…っ」


名前を呼んでくれた事にほっとして、思わず恭介を抱き寄せ大声で泣いた。

すると、恭介の細い手が俺の背中をそっと撫でる。


「光…ごめんな…」

「何言ってんだよっ…」

「でもっ…俺っ…」

「いいからもう喋んなっ…」


改めて恭介をぎゅっと抱き寄せたが、鈴木さんが病室戻ってきた事に気が付いてそっと体を離した。


「あっ、恭介くんっ!良かった、目が覚めたんだね」

「ありがと…助けてくれて…」

「ううん、遅くなってごめんね。でも全部終わったから…もう安心して…」

「終わった…のか…」

「うん、終わったよ」

「そっか…っ…」


そう呟き目から大粒の涙がこぼれ落ちると、恭介は天井を見上げ腕で顔を覆い隠した。

そんなに辛い思いをしたのかと思うと悔しくて胸が痛くて、俺もアイツらをぶっ飛ばしてやりたいと鈴木さんに詰め寄り、奴らがどうなったのかを尋ねた。


「なぁ、そんでアイツらはどうなったんだよっ…俺にも一発ぶん殴らせてくれよっ…」

「光くん、落ち着いて。アイツらは全員、法で裁かれるから」

「法って…?鈴木さんってもしかして…警察の人?」

「あ、うん。ごめんね、ずっと黙ってて。内密に捜査してたから職務上明かせなくてさ…」

「そう…だったんだ。俺てっきり組織と対立してるヤクザの人か何かと思ってた」

「あははっ、そう見えた?」

「ううん、全然見えなかったけどさ…」

「うん。だから気持ちはわかるけど、これから俺たちが然るべき処分をするから…」 

「そっか、わかった。でも…だとしても一発くらい…っ」


 鈴木さんは無言で俺の肩にそっと触れて、先に病室を出た。

やり返したいのは俺だけじゃない。
きっと鈴木さんだって…

けど仕返しをしたところで、鈴木さんの恋人や仲間は帰ってこない。

悔しさを押し殺し、俺はまた椅子に座り背を向ける恭介に声をかけた。


「恭介…?こっち向いて…」


嫌だと言わんばかりに首を横に振り、布団を被る恭介の背中を優しくさする。

見た目は少しやつれてしまってはいるが、思っていたより変わっていないように見える恭介に、俺は安心して思いの丈をぶちまけた。


「俺…恭介が好き。恭介が居なくなってからずっと…毎日毎日恭介の事探してた。恭介がいないなら生きててもしょうがないって思って…」


そっと向きを変えて布団から顔を出した恭介の目は真っ赤で、今まで一緒にいてこんな姿一度だって見た事はなくて、胸が締め付けられると同時に愛おしい気持ちが溢れてくる。


「…俺もっ、同じ事…思ってた…っ」

「良かった…愛してる…恭介…」

「俺も…っ」


点滴が痛々しく繋がる腕を懸命に伸ばし、俺を求めてくる恭介。

良かった…恭介も俺が必要なんだ。

そう思って俺は、恭介の髪を撫でながらまごうことなく静かに唇を重ねた。

しかしその直後、俺は恭介に突き飛ばされ体が離れた。


「…っ、ごめん…!!」

「恭介…?」

「はぁ…はぁ…っ、やっぱ…帰って…っ」

「え…っ、なんで…」

「俺に…っ、近づくなっ…」

「恭介…大丈…っ」

「触んなっっ!!…っ、はぁ…っ、はぁ…っ」


そっと伸ばした手を拒むように振り払われると、じっとり汗をかき錯乱する恭介にどうしていいか分からなくなった俺は、ちょうど駆けつけた看護師を呼び止める。

そして鎮静剤を打たれ落ち着いた恭介を残し、俺は先生から話を聞いた。

恭介の症状は入れられた薬の影響らしい。

量はさほど多くはないが中毒性が高いらしく、入院して様子を見なければならないから、あまり刺激をしない様にと言われた。

安心は一気に不安に変わり、何も出来なかった自分が悔しくて、何かにあたる事も出来ず、何度も何度も握った拳を太ももに叩きつけた。

今は何が刺激になるのかも分からない状況という事は、暫く会う事さえ出来ないのだろう。

俺が恭介の足を引っ張るわけにはいかない。

せっかく会えたのに、抱きしめる事も出来ないなんて…

悔しい思いを引きずりながら、俺は病室には戻らずまっすぐ家に帰った。
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