ミントバニラ

むらさきおいも

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第二章

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長い長い夢を見てた―――

目が覚めたらまた、あの現実に戻るくらいならいっそ目覚めたくないと、そう願って深い眠りに落ちていったんだ。

父さんと母さんがいた頃、俺らは普通に歳の離れた仲のいい兄弟だった。

だけど父さんと母さんが離婚して父さんが家を出て行き、そのうちに母さんも家を出ていくと、俺の世話は兄ちゃんがしてくれるようになった。

やりたいこともあっただろうに、それよりも生活のために沢山バイトをして何とか高校にまで行かせて貰えた。

俺は兄ちゃんに感謝してる。

柊は可愛い、柊は俺の大切な弟、ずっとそうやって兄ちゃんに甘やかされて育ってきた俺は、兄ちゃんがあんな事でお金を稼いでたなんて思ってもみなかったんだ。

そしてあの事件が起きて暫く経ったある日…

イライラしながら帰ってきた兄ちゃんは、俺を見るなり髪を掴んでこう言ったんだ。


「なぁ、柊…その髪絶対切るなよ…わかったな」

「…っ、う…ん」


最初なんの事だか全然分からなかった。

だけどそのうち、兄ちゃんは俺を襲うようになっていったんだ。

最初のうちは触るだけ、触らせるだけだったのがそのうち段々とエスカレートしていって、俺は性処理の道具にされていった。

でも文句は言えなかった。

だって、兄ちゃんが大好きだった隆ちゃんはもう居ない。

俺のせいで隆ちゃんを失って、俺のせいでこんなやばい仕事ばかりやらされるようになったんだし、それでご飯が食べらるんだから、我慢するしかなかったんだ。

それに、兄ちゃんのことが好きだったから―――

タバコなんて吸ったこともなかった兄ちゃんが、隆ちゃんと同じタバコを吸い始め同じ匂いを漂わせるようになると、匂いに反応するように俺の身体も疼いた…

もう、おかしくなってたんだ。

こんな生活から抜け出したい、でもそんなこと許されない、ならもういっその事死にたい、そんな時…咲也に出会ってしまった。

今思えばあんな強引に他人の自殺を止めるだなんて、理由がなければするはずもないと分かるけど、あの時の俺はそんなこと考える余裕もなかったし、そんな出会い方でも確かに咲也に救われたんだ。

いきなり、初対面のやつをホテルに連れ込んでヤルだなんて信じられないと思ったけど、誘ったのは紛れもない俺だし、初めて他人に話を聞いてもらって心が軽くなったのも事実だった。

それに、何より優しかった…
優しくて、暖かくて、気持ちよくて…

こんな体の関係ならずっと続けてたって苦じゃないと思ったし、むしろ俺は咲也が欲しかった。

俺が死なないように生存確認のために会おうだなんて、今思えば情報源を失いたくないだけのこじつけのように思えるけど、それでも与えてくれた優しさは本物だったと信じたい。

今だってずっと俺を守ってくれてる、情報ならもうこれ以上は俺だって何も知らない。

あのころ見たあの風景は思い出せても、隆ちゃんを撃った相手の顔まで覚えてないし、その人が何者かさえも俺には分からない。

兄ちゃんは知ってたのかもしれないけど、もう聞くことも出来ないから。

それでもそばにいてくれるのはどうして?

俺が助けてって言ったくせに、咲也に関わったせいで兄ちゃんが死んだって、そんな酷い事言ったのに、咲也はごめんねって泣いてた…

違う、違うよ…
謝らなきゃいけないのは俺の方だ。

咲也…ごめんね。

でも俺、この後どうなるんだろう。

もし目が覚めて誰もいなくて、あとどれ位かして退院するってなったら、一体どこに帰ればいい?


ねぇ、咲也…どこにいるの?
咲也、返事してよ!咲也っ!


するとふわっと鼻先に薫った匂いと唇の感触に咲也を見つけ、暫くの間深い闇の中をさ迷ってた俺は、その感触を頼りに意識を手繰り寄せ目を開けた。

そこには会いたくて仕方なかった咲也が俺の手を握りながら泣いてて、俺に対してまたごめんねを繰り返していた。

咲也のせいじゃない、謝らなきゃいけないのは俺の方だと、ごめんねと言いたいのに、何故か喉が詰まって声が出せない。

なにか言おうとすればする程に苦しくなって、自分の吐く息の音しか聞こえなくて、声が出せない事にショックを受けた…

だけどそんな俺の事さえも咲也は大丈夫だって、俺を守ってくれるって言ってくれた。

もう誰もいないんだ、俺を縛る人も守ってくれる人も…

誰かが居なきゃ何も出来ないような俺だけど、咲也のそばにいてもいいの?
本当は迷惑とか思ってない??

聞きたいことは山ほどあるけど声が出せないから、とにかく俺は咲也の指示に従った。

咲也から、離れたくなかったから。
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