ミントバニラ

むらさきおいも

文字の大きさ
26 / 53
第二章

しおりを挟む
その後、病院に向かい柊の病室を訪れた。

本当に息をしてるのかも疑いたくなるくらい、静かに深く眠っている柊。

鎮静剤の効果はとっくに切れているはずなのに、未だに眠りっぱなしで一度も目が覚めないらしい。

もう、柊は目覚めることを諦めてしまったのだろうか…

俺は、柊の手を握りながら耳を柊の心臓に押し当てた。

…ちゃんと動いてる。

そして呼吸を確かめるように顔を近づけると、静かに柊の息がかかる。

白雪姫みたいにキスでもしたら、目覚めてくれないだろうか…

そんな想いを込めて、柊の唇にそっと唇を重ねた。


「柊…そろそろ起きて?」


すると柊の手が少し反応を示し始め、俺は必至に呼びかけを続けた。


「柊っ、柊…っ!?」


少しづつ開いてく目を見て俺は安心して椅子の上に座り込み、握った手を包み込むようにして泣いた。


「ごめっ…ごめんなぁ…柊…辛い思いさせて」

「…っ、………っ」

「ん?どうした…?苦しいのか…?」


口をパクパクさせたまま俺を見つめ、何かを訴える柊。

その内、不安そうな表情に変わると起き上がり喉を抑え、はぁはぁと苦しそうに呼吸をし始め大粒の涙を零した。

俺は何が何だか分からなくてすぐ様ボタンを押すと、看護師さんが慌てて様子を見に来てくれた。


「どうしました?…目が覚めたんですか!?」

「はいっ、けどなんか苦しそうで…っ」

「長谷川さんっ、どっか痛い?苦しい?」


懸命に横に首を振るものの依然口を開け、喉に何か突っかえてるような表情を浮かべ息だけが漏れ出る。

一生懸命なにか訴えてくるものの、話してくれないので分からない。

…話してくれない、んじゃなくて…

話せない!?


「柊!?もしかして声…」


俺の問いかけに柊はうんうんと頷き、また大粒の涙を零した。

声が出ない…と言うのはどういう事だろう…

看護師さんはそのまま先生を呼びに行き、俺は柊の手を握ったまま背中をさすった。


「無理すんな、大丈夫だから…声出ないなら出さなくていい。俺の携帯に打ち込んでくれれば分かるし、な?」

「…っ、ぅ…っ」


急に声が出なくて柊だって怖いんだろう。
色々ありすぎたんだ…

でも出来るだけ早くここを出なければ。

先生が来て色々調べてくれたものの、精神的なショックによる一時的な失語症ではないかと診断された。

こんな状態だ、本当ならまだ治療が必要だが、内々に柊の退院の手続きを始めると俺は念の為、俺が来れなかった二日の間に柊の元を訪れた人物が居ないか看護師に問いかけた。


「昨日です、一人警察の方がお見えになりました」

「名前は!?会わせましたか!?」

「名前までは…長谷川さん眠っていたので昨日はお引き取り願いましたけど…」

「はぁ…良かった。どんな人でした?」

「うーん、警察の方っていうイメージはあまりなかったですね。でもお手帳見せられたので。あ、また来ますって言ってました」


誰だ!?柊に面会なんてする必要がある警察内部の人間なんて俺以外いないだろ。

俺はすぐ様柊の元へ戻り、事情を説明した。


「柊、よく聞いて。今からこの病院を出る。あの組織はおそらく、警察内部と繋がってる。柊は色々知りすぎた。いつ狙われてもおかしくない。俺が絶対守るから…着いてきてくれる?」


ただでさえ声が出ない不安もあるのにこんなこと急に言われて怖くて仕方ないだろうに、柊は涙を浮かべながらも俺の手を握り深く頷いてくれた。

そしてその日の夜、先生との話し合いの結果柊はまだ目覚めてない事にしておいてもらい、暫くこの部屋にはあたかも柊が寝てる風を装っておいて欲しいとお願いした。

もしかしたら、内部の人間を炙り出せるかもしれない…

深く関わるなと言われたが柊を守るため、一人でも怪しいヤツはさっさと潰しておきたい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...