十六夜の月

むらさきおいも

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診察日(真壁)

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今日は、月に一度の斗亜とあの定期検診。

と、言っても重大な疾患がある訳では無いのだけれど、子供の頃喘息気味だったとノブさんが話していた事と、しょっちゅう体調を崩すから心配だって敦史あつしさんがしつこく言うもんだから、何となくコミニュケーションも含めここに呼んで様子を見てるって訳。


「体調どう?」

「なんも?いつもと変わんないよ?」

「そ?ならいいんだ。でも言われたこと守ってバイトもあんまり無理しないでね?」

「うん、わかった」


斗亜は素直で可愛い。
俺もそう思うし、みんなに愛されるのもわかる。

龍士りゅうじも斗亜が来てから何だか毎日楽しそうだし心配いらないと思うんだけど、俺は敦史さんからある任務を頼まれている。

無理に聞き出さなくてもいいけど、もし龍士に関する事で斗亜が何か話したら教えて欲しいって。

敦史さんにとって斗亜は弟みたいな存在だって言ってたし、心配なのもわかるけどさ?

そんなに心配なら敦史さんが面倒見ればいいのに…
なんて、あまりにも過保護だからちょっとだけ嫉妬しちゃう。


「ねぇ、真壁まかべさん?」

「ん?」                                                                                                                                                                                      

「真壁さんは龍士の妹のこと…知ってる?」
                                                                                                                                                                    
「あぁ、事故で亡くなったって聞いたけど…」

「事故で?」

「うん、確か…今の斗亜くらいの歳の頃じゃないかな?」

「事故って…?」

「う~ん。俺もそこまでは…」

「そっか…」


龍士の事ってこの事か?
斗亜は何で龍士の妹に興味があるんだろう。

俺も充彦から少し聞いたことがあるくらいで、何があったのかまでは全く分からない。

龍士は自分の事、あまり話さないしね…


「何かあったの?」

「ううん。ちょっと気になっただけ」

「そっか」

「真壁さんはさ、もし好きな人が苦しんでたらどうする?」

「え?あぁ…うん、そうだなぁ…」


この場合で言う好きな人って絶対、龍士の事だよね!?

斗亜は龍士の事が好きなの!?
まさかもう、色々しちゃったとか!?

平静を装いながらも、頭の中は良からぬ想像でいっぱい…
敦史さんに話したら絶対卒倒しちゃうよっ。

いやいや、本題に戻ろう…
好きな人が苦しんでたら、か…

そうだな…俺、してもらってばかりで結局してあげられる事なんて何も無いからな。


「俺は何も出来ないから…隣(そば)にいる事くらいしか出来ないよ…」

「隣(そば)にいるだけ?」

「うん、情けないけどさ…料理ができる訳でもないし、上手い事言える訳でもないし、怪我の傷は治せても心の傷を癒すのは難しいよね…」

「真壁さんにも難しい事ってあるんだ」

「そりやぁあるよ!沢山ある…」

「直接…聞いてもいいのかな?」

「う~ん。そうだなぁ…ダメってことは無いと思うけど、話したくない事もあるかもしれないし…難しいよね」

「そうだよね…」


あぁ…本当に俺は…
勉強だったらいくらでも教えてあげられるのに、こういう事は本当に苦手だ。


「あのさ、真壁さんって好きな人…いる?」

「えぇっ!?す、好きな人!?」

「…うん。俺、まだ好きとかってよくわかんなくて。あっくんの事も友達の事も、もちろん真壁さんの事も好き。だけど、その好きとずっと一緒にいたい、取られたくないって思う好きはやっぱり違う好きなのかなぁって」


斗亜の真っ直ぐな気持ちが、歪んだ俺の心に刺さる。

あの日からずっと…
俺には人を好きになる資格なんてないって思ってたから―――

あの人が俺を必要としてくれても尚、素直になれなくて…
今でもずっと拗らせている。

それでもあの人の隣(そば)に居たい、誰にも取られたくないなんておこがましいにも程があるけど、もしそれが斗亜の言う違う好きなら俺にとってのそれはあの人でしかない。


「違うのかもしれないね、俺の場合はその人にしか当てはまらないから。他の人ならまだ我慢出来る事も、その人の事となったら無理かもしれない…」

「俺も、そうかもしれない…」

「まぁさ、そんなに急いで答えを出さなくてもいいんじゃない?大事にしたいとか、そういう気持ちがもっと大きくなった時に本当に好きなんだってわかる時が来るよ」

「そっか、そうだよね」


なんて…
斗亜には偉そうに言ったけど、俺だってまだまだ分からない事だらけだ。

だけど斗亜と話したのおかげで、やっと自分の正直な気持ちに気付けた気がしたんだ。

俺もいつか、ちゃんとその気持ちに向き合える日が来るだろうか。

そしたら今よりもっと、幸せになれるのだろうか―――
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