十六夜の月

むらさきおいも

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平穏とモヤモヤ

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龍士りゅうじと家に戻ってきてから数日が経ち、俺らは再び平穏な日常を取り戻した。

龍士は傷が完全に癒えるまでまだ数日かかるみたいで、夜の仕事は暫く休みだから俺が学校から帰ってくるとご飯を用意して待っててくれて、そして夜寝るまで一緒にいてくれる。

今までは昼夜逆転だったからそれが凄く嬉しくて、でも何だか恥ずかしくてお互い微妙な距離感を保ちながらも、寝る時だけは一緒のベットに入ってくっついて寝る。

そんな甘い日々を過ごしながらも学生である俺は、朝になれば学校に行かなくちゃいけなくて、眠い目を擦りながら一つため息をついて龍二の腕の中からそっと離れる。


「んぅ…斗亜とあ…?」

「おはよ…もう起きなきゃ」

「ん…ぅ…まだダメぇ」

「えっ、もう遅刻しちゃう…っ///」


一旦離れた俺は再び龍士の腕の中に収まり、ぬくぬくと暖かい温もりに包まれ動けなくなってしまった。

今の俺にこの束縛を解く程の理由なんてなくて、大人しく龍士の背中に腕を回す。

今日は遅刻でいいや…


「…遅刻しちゃうよ?」

「…龍士が悪いんじゃん」

「んふっ、だな」


俺は龍士の事が特別な意味で好き。

だけど龍士はどうなんだろう…

帰ってきてからというもの寝る時以外は少し距離を感じるし、前みたいに龍士からベタベタしてくる事もあまりない。

俺がこんな感情を持ってしまったから、気まずくなってしまったんだろうか…


「さすがにそろそろ行かなきゃ…っ」

「だよな…」

「…行きずらいじゃん」

「ごめんな…ダメな大人で…」

「ううん、そんな事ない」


龍士の束縛から解放された俺は、布団から出る前に龍士に顔を近づけそっと唇を重ねた…


「…っ///」

「行ってきます…」

「おぅ…っ、行ってらっしゃい…あ、充彦みつひこに送らせるか?」

「ううん、いい。どうせ遅刻だから」

「そっか…」


龍士は今、どんな気持ち?
俺は一緒にいれて嬉しいし幸せなのに…凄く寂しいんだ。

この気持ちをどうやって伝えたら、龍士に分かってもらえるだろうか。

俺が誰よりも龍士を大事に思ってるって事。
大好きだってこと…

それからのんびり支度をして、学生もまばらな時間に電車に乗り、2時間目の終わりくらいに学校に着いた。

着いて早々、休み時間に颯太そうたの元気な声がお出迎えしてくれて、俺は現実に引き戻される。


「斗亜ぁ~!!」

「朝から元気だな」

「斗亜は元気じゃないの?思いっきり遅刻してるし…何かあったの?」


何かあったと言えばそうかもしれないし、そうじゃなければ特段何も無い。

颯太にこのモヤモヤを伝えたところで解決するとも思えないけど、けど颯太の方が恋愛に関しては俺より経験があるとも言えるし…


「う~ん。ちょっとね…」

「ちょっと?話せることなら話してよね?」

「うん、そのうちな」


颯太の心配そうな視線が痛い…
話せない事でも多分話さないと、この視線から逃れられないような気がするんだが気のせいだろうか。


「ねぇ、じゃあ俺の話してもいい?」

「ん?いいけど…」

「俺、やっぱりみっくんが好き…っ」

「みっくん!?...充彦くんの事!?」

「そう!」

「お、おぉ…マジか。会ったりしてんの?」

「うん。みっくんもね、俺のこと好きって」

「えっ、マジ!?」


いつの間に、そんな事になってたなんて全然知らなかった。

充彦くんと顔を合わせたっていつも通りだったし、それに颯太と充彦くんが会ったのって俺が酔っ払って…

あの日の一回きりじゃなかったのか?
颯太って結構積極的なんだな…


「みっくんってね、見かけによらず可愛いの♡」

「か、可愛い…ねぇ…」

「いやマジだから!お菓子とかケーキとか甘い物好きだしぃ、めっちゃ拗ねたりすんの!」

「拗ねる…へぇ…」


あの、屈強な男が可愛くて拗ねる…
想像できない…

そういや俺、龍士の好きな物とか食べ物とか、そんなものすら未だによく分かってなかったかもしれない。

颯太がこの短い間で充彦くんとこんなにも距離を縮めてるのに、俺はと言うと…何も進んでなくて何だか切ない…

龍士はどんな食べ物が好きで、どんなことに興味があって、一体どんな人生を送ってきたんだろう…

龍士が大事に思ってた妹は…どんな子だったんだろう… 

今までこんなに人に興味を持った事なんてなかったのに、休み時間が終わって授業に入っても尚、先生の声なんて全く入ってこなくて、俺の頭の中は龍士の事でいっぱいだった。
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