十六夜の月

むらさきおいも

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龍士の背中

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夏休みも間近、今日は学校が早く終わっていつもより龍士りゅうじと過ごせる時間が楽しみで、颯太そうたの誘いを断り急いで家に帰った。

もしかしたらまだ寝てるかな?と思い、静かに玄関の扉を開けつつ「ただいまぁ」と呟くと、廊下の電気はついているものの人の気配はなく、お風呂場からシャワーの音がする。

出かける支度でもしてるのかな?と思いながら自分の部屋に入り、荷物を置いてベットの上に横たわった。

暫くしてシャワーの音が止み龍士の足音が聞こえたので、ちょっと驚かせてやろうと、龍士がリビングの扉を閉めた音を確認すると、今度は忍び足でリビングに向かった。

そしてリビングの扉を勢いよく開けて、そのまま龍士に抱きつこうとした俺は、目の前の光景に目を奪われた。


「あっ…」

「斗亜?帰ってたの?」

「あ…うん…っ」

「何だ、今日早かったんだ?」

「…うんっ」


お風呂上がりの龍士はボクサーパンツ1枚で、俺に背中を向けて悠長に頭を拭いている。
本人はさほど気にもしていないのかいつも通りだけど、ソレを見てしまった俺は衝撃で立ち尽くしていた。


「ん?斗亜?どうした?」

「あ…えっと、背中…」

「背中…あぁ!!ごめ…っ、すっかり気ぃ抜いてたわ」


慌てて俺の横をすり抜けて部屋に戻ろうとする龍士を掴まえて、俺はその背中に抱きついた。


「待って…もっとよく見せて?」

「あ、いや…あんま見ないで欲しいかも…」

「なんで?」

「怖いとか…思われたくない」

「は?今更何言ってんの?もう、これくらいじゃビビらねぇし!」

「あぁ、そう…だよな…」


諦めたようにタオルを頭に掛けて項垂れる龍士。
俺は背中から腰にかけてびっしり描かれた刺青を、少し離れてゆっくり眺め、そっと背中に触れた。


「…っ」

「龍…」

「ん?」

「いや、この龍…」

「あぁ、うん…」

「綺麗…」

「えっ…」


龍士の背中に描かれた龍は、迫力はあれど何処か儚げでそして、ものすごく綺麗で…

こんなに間近で刺青なんて見た事なかったから、掘るってどんな感じなんだろう…と、その龍の曲線に沿って龍士の背中を人差し指でなぞると、龍士の身体がピクリと震えた。


「…っ、斗亜…っ」

「良いなぁ…青い龍。俺も入れたい…」

「だっ、ダメっ!良い子はそんな事しちゃダメ!」

「俺、良い子なんかじゃないよ…」


龍士は多分、俺があの家でやらかした事を多分詳しくは知らない。
お風呂上がりのほかほかした龍二の背中にくっつき前に手を回すと、龍士が俺の手を握ってそれを解き、向かい合って抱きしめてくれた。


「掘る時、結構痛いよ?」

「我慢出来るもん」

「世の中的にはあると面倒だよ?」

「じゃあ龍士は何で入れたんだよ。そんな面倒な物…」

「俺はさ、そもそも面倒なもの背負って生きてるから。それを忘れないためにも…俺は悪人だって事を…」


俺は、龍士がそうやって自分を悪く言う事が凄く嫌で、龍士の背中を撫でてからぎゅっとしがみついた。


「そんな事言うなよ…っ」

「でもさ、斗亜を危険な目にも合わせたし…俺はやっぱり…」

「俺もやる!龍士とお揃いにして、二度とそんなこと言わせないようにする…っ」


もしも、俺の背中にも龍二と同じ龍がいたなら、龍士は自分をもっと大事にしてくれるんじゃないか…なんて、自惚れてるかな?

お揃いなんて子供じみた考えなのはわかってる。

だけど、俺と龍士は違くない…同じなんだって。
違うって言ってまた俺の事を突き放したりしないように、俺から離れていかないように、ある種の契りだと思って俺は本気でやってやるって思ってたんだ。

そう言えば…
龍士が帰ってきて怪我の治療だのなんだので、もう居なくなることは無いと安心しきってちゃんと聞いてないことがあった。

あの、蛇の刺青の人との関係。

チラッと前に居た組の人らしいっていうのは聞いたけど、そもそもなんで俺を人質にとったり再び龍二に絡んできたりしたんだろう…

そして、アイツは龍二が3って言った。
まさかそんなはずは無いと思うけど、どういう事なのか…

あの蛇男がいなくなった今、もう離れて行くなんてことは本当にないのか、俺は確かめたかった。


「ねぇ、龍二…聞きたい事がある」


俺は龍二から体を離すと、龍二の腕を掴み自分の部屋へと連れて行きベットに押し倒し、龍士にしがみついた。


「…っ、何?聞きたいことって」

「あの、俺を拉致った蛇の刺青の男は何で龍士に絡んできたの?なんで向こうに行こうなんて思ったの?…3人、殺したって…どういう事…?」


龍士にしがみつく俺に龍士の顔は見えない。

だけど、体を伝って龍士の動揺が伝わってくる気がして少しだけ顔を上げると、龍士は髪を掻き上げながら大きなため息をついた。

だから俺は、聞かなかった方が良かったのかもと少し焦って、また龍士の胸の中に顔を埋めた。


「ごめんっ、話したくなかったら聞かない…」

「そう…だな。あんまいい話じゃないから黙ってたいけど、お前のこと巻き込んで黙りってわけにはいかねぇからな…」


あんな事するヤバいやつだ。
龍士だって刺された以外にも、何されたか分かったもんじゃない。

俺だって本当は聞きたくないような、でも知りたい様な…めちゃくちゃ複雑な心境だ。


「何聞いても、俺は龍士が好きだから…っ」

「ふふ…っ、そうね…どっから話そうか…」


それから俺は、龍士の昔話を聞いた。
あっくんのところに来る前にいた組で可愛がっていた後輩の話。

その後輩がアイツの玩具にされて、龍士が助けようと身代わりになった事で起きた後輩の自殺。

アイツの言う3人は、妹、親父、後輩の事だと思うって。

そして、今になってあの時の復讐の為に俺を盾に龍士を脅したと言うこと。


「俺も大概ヤバいやつだよ?あんなヤツの言いなりになってさ…」

「そんな事ないっ…そんな事言ったら俺だって…っ」

「お前のは無理やり…っ、だから忘れろ…っ」

「…うんっ」


龍士は少し声をふるわせて、俺の事をぎゅっと抱きしめた。

あんなの、俺だって思い出したくもない…

だけど、それ以上に何も抵抗も出来ずただただ言いなりなるしか無かった弱い自分が悔しくて、守ってもらうばっかじゃなくて俺も守りたいって思ったんだ。


「にしても、なんでバレたのかねぇ…俺がお前の事大事にしてるってさ」

「…てかさ、脅されたからって何も居なくなること無かったじゃんっ。あっくんだって話せば絶対力になってくれたはずだろ?」

「まぁ…そうなんだけど、単純に俺さえ居なくなれば何とかなるならそれでいいと思ったんだよ。お前のこと守れるなら…」

「守れなかったじゃんっ」

「…っ、ごめん…」

「本当に大事ならもう二度と離れないでっ」

「うん。そうだよな…そばに居て守らせて…」


龍士の背中に手を回し胸の中にうずくまると、龍士も力強く抱きしめてくれる。

龍士は男なのにって思うと複雑だけど、でもこんなに人を好きになった事なんてなくて、俺はこの甘ったるく熱い感覚に溺れそうで苦しくて思わず顔を上げた。


「はぁ…龍士…っ」

「…っ、そんな顔すんなよ」

「だって…好きなんだもん…」
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