十六夜の月

むらさきおいも

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真琴の事情

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あれから龍士りゅうじの傷はすっかり良くなり、今ではお店に出てお酒も飲んでるみたいだ。

俺も暫くバイトを休んでしまっていたので、バイトを頑張っている…つもり。


斗亜とあく~ん」

「ん?」

「この間はありがとうね!大輝たいきくんの事…」

「あぁ、うん。話出来た?」

「お陰様で!ありがとう斗亜くん」


にしても…
家族が事故に巻き込まれて自分だけが無事でなんて、俺だったらこの先どうしたらいいか分からなくなって、絶望しかないかもしれない。

真琴まことはその時…
一体何を考えていたんだろう。

そして単純に、真琴は自身は怪我もなく無事だったのか?
それとも、大怪我とかしてそれでも助かったんだろうか…


「あのさ、真琴は怪我とか…しなかったの?」

「あぁ、してないよ?だって俺、あの人達と一緒じゃなかったし…」


一緒じゃなかったってことは、真琴はその場にいなかったって事?
それに、あの人達って…

何で?どうして?って、聞きたいことが沢山溢れてくるけど、そんな軽々しく聞けるようなことではなくて口を噤む俺に、真琴はその気持ちを読んだかのように話し始めた。


「あのね、あの日はあの人達、俺抜きで旅行に出かけたの。家族水入らずってやつ?」


そんな言い方…真琴は家族じゃないみたいじゃん。

俺はその言葉で何となく気が付いてしまった…
真琴の家族での立ち位置が、俺と似ている事を…

真琴はわざと、置いていかれたんだろうか。
それとも、自分から?


「あれ?もしかして斗亜くん。俺だけ生き残っちゃって俺が悔やんでるとか思っちゃってないよね?」

「えっ…」

「俺、父親の連れ子でさ?弟とか妹は2人の子供だったから、そもそも家族として扱われてなかったんだ。早く出ていけばいいのにくらい思われてた。だからさ?正直清々したの…居なくなってくれて…」


そんな事って…
真琴は大事な家族をいっぺんに失った訳ではなかったって事!?

だとしたら…


「俺も…俺も同じだ…」

「えっ?」

「俺も真琴と同じ…あんな人達…居なくなればいいと思ってたから…気持ち、分かるよ」

「斗亜くんも…そうなの?」

「うん。あの人達はまだ居るけど、もう一緒には暮らしてない。今の暮らしのがずっと良い」

「あはっ、一緒だね!なんか嬉しい!俺もね、今の生活のが全然楽しいんだぁ。一人のが自由だし。あ、けど居なくなって清々したなんて…とんでもないこと言っちゃったよね、ごめんね…」

「ううん、もし俺が同じ立場でも…同じこと思ったかも」

「そう?斗亜くん家もなかなか酷かったんだね」


どうだろう…
真琴がどれくらい酷い仕打ちをされてたのか分からないけど、俺の場合はそれでも母親の事は少しくらい悲しいって気持ちになるかもしれない。

まだ、好きだった頃の母親の顔が浮かぶと、すごく複雑な気持ちになった。


「ん?でもじゃあ大輝くんって…」

「あぁ、うん…俺の同居人の…後輩…?」

「同居人?その人は、良い人?」

「うん。いい人だよ」

「そっか、良かった。俺もさ、今幸せだから。この事はもうあんまり気にしないでね?」

「うん。けど、何か困ったら言って欲しい」

「え、ほんと!?嬉しいっ!」


真琴はいつもの通りニコニコと笑顔で接客を始めた。
どんなに明るい人でも、人知れず悩んでいたり辛い過去があったり、心に暗い闇を抱えてたりするんだと、俺は改めて知った。

そして真琴の心の闇が、大輝くんに再会出来た事で少しは癒えてくれると良いなと思った。

二人は一体どんな話をしたんだろう…
大輝くんは、彼女の事で傷付いた心はもう癒えたんだろうか。

ふとそんな事を考えながら、バイトは終わりの時間を迎えた。
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