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第一章 ドラゴンの幼女
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ラディアナの攻撃はほんの一瞬、ゴーレムの体勢を崩しただけで終わってしまった。改めて、更に深く踏み込んできたゴーレムの巨大な拳が、ラディアナの頭上に影を落として降ってくる。
もう息を吸うヒマはなく、ラディアナは拳で迎撃した。黒い大岩のようなゴーレムの拳と、ラディアナの白い蒸しパンのような拳が激突! ゴーレムの拳が粉々に砕け散った。
が、先程と同じく亡霊たちが傷口から伸び、宙を舞う無数の破片を瞬時に回収、拳を元通りにしてしまった。そこに突き刺さっていたラディアナの拳を、自らの拳の中に飲み込ませて。
「しまっ……」
「潰せっ!」
ラディアナの拳と融合した己の拳を、ゴーレムは頭上へ高々と振り上げた。全身丸ごと引っ張り上げられてしまっては、流石のラディアナも踏ん張ることもできず、されるがまま、引っ張られるままだ。上空でじたばたする他、何もできない。
ゴーレムは、まるで猛獣使いの振るう鞭のように自分の腕を、そしてその先端にいるラディアナを振り上げ振り回し……全力で、金属床に叩き付けた!
「うぁぐうっっ!」
「ラディアナ!」
「おっと、そうはさせん!」
腰の剣を抜き、ラディアナを助けに行こうとしたクリスを、またしてもカイハブの放った火の玉が襲った。
クリスは、今度は辛うじて身をかわすが、先の一撃で受けたダメージは小さくない。再度同じ攻撃を受けたら、立てるかどうか。そして、いつまでかわしきれるか。
いや、かわしてばかりではダメなのだ。ラディアナを助けに行かないと……と焦るクリスに、カイハブが言い放つ。
「お前なんぞが行っても助けにはならんぞ。何なら今、証明してやろうか? こいつをどうにかできんようでは、向こうに行っても娘を助けることは不可能じゃぞ!」
カイハブが杖を床に向けて呪文を唱えた。すると、その床が振動し、割れ、生き物のように石畳が組み上がって……身長でクリスの倍、肩幅なら三倍以上はある巨大なゴーレムが完成し、力強くクリスの前に立った。
カイハブは上方に浮いているザセートを見上げて言う。
「この部屋、すみずみまで奴隷たちの血と怨念が染み付いておるようじゃの。ここまで濃いと、利用するのも容易い。古き王よ、お前さんの暴君振りがよくわかるわい」
言われたザセートは、少し動揺した声で答えた。
「……ほざけ。そのような急ごしらえの真似事の術に、どれほどのものがあろうか。汝も、この娘を殺した後で叩き潰してくれる」
「フン。真似事は真似事でも、術の質や強さを読み取れぬわけではあるまい、お前ほどの使い手ならば。まあ、わしとしてはこいつらを始末し、剣を持ち帰ればいいのじゃ。大人しくしておるなら、お前には手は出さんぞ。剣以外の品にも手はつけん」
ザセートは一瞬考えたが、その話は後だと言い切るようにカイハブから視線を外し、正面に向き直った。
そこでは、極限的に短い鎖によるチェーンデスマッチとでも言おうか、拳と拳を融合させたゴーレムとラディアナが戦っている。もとい、ラディアナが一方的に痛めつけられていた。両者の絶望的な体格の差から、ラディアナは一たび持ち上げられてしまうと、もう何をどうやっても地面に足が着かないのだ。さんざんに振り回され、床に壁に叩きつけられまくっている。
助けに行きたいクリスの前にも、やはりゴーレムがいる。あのラディアナを、しかも本来の力が戻りつつあるという状態のラディアナを、叩きのめしているのとほぼ同じゴーレムだ。そしてこいつはザセートを動揺させるほどの、つまり少なくともあれと同等の強さをもったゴーレムなのだ。
今クリスの手にあるのはただの剣。これではゴーレムにダメージは与えられないだろう。仮に斬りつけ、少々の傷を負わせたところで、ゴーレムは出血もしないし痛みも感じない。第一、おそらくこのゴーレムにもあちらのもの同様、再生機能があるはず。ならば斬ったり叩いたりはそもそも無駄だ。
せめてジークロットの剣があれば、と思うが入手は困難だ。剣は今、クリスから見てゴーレムとカイハブを挟んで向こう側、かなり遠い位置に落ちてしまっている。
苦悩するクリスを見て、カイハブは余裕の表情で言った。
「さて、そろそろお前にも死んでもらおうか」
カイハブがクリスを杖で指すと、ゴーレムが歩き出した。クリスは後ずさる。
ゴーレムが踏み込んだ。クリスはじりじりと間合いを計りつつ後退する。
「やれいっ!」
ゴーレムの巨大な拳が、石柱のような足が、次々にクリスを襲ってきた。ラディアナならまだしも、クリスではこんな攻撃を受け止めることなど不可能だ。ゴミのように吹っ飛ばされるよりも先に、まず受けた腕の骨が折れる、いや粉々になるだろう。
クリスは、どうせ役に立たないからと剣を鞘に納め、身をかわすことに集中した。落ちてくる拳を避け、振り回される足を潜って、どうにか命中だけはさせないよう動く。
だがどうしても動きが大きくなるので、そう長くは体力がもたない。ラディアナと会った時の、ドラゴンを相手にした時と同じだ。
違うのはラディアナの助けは期待できないこと、ドラゴンは一匹だったがゴーレムは二体いること、加えてザセートとカイハブもいること。
息を切らせ、汗をかき始めたクリスを、カイハブは攻撃することなく楽しんで見物している。
「ゴーレムは、創造主を殺せば機能停止するぞ。何ならやってみるか、ん?」
「ええぇぇいっ!」
何度目かの振り上げの、振り下ろし寸前の瞬間、遠心力が弱まった隙を突いてラディアナが動いた。自分を拘束しているゴーレムの拳を、空いているほうの拳で殴りつけたのだ。
ゴーレムの拳は付け根から砕け散る。その付け根、手首の切断面から亡霊たちが飛び出して空中で破片を回収する。
その僅かな間にラディアナは自分の手を引き抜き、ゴーレムの拳が再生する前に手首を蹴って離れた。
ゴーレムの拳が元に戻った時、ラディアナは久々に着地し、自分の足で立った。だがその足は震え、力が入らない。
当然だ。普通の人間はもとより、そこらで暴れている魔物であっても、馬車に引かれたカエルのように潰れて死ぬほどのダメージを、ラディアナは負っているのだから。
クリスに着せてもらったエプロンドレスはボロボロで、見る影も無い。
「はあっ、はあっ……あ、新しい、服を……あんたの、財宝、根こそぎ、貰って、街に行っ、た、ら、クリスに……選んで、買ってもらう、からねっ……」
「ほう。幼い娘とはいえ流石は竜の端くれ、なかなかのしぶとさよの」
「は、端くれなんかじゃないっ! ど真ん中よっ、あたしは! それから、絶対、服! あんたに、弁償、させるからねっ!」
「今ここで死ぬ汝が、服の心配などしてどうする? それ、クリスとやらも」
ザセートが背後を指す。ラディアナが見る。
そこでは、とうとうかわしきれなくなったのか、クリスがゴーレムの攻撃を受けていた。クリスの、ラディアナほどではないが小柄な体、薄い胸に、ゴーレムの蹴りが叩き込まれている。
「クリスっっ!」
「そして汝も、これで最後だ」
ザセートが新たに呪文を唱える。またしても地面が振動し、床が割れ、石畳が持ち上がって組み上がり、新たなゴーレムが出現した。今度のものは最初のものと比べ、だいぶ小さい。せいぜいクリスと同じくらいの大きさだ。
だがその数は、五……十……十五……青ざめるラディアナに、ザセートが言い放った。
「殺すには惜しい、とは言わん。既に見た通り、我は汝を殺した後でも、隷属させることができるのだからな」
「……死んだって、あんたの奴隷なんかにはならないわよ」
ラディアナはゴーレムの群れを睨みつけて拳を握った。汗が冷たい。
ザセートが杖を振る。ゴーレムたちは、ラディアナに向かって無言で歩き出した。
もう息を吸うヒマはなく、ラディアナは拳で迎撃した。黒い大岩のようなゴーレムの拳と、ラディアナの白い蒸しパンのような拳が激突! ゴーレムの拳が粉々に砕け散った。
が、先程と同じく亡霊たちが傷口から伸び、宙を舞う無数の破片を瞬時に回収、拳を元通りにしてしまった。そこに突き刺さっていたラディアナの拳を、自らの拳の中に飲み込ませて。
「しまっ……」
「潰せっ!」
ラディアナの拳と融合した己の拳を、ゴーレムは頭上へ高々と振り上げた。全身丸ごと引っ張り上げられてしまっては、流石のラディアナも踏ん張ることもできず、されるがまま、引っ張られるままだ。上空でじたばたする他、何もできない。
ゴーレムは、まるで猛獣使いの振るう鞭のように自分の腕を、そしてその先端にいるラディアナを振り上げ振り回し……全力で、金属床に叩き付けた!
「うぁぐうっっ!」
「ラディアナ!」
「おっと、そうはさせん!」
腰の剣を抜き、ラディアナを助けに行こうとしたクリスを、またしてもカイハブの放った火の玉が襲った。
クリスは、今度は辛うじて身をかわすが、先の一撃で受けたダメージは小さくない。再度同じ攻撃を受けたら、立てるかどうか。そして、いつまでかわしきれるか。
いや、かわしてばかりではダメなのだ。ラディアナを助けに行かないと……と焦るクリスに、カイハブが言い放つ。
「お前なんぞが行っても助けにはならんぞ。何なら今、証明してやろうか? こいつをどうにかできんようでは、向こうに行っても娘を助けることは不可能じゃぞ!」
カイハブが杖を床に向けて呪文を唱えた。すると、その床が振動し、割れ、生き物のように石畳が組み上がって……身長でクリスの倍、肩幅なら三倍以上はある巨大なゴーレムが完成し、力強くクリスの前に立った。
カイハブは上方に浮いているザセートを見上げて言う。
「この部屋、すみずみまで奴隷たちの血と怨念が染み付いておるようじゃの。ここまで濃いと、利用するのも容易い。古き王よ、お前さんの暴君振りがよくわかるわい」
言われたザセートは、少し動揺した声で答えた。
「……ほざけ。そのような急ごしらえの真似事の術に、どれほどのものがあろうか。汝も、この娘を殺した後で叩き潰してくれる」
「フン。真似事は真似事でも、術の質や強さを読み取れぬわけではあるまい、お前ほどの使い手ならば。まあ、わしとしてはこいつらを始末し、剣を持ち帰ればいいのじゃ。大人しくしておるなら、お前には手は出さんぞ。剣以外の品にも手はつけん」
ザセートは一瞬考えたが、その話は後だと言い切るようにカイハブから視線を外し、正面に向き直った。
そこでは、極限的に短い鎖によるチェーンデスマッチとでも言おうか、拳と拳を融合させたゴーレムとラディアナが戦っている。もとい、ラディアナが一方的に痛めつけられていた。両者の絶望的な体格の差から、ラディアナは一たび持ち上げられてしまうと、もう何をどうやっても地面に足が着かないのだ。さんざんに振り回され、床に壁に叩きつけられまくっている。
助けに行きたいクリスの前にも、やはりゴーレムがいる。あのラディアナを、しかも本来の力が戻りつつあるという状態のラディアナを、叩きのめしているのとほぼ同じゴーレムだ。そしてこいつはザセートを動揺させるほどの、つまり少なくともあれと同等の強さをもったゴーレムなのだ。
今クリスの手にあるのはただの剣。これではゴーレムにダメージは与えられないだろう。仮に斬りつけ、少々の傷を負わせたところで、ゴーレムは出血もしないし痛みも感じない。第一、おそらくこのゴーレムにもあちらのもの同様、再生機能があるはず。ならば斬ったり叩いたりはそもそも無駄だ。
せめてジークロットの剣があれば、と思うが入手は困難だ。剣は今、クリスから見てゴーレムとカイハブを挟んで向こう側、かなり遠い位置に落ちてしまっている。
苦悩するクリスを見て、カイハブは余裕の表情で言った。
「さて、そろそろお前にも死んでもらおうか」
カイハブがクリスを杖で指すと、ゴーレムが歩き出した。クリスは後ずさる。
ゴーレムが踏み込んだ。クリスはじりじりと間合いを計りつつ後退する。
「やれいっ!」
ゴーレムの巨大な拳が、石柱のような足が、次々にクリスを襲ってきた。ラディアナならまだしも、クリスではこんな攻撃を受け止めることなど不可能だ。ゴミのように吹っ飛ばされるよりも先に、まず受けた腕の骨が折れる、いや粉々になるだろう。
クリスは、どうせ役に立たないからと剣を鞘に納め、身をかわすことに集中した。落ちてくる拳を避け、振り回される足を潜って、どうにか命中だけはさせないよう動く。
だがどうしても動きが大きくなるので、そう長くは体力がもたない。ラディアナと会った時の、ドラゴンを相手にした時と同じだ。
違うのはラディアナの助けは期待できないこと、ドラゴンは一匹だったがゴーレムは二体いること、加えてザセートとカイハブもいること。
息を切らせ、汗をかき始めたクリスを、カイハブは攻撃することなく楽しんで見物している。
「ゴーレムは、創造主を殺せば機能停止するぞ。何ならやってみるか、ん?」
「ええぇぇいっ!」
何度目かの振り上げの、振り下ろし寸前の瞬間、遠心力が弱まった隙を突いてラディアナが動いた。自分を拘束しているゴーレムの拳を、空いているほうの拳で殴りつけたのだ。
ゴーレムの拳は付け根から砕け散る。その付け根、手首の切断面から亡霊たちが飛び出して空中で破片を回収する。
その僅かな間にラディアナは自分の手を引き抜き、ゴーレムの拳が再生する前に手首を蹴って離れた。
ゴーレムの拳が元に戻った時、ラディアナは久々に着地し、自分の足で立った。だがその足は震え、力が入らない。
当然だ。普通の人間はもとより、そこらで暴れている魔物であっても、馬車に引かれたカエルのように潰れて死ぬほどのダメージを、ラディアナは負っているのだから。
クリスに着せてもらったエプロンドレスはボロボロで、見る影も無い。
「はあっ、はあっ……あ、新しい、服を……あんたの、財宝、根こそぎ、貰って、街に行っ、た、ら、クリスに……選んで、買ってもらう、からねっ……」
「ほう。幼い娘とはいえ流石は竜の端くれ、なかなかのしぶとさよの」
「は、端くれなんかじゃないっ! ど真ん中よっ、あたしは! それから、絶対、服! あんたに、弁償、させるからねっ!」
「今ここで死ぬ汝が、服の心配などしてどうする? それ、クリスとやらも」
ザセートが背後を指す。ラディアナが見る。
そこでは、とうとうかわしきれなくなったのか、クリスがゴーレムの攻撃を受けていた。クリスの、ラディアナほどではないが小柄な体、薄い胸に、ゴーレムの蹴りが叩き込まれている。
「クリスっっ!」
「そして汝も、これで最後だ」
ザセートが新たに呪文を唱える。またしても地面が振動し、床が割れ、石畳が持ち上がって組み上がり、新たなゴーレムが出現した。今度のものは最初のものと比べ、だいぶ小さい。せいぜいクリスと同じくらいの大きさだ。
だがその数は、五……十……十五……青ざめるラディアナに、ザセートが言い放った。
「殺すには惜しい、とは言わん。既に見た通り、我は汝を殺した後でも、隷属させることができるのだからな」
「……死んだって、あんたの奴隷なんかにはならないわよ」
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