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第三章 魔王の英雄
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パルフェの言葉にまた驚かされた二人が正面に向き直るが、既にカイハブは八割方喰われてしまっていた。巨大妖魔は、口の周りを緑色の体液で汚し、もぐもぐとカイハブの肉を咀嚼している。カイハブは既に息絶えたのか、本体も触手も、ぴくりともしない。
その残った肉塊めがけて、ラディアナが炎の玉を吹き付ける。巨大妖魔は、もう満腹だと言わんばかりに、自分から肉塊を投げつけた。炎の玉と肉塊がぶつかり合い、ラディアナと巨大妖魔との間で爆発する。肉が焼け、弾け飛び、黒い煙が上がった。
その煙の向こうに立つ巨大妖魔。いつの間にか、クリスが斬り付けた足首の傷は埋まっている。若干、周囲とは違う色の肉によって。
だが変わったのはそこだけではない。鎧のように全身を覆っていた外骨格が、何やら揺れている。カタカタと音を立てて。まるでその内側に、無数の蟲が這っているかのように。
「ゴオオォォアアアアアアアアァァァァッ!」
這っていたのは蟲ではなく、肉。内側から膨張し、波打つ肉がその正体だった。
その肉が今、己を押し込める戒めをぶち破った。巨大妖魔の全身の筋肉が一気に肥大化し、外骨格を押し破り破壊し、その破片を爆発したように飛び散らせる。
その後に残ったのは、不自然なまでに太い腕と脚、歪んだ形の胸や腹、てらてらと光る肉をむき出しにした、異形の生物であった。もともとこの世界の自然ならざる生物である妖魔だが、今の姿はもう、百の異世界を巡ってもどこにもいないであろうと思わせるものがある。
ラディアナとクリスは吐き気すら覚え、言葉を失った。その隙を突いて、筋肉の塊と化した巨大妖魔が地を蹴り跳躍! 瞬きする間もなくラディアナの胸に蹴りを叩き込んだ。刃物のように皮を破って突き刺さりはしないものの、巨大妖魔の足首が全て、ラディアナの胸の中に埋まりきる一撃だ。
唾液と胃液を吐きながら、ラディアナの巨体が真後ろに飛ぶ。間髪入れず、着地した巨大妖魔は拳で地面を薙ぎ払った。そこにいたクリスが屋根で打たれた騎士たちと同じように、軽々と打ち飛ばされる。
それでも、深手を負いながらも、二人は倒れることなく地に立った。だが、深手だ。
ラディアナの口の端からは、血の混じった吐瀉物が溢れている。それをぺっと吐き出して、汚らわしいものを見る目で巨大妖魔を見た。
「生みの親を食べて、こんなに強くなったってわけ? 最悪ね」
「あの巨大妖魔自身、元々はカイハブの道具だったけど……今度はカイハブが道具になったわけか。力を増すための」
《道具なんていいものじゃないでしょ。見てた通り、エサよエサ。しかも、自分から望んで。それほど、ワタシたちを殺したいみたいね》
「ふん、逆恨みもいいとこだわ! こっちは里のみんなの命がかかってるっていうのに!」
「何であれ、人々を苦しめる邪悪な存在に負けるわけにはいかないっ!」
怯むことなく立つ二人の目の前で、巨大妖魔の様子が、またおかしくなってきた。剥き出しの肉が、ボコボコと泡立っている。両肩から腕全体、そして両手の指と、まるで沸騰している熱湯のようだ。と思っていたら、湯気まで立ち始めている。
「まだ何かやる気? そうはさせな……」
巨大妖魔に向かって炎を吐こうとしたラディアナの言葉が止まった。いや、呼吸ごと止められた。巨大妖魔の、右掌の泡が弾けたその後から、巣を追われた蛇のように飛び出し伸びた、肉色の触手一本によって。
それはラディアナの首に巻きつき、喉を強烈な力で締め付け、空気の流れを完全に塞いでいる。
「か……はっ……!」
ラディアナは両手で触手を掴み、爪を立てて引き裂こうとする。が、窒息で体が痺れ、力が入らないこともあって、強化触手の弾力ある肉には通用しない。
巨大妖魔が、右手首に左手を添え、ラディアナに背を向けた。両手を使って力を込め、まるで重い荷物を背負うように、ラディアナを背負って吊り上げ、振り上げる。その力の支点、ラディアナの全体重を支えているのは、ラディアナの首を絞める触手、その締める一点!
「…………!」
一瞬、完全に、「首吊り」の形が出来上がる。呻き声を搾り出すこともできずに、ラディアナは首を絞められたまま巨大妖魔の頭上を越えて飛び、真っ逆さまに地面へと、頭から叩き付けられた。呼吸の不足と脳震盪とが重なり、ラディアナの思考が混濁から消失へと落ちていく。
容赦なく間髪入れず、巨大妖魔は倒れたラディアナを再び引きずり上げ、また同じように振り上げ、振り下ろした。そのまま地面へと……
「ラディアナああぁぁっ!」
ラディアナの落下地点へと、クリスが走った。落ちてくるラディアナより先にその場へ到達したクリスは、ラディアナに向かってパルフェを構え、ジャンプする。鎧の効果で強化された脚力は、超人的な跳躍力を発揮してクリスを打ち上げる。そのクリスの、構えるパルフェの狙いは、ラディアナを締め続ける触手だ。
上昇するクリスと下降するラディアナが交差した瞬間、パルフェの刃が一閃した。巨大妖魔の腕力とラディアナ自身の体重とにより、圧倒的な力で落下してくるところに上への力で斬り付けたのだ。流石の強化触手も耐久限界を越え、切断された。
気道の締め付けが解除され、呼吸と共に意識を回復させたラディアナは、まだ機能不全である運動神経に鞭打って、両手と首と尾を動かした。受身を取って地面を転がり、頭からの落下だけは辛うじて防ぐ。
苦しさのあまり目を開けていられずギュッと閉じて、犬のように舌を突き出し、荒々しい呼吸を繰り返すラディアナのそばに、遅れてクリスが着地した。
「ラディアナ……」
「……っだ、っだ、だ、だっ、だい、じょうぶ……っ」
少しずつ呼吸を整えて、ラディアナが返事をする。
その間にも、巨大妖魔の泡立ち沸騰は勢いを増していた。両手両肩だけでなく、今は胸と腹も含めて上半身全体をボコボコと泡立たせている。
そういえば今、右掌の泡が弾けたところから触手が生えたのだ。……ということは。
予想が的中した。距離を取ろうとしたラディアナへ向けて、巨大妖魔の上半身全域から、まるで何かが爆発して飛び散るように、無数の触手が生えて伸びて襲いかかる!
「ぅわっ!」
先程の苦痛がまだ残っているラディアナは、咄嗟に両腕と尾を使って喉を庇った。だが触手たちはそれに構わず、腕も尾も巻き込んで、ラディアナを何重にも巻いて巻いて、縛りつけた。
腕と尾を間に挟んで押し返しているので、喉は絞まっていない。だが何本も重ねて束ねられた触手たちは恐ろしい力で締め付けてきており、いかにラディアナとて押し返すことはできない。
触手は、喉をガードした体勢の両腕ごとラディアナを巻いて縛っているので、ラディアナのすぐ目の前にもある。だからこの状態で爆発する炎の玉を撃てば、自分も巻き込まれてしまう。単純な力で押し返して、締められるのを防ぐのが精いっぱいだ。これではラディアナには打つ手がない。
触手を巻いて作った筒の中にすっぽり入っている形だから、巨大妖魔本体からの殴る蹴るをされることはない。が、このまま締められ続ければいずれ潰される。ついさっき、たった一本の触手で首を吊り上げられて投げ飛ばされたのだ。その触手が今度は、何本も束ねられて締め付けにきている。力の差は明白、そう長くは抵抗できない。
一方、クリスもまた触手に襲われ、苦戦していた。ラディアナとは違ってほんの数本だが、それでも巨大なドラゴンではなく常人サイズのクリスには、立派な大蛇たちである。
パルフェのおかげで斬ることはできるし、鎧のおかげで機敏に動けてもいるが、大蛇たちは斬られても斬られても新手が生えてきて、怯むことなく襲いかかってくる。
「はあっ、はあっ、こ、こいつ、どうしてこんな、まるで無限……」
《まず、カイハブを食ったことによる魔力補給があった。そしてその意思、いえ、遺志だけで動かされてるからよ。相討ち大歓迎でワタシたちを殺そうとしてる。ワタシたちを殺せさえすれば、次の瞬間に干からびて死んでもいいってね。このまま持久戦してたら、勝ち目はないわ》
「……」
《クリス君。まさかまた、ラディアナちゃんを助けられれば自分は死んでもいいみたいなこと、考えてるんじゃないでしょうね。そんなことしても、》
「解ってる。考えなしの無駄死にをする気はないよ。ただ、持久戦ができないなら何らかのバクチを打つしかないし、ここから逆転できるとしたらやっぱりラディアナの力に頼るしか……」
見上げれば、まるで聳え立つ塔のように、とぐろを巻いた触手がある。その巻きつきの中心にラディアナがいるのだが、クリスからはラディアナの体が見えない。触手の塔の頂上付近で、まるで触手の海に溺れているように、頭頂部の角を突き出しているのが見えるだけだ。
『あそこまで行ければ……今の僕なら、パルフェのくれたこの鎧の力があれば……よしっ!』
決意したクリスは、襲ってくる触手たちを一通り斬りつけ、僅かな隙を作った。その間に横を向き、跳び上がる。触手の階段を次々に蹴って、上へ上へと上がっていく。
人間の体を跳ね上がる蚤よろしく、体の小ささに釣り合わぬ跳躍力で、クリスは一気に頂上へと到達した。ラディアナの角を蹴って少し前に跳び、高さと勢いをつけ、下方に向かってパルフェを構える。眼下にあるのは、巨大妖魔と縛られたラディアナとを繋ぐ、無数の触手の束。そこへ向かって、クリスは下降していく。
《って、まさかあれを全部ワタシで斬る気なのっ?》
「できないっての? 魔王の最後の、最高傑作たる魔剣パルフェ!」
《! で、できるわよ、当然!》
「よしっ! いくぞおおおおぉぉ!」
その残った肉塊めがけて、ラディアナが炎の玉を吹き付ける。巨大妖魔は、もう満腹だと言わんばかりに、自分から肉塊を投げつけた。炎の玉と肉塊がぶつかり合い、ラディアナと巨大妖魔との間で爆発する。肉が焼け、弾け飛び、黒い煙が上がった。
その煙の向こうに立つ巨大妖魔。いつの間にか、クリスが斬り付けた足首の傷は埋まっている。若干、周囲とは違う色の肉によって。
だが変わったのはそこだけではない。鎧のように全身を覆っていた外骨格が、何やら揺れている。カタカタと音を立てて。まるでその内側に、無数の蟲が這っているかのように。
「ゴオオォォアアアアアアアアァァァァッ!」
這っていたのは蟲ではなく、肉。内側から膨張し、波打つ肉がその正体だった。
その肉が今、己を押し込める戒めをぶち破った。巨大妖魔の全身の筋肉が一気に肥大化し、外骨格を押し破り破壊し、その破片を爆発したように飛び散らせる。
その後に残ったのは、不自然なまでに太い腕と脚、歪んだ形の胸や腹、てらてらと光る肉をむき出しにした、異形の生物であった。もともとこの世界の自然ならざる生物である妖魔だが、今の姿はもう、百の異世界を巡ってもどこにもいないであろうと思わせるものがある。
ラディアナとクリスは吐き気すら覚え、言葉を失った。その隙を突いて、筋肉の塊と化した巨大妖魔が地を蹴り跳躍! 瞬きする間もなくラディアナの胸に蹴りを叩き込んだ。刃物のように皮を破って突き刺さりはしないものの、巨大妖魔の足首が全て、ラディアナの胸の中に埋まりきる一撃だ。
唾液と胃液を吐きながら、ラディアナの巨体が真後ろに飛ぶ。間髪入れず、着地した巨大妖魔は拳で地面を薙ぎ払った。そこにいたクリスが屋根で打たれた騎士たちと同じように、軽々と打ち飛ばされる。
それでも、深手を負いながらも、二人は倒れることなく地に立った。だが、深手だ。
ラディアナの口の端からは、血の混じった吐瀉物が溢れている。それをぺっと吐き出して、汚らわしいものを見る目で巨大妖魔を見た。
「生みの親を食べて、こんなに強くなったってわけ? 最悪ね」
「あの巨大妖魔自身、元々はカイハブの道具だったけど……今度はカイハブが道具になったわけか。力を増すための」
《道具なんていいものじゃないでしょ。見てた通り、エサよエサ。しかも、自分から望んで。それほど、ワタシたちを殺したいみたいね》
「ふん、逆恨みもいいとこだわ! こっちは里のみんなの命がかかってるっていうのに!」
「何であれ、人々を苦しめる邪悪な存在に負けるわけにはいかないっ!」
怯むことなく立つ二人の目の前で、巨大妖魔の様子が、またおかしくなってきた。剥き出しの肉が、ボコボコと泡立っている。両肩から腕全体、そして両手の指と、まるで沸騰している熱湯のようだ。と思っていたら、湯気まで立ち始めている。
「まだ何かやる気? そうはさせな……」
巨大妖魔に向かって炎を吐こうとしたラディアナの言葉が止まった。いや、呼吸ごと止められた。巨大妖魔の、右掌の泡が弾けたその後から、巣を追われた蛇のように飛び出し伸びた、肉色の触手一本によって。
それはラディアナの首に巻きつき、喉を強烈な力で締め付け、空気の流れを完全に塞いでいる。
「か……はっ……!」
ラディアナは両手で触手を掴み、爪を立てて引き裂こうとする。が、窒息で体が痺れ、力が入らないこともあって、強化触手の弾力ある肉には通用しない。
巨大妖魔が、右手首に左手を添え、ラディアナに背を向けた。両手を使って力を込め、まるで重い荷物を背負うように、ラディアナを背負って吊り上げ、振り上げる。その力の支点、ラディアナの全体重を支えているのは、ラディアナの首を絞める触手、その締める一点!
「…………!」
一瞬、完全に、「首吊り」の形が出来上がる。呻き声を搾り出すこともできずに、ラディアナは首を絞められたまま巨大妖魔の頭上を越えて飛び、真っ逆さまに地面へと、頭から叩き付けられた。呼吸の不足と脳震盪とが重なり、ラディアナの思考が混濁から消失へと落ちていく。
容赦なく間髪入れず、巨大妖魔は倒れたラディアナを再び引きずり上げ、また同じように振り上げ、振り下ろした。そのまま地面へと……
「ラディアナああぁぁっ!」
ラディアナの落下地点へと、クリスが走った。落ちてくるラディアナより先にその場へ到達したクリスは、ラディアナに向かってパルフェを構え、ジャンプする。鎧の効果で強化された脚力は、超人的な跳躍力を発揮してクリスを打ち上げる。そのクリスの、構えるパルフェの狙いは、ラディアナを締め続ける触手だ。
上昇するクリスと下降するラディアナが交差した瞬間、パルフェの刃が一閃した。巨大妖魔の腕力とラディアナ自身の体重とにより、圧倒的な力で落下してくるところに上への力で斬り付けたのだ。流石の強化触手も耐久限界を越え、切断された。
気道の締め付けが解除され、呼吸と共に意識を回復させたラディアナは、まだ機能不全である運動神経に鞭打って、両手と首と尾を動かした。受身を取って地面を転がり、頭からの落下だけは辛うじて防ぐ。
苦しさのあまり目を開けていられずギュッと閉じて、犬のように舌を突き出し、荒々しい呼吸を繰り返すラディアナのそばに、遅れてクリスが着地した。
「ラディアナ……」
「……っだ、っだ、だ、だっ、だい、じょうぶ……っ」
少しずつ呼吸を整えて、ラディアナが返事をする。
その間にも、巨大妖魔の泡立ち沸騰は勢いを増していた。両手両肩だけでなく、今は胸と腹も含めて上半身全体をボコボコと泡立たせている。
そういえば今、右掌の泡が弾けたところから触手が生えたのだ。……ということは。
予想が的中した。距離を取ろうとしたラディアナへ向けて、巨大妖魔の上半身全域から、まるで何かが爆発して飛び散るように、無数の触手が生えて伸びて襲いかかる!
「ぅわっ!」
先程の苦痛がまだ残っているラディアナは、咄嗟に両腕と尾を使って喉を庇った。だが触手たちはそれに構わず、腕も尾も巻き込んで、ラディアナを何重にも巻いて巻いて、縛りつけた。
腕と尾を間に挟んで押し返しているので、喉は絞まっていない。だが何本も重ねて束ねられた触手たちは恐ろしい力で締め付けてきており、いかにラディアナとて押し返すことはできない。
触手は、喉をガードした体勢の両腕ごとラディアナを巻いて縛っているので、ラディアナのすぐ目の前にもある。だからこの状態で爆発する炎の玉を撃てば、自分も巻き込まれてしまう。単純な力で押し返して、締められるのを防ぐのが精いっぱいだ。これではラディアナには打つ手がない。
触手を巻いて作った筒の中にすっぽり入っている形だから、巨大妖魔本体からの殴る蹴るをされることはない。が、このまま締められ続ければいずれ潰される。ついさっき、たった一本の触手で首を吊り上げられて投げ飛ばされたのだ。その触手が今度は、何本も束ねられて締め付けにきている。力の差は明白、そう長くは抵抗できない。
一方、クリスもまた触手に襲われ、苦戦していた。ラディアナとは違ってほんの数本だが、それでも巨大なドラゴンではなく常人サイズのクリスには、立派な大蛇たちである。
パルフェのおかげで斬ることはできるし、鎧のおかげで機敏に動けてもいるが、大蛇たちは斬られても斬られても新手が生えてきて、怯むことなく襲いかかってくる。
「はあっ、はあっ、こ、こいつ、どうしてこんな、まるで無限……」
《まず、カイハブを食ったことによる魔力補給があった。そしてその意思、いえ、遺志だけで動かされてるからよ。相討ち大歓迎でワタシたちを殺そうとしてる。ワタシたちを殺せさえすれば、次の瞬間に干からびて死んでもいいってね。このまま持久戦してたら、勝ち目はないわ》
「……」
《クリス君。まさかまた、ラディアナちゃんを助けられれば自分は死んでもいいみたいなこと、考えてるんじゃないでしょうね。そんなことしても、》
「解ってる。考えなしの無駄死にをする気はないよ。ただ、持久戦ができないなら何らかのバクチを打つしかないし、ここから逆転できるとしたらやっぱりラディアナの力に頼るしか……」
見上げれば、まるで聳え立つ塔のように、とぐろを巻いた触手がある。その巻きつきの中心にラディアナがいるのだが、クリスからはラディアナの体が見えない。触手の塔の頂上付近で、まるで触手の海に溺れているように、頭頂部の角を突き出しているのが見えるだけだ。
『あそこまで行ければ……今の僕なら、パルフェのくれたこの鎧の力があれば……よしっ!』
決意したクリスは、襲ってくる触手たちを一通り斬りつけ、僅かな隙を作った。その間に横を向き、跳び上がる。触手の階段を次々に蹴って、上へ上へと上がっていく。
人間の体を跳ね上がる蚤よろしく、体の小ささに釣り合わぬ跳躍力で、クリスは一気に頂上へと到達した。ラディアナの角を蹴って少し前に跳び、高さと勢いをつけ、下方に向かってパルフェを構える。眼下にあるのは、巨大妖魔と縛られたラディアナとを繋ぐ、無数の触手の束。そこへ向かって、クリスは下降していく。
《って、まさかあれを全部ワタシで斬る気なのっ?》
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「よしっ! いくぞおおおおぉぉ!」
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