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第一章 事務長、初仕事で豪傑と美女の激闘を見る
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高く、堅固で、長大な城壁の外周をぐるりと一周するとしたら、一体何日かかることか。
そんな城壁に囲まれた城下町は、街路が縦横にきちんと整備され、数え切れないほどの商店と住居が並び、豊かで明るく賑やかで、活気に溢れている。街の隅に行けば、ごく僅かに貧民街、いわゆるスラムらしきエリアもあるにはある。が、質・量ともに充分な騎士団が街の治安維持活動を怠らないので、そうそう凶悪な犯罪は発生しない。
リンガーメル王国の首都、ガルバン。世界に冠たる大国の、王の城下町にふさわしい大都市である。この町の景観がすなわち、リンガーメルの豊かな経済力と、国内外の平和を守るのに充分な軍事力と、為政者の政治力などなど、それら全てをこれでもかと見せつけている。
そんなガルバンの、一際賑やかな大通り、商店街。屈強な傭兵が武器を買ったり、怪しい魔術師が薬を売ったり、そこいらの奥さん連中が野菜を買ったりしている朝。
十七歳になったミレイアが歩いていた。仕事で、商店会長宅に書類を届けた帰りである。
「いよいよ明日、か……」
ぽつりと呟き、ミレイアは広げた手の中指で、愛用の眼鏡をくいっと押し上げる。鼻があまり高くないので、普段からずり落ち気味なのだ。
とはいえ、その鼻もそれはそれで彼女の顔の中では、愛嬌になっている。実用性以外は何も備えていない黒縁眼鏡に、きつく三つ編みにして肩から前に垂らしている髪など、装いについては堅苦しさを突き詰めているミレイアのことだ。小さな鼻と、少し垂れ気味みの丸い目は、少女らしさへのバランスを取るのにちょうどいい。
十七歳としては若干小柄なその身にまとっているのは、王城勤めの文官用の制服。濃い蒼を基調にした、直線的で折り目まっすぐの、礼服のようなデザインだ。これがまた、ミレイアの堅苦しい印象を強めている。似合っているといえば間違いなく似合っているが。
なお、スカート丈がやけに短いのだが、これは城内外を問わず大好評である(他国人にすら支持者は多い)ので、変更の予定はないとのこと。
ミレイアも仕方なく、例に漏れず、ほんの少し太めなのを気にしている太ももを、9割がた晒して歩いている。
『今まで、仕事と勉強に明け暮れて、美容とかお洒落とか、気にする余裕はなかったものね』
だから運動不足でちょっぴり太めなんだ、そうだそのせいだ、それにその代わり、胸の大きさならちょっとは自信あるもん! とか思いながら歩いていたミレイアは、ふと足を止めた。
花屋の店先に、綺麗な花がたくさん並んでいる。そしてその隣は果物屋で、こちらは甘くて美味しそうな匂いを振りまいている。
『そう。今までのわたしは、花ではなく実ばかりをひたすら追ってきた。長かった……』
ミレイアは目を閉じ、ここまでの苦闘を振り返った。
大魔王を倒して伝説になって本に載る美少女魔術師、を諦めて幾年。大魔王の打倒、つまり戦うことがアテにならないと悟り、他の手段を模索するミレイアが辿り着いたのが、文官としての出世だった。国を動かす地位に就き、政治経済の面で大きな功績を残せば、永く称えられる偉人となる。そうなれば、歴史関係の本に載るだろう、と。
だが、思い定めたその道は、辛く苦しかった。勉強に勉強を重ねる日々だった。年齢性別身分を問わない、一般向けの文官登用試験(もちろん狭き門だった)に合格し、職務をこなしながらまた勉強して。そして女王陛下による、新政策公募に会心の一策を提出し……見事採用!
明日が、その表彰式だ。そしてその策の今後について、女王陛下直々に、詳しい沙汰が下されることとなる。
ミレイアの、これまでの苦労が報われる日が来たのだ。もちろん、まだまだ最終目標の達成には遠い。だが、そこに通じる輝かしい道への門が、ようやく開いたのである。
ミレイアは目を開いた。
そして花屋に歩み寄り、一輪の花に顔を近づけて、そっと匂いを嗅いでみる。
「これからは……少しぐらいは、実ばかりでなく、花のことを気にしてもいいかな」
これからのミレイアは王城の奥深くで、レベルの高い政務に関わっていく可能性が高い。そうなれば、高位の騎士と触れ合うこともあろう。その中には、強くて優しくて見目麗しい男性が、きっといるだろう。
いや、いる。しかもたくさん。密かに今まで、遠目でチェックしてきた。それが今後は、遠くからではなく近くで見られるのだ。話だってできるのだ。
となれば。やはり女性として、それなりの身だしなみというものも必要であろう。
「いやいや、そんなうわついた気持ちでいては。でも騎士様たちって、ほんと素敵な方がたくさんおられて……って、だからそんな雑念を抱いていては、でも、」
花屋の店先で、花に顔を近づけて、ぶつぶつ言ってる文官制服姿の少女。
花屋の店主は、「らっしゃい!」と声をかけるべきか否か戸惑っていた。
「出世したらほら、パーティーへの出席とかもあるし、そうしたら綺麗なドレスを着るから、そういう時に向こうから見惚れられるという可能性……んっ?」
ぶつぶつぶつぶつ言っていたミレイアの耳に、羽音が聞こえた。ハエやカではない、明らかにハチの羽音だ。
反射的に音のした方を見ると、花の匂いにつられて来たのか、かなり大きめのハチがいた。まっすぐにミレイアの方へと向かって飛んできている。
ミレイアが手を振り回すと、幸い、ハチはすぐに離れていった。ほっと安堵して、しかし再度向かってきたりしないか確認すべく、ミレイアはハチの行方を目で追いかけた。
ハチは、通りを行き交う人々の頭上を掠めるように飛んで、どんどん離れていく。もう大丈夫らしい、とミレイアが視線を外そうとした時、それは起こった。
ミレイアの手から逃げるのに体力を使ったのか、それで疲れて休もうとしたのか。ハチは降下して、ある穴に潜り込んだのだ。たまたまそこにいた、荷車を引く牛の耳に。
「グモオオオオォォォォ!」
暴れ馬ならぬ暴れ牛の咆哮、少し遅れて金属音が響いた。間の悪いことに、荷車の金具が古く痛んでいたらしい。激しい勢いで跳ね上がった牛の力によって、金具はあっけなく壊れてしまったのだ。それにより、血走った目で吼える牛が、解き放たれて走りだした。
買い物客たちが悲鳴を上げて逃げ散る。牛は、自身は何も考えていないのだろうが、偶然にも事態の発端(?)であるミレイアに向かってまっすぐに突進してきた。
逃げよう、としたミレイアだが、たった一歩で足を止めた。
瞬く間に人々が走り去って、人気の絶えた通りに、一人だけ残っている。他の皆と同じように逃げようとして転倒したのだろう、まだ五歳にもならぬと見える女の子が。
傷が痛むのか立ち上がれないその子は、ミレイアと牛との間の、ミレイア寄りの位置にいる。といっても、牛はミレイアめがけて突進しているから、あっという間に「ミレイア寄りの位置」ではなくなるだろう。つまり、牛があの子に到達する。跳ね飛ばすか、踏み潰すか。
また「ミレイアめがけて突進」というのも、それは現在の位置関係からの推測に過ぎない。ミレイアが位置を移動しても、それを牛が追いかけるとは限らない。ミレイアを無視して今のままの進路を保つ、つまり女の子へ向かうことをやめない、というのは充分に考えられる。
ミレイアが囮になって牛を引き付ける、というのはできないわけだ。ではどうするか?
「ええぇぇいっ!」
ミレイアはまっすぐ走った。女の子に向かって、牛に向かって。
激しい動きと風とでスカートが捲れるのも気にせず、というより気づかず、ひたすらに全力疾走。そのおかげで、牛より先に女の子の場所まで到着できた。だがもう牛は目の前だ。いくら女の子が幼い、軽いといっても、一瞬で掻っ攫って大きく横っ跳びできるような筋力も運動神経も、ミレイアにはない。
この状況を打破する手段は一つ! かつて憧れ、目指した美少女魔術師。幼き日に修得した技。初歩の段階で修行をやめたとはいえ、才能があるらしいのは自覚できた。それに賭ける!
ミレイアは滑り込むように片膝をついて、牛に向かって手を突き出した。
『効いてっっ!』
牛を殺す必要も、重傷を負わせる必要もない。ちょっと怯ませて、足を止めるだけでいい。巨大な魔物を打ち倒すような、そんな威力の十分の一、いや百分の一以下でいい。目くらまし程度でいいのだ。その程度なら幼い頃に実際にできた、今もきっとできる。
ミレイアは早口で呪文を唱え、炎の術を放った! ……はずだった。
が、やはりブランクのせいか。恐怖と緊張で慌てて舌がもつれたせいか。術は不発に終わり、火花も煙も出なかった。猛然と突進してくる猛牛は、あと二歩の距離。
恐怖のあまり悲鳴を上げることもできず、ミレイアは女の子を抱きしめ、目を閉じた。あと一歩の距離。
ここで、かつて自分が憧れたような美少女魔術師とか、あるいは通りすがりの美形剣士とか。そういうのが、カッコよく助けに入ってくれないかなっ! という思いが、ミレイアの結構ふくよかな胸によぎる。
その思いは、完全にではないが実現した。牛との距離がゼロになる寸前、
「おっ、と」
女の子を抱きしめたまま、腰を抜かしてへたり込んでいるミレイアの頭上で声がした。
牛の足はまだ、ミレイアを踏みつけていない。
『? た、助けが……来た?』
そんな城壁に囲まれた城下町は、街路が縦横にきちんと整備され、数え切れないほどの商店と住居が並び、豊かで明るく賑やかで、活気に溢れている。街の隅に行けば、ごく僅かに貧民街、いわゆるスラムらしきエリアもあるにはある。が、質・量ともに充分な騎士団が街の治安維持活動を怠らないので、そうそう凶悪な犯罪は発生しない。
リンガーメル王国の首都、ガルバン。世界に冠たる大国の、王の城下町にふさわしい大都市である。この町の景観がすなわち、リンガーメルの豊かな経済力と、国内外の平和を守るのに充分な軍事力と、為政者の政治力などなど、それら全てをこれでもかと見せつけている。
そんなガルバンの、一際賑やかな大通り、商店街。屈強な傭兵が武器を買ったり、怪しい魔術師が薬を売ったり、そこいらの奥さん連中が野菜を買ったりしている朝。
十七歳になったミレイアが歩いていた。仕事で、商店会長宅に書類を届けた帰りである。
「いよいよ明日、か……」
ぽつりと呟き、ミレイアは広げた手の中指で、愛用の眼鏡をくいっと押し上げる。鼻があまり高くないので、普段からずり落ち気味なのだ。
とはいえ、その鼻もそれはそれで彼女の顔の中では、愛嬌になっている。実用性以外は何も備えていない黒縁眼鏡に、きつく三つ編みにして肩から前に垂らしている髪など、装いについては堅苦しさを突き詰めているミレイアのことだ。小さな鼻と、少し垂れ気味みの丸い目は、少女らしさへのバランスを取るのにちょうどいい。
十七歳としては若干小柄なその身にまとっているのは、王城勤めの文官用の制服。濃い蒼を基調にした、直線的で折り目まっすぐの、礼服のようなデザインだ。これがまた、ミレイアの堅苦しい印象を強めている。似合っているといえば間違いなく似合っているが。
なお、スカート丈がやけに短いのだが、これは城内外を問わず大好評である(他国人にすら支持者は多い)ので、変更の予定はないとのこと。
ミレイアも仕方なく、例に漏れず、ほんの少し太めなのを気にしている太ももを、9割がた晒して歩いている。
『今まで、仕事と勉強に明け暮れて、美容とかお洒落とか、気にする余裕はなかったものね』
だから運動不足でちょっぴり太めなんだ、そうだそのせいだ、それにその代わり、胸の大きさならちょっとは自信あるもん! とか思いながら歩いていたミレイアは、ふと足を止めた。
花屋の店先に、綺麗な花がたくさん並んでいる。そしてその隣は果物屋で、こちらは甘くて美味しそうな匂いを振りまいている。
『そう。今までのわたしは、花ではなく実ばかりをひたすら追ってきた。長かった……』
ミレイアは目を閉じ、ここまでの苦闘を振り返った。
大魔王を倒して伝説になって本に載る美少女魔術師、を諦めて幾年。大魔王の打倒、つまり戦うことがアテにならないと悟り、他の手段を模索するミレイアが辿り着いたのが、文官としての出世だった。国を動かす地位に就き、政治経済の面で大きな功績を残せば、永く称えられる偉人となる。そうなれば、歴史関係の本に載るだろう、と。
だが、思い定めたその道は、辛く苦しかった。勉強に勉強を重ねる日々だった。年齢性別身分を問わない、一般向けの文官登用試験(もちろん狭き門だった)に合格し、職務をこなしながらまた勉強して。そして女王陛下による、新政策公募に会心の一策を提出し……見事採用!
明日が、その表彰式だ。そしてその策の今後について、女王陛下直々に、詳しい沙汰が下されることとなる。
ミレイアの、これまでの苦労が報われる日が来たのだ。もちろん、まだまだ最終目標の達成には遠い。だが、そこに通じる輝かしい道への門が、ようやく開いたのである。
ミレイアは目を開いた。
そして花屋に歩み寄り、一輪の花に顔を近づけて、そっと匂いを嗅いでみる。
「これからは……少しぐらいは、実ばかりでなく、花のことを気にしてもいいかな」
これからのミレイアは王城の奥深くで、レベルの高い政務に関わっていく可能性が高い。そうなれば、高位の騎士と触れ合うこともあろう。その中には、強くて優しくて見目麗しい男性が、きっといるだろう。
いや、いる。しかもたくさん。密かに今まで、遠目でチェックしてきた。それが今後は、遠くからではなく近くで見られるのだ。話だってできるのだ。
となれば。やはり女性として、それなりの身だしなみというものも必要であろう。
「いやいや、そんなうわついた気持ちでいては。でも騎士様たちって、ほんと素敵な方がたくさんおられて……って、だからそんな雑念を抱いていては、でも、」
花屋の店先で、花に顔を近づけて、ぶつぶつ言ってる文官制服姿の少女。
花屋の店主は、「らっしゃい!」と声をかけるべきか否か戸惑っていた。
「出世したらほら、パーティーへの出席とかもあるし、そうしたら綺麗なドレスを着るから、そういう時に向こうから見惚れられるという可能性……んっ?」
ぶつぶつぶつぶつ言っていたミレイアの耳に、羽音が聞こえた。ハエやカではない、明らかにハチの羽音だ。
反射的に音のした方を見ると、花の匂いにつられて来たのか、かなり大きめのハチがいた。まっすぐにミレイアの方へと向かって飛んできている。
ミレイアが手を振り回すと、幸い、ハチはすぐに離れていった。ほっと安堵して、しかし再度向かってきたりしないか確認すべく、ミレイアはハチの行方を目で追いかけた。
ハチは、通りを行き交う人々の頭上を掠めるように飛んで、どんどん離れていく。もう大丈夫らしい、とミレイアが視線を外そうとした時、それは起こった。
ミレイアの手から逃げるのに体力を使ったのか、それで疲れて休もうとしたのか。ハチは降下して、ある穴に潜り込んだのだ。たまたまそこにいた、荷車を引く牛の耳に。
「グモオオオオォォォォ!」
暴れ馬ならぬ暴れ牛の咆哮、少し遅れて金属音が響いた。間の悪いことに、荷車の金具が古く痛んでいたらしい。激しい勢いで跳ね上がった牛の力によって、金具はあっけなく壊れてしまったのだ。それにより、血走った目で吼える牛が、解き放たれて走りだした。
買い物客たちが悲鳴を上げて逃げ散る。牛は、自身は何も考えていないのだろうが、偶然にも事態の発端(?)であるミレイアに向かってまっすぐに突進してきた。
逃げよう、としたミレイアだが、たった一歩で足を止めた。
瞬く間に人々が走り去って、人気の絶えた通りに、一人だけ残っている。他の皆と同じように逃げようとして転倒したのだろう、まだ五歳にもならぬと見える女の子が。
傷が痛むのか立ち上がれないその子は、ミレイアと牛との間の、ミレイア寄りの位置にいる。といっても、牛はミレイアめがけて突進しているから、あっという間に「ミレイア寄りの位置」ではなくなるだろう。つまり、牛があの子に到達する。跳ね飛ばすか、踏み潰すか。
また「ミレイアめがけて突進」というのも、それは現在の位置関係からの推測に過ぎない。ミレイアが位置を移動しても、それを牛が追いかけるとは限らない。ミレイアを無視して今のままの進路を保つ、つまり女の子へ向かうことをやめない、というのは充分に考えられる。
ミレイアが囮になって牛を引き付ける、というのはできないわけだ。ではどうするか?
「ええぇぇいっ!」
ミレイアはまっすぐ走った。女の子に向かって、牛に向かって。
激しい動きと風とでスカートが捲れるのも気にせず、というより気づかず、ひたすらに全力疾走。そのおかげで、牛より先に女の子の場所まで到着できた。だがもう牛は目の前だ。いくら女の子が幼い、軽いといっても、一瞬で掻っ攫って大きく横っ跳びできるような筋力も運動神経も、ミレイアにはない。
この状況を打破する手段は一つ! かつて憧れ、目指した美少女魔術師。幼き日に修得した技。初歩の段階で修行をやめたとはいえ、才能があるらしいのは自覚できた。それに賭ける!
ミレイアは滑り込むように片膝をついて、牛に向かって手を突き出した。
『効いてっっ!』
牛を殺す必要も、重傷を負わせる必要もない。ちょっと怯ませて、足を止めるだけでいい。巨大な魔物を打ち倒すような、そんな威力の十分の一、いや百分の一以下でいい。目くらまし程度でいいのだ。その程度なら幼い頃に実際にできた、今もきっとできる。
ミレイアは早口で呪文を唱え、炎の術を放った! ……はずだった。
が、やはりブランクのせいか。恐怖と緊張で慌てて舌がもつれたせいか。術は不発に終わり、火花も煙も出なかった。猛然と突進してくる猛牛は、あと二歩の距離。
恐怖のあまり悲鳴を上げることもできず、ミレイアは女の子を抱きしめ、目を閉じた。あと一歩の距離。
ここで、かつて自分が憧れたような美少女魔術師とか、あるいは通りすがりの美形剣士とか。そういうのが、カッコよく助けに入ってくれないかなっ! という思いが、ミレイアの結構ふくよかな胸によぎる。
その思いは、完全にではないが実現した。牛との距離がゼロになる寸前、
「おっ、と」
女の子を抱きしめたまま、腰を抜かしてへたり込んでいるミレイアの頭上で声がした。
牛の足はまだ、ミレイアを踏みつけていない。
『? た、助けが……来た?』
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