事務長の業務日誌

川口大介

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序章

憧れを抱いて

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 王都から少し離れた街で、少女は生まれ育った。
 これといった資源も産業もなく、伝統ある魔術学校や由緒正しき大聖堂などもない、平凡な街だ。だがこの街には、王都にも負けないものが一つだけある。大きな大きな図書館だ。
ここは、今でこそ寂れているが、大昔には交通の要所であった。だから、当時は四方八方から多くの旅人が訪れ、遠い国々の見聞録などを残してくれていた。そして、それらを研究しに来た各地の学者たちが持ち寄った資料、その研究論文なども、ここで編纂されたのだ。
 また、そのような学術的なものばかりではない。旅人たちの語った、異国の神話やおとぎ話、史実か架空かはっきりしない英雄物語なども多く書き留められ、本として纏められていった。
 そうなると、純粋に本を読みたくてこの街にやってくる、という学者以外の旅人も現れ始める。すると、彼らのもたらした知識がまた書き留められ、本となっていく。
それやこれやで、街の大きさには不釣合いなほどの巨大図書館ができ上がった。ここには、古今東西の様々な分野の様々な事柄を記した書物が、ギッシリと詰まっている。

この図書館を代々管理している家系の末裔として、ミレイアは生まれた。本に囲まれて、というより本に埋もれて育った彼女は、やがてある種の系統に傾倒していく。何かというと、前述の英雄物語である。恐ろしい大魔王を倒し、伝説となって歴史上に名を残し、ミレイアの大好きな「本」に掲載される英雄たちに、強い憧れを抱くようになったのだ。
兄も姉もいるので、図書館管理職の跡継ぎを強制されることはない。そして書物なら何でもある。そこでミレイアは、独学で魔術を修行し始めた。英雄物語によく出てくる、天才美少女魔術師を夢見て。
 幸い、ミレイアには魔術の才能があったらしく、独学でも初歩の術はどんどん使えるようになっていった。が、やがて彼女は気づいてしまう。
「……大魔王、いるかな?」
 いない。世の中は平和なものだ。野良の魔物が山奥で人を襲うことはあるが、その程度。世の人々の恐怖の対象といえば、物語の中の魔王より、現実の犯罪者の方がずっと上だ。
 これでは、旅の天才美少女魔術師になっても、そうそう活躍はできない。伝説にならず、歴史に名が残らない。本に載らない。賞金首を捕まえて、騎士団から金一封が関の山だ。
「ど、どうすればっっ」
 ミレイアは困り、焦った。そんな時、王位が代わって、新しく若い女王が即位した。家柄に拘らず、実力ある者をどんどん取り立てて、政治体制を積極的に改革していく方針らしい。
「これだ!」
 幼いミレイアの、生涯の目標が定められた。そして時は流れ……
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