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第一章 事務長、初仕事で豪傑と美女の激闘を見る
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そう言って突き出された、リネットの右拳。その薬指にはめられた指輪の、黒い宝石が一瞬輝いた、と、リネットの拳が手首で切り離されて矢のように飛んだ。
かのように見えたが、違う。リネットの右拳はちゃんとある。右拳の形の、黒い光の塊がクラウディオに向かって飛んでいる。あれは間違いなく魔力の塊、何らかの魔術だ。
そこまでは、ミレイアには一目で判った。どんな効果を持つ術なのかまでは不明だが。
黒色光の右拳は飛びながら五指を開いて、クラウディオの顔面を掴みに来ている。リネットは拳を突きだしたポーズのままだ。あの光の手の動きを、術で操っているのだろう。
クラウディオはとりあえず警戒して、大きめに横へ跳んでかわした。すると右拳は一端通過した後、大きく弧を描いて宙でターンし、再び向かってくる。なかなかの速さだが、クラウディオの槍の比ではない。それは、武術に関してはほぼ素人のミレイアの目にも明らかだ。
また、これも一目で判ったことだが、さほど強いものではないとはいえクラウディオの槍には魔力が込められている。つまり実体のない悪霊や、魔術そのものに対してダメージを与えられる武器ということだ。そこにクラウディオ自身の筋力と技術が加わるとあっては、有効打を加えられない相手など、そうはいないだろう。
それらを総合して考えると、このリネットの必殺技とやらも、恐れるに足りない。飛んで来るあの手を、今度はクラウディオが逃がさず貫けば終わる。
もちろん、あの手に気を取られている間に、リネット本体からの攻撃を受けるなどということもない。クラウディオはちゃんと、リネットにも注意を払っている。リネットとて、魔術を使いながらとなると、そうそう強く速く攻撃はできまい。術への集中が乱れるからだ。
ミレイアはそう判断し、クラウディオもそのように考えていた。
そこでリネットが、ぽつりと言った。
「手ってのはね、二つあるのよ」
ミレイアが、はっ、としたその時。
クラウディオの槍が、飛来したリネットの光の右手を貫き、氷像を細かく砕くように消滅させた、その時。
クラウディオの足元で、素早い虫のようなものが駆けた。脚は五本。いや、脚ではなく、指。
リネットの術、黒い光の左手だ。
「っ! しまっ……」
光の手はクラウディオの脚から腰、背中、首を一瞬で駆け上がって頭へと到達し、掴んだ。
そしてその中へ、まるでそこが泥沼であるかのように、沈み込んでいく。
一瞬、ビクリとクラウディオの体が痙攣して、それから固まる。
「クラウディオ!」
ミレイアが叫ぶが、クラウディオは棒立ちのまま、茫然とした顔で動かない。
「ふふふふ。アタシはね」
リネットは楽しそうだ。
「ある特定事項についてのみ、人の心を読めるの。今の、光の手を使ってね。そしてそれに関する、強烈な幻術をかけることができる。纏めて説明すると、こうよ。【そいつが一番大切に思っている人に、徹底的に冷たくされる夢を見せることができる】の。例えばさっきの男」
ヨルゴスのことらしい。
「アイツの場合は、幼い浮浪児時代。飢え死にしそうだった時に、万引きしたパンを分けてくれた兄貴分ね。とっくに死んじゃったみたいだけど、アイツにとってはそれが生涯最高の思い出だったのよ。普段は記憶の底の底で、彼自身、意識して思い出すことはなくても」
「その兄貴分の夢を見せた、っていうの?」
「ええ。汚れ破れた一枚の毛布に一緒にくるまって、橋の下で冬を過ごした思い出があったわ。そこでアタシは、幼い彼が冷酷な兄貴分に毛布を奪われ、殴られ蹴られて川に叩き込まれる夢を見せた。他にも、同じようなのを山ほど一気に。そしたら、ああなったのよ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
泣き叫ぶとか、喚くとかではない。弱々しく涙を流し、絶望を満面、いや全身に浮かべて、幽霊のような雰囲気を纏っていたヨルゴスが、ようやくクラウディオを見た。それから、首を回してミレイアも見る。と、
「お、お前ら、お前らも……俺を……なのか……? う、う、う、う、うわああぁぁぁぁっ!」
泣き叫んで、走り出した。号泣の咆哮をあげて、涙をぼたぼたと地面に落として、山の中へ走っていく。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「言ったでしょ? アタシの目的はオトコに地獄を見せることだって。でも、お嬢ちゃんは安心していいわよ。アンタをどうこうする気はないわ。ただ、さっきも言ったけど、アタシの邪魔をするというのなら話は別」
「くっ……」
人造人間の行使する、全く見たことのない奇妙な、そして強力な魔術。これを解除する術など、ミレイアの知識にはない。カケラもない。
となれば、術者であるリネットを叩きのめして解除させるしかない。だがクラウディオが術中に落ちた今、ミレイア一人でリネットに勝てるか?
勝ち目は薄いが、ここでクラウディオを捨てて逃げるわけにはいかないし、そもそもミレイアが走って逃げて、逃げきれるような相手でもない。やるしかない!
とミレイアが腹を括って、リネットを睨みつけると、
「え?」
リネットが、呆然とした顔になっている。
まるで自分が、自分の術にかかってしまったかのように。
クラウディオが術を弾き返した? まさかと思ってクラウディオを見ると、こちらも同じように呆然状態だ。だが、ヨルゴスのように泣いてはいない。ただ、無表情で突っ立っているだけ。ミレイアは魔術について、実践の技術はともかく知識だけなら充分あるので、今のクラウディオの診断はできる。
「これは……精神支配の術が中途半端にかかっている状態だわ。縛られてはいるけど、支配されたり操られたりはしていない段階」
リネットの術に侵入されて、心の中を掘り返されてはいるけれど、リネットの手による悪夢を見せられるには至っていない、というところだろう。
だが、どうして? 解らない。ミレイアが、どうしたらいいか戸惑っていると、リネットの声が聞こえてきた。
「こ、こんなオトコが……いたんだ……それなのにアタシは、アタシは……あぁ……母さんも姉さんも、この人に出会っていたら……この人を知ることができていたら……」
ぽろぽろぽろぽろ、リネットの左右の頬を涙の滴が伝い、落ちていく。
悲しみ、同情、そして感動を、その美貌いっぱいに浮かべて。
「……アタシ、は、間違って、いた……オトコというものを、誤解していた……」
リネットが両膝をついた。眩しいほどに輝く銀髪が、ふわりと揺れる。
そして力なく、両手を地面に着く。と、その両手の薬指の、黒い宝石の指輪が砕け散った。それと同時に、リネットの体内で燃え盛っていた魔力が、完全にではないがほぼ消え失せる。
ミレイアの探るような視線に気づいたのか、リネットは両手を高く翳し、裸になった指を自分でよく見て言った。
「あたしの中の、母さんの魂の複製とも言える【オトコへの復讐心】が消えて……世界中から集めた、オンナたちの失恋怨念も全て浄化されたから……だわ。あの術、もう使えなくなっちゃったみたいね。ということは、」
「かけられていた術が解ける?」
「……っ、事務長、無事か?」
クラウディオが頭を振った。ちゃんと意識が戻って、体も動くようだ。
直後、洞窟内で爆音が轟き、内部が崩落し、エルージアの研究所跡は埋もれた。
「あっ? ……ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」
岩を砕く爆音と、岩山の内部が崩落する轟音に、ミレイアの絶叫はかき消された。
かのように見えたが、違う。リネットの右拳はちゃんとある。右拳の形の、黒い光の塊がクラウディオに向かって飛んでいる。あれは間違いなく魔力の塊、何らかの魔術だ。
そこまでは、ミレイアには一目で判った。どんな効果を持つ術なのかまでは不明だが。
黒色光の右拳は飛びながら五指を開いて、クラウディオの顔面を掴みに来ている。リネットは拳を突きだしたポーズのままだ。あの光の手の動きを、術で操っているのだろう。
クラウディオはとりあえず警戒して、大きめに横へ跳んでかわした。すると右拳は一端通過した後、大きく弧を描いて宙でターンし、再び向かってくる。なかなかの速さだが、クラウディオの槍の比ではない。それは、武術に関してはほぼ素人のミレイアの目にも明らかだ。
また、これも一目で判ったことだが、さほど強いものではないとはいえクラウディオの槍には魔力が込められている。つまり実体のない悪霊や、魔術そのものに対してダメージを与えられる武器ということだ。そこにクラウディオ自身の筋力と技術が加わるとあっては、有効打を加えられない相手など、そうはいないだろう。
それらを総合して考えると、このリネットの必殺技とやらも、恐れるに足りない。飛んで来るあの手を、今度はクラウディオが逃がさず貫けば終わる。
もちろん、あの手に気を取られている間に、リネット本体からの攻撃を受けるなどということもない。クラウディオはちゃんと、リネットにも注意を払っている。リネットとて、魔術を使いながらとなると、そうそう強く速く攻撃はできまい。術への集中が乱れるからだ。
ミレイアはそう判断し、クラウディオもそのように考えていた。
そこでリネットが、ぽつりと言った。
「手ってのはね、二つあるのよ」
ミレイアが、はっ、としたその時。
クラウディオの槍が、飛来したリネットの光の右手を貫き、氷像を細かく砕くように消滅させた、その時。
クラウディオの足元で、素早い虫のようなものが駆けた。脚は五本。いや、脚ではなく、指。
リネットの術、黒い光の左手だ。
「っ! しまっ……」
光の手はクラウディオの脚から腰、背中、首を一瞬で駆け上がって頭へと到達し、掴んだ。
そしてその中へ、まるでそこが泥沼であるかのように、沈み込んでいく。
一瞬、ビクリとクラウディオの体が痙攣して、それから固まる。
「クラウディオ!」
ミレイアが叫ぶが、クラウディオは棒立ちのまま、茫然とした顔で動かない。
「ふふふふ。アタシはね」
リネットは楽しそうだ。
「ある特定事項についてのみ、人の心を読めるの。今の、光の手を使ってね。そしてそれに関する、強烈な幻術をかけることができる。纏めて説明すると、こうよ。【そいつが一番大切に思っている人に、徹底的に冷たくされる夢を見せることができる】の。例えばさっきの男」
ヨルゴスのことらしい。
「アイツの場合は、幼い浮浪児時代。飢え死にしそうだった時に、万引きしたパンを分けてくれた兄貴分ね。とっくに死んじゃったみたいだけど、アイツにとってはそれが生涯最高の思い出だったのよ。普段は記憶の底の底で、彼自身、意識して思い出すことはなくても」
「その兄貴分の夢を見せた、っていうの?」
「ええ。汚れ破れた一枚の毛布に一緒にくるまって、橋の下で冬を過ごした思い出があったわ。そこでアタシは、幼い彼が冷酷な兄貴分に毛布を奪われ、殴られ蹴られて川に叩き込まれる夢を見せた。他にも、同じようなのを山ほど一気に。そしたら、ああなったのよ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
泣き叫ぶとか、喚くとかではない。弱々しく涙を流し、絶望を満面、いや全身に浮かべて、幽霊のような雰囲気を纏っていたヨルゴスが、ようやくクラウディオを見た。それから、首を回してミレイアも見る。と、
「お、お前ら、お前らも……俺を……なのか……? う、う、う、う、うわああぁぁぁぁっ!」
泣き叫んで、走り出した。号泣の咆哮をあげて、涙をぼたぼたと地面に落として、山の中へ走っていく。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「言ったでしょ? アタシの目的はオトコに地獄を見せることだって。でも、お嬢ちゃんは安心していいわよ。アンタをどうこうする気はないわ。ただ、さっきも言ったけど、アタシの邪魔をするというのなら話は別」
「くっ……」
人造人間の行使する、全く見たことのない奇妙な、そして強力な魔術。これを解除する術など、ミレイアの知識にはない。カケラもない。
となれば、術者であるリネットを叩きのめして解除させるしかない。だがクラウディオが術中に落ちた今、ミレイア一人でリネットに勝てるか?
勝ち目は薄いが、ここでクラウディオを捨てて逃げるわけにはいかないし、そもそもミレイアが走って逃げて、逃げきれるような相手でもない。やるしかない!
とミレイアが腹を括って、リネットを睨みつけると、
「え?」
リネットが、呆然とした顔になっている。
まるで自分が、自分の術にかかってしまったかのように。
クラウディオが術を弾き返した? まさかと思ってクラウディオを見ると、こちらも同じように呆然状態だ。だが、ヨルゴスのように泣いてはいない。ただ、無表情で突っ立っているだけ。ミレイアは魔術について、実践の技術はともかく知識だけなら充分あるので、今のクラウディオの診断はできる。
「これは……精神支配の術が中途半端にかかっている状態だわ。縛られてはいるけど、支配されたり操られたりはしていない段階」
リネットの術に侵入されて、心の中を掘り返されてはいるけれど、リネットの手による悪夢を見せられるには至っていない、というところだろう。
だが、どうして? 解らない。ミレイアが、どうしたらいいか戸惑っていると、リネットの声が聞こえてきた。
「こ、こんなオトコが……いたんだ……それなのにアタシは、アタシは……あぁ……母さんも姉さんも、この人に出会っていたら……この人を知ることができていたら……」
ぽろぽろぽろぽろ、リネットの左右の頬を涙の滴が伝い、落ちていく。
悲しみ、同情、そして感動を、その美貌いっぱいに浮かべて。
「……アタシ、は、間違って、いた……オトコというものを、誤解していた……」
リネットが両膝をついた。眩しいほどに輝く銀髪が、ふわりと揺れる。
そして力なく、両手を地面に着く。と、その両手の薬指の、黒い宝石の指輪が砕け散った。それと同時に、リネットの体内で燃え盛っていた魔力が、完全にではないがほぼ消え失せる。
ミレイアの探るような視線に気づいたのか、リネットは両手を高く翳し、裸になった指を自分でよく見て言った。
「あたしの中の、母さんの魂の複製とも言える【オトコへの復讐心】が消えて……世界中から集めた、オンナたちの失恋怨念も全て浄化されたから……だわ。あの術、もう使えなくなっちゃったみたいね。ということは、」
「かけられていた術が解ける?」
「……っ、事務長、無事か?」
クラウディオが頭を振った。ちゃんと意識が戻って、体も動くようだ。
直後、洞窟内で爆音が轟き、内部が崩落し、エルージアの研究所跡は埋もれた。
「あっ? ……ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」
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