このアマはプリーステス

川口大介

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第四章 黒幕が、とうとう、牙を剥く。

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『何だ? 今の感じ、敵に対する攻撃的な意思とは明らかに違う……』
 仮にジェスビィがソウキを敵視していないとすれば、ソウキを人質にしたエイユンの作戦はそこを突いたということか。ならばエイユンは、ジェスビィの胸の内を見抜いていた?
 ジュンやソウキは無論、何百年にも渡って封印の中でジェビィに組み付いていた、アルヴェダーユにすら見抜けなかった何かを?
 ジュンがそのことをエイユンに尋ねようとすると、エイユンはアルヴェダーユと一緒に、ソウキを励ましていた。
「ソウキ。君は、自身を長年縛り付けていた悪霊を祓ったのみならず、世界に災いをもたらす存在と戦い、これを倒したんだ。恥じることでも、罪だと感じることでもないぞ」
「エイユンの言う通りです。確かに、私たちはある意味、シャンジルを利用したかもしれません。が、彼が私たちを利用したのもまた事実。何より彼はジェスビィと組み、私たち全員を殺そうとしたのですよ。ならば、反撃することは当然です」
 戦闘中の興奮状態、危機回避本能が去ったソウキは、俯いて青い顔をしている。やはり人を殺したという事実は、少年にとっては重いものだろう。
 それはジュンにもよくわかる。いや、実際のところはわからない。ジュンとて、人を殺した経験はないからだ。
「なあ、ソウキ」
 ジュンが、ソウキの肩に手を置いて言った。
「シャンジルはジェスビィと相討ちになって、それでジェスビィが弱って、俺たちは勝てた。あいつはこの世界を救う尊い犠牲になった、とは思えないか?」
「尊い犠牲……」
「あいつの死すなわちジェスビィの弱体化、ってのは事実だろ。そもそも俺たちは古代魔王と戦ったんだぞ。死人の一人ぐらい、出ない方がおかしい。その尊い犠牲のおかげで、俺もエイユンもお前もアルヴェダーユも、死なずに済んだ。そして、世界中の多くの人々もだ。な?」
「……はい」
 ソウキは少し励まされたようだ。
 ジュンは、「さて、それから」とエイユンに向き直る。
「最大の謎がまだ片付いてない。エイユン、ソウキを人質に取ったのはどういうことなんだ? 何で奴はあんな反応をしたんだ?」
「それはまあ、君やソウキには解り難いものだろう。ある種の女心だからな」
「と言われても、私にも解りませんが」
 女神アルヴェダーユがソウキの横に立って首を傾げる。
「ふむ。やはり、女神様は世俗離れした感覚をお持ちということか」 
「いやいや、そういうアンタだって一応、世俗離れしてなきゃいけない身だろがよ。実際には思いっきり世俗の欲に染まりきってるのは知ってるけど」
「ならば問題あるまい。では、説明するとしよう。つまりだな、」
 何がどう問題ないのか問い詰めたかったが、話の腰を折るのも何なのでジュンは黙って説明を聞く。
「ジェスビィは、ソウキのことが好きだったのだ」
「え?」
「といっても、その感情は濁りきって歪みきったものだがな。なにしろあの悪霊めは、ソウキの体だけが目当てだったのだ。気持ちはわからんでもないが、しかし許せん」
 うんうんと自説に頷いているエイユンを、他三人はぽかぁんと見ている。
 エイユンとの付き合いは一番長い(といってもまだ数日だが)ジュンが、気を取り直して質問してみた。
「でも、ジェスビィはアルヴェダーユごと、ソウキの魂を焼いて殺そうとしてたんだぞ」
「だから、ソウキの魂には興味がない、むしろ邪魔だったのだろう。できるだけ傷をつけずに殺して、その肉体だけを愉しむつもりだったのだ。どう愉しむつもりだったかまでは聞くな」
「……聞きたくないよ。けど、確かにそう考えると辻褄は合うな。ソウキの体を操っていた時も、体に傷がつくのは嫌がっていた。なのにソウキの魂は潰したがっていた」
 ここでの戦いでもジェスビイは、ジュンとエイユンに対しては豪快に攻撃していたが、ソウキに対してはわざわざ「魂を焼く」なんて回りくどいことをしていた。あれはアルヴェダーユを意識してではなく、ただソウキの体を傷つけたくないから、ということだったのか。 
「辻褄が合うのなら、それが正解ということだ。実際、ソウキほどの美少年であれば、古代魔王とて魅了されるのも不自然ではない。私はそう思う」
「ふ、不自然ではない、のか? 俺としては、魔王だの神だのがそんな人間臭いこと……しかも伝説の古代魔王なんだぞ。もっとこう、非人間的なもんだろ?」
「ならば本人、ではないが近い存在に聞いてみたらどうだ」
 エイユンが、視線をアルヴェダーユに移す。
 アルヴェダーユもジュンと同じように、エイユンの説明を聞いて呆然としていたが、
「あ、ああ。そうですね」
 こほん、と一つ咳払いをして答えた。
「その質問にお答えする前に、ひとつ。私がかつて、カレーゾと結んだ契約は、ジェスビィを倒し、その後も地上に留まり、この地上界を見守ること。但し、契約者が悪意をもって私の力を利用した場合は、即座に契約解除され、結界の効果が戻り、私は強制的に地上界から弾き出される……というものです」
 ジュンは、ほうと息をついて頷く。
「なるほどな。永続的に古代神様が地上界を守ってくれる契約だが、契約者がそれを悪用したら切れてしまうと。子孫がずっと善人とは限らない、とカレーゾは考えたわけだ。流石、思慮深い」
「ええ。ジェスビィは皆様の助力のおかげで倒されましたが、地上にはまだまだ邪悪の種がまかれています。ですから、ソウキ」
 アルヴェダーユは、にこりと笑ってソウキを見つめる。
「私はこれからも地上界に、そしてあなたのそばにいます。そして、できればあなたと共に旅をしたい。この世界にはあなたのような子が、まだ他にもいるかもしれませんからね」
「はいっ! そういうことなら、僕の方からお願いしたいぐらいです!」
 アルヴェダーユを見つめる、ソウキの真摯な瞳を見て、ジュンは思った。ソウキは、シャンジルを殺してしまったことや教団の運営で街の人を苦しめたことについて、アルヴェダーユと人助けをすることで贖罪とするつもりなのだろう。それもいいかもしれない。
 だがエイユンは、ソウキを見つめるアルヴェダーユの目、そしてその言葉に、何かひっかかりを感じていた。
 そういえば、ここでのジェスビィとの戦いが始まる前から、ずっと違和感はあったのだ。
『ソウキのような子が、まだ他にいる……だから旅に出たい……』
「さて、ジュンにエイユン。先程の質問に答えましょう。私はジェスビィの気持ちを、半分理解できて半分理解できません。美しいソウキを、愛しく思うことは私も同じです。が、魂を焼いて殺して、肉体だけを……などと。そこは私の理解を越えていますね」   
 という説明を受けたジュンは、アルヴェダーユ同様、半分ぐらいは理解した。
「殺して肉体だけどうこうってのは、邪悪な魔王ジェスビィだからこそ、ってことか」
「そうですね」
「けど、ソウキの容姿についての感想は同じだと?」
「そうです。あなたの言葉を借りるなら、人間臭いということになりますか」
「う~む。正直に言わせて貰うと、イメージが崩れたな。エイユンは元々、神や魔王ってものに対してイメージなんかないだろうけど、俺は本職の魔術師なもんで、どうにも」
 ジュンは考え込む。その隣でエイユンは、無言でアルヴェダーユを見つめている。
 アルヴェダーユは、吐き捨てるように言った
「それにしても、殺して肉体だけ得られればいいなどと。つくづく歪んでいますね。人は、魂が伴ってこそ美しいのに。魂がなくては、苦しむ顔も悲しむ涙も見られないのに」
 三人が、「?」と首を傾げる間もなく。
「例えばほら、こんな風に!」
 アルヴェダーユが、満面に笑みを浮かべて両腕を大きく広げる。その全身から、まるで巨大な花が咲くように、巨大な電撃が広がり、ジュンたち三人を飲み込んだ。
 咄嗟に反応したジュンとエイユンはそれぞれ魔術と気光で防いだが、受け止め切れなかった分がいくらか体内に浸透し、鋭い痛みに顔が歪む。
 そして反応の遅れたソウキはまともに全身で受けてしまい、
「ぅああああぁぁぁぁっ!」
 トゲだらけのムカデが十数匹、皮を破って肉の中を駆け巡るような激痛に、とても立っていられず地に倒れ、七転八倒した。
 アルヴェダーユはそんなソウキを見て、満足げに深々と頷く。
「いい顔ですねえ。いい声ですねえ。この数百年、ジェスビィと戦っている間、ずっと妄想していた通り……いや、それ以上です。やはり、自分でヤルと格別ですね。実に、イイ」
 語るアルヴェダーユの嬉しそうな顔は、今にも涎をこぼさんばかりだ。
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