このアマはプリーステス

川口大介

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第五章 みんなで、力を合わせて……!

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 ジュンは大きく転がって、射線から外れたところで立ち上がった。
「いけるぞエイユン! トドメは任せろっ!」
 ガルナスの剣を振りかざして、ジュンが一歩踏み出したところで、  
「ウオオオオォォォォッ!」
 アルヴェダーユが吼え、重ねたままの両腕を、左側へと薙ぎ払った。 
 受け止められていたエイユンの光が、流れを曲げられて軌道を変え、アルヴェダーユから逸れて地面に命中!  轟く爆音と共に地響きが起き、土砂崩れならぬ土砂巻き上げが起こった。竜巻の中で木の葉が舞うように、土砂が吹き飛ばされて高く遠くへ飛ばされる。
 崖、いや、山一つ分くらいはあるのではと思える土砂が舞い上がり、辺りを土煙で覆い、
「ガアアァァッ!」
 アルヴェダーユの一声で、土煙は吹き飛び視界が開けた。
 その時ジュンが見たものは、今夜二度目の地形変化であった。
 まず一度目は、丘の上から入った地下にてアルヴェダーユが天井と壁を全て消滅させ、「丘の中身の地下洞窟」を「見晴らしのいい台地」に変えた。
 そして今、エイユンの攻撃をアルヴェダーユが逸らして地面に叩きつけたことによって、今度は「台地」の半分ほどが「平地」に、いや、「谷」になった。
「……凄ぇ……」
 エイユンと関わり始めて以来、もう何度目かわからないが、ジュンは目を見張った。
 既に丘ではなくなっていたが、平地よりは高かった台地の半分ほどが、ざっくりと抉れてしまっている。山盛りにしたポテトサラダを、大きなスプーンで掬い取ったように。
 そしてそのスプーンは、皿もテーブルも貫通して床に大穴を開けているのだ。ジュンやエイユンを、軽く五十人以上は埋められそうな穴を。
 そんな攻撃を今、エイユンがやったのだ。
 そしてそれを、アルヴェダーユはまともに受け止め、払いのけてしまった。 
「大したものですね。この私が、少し焦ってしまいましたよ……なかなか、痛かったです」
 アルヴェダーユの両腕全体が、もうもうと煙を上げている。
「ですが」
 見るからに痛そうな、黒焦げの腕を、アルヴェダーユはひと睨みした。それだけで、煙はピタリと止まった。黒い焦げも、みるみる内になくなって、元の灰色の肌に戻っていく。
 ジュンはその様子を、青ざめた顔で言葉もなく見ている。
「この、真なる古代神を倒すにはまだまだ遠い。この体の耐久力と、法術の極みをもってすれば、残念ながら深手とはなりません。しかし、あなたはどうか? 今の一撃、相当な消耗を招くと思いますが」
 アルヴェダーユに言われて、ジュンが振り向いた。その斜め後方で、
「ぅぐっ……がふぁぁっ!」
 エイユンが、血と胃液の混じった液体をびちゃりと吐き出して、両膝を着いた。
 左手を地面について体を支え、右手は苦しそうに胸に当てている。全身から放射されていた気光の輝きは脈打つように明滅しており、もう殆ど見えないほどに薄い。あれが完全に消えたら、アルヴェダーユの法力の重圧をまともに受け、おそらくは体を内から外から押し潰される!
「エイユンっっ!」
 ジュンが駆け寄り、エイユンを背に庇って立ち、ガルナスの剣をまっすぐに立てた。
 こうして、エイユンに流れる法力を斬り裂いて少しでも弱めよう、としたのだが、そこヘアルヴェダーユが踏み込んできた。両掌に法力を集中させて、ガルナスの剣を、その刃を掴んでしまう。
「く、くそ、放せっ!」 
「放してあげますよ。但しその前に、こうです!」
 アルヴェダーユは、雑巾を絞るように、力を入れた。捻りを加えながら右手を前に押し出し、左手は手前に引く。
 たったそれだけで、刃と刃がぶつかり合ったような音を立てて、ガルナスの剣はへし折れてしまった。と同時に、アルヴェダーユが折った場所からジュンが握っているところまで全て、剣全体が煙のように消滅してしまう。
「ぁぐああああぁぁぁぁっ!」
 今の今まで、ガルナスの剣で辛うじてアルヴェダーユの法力を防いでいたジュンだったが、突然それを失った。猛烈な圧力に全身を押され潰され、苦悶の悲鳴を上げる。
「ぅ……ぐっ……ぐくっ!」
「さあ、二人そろってそのまま悶え死にを」
「するか! ナメるなああぁぁっ!」
 ジュンは、顔も髪も体も衣服も、びっしょりと脂汗に塗れさせながら、
「見よ! 暗黒の騎士ガルナスが魂、その刃の輝きを!」
 全身の汗に着火したかのように、黒い炎に身を包んだ。その炎を左手に集め、そこから剣を抜き放って握り締め、立てる。
 その剣が、絶え間なく押し寄せてくるアルヴェダーユの法力を斬り裂いた。ジュンの呼吸が少しだけ落ち着く。
「はぁっ……はぁっ……」
 アルヴェダーユは、少し驚いた顔でジュンを見ていた。こうもあっさりと剣を続けて出せるとは、予想外だったのだろう。
 とはいえ、流石にジュンの魔力が尽きかかっているのも確かだ。ジュン自身の様子のみならず、今出した剣の長さからもそれは明白。先ほど折ったものはジュンの背丈ほどあったが、今度のものはせいぜい、その半分といったところ。
 それでも何とか、アルヴェダーユから押し寄せてくる法力を、斬り裂けてはいる。ジュン自身、重圧の軽減を感じている。だがそれも、いつまでもつか。
「お二人とも、命を削って戦っておられるんですねえ。ご苦労さまです。もっとも、この姿になった以上、その点では私もあなたたちを笑えませんけどね。結構、ダメージあるんですよ。これを維持するだけでも。でもそのおかげで、お二人を確実に殺せるわけです」
「……」
 もう、ムダ口を叩く余裕などないので、ジュンは何も言い返せない。自分の手にあるガルナスの剣が、魔力と一緒に体力もどんどん吸い取っている。ジュンが消耗して魔力が弱まったせいで、その体力吸い取りを阻めなくなり、そのせいで消耗して、の悪循環だ。
 ちらりと振り向けば、エイユンはほんの少しだけ呼吸が整ってはきたものの、まだ苦しそうに両膝をついたまま。これでは二人とも殺されるのは時間の問題だ。アルヴェダーユは指の一本も動かさず、こうして向かい合っているだけで、ジュンもエイユンも死ぬだろう。
「さて。最後は、私のこの手で直に叩き殺しましょうか。それとも捻り殺しましょうか」
 神獣アルヴェダーユが、トドメを刺すべく一歩、踏み出した。もうジュンもエイユンも、戦うどころではない。立っているのが、どころか、生きているのがやっとだ。
 もはや博打を打とうにも賭けるものがない。ここまでか……とジュンがとうとう、諦めの気持ちを抱き始めた、その時!
「何っっっっ?」
 アルヴェダーユが、空を仰ぎ見た。
 何事かと、ジュンも空を見た。
「……何だ……?」
 天空の扉が閉じていく。アルヴェダーユが指差して作った白い巨大な円が、アルヴェダーユに真の力を与えていた結界の穴が、小さくなっていくのだ。
 それに応じて、アルヴェダーユに注がれていた法力も減少していく。すると巨大化し変貌していたアルヴェダーユの体が、乾いた植物のように枯れ、萎んでいく。
 アルヴェダーユは苦悶の叫びを上げ、その身に宿す莫大絶大な力を失っていく。それにつれて、ジュンとエイユンを襲っていた法力の圧力も弱まっていく。
 ジュンは、ガルナスの剣を握って突っ立っていた。反撃のチャンスだが、ダメージというより消耗が激しすぎて動けない。それに、この謎の現象が何なのかわからない。アルヴェダーユの驚きようからして、結界を破る術の、時間切れなどではなさそうだ。
 となると、アルヴェダーユ以外の、何者かの術によるもの?
「これは……法術?」
 少し意識してみれば、ジュンの目にもはっきりと見えた。
 街中から細かな白い光の粒が無数に舞い上がり、 結界の穴へ続々と集結している。その光の作用で、穴が縮められている。
 白い光、これは間違いなく法力だ。粒の一つ一つの小ささからして、僧侶でも何でもない、一般人が誰でも持っている最低限のものだろう。それを数多くかき集め、増幅させ、操って空へと飛ばし、アルヴェダーユの術を抑え込んで、結界を修復しているのだ。
 こんなことができるのは、よほど高位の僧侶? いや、それでも絶対に無理だ。相手は古代神そのものなのだから、人間の僧侶がどんな術を行使しても、それこそ古代神の力を借りたとしても、人間業では対抗できるはずがない。
 つまり人間以外ということになる。ジュンでもエイユンでもルークスでもソウキでもなく。もちろん、法術を使えるはずがなくてそもそも既に死んでいる、ジェスビィも違う。
 となると。ジュンにはたった一つだけ、心当たりがある。
「ま……ま、まさかっっ!?」
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