このアマはプリーステス

川口大介

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第五章 みんなで、力を合わせて……!

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 デタニの街で、人々は祈りを捧げていた。
 ポーズはそれぞれ、バラバラだ。合掌している者もいるし、指を組み合わせている者もいるし、胸に手を当てている者、地面にひれ伏している者、空を仰いでいる者、などなど。全く統一されていない。
 事情を知らぬ者が見れば、いろいろな宗教の信者たちの集会か? とでも思うだろう。だが、ここにいる者たちが今、祈りを捧げている対象は同じ。
 彼らをこの祈りへと導いたのは、少女のようにも見える幼い美少年、ルークスだ。
 アルヴェダーユの行った、巨大映像による演説によって、人々は恐怖のどん底に落とされていた。皆が信奉していた偉大なる神、アルヴェダーユはジェスビィに敗れた、もう世界の破滅だ、どこへ逃げてもムダなんだ、と。
 その後、アルヴェダーユは真の力を取り戻した。その圧倒的な法力の影響は街の隅々まで及び、人々は窒息しかねない重圧を浴びて、正気を保つことさえ苦しくなっていった。
 そんなところへ、ソウキと共にルークスが戻ってきたのだ。もはや他にすがるものはないと、恐慌状態で殺到してきた人々にルークスは告げた。エイユンから授けられた言葉を。
「皆さん、聞いてください! あの恐ろしい呪いを解いて下さった尼僧エイユンさんが、魔術師ジュンさんと共に、ジェスビィと戦っています! そして、今、僕たちにできることが一つだけあります! エイユンさんとジュンさんへの加護を、神に祈るのです! アルヴェダーユ様に連なり、今ここでジェスビィに抗し得る、唯一の神に!」
 絶望に潰されそうな人々の祈りが一つになり、街の守護神へと届く。
 守護神は、人々の願いを叶えるべく、その祈りを紡ぎ、天へと放つ。
 街を脅かす邪神の力を封じる為、邪神に挑む戦士たちを助ける為に。

 もう、ほぼ塞がりきってしまった天の穴から視線を下ろして、アルヴェダーユは苦しみ悶えながら唸るように言った。
「あ……あ、あ、あの……ナ、ナリナ……リー……?」
「らしい、な」
 ようやく少し呼吸の整ったジュンが、ガルナスの剣を構えてアルヴェダーユと対峙する。
 今のアルヴェダーユは身長こそ変わらず大きいものの、隆々としていた神獣の筋肉は、げっそりと痩せ細ってしまっていた。四肢の長さと細さのバランスが異常なので、グロテスクさは増したが、あの恐ろしげな力強い印象はもうない。
 いや、印象だけではなく、アルヴェダーユから押し寄せて来ていた法力の圧力は殆どなくなっている。こちらから探れば、まだまだ強大な力を感じ取れるが、それだけだ。
 今のアルヴェダーユは、【従属】段階と同等の全力開放状態から、結界によって大幅に力を削がれる【契約】段階へと戻ったのだ。
 アルヴェダーユは変わり果てた自らの肉体を見渡し、ギリリと歯軋りをして、
「こ、こんなことが! あるはずがない! なぜ、こんなバカなことが!?」
 アルヴェダーユは取り乱して吼える。それを見据えるジュンの後ろで、しなやかな黒い影、エイユンがゆらりと立ち上がった。
「バカなこと? とんでもない。これは理の当然というもの」
 振り向いたジュンの心配そうな視線を受けながら、エイユンは鋭い視線をアルヴェダーユに向ける。
「アルヴェダーユよ。地上の神や魔王は、人々の信仰心や恐怖心などを糧としているそうだな。お前が長きに渡ってインチキ宗教団体として活動し、自ら大層な演説までしてくれたおかげで、人々の恐怖心は煽りに煽られていた。そこに、唯一の希望として存在したのが当地の神、ナリナリーだ。そこに寄せられる祈りの強さは、並大抵のものではないぞ」
 エイユンは、汗まみれの額にほつれた前髪を張り付かせ、その髪の間から覗く目でアルヴェダーユを見上げ、睨みつけている。
 アルヴェダーユも負けじと睨み返し、言い返した。
「それがどうした! 何がどうあれ、地上の神如きに大した力があるはずはない! 地上界も、人間も、神も魔王も、元を辿れば全て、私たちが生み出したものだぞ! 神も魔王も、この私から見れば子供のようなものだ!」
「だから、だ。弟子が師を越え、子が親を越える。それを繰り返すことで、この地上界は進化発展を遂げ、現在に至っている。知らないのか?」
「だからといって! ナリナリーのような、姿も見えず声も聞こえぬ、あやふやな存在が!」
「私の故国では、神というのは森羅万象山川草木、家の中の器物一つ一つに至るまで、天地にあまねく存在している、と考えられている。小さなお守りにも、食べ物にも、便所にもな。それ故に定まった姿など持たない。ナリナリーがそのような、天地すなわち神、といえるような存在であるとしたら、」
 エイユンは右手を上げて、人差し指を伸ばして、アルヴェダーユの歪んだ顔を指差した。
「こんな、ちょっとばかり強いだけのケダモノ一匹、抑え込めて当然だ」
「ほざくなぁぁっ! それは、お前の国での話であろうが!」
「何を言っている? 国境などというのは、我々ちっぽけな人間が、勝手に定めたものだ。天地の創造に関わるような大いなる存在様にとっては、そんな線引きは無意味だと思うが」
「そ、そもそも! ナリナリーがそんな偉大な存在だという証拠はあるのか!」 
「ない。お前の目の前にいる人間の女一人、ただの尼僧が言っているだけのことだ。が、現実にお前の術は抑え込まれている。そして、お前は言っていたな? その姿になった後は、血を流しながら戦うようなものだと。今のお前は、【従属】はおろか通常の【契約】よりも更に弱体化している。そのこと、お前の気から感じ取れるぞ、はっきりとな!」
「……くっ……!」 
 図星であった。アルヴェダーユが言葉を詰まらせる。
 今はもうわざわざ魔力だの気だのを読み取るまでもなく、ジュンにも判る。アルヴェダーユの法力が弱まっているのは重圧の消滅から明らかであり、なにしろ外見からして貧弱になっているのだ。感じ取れる力の大きさは、最初に見た【契約】段階のジェスビィより、更に下だ。
 無理な術を使った反動だろう。アルヴェダーユ自身、戦いの後には長い眠りにつくと言っていた。そんな術を、強引に乱され、途中で潰されたのだ。ダメージが軽いはずはない。
「なめるなああああぁぁぁぁ!」
 アルヴェダーユは絶叫し、両腕を振り上げて二人に襲い掛かった。 
「法力がどうなろうと! 肉体がどうなろうと! 私は古代神様だ! 何がどうなっても、人間に負けることなど絶対になああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
 神の鉄槌よろしく振ってきた二本の腕を、ジュンとエイユンは左右に散って回避する。
 エイユンは、先ほどまではアルヴェダーユの法力に対する防御の為に体内に集中させていた気光を、右手に全て集めた。眩しい輝きを纏った拳で、アルヴェダーユの腕を叩き折りにいく。
 だがアルヴェダーユは、前と同じように法力を掌に宿して突き出し、エイユンの気光の拳を正面から受け、弾き飛ばした。 
 激しい衝突音と共に、エイユンは倒れこそしないものの、後方へと突き飛ばされる。
 アルヴェダーユの掌には焼け焦げた痕がつき、幾筋かの煙が立ち昇っている。その痕も、煙も、少しずつ少しずつ薄らいでいく。
「ふん、この通り。確かに私は、大幅に弱りはした。だがそれでも、お前たちの攻撃で多少の傷は負っても、負けて倒されることなど絶対に……無いと言っているだろうがっ!」
 反対側から飛び掛ってきたジュンの、ガルナスの剣の刃を、アルヴェダーユは両手で掴み取って捻り折った。
 剣は消滅する。だが同時に、刃を握って力を込めたアルヴェダーユの指も四本ほど切断されて、宙を舞った。
「がぁううぅぅっ! だ、だが、これでもうお前たちの攻め手はなくなった!」
 指の切断面から血の代わりに法力の粒子を飛ばしながら、アルヴェダーユはエイユンとジュンを見た。二人とも疲労困憊、おそらく次の一撃ぐらいが限界だろう。
 その一撃とて、今までやってきた攻撃を上回ることはないだろう。特にジュンの方は、流石にもうガルナスの剣を出すことはできないはず、と思ったら。
「見よ! 暗黒の騎士ガルナスが魂、その刃の輝きをおおおおぉぉぉぉ!」
 三度、ジュンがガルナスの剣を出現させた。凝縮された魔力の塊から、漆黒の剣を抜く。
 だが制御しきれない魔力が、剣からの反動によって肉体を襲い、
「……ぐ、がぁっ!」
 ジュンを囲うように、血飛沫が舞った。両腕から肩、胸、腹、足に至るまで、全身の内側から細かいガラスの破片のような、小さな魔力のカケラが噴出し、皮膚も服も破って飛び散ったのだ。それに伴って、ちょっとした爆発のように、血の霧が飛び散る。
 ジュンの体の隅々まで激痛が走り、力が抜け、震えが走り、吐き気が込み上げ、冷や汗が滲み出てくる。だがそれでもジュンは剣を手放さず、しっかりと立っていた。
 とはいえ、それだけでかなり辛い。足を動かせる自信がない。その手にある剣も、もはや剣と言える代物ではない。ナイフ、それも野外活動で使えそうなものではなく、食卓で料理を切り分けるようなナイフ。その程度の短さ薄さしかない。
「ジュン」
 エイユンの声がした。だがジュンはそちらを向く余裕もなく、返事をする気力もない。
 ただ構えて、アルヴェダーユと向かい合っている。すると、
「……ジュン」
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