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名前呼び

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どうも櫻井です。
宮本さんからの話を聞いた後、俺は部屋で静かに寝てたんですけど…。
「………。」
なんか起きたら凄い視線を感じる。
ちょっと…古い屋敷でそんな視線とかやめてくれ。
いや別に!心霊とか!信じてないですけど!?
うっすら目を開けてみる…すると…。
(雛巳?)
雛巳がベッドの脇に立ってこちらを無表情で見つめている。
(いや怖!)
なんでこっちを凝視してんの!?
なんで無言かつ真顔なの!?
とりあえず今起きたフリをして乗り切ろう。
「んん…ア~良ク寝タナ!」
どうだ俺の演技力!
…多少棒読みかもしれないけれど。
「理人君おはよー。いやおはようって時間ではないかなー?」
さっきとは打って変わってニコニコと笑っている雛巳。
「…何で俺の部屋にいんの?」
「んー?あ!そうだったー!用事があって来たのに寝てるから起こすのも悪いかなってー。」
「いや起こしていいのよ?」
寝顔をずっと見られるのも恥ずかしいし。
「そんなことよりー、これ必要じゃないー?」
雛巳の手には俺の持っているゲーム機と同じものが握られていた。
「いや、もう持ってるぞ?」
「いやいやー、こっちだよー。」
もう片方の手に握られているのはゲームの充電器だった。
「あーそれはめちゃくちゃ必要だな。」
そもそも俺が今寝ていたのは充電器がないにも関わらずゲーム機の充電が底を尽きてしまったから。
つまるところふて寝していたわけだ。
「私も理人君と同じゲームしたくて買っちゃったー。充電器貸してあげようかー?」
「おいおい女神かよ。」
ゲームはしばらく屋敷から出れない俺の生命線だ。
「そのかわり私とも遊んでねー?」
「おいおい当たり前だろ雛巳?俺たちズッ友じゃねぇーか!!」
「………そうだねー。」
あら、なんか不服そう。
「…いいやー!貸してあげるねー。」



やっほう!
娯楽を求めて干からびていた身体にゲームの液晶の光が染み渡るぜ!
そんなことを考えながらゲームをしていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「りひと、今時間いいかしら。」
どうやら金堂が来たようだ。
「おう、入っていいぞ。」
ゲームを一度ポーズ画面にしドアに身体を向ける。
「お邪魔するわね。」
「マリアとの久しぶりの時間はもういいのか?」
「マリアは疲れて眠ってるわ。それにこれからはずっと一緒にいるもの。絶対にね。」
「…そうだったな。ところで俺の部屋に何しに来たん?」
「それは…その…。」
何だ?
急にかしこまってモジモジしだしたぞ。
「……貴方が私の味方になってくれたお陰で私が誘拐された時も助けられて、マリアも助けることができた。本当に感謝しているわ。ありがとう。」
「なんだ、そのことか。別にお礼を言われるようなことはしてないぞ。俺が勝手にお前を選んだだけだ。」
「…それでも、私は貴方に救われたわ。」
優しく微笑む金堂。
なんだ、こいつって思ってた以上に素直な子なのでは?
……素直な子って言ったけどこいつ20歳だったわ。
「だから特別に!私のこと名前で呼んでいいわよ!ありがたく思いなさい!」
訂正、こいつやっぱ生意気なガキンチョだわ。
「感謝してんのかと思ったらこんどはありがたく思って…。」
「何よ!そもそもいつのまにあんなにひなみと仲良くなったの!?」
あーそういえば雛巳には名前の呼び方を強制されたからな。
「なんかそう呼べって言われたから…。」
「いつまでも金堂金堂呼ばれてるの複雑なの!あとマリアだって金堂何だからわかりづらいじゃない!」
確かにそうかもしれん。
でも個人的にはもう金堂呼びに慣れてきてるんだがなぁ…。
「それとも…嫌、だったりする?」
…こらこら、上目遣いで少し泣きそうな表情は辞めなさい。
まるで俺が悪いみたいな気持ちになるだろ。
「…じゃあさやかって呼べばいいか?」
「そ、そうね!それがいいんじゃないかしら!」
泣きそうな顔から一気に明るい表情に変わる。
「今度からは名前で呼んでよね!わかった?」
「はいはい、さやか様の言う通りに。」
さやかは満足げに部屋から去っていった。
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