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宮本巴という人間

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 昔から負けず嫌いだったの。
 私の家は何代も続いた格闘家の家系で、各自がそれぞれ様々な格闘技と全力で向き合っていたわ。
 父は空手、母は剣道、兄はレスリングで姉は柔道だった。
 兄や姉は才能に恵まれて同年代では敵無しだし、父も母も世界的に有名な選手だった。
 そんな家族の中で末っ子の私は…うん、才能と呼べるものはなかったかな。
 色々と試してみたのよ?
 家族みんなのサポートを受けながら色々と試した。
 家族がまだ手を出していない格闘技、それだけじゃなくスポーツや勉学まで試した。
 でも…全部中途半端だった。
 輝かしい家族の中で私だけが…。
 …家族のみんなはそんな私にも優しくしてくれた。父や兄は『守るべき奴がいる方が強くなれる』と豪快に笑ってくれて、母や姉は『女の子なんだからもっと青春謳歌しちゃいましょう』と励ましてくれた。
 そんな優しいみんなに囲まれて私は幸せで、無理をしなくていいのだと安心していた。
 そんな幸せが…ずっと続くんだと思ってたのに…。
 私は学校から帰ったらすぐに家の敷地内にある道場に向かうのが日課なの。
 才能がなくたって体を動かすことは大好きだったから。
 その日もいつも通り学校終わりに道場に向かった。
 うん…いつも通りだった、いつも通りだったはずなのに。
 道場の戸を開けるとそこは地獄絵図。
 血塗れで倒れている家族たち。
 そして…首がありえない方向に曲げられている父を心底幸せそうに抱きしめている男が1人。
 …強面の男がそこにいた。
 こちらに気付いた男はゆっくりと私に近づいて一言、『いいところなんだから邪魔をするな』と。
 首を絞めようと…いやへし折ろうとしてくる男。
 薄れゆく意識の中で分かった。
 やっぱり…やっぱり私も何かできなきゃ駄目だったんだ。
 守られるだけじゃ駄目なんだ。
 自由なだけじゃ駄目なんだ。
 幸せなだけじゃ…駄目なんだ。
 私自身が強くなくちゃ…守ってくれる人も自由も幸せも何もかも奪われてしまうんだ。
 (もっと…強くなりたいなぁ…。)
 …ここで前世の記憶は途切れている。



「前世であのオカマに自身と家族を殺されてた…ってことか。」
「…そうよ。そして貴方と会ったことで初めて…自身が敵わない男性にトラウマを抱えていることに気が付いたの。」
そしてトラウマを植え付けてきた殺人鬼と転生先のこの世界で再会してしまったのか。
そりゃ怯えるのも仕方ない。
「…金堂にこの話はしたのか?」
「…まだ。」
「…なんで?」
「心配をかけたくないの。それに…弱い姿を見せたくない。」
「でも言わないなら言わないで心配かけるんじゃないか?お前が萎縮してるのを見たから、金堂は俺とオカマが戦うよう指示出ししたわけだし。」
「…確かに…そうよね。」
…一瞬この世界で手に入れた能力があれば勝てないのかと思ったが…難しいかもしれない。
強面オカマと手を合わせたから分かる。
なんというか…基礎ステータスで勝ってても技術で負ける感じ。
こちらの攻撃は当たらず向こうの攻撃のみ被弾する。
ジリ貧で負ける可能性が大きそうだ。
「この話をあなたにしたのには理由があって…。」
「ん?」
「…克服したいの…このトラウマを。」
…確かにこのままでトラウマ持ちでいるのは危ないな。
原因が進藤派にいるわけだし。
「櫻井さんに…トラウマ克服の手伝いをお願いしたいの…お願いしてもいいかしら?」
「まぁそれはいいけど…具体的に何をすればいいんだ?」
「トラウマを克服する方法と…あの男に勝てるようになる方法を一緒に考えてくれない?」
そんなこと言われてもなぁ…絶対敵わないと思われる存在に対して恐れるのは当たり前ではあるからな。
「まぁ考えておくよ。とりあえず…金堂にも詳しく話しておいで?アイツもきっとあの時の君を見て心配していると思うし…何より話してもらえる方がアイツとしても嬉しいんじゃないかな?まだ知り合ってそんなに経ってはいないけど、金堂はそんな娘だと俺は思う。」
「…そうね。さやか様にいつまでも心配は掛けられないわ。」
宮本さんは部屋から出ていった。
それにしてもトラウマ克服とオカマに勝つ方法か…なんかいい案ないかなぁ?





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