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これ以上はいけない

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もうすっかり夜になった。
雛巳はさやかとマリアに連行されていった。
さやかの計画ではここで好きなだけ遊ばせて眠ったら宮本さんが来るといったものだが…。
ドアをノックする音が聞こえる。
「どうぞー。」
「し、失礼します。」
なんか緊張したような面持ちの宮本さんが部屋に入ってきた。
…なんか良くない事をしようとしているみたいに感じるからあんまり緊張しないでくれ。
「その…雛巳は眠ったようです。」
「あー…うん。まぁそうだよね。」
「その…最終確認になるのですが…いいですか?」
「もうオッケー出しちゃったし…もうここまで来たらやるほか無いでしょ。」
「そ、それでは失礼します。嫌なことがあったらすぐ教えてください。」
「おうよ。」
とりあえずベッドに座っていたため立ち上がろうとする。
「あ、そのままで大丈夫です。」
「へ?」
宮本さんが俺の両手首を掴み、優しく俺を押し倒した。
「…てっきり壁ドン的なやつかと思ってたんだけど…。」
「嫌でしたか?」
「嫌というか、まぁびっくりはしたね。」
だって…絵面が人に見せられないもん。
女子高生に押し倒されて動けないとかなかなかないもんな。
「…本当に抵抗できないんですね。」
「え?あぁ、そうだね。」
試しに身体を動かしてみるも全然引き剥がすことができない。
「少なくとも今の俺には無理だな。」
「そう…なんですね。」
俺の腕をさらに強く握る。
「痛っ…。」
「あ…すみません!」
「いや…大丈夫だよ?ただ…いつまでこの状況でいればいいかな?」
『組み伏せたい』という要望はもう既に達成しているが…。
「その…もう少しだけこのままで、お願いします。」
まだイメージが固まらないのだろうか?
宮本さんはもっと上半身を近づけてきた。
長い髪が俺の耳をくすぐりむず痒くなる。
「少しやり方を変えてもいいですか?」
「え?お、おう。」
宮本さんは両腕を俺の頭の上に持って行きクロスさせ、それを片手で押さえつけた。
つまり宮本さんの片手が空いた状況になる。
宮本さんは空いた方で俺の腰辺りをなぞる。
「っ…!?」
全身がぞわぞわする。
「….今のいる?」
「すみません。すこし悪戯したくなって…。」
照れながら笑う宮本さん。
なんだか心なしかさらに互いの身体が密着してきているような気がする。
なんというか….これ以上はまずい気がする。
「宮本さん、流石にそろそろ辞めようか。」
提案するもなかなか退いてくれない。
「もう少しだけ…駄目ですか?」
「いやこれ以上はまずいよ。」
「…雛巳には私に無理矢理やられたと言っても構いません。だからもう少し…。」
「そんなこと言ったら2人の関係が悪くなるでしょ。それに雛巳と関係なく辞めたほうがいい。」
そろそろ限界だ。
主に俺の理性がね!
「でも…。」
「….わかった。それじゃあこうしよう。俺の能力が戻った後もたまに俺のことを組み伏せていい。俺は一切抵抗しない。」
「…また機会をいただけるということですか?」
「あぁ、それに能力がある俺を組み伏せることができていればそれこそイメージ苦手な相手を組み伏せるイメージができるんじゃ無い?」
「確かにそうかも…?」
「だから今日のところはこんなところで終わろうよ。明日から気まずくなるのも嫌だしね。」
ただでさえ人の少ない狭いコミュニティで気まずい人間関係が出来上がるのは勘弁して欲しい。
「…わかりました。またいつか…お願いさせてもらいますね。」
「おう、分かったならそろそろ俺の身体から降りてくれると助かる。」
「あっ!?す、すみません!」
急いで飛び降りる宮本さん。
「そ、それじゃあ…今日のところはこの辺で…失礼しました。」
「あぁ、おやすみ。」
「…はい、お休みなさい。」



部屋に戻る途中、廊下の冷たい空気のおかげで頭が冷えたが…。
(私…とんでもないことしてる!)
顔が沸騰しそうなぐらい熱い。
鏡を見たら信じられないほど赤くなった自分の顔が見れるだろう。
「なんであんな風に…。」
本来なら一度押し倒した時点で目的は達成しているはずなのに…何故かそれだけで終わらせたくなくて。
気が付いたら止まらなくなっていた。
(でもなんだか…少し懐かしいような感じがした気がする。)
不思議と櫻井さんの胸の中は安心して…ずっとそうしていたいと思ってしまった。
「…次はいつになるかな。」
次回があることに少し心を躍らせ私は部屋に戻った。



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