ザ・聖女~戦場を焼き尽くすは、神敵滅殺の聖女ビームッ!~

右薙光介

文字の大きさ
23 / 45

第22話

しおりを挟む
「な……っ」

 振り向くと、騎士と傭兵が大挙してこちらに進軍してきている。
 何やってんだ、あいつら!

「それはこちらの台詞ですよ、セイラ」

 うっかり口に出てしまっていたらしい言葉に、いつの間にか降り立ったエルムスが返事をする。

「外出するときは、声をかけるようにと伝えたはずですが? 契約違反ですよ」
「おい、エルムス……何やってんだ」
「最後までお供しますとも、伝えたはずなんですけどね?」

 涼しい顔で、エルムスが笑い……魔王軍からアタシを遮るようにして立つ。
 その背中が頼もしくて、泣きそうになってしまう。

「聖女殿を守れ! 陣形を維持しろ!」

 モールデン伯爵が、馬上から声を張り上げると、戦車と騎馬たちがアタシの周りに集まってくる。

「おっさん! 何で出てきた!」
「忠義のために死ぬのが騎士でありますれば」

 忠誠を誓われた記憶なんてない。
 そもそも、そんな上等な人間じゃない。

「野郎ども、これは撤退戦だ。目的をはき違えるなよ!」
「アイサー!」

 見れば、バルボ・フットが率いる傭兵団までもが来ている。
 この数、ほぼ全てを動員してるんじゃないか?
 武器を構える者の中には、包帯に血をにじませる者すらいる。
「バルボ! あんたまで何してんだい」

 思わず声を張り上げてしまう。

「ばっかてめぇ……女一人に押し付けてして帰りました、なんて言ってみろ! 母ちゃんにどやされらぁ」
「ちげぇねぇ! 団長の嫁さんはこぇえからな!」

 こんな状況でゲラゲラと笑う傭兵団。
 それに苦笑いしたバルボ・フットが、戦斧を抜いて、掲げる。

「野郎ども! 胸を張れ! 声を上げろ! 自己犠牲に酔っぱらったバカを引っさらって下がるぞ! 名誉と面倒は騎士にくれてやれ!」
「アイアイサー!」

「騎士諸君、聞いたな! 忠義と民衆の為に駆けよ! 我らが聖女を、守り通すぞ!」
「ハッ!」

「だめだ! おい! 無駄死にするな!」

 あたしの声が届かない。
 何だってんだ、こいつらは!
 スラムの女なんだよ、アタシは。
 そんな価値なんてないんだよ!

「カカカッ! 愚かな人間どもめ……聖女諸共に砕き、捻り潰してくれるわ!」

 ビーグローが愉快気に、巨大な棍棒を振り上げる。
 それに反応して、魔王軍が動き始めた。

「来るぞ! 迎え撃て!」

くそ!
 何だってこんなことになった!
 アタシが黙って出てきたからか?
 普通、スラムの女がいなくなれば、逃げたって思って当たり前だろ?

 なのに、なんで……!
 何でこいつらはここにいる!

「魔王軍が来るぞ! ランス構え! 突撃チャージで第一波を押し返す! 重装兵は大盾を構えよ! 壁になって押し留まれ!」
「第一隊から第三隊は左翼、残りは右翼だ! 『送り狼』は、セイラを抱えて馬を出せ!」

 モールデン伯爵が、バルボ・フットが、各々の指示を鋭く飛ばす。
 もうそこまで魔王軍が迫っていた。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、そして政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に行動する勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、そして試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私が、 魔王討伐の旅路の中で、“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※「小説家になろう」にも掲載。(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた

黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。 そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。 「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」 前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。 二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。 辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

処理中です...