ザ・聖女~戦場を焼き尽くすは、神敵滅殺の聖女ビームッ!~

右薙光介

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第35話

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「お話は、終わりましたか?」

 聖堂の外に出ると、エルムスがニコリと笑った。
 また、無理した顔をしてやがる。

「婆さんから依頼があってよ。これからモールデン砦に行く」
「わかりました」
「エルムス、お前……ここで待ってろよ」

 エルムスの肩を軽く叩く。
 きっと、ここに戻って来た時には……もう婆さんに会えないだろう。
 エルムスと婆さんの関係はよくわからないが、エルムスと婆さんがお互いを大事にしてるってのは、見てればわかる。
 傍目に見れば、孫と祖母のようにすら見えるくらいに。

「そうはいきません」
「お前なぁ……」
「お別れはすでに済ませています。教皇様にはたくさんのものをいただいた。そして、それは返さなくていいと言われています」

 アタシの手を取って、エルムスが跪く。

「代わりに、僕はあなたに僕の全てを差し出します。セイラ、僕の聖女。きっと、最期まであなたと共にいると誓います」
「エルムス……いいんだね?」
「はい。あなたが恐れる全てを共に背負います。だから、あなたらしく自由に」

 婆さんと同じことを言うんだな。
 いや、最初からそうだったか。
 聖女になってほしいとは言っていたが、聖女らしくしろとは一言も言わなかった。
 アタシであっていいと、ずっとこいつは告げていたんだ。

 わかりにくいやつ。
 もっとシンプルに言えよな。

「なら、行くよ」

 意識の奥に在る何かに触れる。
 そいつは、アタシの意志に反応して言葉を返した。

『救世システム起動。聖女セイラのアクセスを確認。神的同位開始……完了。神力リソースの解放を承認──要請まで待機』

 相変わらず言ってることはよくわからないが、何ができるかは体感でわかる。

「モールデン砦にアタシ達を連れていきな」
『要請受諾──承認。転送を開始します』

 白い光がアタシ達を進み込んでいく。

「これは……」
「神様の力さ。もうアタシは、これを恐れない」

 アタシの意思に呼応するかのように爆ぜた光が、景色を一瞬で塗り替える。
 光が消えると、そこはモールデン砦の建つ小高い丘の一角だった。
 ここからなら戦場がよく見える。
 かなり押されているようだ。

「っち、遅かったか」
「まだ間に合います。行きましょう、セイラ」
「おうよ。『聖女の力』ってのを見せてやるよ」

 エルムスが少し驚いた顔で、アタシを見る。
 
 もう吹っ切れた。
 これは単なる『力』の名前だ。
 騎士たちが振るう剣、司祭どもが使う治癒魔法、魔術師たちが放つ魔法。
 それと同じもの。聖女という名のついた何者かが、自分と自分の背負うものの為に揮う『力』の名前に過ぎないのだ。

 だから、アタシはアタシのままでこの力を好き勝手に使う。
 聖女がか弱く試練潔白なんてイメージは、今日でおしまいだよ。

 ……思い知らせてやる。聖女の恐ろしさをな!
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