白銀が征く異世界冒険記―旧友を探す旅はトラブルまみれ!?―

埋群のどか

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幕 間:森林浴と淡水浴

第30話

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 それはオーラント国を出発し、次なる国へ三人が向かう最中の事だった。クロエはなぜか水着を着て湖のほとりでぼーっと空を見上げていた。

「……良い天気だなぁ……」










 オーラントを出発し二日、クロエたちはオーラントの北西に広がる森の中を進んでいた。幌馬車を走らせるこの道は、数多くの行商や旅人が歩く過程で作り上げられた天然の街道である。パッカパッカと蹄の音を響かせながら馬車は進む。

「久々の森ですわねー。やはり森は良いですわ。」

 そう呟くのは幌馬車の中から外をみるハイエルフの女性、サラ・エルゼアリスだ。森の新鮮な空気を胸いっぱいに吸っている。

「やっぱりそう感じるんですか?」

 クロエがサラにそう尋ねた。馬車の運転はメイド服を着たミーナ・アレクサンドリアに任せている。正直言うと、二人は暇だった。

「そうですわね……オーラントのような街並みも嫌いではありませんけど、やっぱり森の木々を見ると何故か安心するんですの。幼いころからの習慣ですわね。」
「へぇ……ミーナさんもそうなんですか?」

 クロエがミーナに話を振った。ミーナはこちらに振り返りはしなかったが、しっかり話を聞いていたのだろう。前を向いたまま話し出した。

「私は別段、そういう事はありませんね。以前にも話しましたが、過去に世界中を旅してきましたので。おそらくですが、エルフの郷にいた時間よりも旅をしていた時間の方が長いと思います。」

 さらっとそう答えるミーナ。クロエはその言葉に内心とあることを考えていた。

(ミーナさんって、いくつ何だろう……?)

「クロエさん?」
「は、はい!」

 まるで心を読んだかのようにミーナがクロエに話しかける。ビクンと体を跳ねさせたクロエは、まるでギギギと軋みを上げるかのような動きでサラの方へ首を向けた。
 ミーナが首だけをクロエの方へ向けていた。クロエと目が合うと、にっこりと笑って言う。

「今日の昼食はキノコを主菜にしましょう。ご協力いただけますね?」
「え……や、あ、あの……ボ、ボク、キノコ、好きじゃ、ない、です……」
「ご協力、して、いただけますね?」
「……は、はい。」

 クロエの返事を聞くとニコリと笑って再び前を向くミーナ。その迫力にクロエは涙目になって怯えている。

「あ、あわわわわ……キ、キノコは嫌いです……」
「クロエさん、諦めるしかないですわ。ああなったミーナはもう止められませんもの。大人しくキノコを食べましょう。」

 同じように青ざめた表情でそういうサラ。彼女は現在、膝を抱え込んで座るいわゆる体操座りの体勢になっていた。心なしか小刻みに震えている。

「サ、サラさんも昔こんなことがあったんですか? (ボソッ)」
「ええ。その時は私の苦手な野菜をメインにしたフルコースをふるまわれましたわ。あの時からミーナに逆らってはいけないと悟りましたわ。(ボソッ)」
「……お二方?」

 ――ビクビクッ!
 二人が一斉に身を跳ねさせた。今度は二人そろってミーナの方をゆっくりと見る。だが、ミーナは別に先ほどの話を聞いていなかったようだ。特にクロエたちの方を振り返ったりもせずそのまま話を続ける。

「もうすぐで湖に到着する予定です。そこでいったん休憩としましょう。」
「あ……はい。」

 今日も幌馬車は平和に進んでいくのだった。










 三人を乗せた幌馬車は湖に到着した。広く浅いその湖は対岸が視認できる程度の広さだ。しっかりと魚も泳いでいる。
 その湖の脇には丸太小屋が一戸設置されていた。実際こうした小屋は道の各所によくある。旅人か商人か、はたまた近隣国か。道を行く人が安全に旅をできるように、快適に休息ができるようにこうした小屋がある。小屋は互いが互いにマナーを守り、使い終わったらきれいにする、壊れていたら直すなどの暗黙のルールがあった。
 ミーナが小屋を覗く。そこには誰もいないようだ。

「ふむ、周りに馬などもつながれていないようですし、どうやら私たちだけのようですね。」

 周辺を確認したミーナがそう言った。こうした小屋ではよく知らない者同士が屋根を共にすることがあるのだが、偶然にも今はクロエたちだけのようだ。

「そっちの方が気楽でいいじゃないですの。特に私たちは注目されがちですし。」

 サラがそう言って伸びをする。エルフである彼女やミーナはどうしても注目を集めてしまうのだ。
 ふと湖を見つめ、そしてその水際に近よる。水の中を見て、実際に水にも触れる。すこし冷たくもあるが、水浴びをするのに問題はないだろう。

「ミーナ、まだ昼までには時間がありますわよね?」
「ええ、そうですね。しかし、どうされたんですか?」

 サラの疑問にミーナが首を傾げた。現在彼女は小屋の中の掃除を行っていたのだ。小屋の中ではクロエが箒を片手に床を掃いている。
 ミーナの返答にサラはニコリと笑うと高らかに宣言した。

「泳ぎましょう!」
「は?」









「え? どういう事なんですか?」

 クロエがそう尋ねた。箒を片手に首をかしげるその姿は、とんがり帽子さえあれば小さな魔女といった所だろう。

「じつはオーラントでの買い出しの際に、全員分の水着を買っていましたの。いつか着る機会もあるでしょうし、国によっては売っていない所もありますわ。丁度セールだったというのもありますけど。」

 サラがクロエの疑問にそう答えた。そう言って手に持つのはまごうことなき水着である。しかも、クロエが前世で見たことのあるデザインだった。異世界なのにその形やデザインが大差ないのは、もしかしたらそれが服のあるべき形だからなのかもしれない。

「そ、そうなんですか……それで水浴びを。あ、じゃあ、ボクはその間に昼食を採って来ますね。」

 クロエがそう言って小屋を出ようとするが、その腕はがっちりとつかまれる。

「な、なんですか?」
「どこ行くんですの?」
「え? いや、昼食を採りに……」
「それならばミーナが備蓄から賄うと言ってましたわ。キノコじゃなくなりますわよ?」
「それは嬉しいですけど……え? ボ、ボクも着るんですか? その、水着を……」

 クロエが青ざめた表情で言った。だがサラはそれを意にも介さず輝くような笑顔で言うのだった。

「もちろんですわ! クロエさんに似合うだろうと思って買ってきたものがありますもの! 着てくださいますよね?」
「や……そ、そんな……恥ずかしいです……」

 青ざめた顔を一転、今度は真っ赤に染めてクロエは言った。恥じらうその様子にサラのボルテージは上がる。正直この表情を見れただけでも内心サラは満足していたが、やはりここは水着を着てもらわねばならないだろう。謎の使命感に燃えるサラは、ここで悪魔の選択を持ち掛ける。

「仕方ありませんわ。それならば水浴びは断念しましょう。」
「ほ、本当ですか!?」

 ぱぁっと輝くような笑顔でクロエは言った。サラも同じく笑顔をクロエに向ける。

「ええ。クロエさんの水着が見れないのは残念ですけど、無理強いはしたくありませんわ。こういうものはやはり嫌々着ても楽しくありませんもの。」
「サラさん……!」

 感動の面持ちで呟くクロエ。よもや自身がサラの術中にはまっているなどとは思いもしない。
 サラは変わらない笑顔をクロエに向けたまま言葉を続けるのだった。

「ですので、水浴びは中止。今から私と共にお昼ご飯のキノコを採りに行きましょう。」
「……え?」

 何を言われたのか分からないと言った表情でクロエがポカンと口を開けた。何とか理解をしようと頭を回転させる。

「え? えっと……お、お昼ご飯は備蓄から出すって、サラさん言ってましたよね? キ、キノコはなしですよね……?」
「それは水浴びをするなら、と言う話ですわ。水浴びをするなら食材調達の時間が取れないので備蓄から出しますけど、水浴びをしないなら備蓄を使うなんてもったいない事できませんもの。当然キノコですわ。」
「そ、そんな……!」

 クロエはようやく己がサラの術中にはまっていることを悟った。もはや自身に残された道は二つに一つ。水着か、キノコ。まさに前門の虎後門の狼と言うべき心情だった。

「クッ……! ひ、卑怯ですよ、サラさん!」
「何のことですの? 私はただ当然のことを言ったまで。さぁ、どうするんですの、クロエさん?」

 笑顔でサラが迫ってくる。クロエにはもはやその笑顔が悪魔の笑みにしか見えなくなっていた。










 数分後、丸太小屋の中にて。

「キノコには……勝てなかったよ……」

 サラから渡された水着を机の上に置いてそう呟くクロエの姿があった。結局彼女は昼食にキノコを食べることを拒否、水着を着て水浴びすることを選んだのだ。サラの作戦勝ちである。
 サラとミーナはそれぞれ別の場所で着替えていた。クロエを丸太小屋に残し、二人は幌馬車の中で着替えている。クロエがそれだけはどうしても譲れないと言い張ったのだ。裸を見られる恥ずかしさではない。二人の裸を見る気恥ずかしさを考えたのだ。
 最初それを拒んだサラであったが、これ以上へそを曲げられても困ると思ったのだろう。最後にはその条件をのんだ。
 そして現在、クロエはサラから受け取った水着を抱え固まっていた。すでにズボンと上着は脱いでたたまれている。現在身にまとっているのはパンツと、前のボタンが開かれたシャツのみだ。エルフに負けず劣らない真っ白な肌が窓から差し込む陽光によって照らされている。

(どうしよ……ものすごく恥ずかしいんだけど。いや、なんで女の人ってこんな下着と変わらない物着て外に出られるの? ありえない……「パンツじゃないから恥ずかしくない」? 何言ってるんだろ、こんなのただのパンツじゃん……やだやだやだやだ、着たくない……恥ずかしい!)

 パンツ一枚シャツ一枚まで頑張ったが、そこでクロエの勇気は尽きてしまったようだ。机の上の水着に手を伸ばすも、すぐに手を引っ込めると言ったことを何度も繰り返している。

(あぁ……やっぱダメだ……こんなの無理だって! でもキノコも嫌だ。だってあれ菌じゃん。菌の塊じゃん。なんか形も嫌いだし……)

 苦手なキノコを思い、なけなしの勇気を振り絞るクロエ。思い切って水着に手を伸ばす。しかしその時、不意に丸太小屋の扉がノックされ開かれた扉の間からサラが顔を覗かせた。

「クロエさん? だいぶ時間がたってますけど、もしかして着方がわからない、と……か……」

 そこまで言ってサラの言葉が止まる。サラは見てしまったのだ。開けた扉の先、そこには顔を真っ赤に染め上げ、涙目の表情をこちらに向けるクロエの姿を。なぜかパンツ一枚にシャツ一枚と言う誘っているとしか思えない格好で、必死に体を隠そうとするもばっちり見えている色々。純白のパンツは神々しささえ感じる。
 何よりもその恥じらいの顔。顔を真っ赤にさせた涙目で口をパクパクとさせるその仕草。全てがサラの心をかき乱す。
 サラの意識が保たれていたのもそこまでだった。つぅっと鼻から一筋鼻血を垂らすと、そのまますべての煩悩を消し去ったかのような穏やかな笑みを浮かべてサラは倒れた。

『お、お嬢様!? どうされたのですか!?』

 丸太小屋の外からミーナの声が聞こえる。慌てて駆け寄ったミーナはサラを抱え起こし、そして部屋の中のクロエを見る。少しの間考えるように黙っていたミーナだったが、正しく状況を理解したのだろう。クロエに向かって一礼すると、サラを抱えたまま小屋を出て扉を閉めた。

「……死にたい……」

 ようやくクロエの口から出た言葉はそれだけだった。









 何とか精神の回復を果たしたクロエは、用意された水着をやっとの思いで装着し終わっていた。サラに半裸を見られたショックでもはや水着がどうとかと言う考えは吹き飛んでいた。

「それにしても……やっぱ恥ずかしいな……」

 そう呟くクロエ。白と黒を基調とした水着は、その体系の幼さをカバーするかのように大きなフリルが付いている。白く細い体は今にも折れてしまいそうだ。モジモジと体をよじるその姿はいじらしさがよく表れている。

(着てみてわかったけど……やっぱこれ下着と変わんないって! いや、生まれつき女の子とかだったら意識も違うかもしれないけどさ、ボクは元々男だよ!? ハァ……わけわかんないよ……)

 右太ももにつけた謎の装飾を引っ張りながらそう考える。ふと周りを見回すとサラとミーナの姿が見当たらない。

「サラさーん? ミーナさーん? どこ行ったんですかー?」

 クロエが声を上げて二人を探す。すると近くの茂みがガサガサと鳴って人影が姿を現した。

「あら、クロエさん。着替え終わったんですのね?」

 サラだった。少し横になっていたのか顔が赤い。サラもすでに着替え終わったようで、クロエと同じように水着を着ていた。
 サラの水着は緑を基調としたシンプルなビキニだった。胸元と腰元に白のフリルが付いている。派手な装飾がない分、それを着ている者の魅力が存分に表れる水着だった。

「うーん、やっぱり可愛いですわ! 私のクロエさんへのセンスはなかなかの物がありますわね。」

 サラがそう誇らしげに言った。褒められたクロエは顔を赤くさせる。だが、その赤さの原因はどうやら褒められたことだけではなさそうである。

「そ、そんな……サラさんだってよく似合ってますよ。すごいきれいです。」
「あら、そんな風に言われると嬉しいですわね……勇気を出して着てみてよかったですわ。」

 はにかんで言うサラの表情はまさに恋する乙女と言った表現が合うものだった。二人の間に何とも言えない時間が流れる。
 すると不意に同じく茂みがガサガサと鳴る。そこからはミーナが出てきた。

「お嬢様、もう少し横になってないと倒れますよ? おや、クロエさん。とてもよくお似合いですよ。」

 サラに注意をしながら出てきたミーナも同じように水着姿だった。どうやらミーナは先ほど鼻血を出して倒れたサラを、木陰で看病していたらしい。サラが申し訳なさそうにしている。
 ミーナを前にしたクロエは思わず言葉を失っていた。目の前にある姿はまさに圧巻だったからだ。
 ミーナの水着は紫を基調とした大人っぽい色合いのものだった。フリルがふんだんに使われているのに、一つも子供っぽさなどは感じない。寄せられている豊満な胸は木漏れ日を受けて、まるでフェロモンが目に見えるかのようだ。
 下半身もすごい。一見大きなパレオを巻いているその姿は露出が抑えられているように思われるが、そのパレオは透ける素材で作られていた。かすかにのぞくその下の水着、それはもはや紐のような作りだった。

「ふむ、やはりこうして見るとミーナの身体はいやらしいですわね。」

 あごに手を当てながらそう呟くサラ。幼いころから親しむ仲だからこそ言える言葉だろう。普段ならクロエが突っ込むところだろうが、クロエも正直同じ思いだったので何も言えない。

「それは、誉め言葉と受け取ってよいのでしょうか……?」
「もちろんですわ! ほら、ちょっとポーズをとってみてくれません?」

 ミーナがポーズをとる。左手の人差し指を伸ばし、まるで何かを誘うかのような動き。思わず喉を鳴らすクロエ。

(あ、案外ノリノリでやるんだな……)

 ドギマギしながら視線を逸らす。その間にサラとミーナは湖の方に向かっていた。

「クロエさーん? 気持ちいいですわよ。早く入りましょう?」
「あ、はい! 今行きます!」

 サラの呼びかけにクロエが返事をする。トタタッと水際まで走り、ふと開けた空を見上げた。

「……良い天気だなぁ……」










 存分に水遊びを楽しんだ三人は水際に置かれた大きな丸太の上に座っていた。それぞれの分用意されたそれは、ミーナが運んできたものだ。足元に感じる冷たさと体を包む温かい陽気が心地よさそうだ。

「こうして水遊びをしていると、郷の近くの泉を思い出しますわ。」
「え? 郷にそんなところがあったんですか?」

 クロエが驚いた風にサラに尋ねる。

「ええ。クロエさんがいたときはまだ季節ではなかったんですけど、郷がもう少し熱くなるとみんな郷近くの泉に行くんですの。郷は質素ですから、こういう水着はみんなの密かな憧れなのですわ。」

 そう嬉しそうに話すサラ。彼女自身憧れていたのだろう。クロエに水着を着せたかったというのも偽らざる本心であろうが、自分が着てみたいというのもまた本心なようだ。
 しばらく日光浴がてら楽しそうに話をする三人。ミーナはいつの間にかサングラスのようなものをかけていた。丸太もいつの間にか削られて眠れるようになっている。だが、不意に近くの茂みから何かが飛び出してきた。それを見たクロエとサラが歓声を上げる。

「サ、サラさん! あ、あれ! あれ!」
「な、何なんですのあれは!」

 二人が指し示す先、そこにいたのはまるで人形のようにまんまるもこもこの毛並みを持った一羽のウサギ型モンスターだった。まるで本当に人形が立って歩いているかのように二足歩行で歩いているその姿は、もはやあざといぐらいである。
 二人の歓声にミーナが同じ方向を見た。そのモンスターを知っているのかこともなげに名前を告げる。

「おや、ファニラビーではないですか。久しぶりに見ましたね。」
「あ、あの子そんな名前なんですか? 名前もまた可愛いですね!」

 クロエが興奮したように言った。実は前世から子猫や子犬など、可愛いものに目がなかったクロエ。現れたファニラビーはクロエの可愛い物センサーに警報を鳴らすのだった。
 もはや我慢ならないとばかりにクロエが立ち上がりファニラビーに近づく。だが、驚いたファニラビーはさっと森の中に隠れてしまった。

「ああっ!?」

 残念そうな声を上げるクロエ。それを見てミーナが声をかける。

「彼らはすこし臆病な性格をしてますから。静かに近寄ってあげると良いですよ。」
「そうですか……」

 しょぼんと落ち込みながら再び水際の丸太に腰掛けるクロエ。すると、まるでタイミングを計ったかのようにファニラビーが再び現れた。

「あ! また!」
「今度は私が行ってみますわ!」

 サラが意気込んで立ち上がる。ミーナのアドバイスをもとに、今度はそろりと、ゆっくり近づいていく。
 だが、あと一歩と言うところでファニラビーはまたも茂みに隠れてしまった。悔しそうに拳を握るサラ。

「あ、後一歩でしたのに……」
「お嬢様は顔が怖いのですよ。」

 トボトボと丸太へ帰るサラ。もうチャンスはないのか。いや、二度あることは三度ある。何と三度にわたってファニラビーが姿を現したのだ。

「僭越ながら、私が。」

 ミーナがそう言ってサングラスを外した。サングラスをなぜか胸に谷間に挟むと、丸太に腰掛けた。

「どうぞ、いらっしゃい?」

 にこりと微笑むとファニラビーへ手を伸ばし、ちょいちょいと手で誘う。誘われたファニラビーはピクンと反応すると、周りをキョロキョロと見回し恐る恐ると言った様子でミーナに近づいてきた。

「フフッ、まぁこんなものです。」

 得意げにファニラビーを抱きかかえクロエとサラの方を見る。羨ましそうにミーナを見つめる二人。クロエが悔しそうにつぶやく。

「ボクは魔王のはずなのに……どうして言うこと聞かないんだろう……最初もトライウルフに追いかけられていたし……」
「いえいえ、それは関係ありませんよ。トライウルフもこの子も魔物ではありませんから。」

 ミーナの言葉にクエスチョンマークを浮かべるクロエ。ミーナはファニラビーをサラに預けるとクロエの方に向き直って話し出した。

「この子たちのようなモンスターはいわば国の中で飼われている家畜と同じです。魔力を持たない一般的な動物です。中にはドラゴンの様に魔法存在としか思えないものもありますけどね。そして、そのモンスターが突然変異的に魔力を取り込んで生まれるのが魔物なんです。」

 そこまで言うと、ミーナは収納魔法【パンドラ】を展開、中から紙を取り出すとそこに何かを書きだした。その間にクロエたちの周りには数匹のファニラビーが集まりだす。最初の一匹が無事なのを確認して続々と出て来たらしい。臆病ではあるが人懐っこいようだ。

「大体このような感じですね。モンスターとは魔力を持たない動物のような存在、魔物はモンスターが魔力を取り込むか、同じ魔物から生まれた存在です。この関係は人類種と亜人と同じですね……って、その様子では聞けませんか。」
「あ、ハハ……なんか、すごい懐かれちゃって……」

 クロエの膝の上、肩、そして頭の上にはたくさんのファニラビーが乗っていた。本物の人形のように軽いので、クロエに負担はない。幼い少女が人形(のようなモンスター)に囲まれる様子は、まるで絵本の一ページである。

「臆病なファニラビーがそこまで懐くとは……もしかしたらクロエさんの言った魔王云々は関係があるかもしれませんね。」

 クスッと笑うミーナ。サラも預けられたファニラビーをいじくりまわしている。平和なとある一日はこうして過ぎていくのであった。

 ―続く―
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