白銀が征く異世界冒険記―旧友を探す旅はトラブルまみれ!?―

埋群のどか

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第三章:蒸奇の国・ガンク・ダンプ

第40話

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 オトミの紹介状でもって通された部屋は、その宿屋でも最上位に当たる一室、いわゆるロイヤルスイートであった。広い内装に(国内における)最高級の眺め、室内ジャグジーも完備されている。

「ほ、本当にここで間違ってないんですか? 後で法外な料金を請求されないですか?」

 クロエが庶民丸だしな質問をしていた。しかし、転生する前はまごうことなき一般庶民であった彼女にとってまるで王族が泊まるような部屋は違和感しかないのだろう。
 むしろその点曲がりなりにもエルフの族長の娘たるサラとその従者のミーナは手慣れたものだった。

「大丈夫ですよ、クロエさん。念のため宿泊料金を聞いておきましたが、十分払える額でしたから。」

 ミーナがこともなげに言った。その言葉にクロエが反応する。

「え!? そ、そんなにお金あるんですか?」
「オーラントで得た報酬は、仮にも一国の革命の立役者に支払われる額ですから。故に普通に暮らしていればわざわざギルドの任務を受けなくても構わないぐらいですね。なので、安心してくつろいで大丈夫ですよ。」

 ミーナの言葉に安堵したクロエは早速寝室に向かった。そこには予想通りまるで雲のように整えられたベッドが並んでいる。丁度三つ、並べられたベッドはその一つのサイズで三人が余裕で眠れそうだ。
 ベッドを見てクロエの尻尾がまるで犬の様にパタパタと振られる。辛抱たまらないと言ったように駆け出すと、クロエはそのまま跳躍、ふかふかの布団にダイブした。

「うっ……わぁ……! ふかふか……気持ちいぃ……」

 ジャンプの衝撃を余すところなく柔らかく受け止めるベッド。清潔なシーツはヒンヤリとした感触を肌に伝える。オーラントからここまでの道のりでは得られなかったその快さに、クロエはそのまま寝息を立ててしまった。
 その様子を扉の影から覗き見る影があった。サラだ。彼女は扉の影から顔だけ出してクロエの一連の行動を注視していた。そしてクロエが寝息を立て始めると、その寝顔をたっぷりと凝視する。

「……お嬢様、何をしていらっしゃるのですか?」

 ミーナが半ば呆れ気味にサラに問いかけた。用意していたお茶を机の上に置く。問いかけられたサラはその質問には答えず、逆にミーナに質問をした。

「……ミーナ、入国審査の時にあったあのカメラとやら、あれはこの国内にも売ってるんですの?」
「え? え、ええ。私が以前訪れた際にすでに売っていましたから。今ならあの時より高性能で安いものがあるでしょうね。」

 その言葉を待っていたとばかりにサラがミーナの下に駆け出す。そして意気高々に叫ぶのだった。

「買いに行きますわよ、今すぐ! あの天使の寝顔を収めずして何を収めますの!? さぁミーナ、案内してくださいまし!」
「お嬢様……」










 ――カシャ! カシャ!

「う……んぅ……?」

 何やら聞きなれない音にクロエは目を覚ました。のそりと起き上がり目元をコシコシとこする。まるで猫のようだ。あくびを一つ漏らすと閉じていた瞼を開く。するとすぐ近くに人影があった。サラだ。
 彼女はクロエの方を見てニコニコと笑っている。後ろに手を組んでいるそのポーズは、その程よい大きさの胸を強調させる。起き抜けに見てしまったクロエは慌てて視線をそらした。

「お、おはようございます……ごめんなさい、寝ちゃってました。」
「いえいえ、長い旅で疲れていたんですもの。仕方ありませんわ。」

 サラが笑顔でそう言った。普段よりもツヤツヤと輝いているように見えるその笑顔は一体何のためなのだろうか。
 クロエはベッドから体を起こすと、そのまま伸びをした。いまだ半覚醒の頭は少しボーっとするようだ。その様子を見たサラが口を開く。

「実はこの後、外へ食事に行こうとミーナと話をしていたんですの。それまでまだ時間もありますし、今のうちお風呂へ行ってきてはどうですの? その後にでもその、ヒフミ? と言う方にお手紙を書くと良いですわ。そうすれば出かけで手紙も預けられますし。」
「ん……そうですね。そうします……。」

 そう返事したクロエは着替えなどを用意すると、のっそりとした動作で部屋を出て行った。サラがそれを笑顔で見送る。

「ふぅ……バレませんでしたわ。」

 サラが後ろに回していた手を前に出す。そこのあったのは一台の小さな箱型の機械だ。ガンク・ダンプの入国審査でも使われたそれは、個人が持ち運び使用できるようにされた射影器の軽量モデルだった。
 結局ミーナを何とか口説き落としたサラは、即断即決で射影器を購入。すぐに宿へ帰るとクロエの寝顔を熱心に撮影していたのだった。現在は撮影したクロエの寝顔を厚めに作られた紙へ投影している。
 その様子を離れたところで見つめていたミーナは一人頭に手を当てると、「ハァ……」と深い深いため息をついた。

(あぁ……どこで教育を間違えてしまったのでしょう?)

 しばらくするとクロエが返ってきた。風呂に入った湯上りホカホカの体からは湯気が上がっている。

「むぅ……いいお湯でした。」
「おかえりなさいですわ。」

 サラが出迎えた。すでに写真は現像済み、厳重にしまわれている。射影器はミーナに預けていた。

「おや、おかえりなさいませ。お湯加減はどうでしたか?」
「あ、ミーナさん。凄かったです。あれ、ただのお湯じゃなくて温泉ですよね?」
「よくわかりましたね。厳密にいえば異なりますが、その通りです。」

 ミーナがそう答えた。そして壁に掛けられたこの国の周辺地図を示しながら話を続ける。

「そもそもこのガンク・ダンプは水のない砂漠地帯にあるのですが、この国のある谷はかつての巨大な川が通って出来たものなのです。その川は現在地上からその姿を消しましたが、いまだ地下には水脈が通っております。ゆえにこの国は砂漠地帯にあっても水が豊富、その鉱物成分を多量に含んだ水を沸かしてできる温水泉はこの国の密かな人気観光なのです。」
「へぇ……そうなんですか。」

 ミーナの講義が終了した。こうしてクロエのこの世界の知識は着実に増えていくのだ。

「さて、クロエさん。さっと手紙を書いてしまいましょう。すでに食事処の予約は済んでおります。ご準備ができ次第出発しましょう。」
「はい。」

 そう返事すると、クロエは部屋の片隅に置かれた小さな机にむかった。宿へ来る前に買った便箋を取り出し手紙を書いていく。用いる文字は転生した証明のため日本語だ。当たり障りのない挨拶もそこそこに、どこかで落ち合いたいことを記す。最後に今自分たちの止まっている宿を記して完成だ。返事はここへ送ってもらえば事足りる。

「ん。完成です。お待たせしました。」
「いえいえ。では向かいましょうか。」

 三人は部屋を出て宿屋を後にする。すっかり日も暮れて夜になったガンク・ダンプの街並みは、薄くかかる霧にきらめく街灯が幻想的に輝いている。まさに「蒸奇の国」の名に相応しい様相なのであった。

―続く―
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