47 / 110
第三章:蒸奇の国・ガンク・ダンプ
第47話
しおりを挟む
その日私こと野木一二三、現ただのヒフミは仕事先の店長からとある仕事を命じられていた。近くの軍関係施設への仕出しである。
この国ガンク・ダンプは軍閥国家だった。とは言え、別に軍人至上主義と言うわけでもなければ、日夜戦争に明け暮れると言うわけでもない。大昔にあったと言う戦争のころに軍部が主権を取って以来、ずっとそれが続いていると言うだけである。
つまりこの施設への仕出しは私の働く弁当屋の超お得意様だと言える。失敗するわけにはいかない。働き始めて今日で一週間、私はすでにできる新人と言う認識をされている。故にお得意様への仕出しを任されたと言うわけだ。
弁当を積んだ車? のようなものを運転し、石畳の街を行く。この車らしきものは私の生きていた現代日本の科学技術とはまた違う力で動いているらしい。道理でガソリンを入れないわけだ。個人的にそういった機械関係は興味があるので最近少しずつ勉強しているのだ。
少しよそ事を考えながらも無事施設へとたどり着いた私は、施設の入口、そこに設置されたインターホンを押す。すぐに声が聞こえてきた。私の身元を尋ねる声。私はそれに店名を名乗って答える。するとすぐに扉が開いた。車を中へ入れるように指示が下る。
建物の中は軍の施設と言うよりも工場と言った雰囲気が似合う場所だった。警備として軍服を着た軍人がいるものの、それよりも作業着を着た人々が目立つ。中には人じゃないものもいるが。
車を止めて降りると、そこにはにこやかな笑みを浮かべた軍人が立っていた。私は頭を下げて愛想よく挨拶をする。
「おはようございます! いつもご利用ありがとうございます。ミザリー弁当屋です。」
「ご苦労様です。今日はいつもの店長さんじゃないんですね?」
「はい。私は最近雇われた者でして。今日は挨拶がてら弁当を持って行けと言われまして伺わせていただきました。」
よし、これでファーストコンタクトは完璧だろう。相手もわたしに不快感は抱いていないはずだ。私は荷台から弁当を取り出す。近くにいた数人の作業者の方が弁当の運搬を手伝ってくれるそうだ。だが、それに甘えず私も運搬をする。女だと舐められないようにしなくては。
弁当を休憩所と呼ばれている場所へ運ぶように頼まれた。同じく弁当を運ぶ技術者の方と施設内を歩く。私は不審に思われない程度に移設内を観察していた。
どうやらここは軍の武器などを設計製作する場所のようだ。至る所に試作品らしき武器が落ちている。頭上を様々な資材がクレーンに吊るされ運ばれていくのを見た。
しばらく歩いて休憩室へとたどり着いた。弁当を用意された机の上に置き、注文書に軍の判子をもらう。これで業務は終了だ。私は今まで来た道を変わらぬ様子で引き返していった。
しかし、ここでとあるアクシデントが起こったのだ。これこそが私の運命を一変させたものであると、この時の私はまだ知らなかった。
同じく作業現場を歩く道すがらだった。相変わらず工場の中は大きな音と光、頭上を行き交うクレーンであふれかえっていた。日本ならばまず一般人の立ち入りが禁止される危険区域だ。ここは異世界なのだとおかしなところで実感し笑いがこぼれる。
すると、私の頭上で突然何かが壊れるような、何とも言い難い不吉な音が響いた。同じく歩く軍人の方も私と同じく周りを見渡し、そして恐る恐ると言った様子で上を見上げる。
視線の先にあったのは、高いところに吊るされたクレーン同士がぶつかり合っていた、まさにその瞬間だった。恐らく操作ミスか何かなのだろう、鋼鉄製のクレーンは衝撃でゆがみひしゃげている。片方は何も吊っていなかったようだが、もう片方は日本でも見たことのあるような鉄骨のような物がロープにつられていた。その鉄骨を吊っているロープ、それがひしゃげたクレーンに挟まれて切れる寸前……と言うよりも、今切れた!?
「う、うわぁあっ!?」
流石は軍人なのか、彼は少し情けない悲鳴を上げながらもその場を素早い身のこなしで離れていった。それを確認した私も少し遅れてその場を離れる。いや、離れようとした。だが、私の視界にとあるものが映った。
それはここで働く女性作業員なのだろう。私たちと同じく頭上の大惨事に気が付いたのだろう。同じように上を見上げ、そして腰を抜かしてしまっていた。
「――ッ!? 何をしてる!? 早く逃げるんだ!」
だが、私の叫びももはや聞こえないのか、彼女はただ上を向いて震えるばかりだった。その間にも彼女の頭上では今にも鉄骨が落ちようとしていた。
そして次の瞬間、完全に傾いた鉄骨がバランスを崩し地上へと落下した。
「キャァアアアアッ!?」
甲高い悲鳴をあげて彼女が叫ぶ。その声に少し離れた場所にいた作業員たちが何事かとその手を止めて振り向いた。そして豪速で落ちる鉄骨を認識し、その下にいる女性を認め何もできない。
だが、私は彼女が悲鳴を上げた瞬間、とっさに駆け出していた。何ができるかなんて考えていない。ただ、震えるその姿にとある人物を重ねた瞬間には、すでに彼女の下へたどり着いてその身体を抱きしめていた。
私一人が間に入ったぐらいでは降り注ぐ鉄骨は止まらないだろう。私と下で震える彼女を仲良く串刺しにして終わりだ。
……だが、本当にそれでいいのか? 私は何もできずに終わるのか? 同じように震えていた、あの子を守れなかった過去の私と同じなのか? もし、私に力があるなら、この事態を覆せる力があるなら……頼む、どうにかしてくれッ!!
次の瞬間、まるで私の身体は私の物ではなくなったかのように無意識にその手が降り注ぐ鉄骨へとまっすぐ向けられた。そしてその口から小さく言葉が発せられる。
「【流金鑠石・白之盾】」
―続く―
この国ガンク・ダンプは軍閥国家だった。とは言え、別に軍人至上主義と言うわけでもなければ、日夜戦争に明け暮れると言うわけでもない。大昔にあったと言う戦争のころに軍部が主権を取って以来、ずっとそれが続いていると言うだけである。
つまりこの施設への仕出しは私の働く弁当屋の超お得意様だと言える。失敗するわけにはいかない。働き始めて今日で一週間、私はすでにできる新人と言う認識をされている。故にお得意様への仕出しを任されたと言うわけだ。
弁当を積んだ車? のようなものを運転し、石畳の街を行く。この車らしきものは私の生きていた現代日本の科学技術とはまた違う力で動いているらしい。道理でガソリンを入れないわけだ。個人的にそういった機械関係は興味があるので最近少しずつ勉強しているのだ。
少しよそ事を考えながらも無事施設へとたどり着いた私は、施設の入口、そこに設置されたインターホンを押す。すぐに声が聞こえてきた。私の身元を尋ねる声。私はそれに店名を名乗って答える。するとすぐに扉が開いた。車を中へ入れるように指示が下る。
建物の中は軍の施設と言うよりも工場と言った雰囲気が似合う場所だった。警備として軍服を着た軍人がいるものの、それよりも作業着を着た人々が目立つ。中には人じゃないものもいるが。
車を止めて降りると、そこにはにこやかな笑みを浮かべた軍人が立っていた。私は頭を下げて愛想よく挨拶をする。
「おはようございます! いつもご利用ありがとうございます。ミザリー弁当屋です。」
「ご苦労様です。今日はいつもの店長さんじゃないんですね?」
「はい。私は最近雇われた者でして。今日は挨拶がてら弁当を持って行けと言われまして伺わせていただきました。」
よし、これでファーストコンタクトは完璧だろう。相手もわたしに不快感は抱いていないはずだ。私は荷台から弁当を取り出す。近くにいた数人の作業者の方が弁当の運搬を手伝ってくれるそうだ。だが、それに甘えず私も運搬をする。女だと舐められないようにしなくては。
弁当を休憩所と呼ばれている場所へ運ぶように頼まれた。同じく弁当を運ぶ技術者の方と施設内を歩く。私は不審に思われない程度に移設内を観察していた。
どうやらここは軍の武器などを設計製作する場所のようだ。至る所に試作品らしき武器が落ちている。頭上を様々な資材がクレーンに吊るされ運ばれていくのを見た。
しばらく歩いて休憩室へとたどり着いた。弁当を用意された机の上に置き、注文書に軍の判子をもらう。これで業務は終了だ。私は今まで来た道を変わらぬ様子で引き返していった。
しかし、ここでとあるアクシデントが起こったのだ。これこそが私の運命を一変させたものであると、この時の私はまだ知らなかった。
同じく作業現場を歩く道すがらだった。相変わらず工場の中は大きな音と光、頭上を行き交うクレーンであふれかえっていた。日本ならばまず一般人の立ち入りが禁止される危険区域だ。ここは異世界なのだとおかしなところで実感し笑いがこぼれる。
すると、私の頭上で突然何かが壊れるような、何とも言い難い不吉な音が響いた。同じく歩く軍人の方も私と同じく周りを見渡し、そして恐る恐ると言った様子で上を見上げる。
視線の先にあったのは、高いところに吊るされたクレーン同士がぶつかり合っていた、まさにその瞬間だった。恐らく操作ミスか何かなのだろう、鋼鉄製のクレーンは衝撃でゆがみひしゃげている。片方は何も吊っていなかったようだが、もう片方は日本でも見たことのあるような鉄骨のような物がロープにつられていた。その鉄骨を吊っているロープ、それがひしゃげたクレーンに挟まれて切れる寸前……と言うよりも、今切れた!?
「う、うわぁあっ!?」
流石は軍人なのか、彼は少し情けない悲鳴を上げながらもその場を素早い身のこなしで離れていった。それを確認した私も少し遅れてその場を離れる。いや、離れようとした。だが、私の視界にとあるものが映った。
それはここで働く女性作業員なのだろう。私たちと同じく頭上の大惨事に気が付いたのだろう。同じように上を見上げ、そして腰を抜かしてしまっていた。
「――ッ!? 何をしてる!? 早く逃げるんだ!」
だが、私の叫びももはや聞こえないのか、彼女はただ上を向いて震えるばかりだった。その間にも彼女の頭上では今にも鉄骨が落ちようとしていた。
そして次の瞬間、完全に傾いた鉄骨がバランスを崩し地上へと落下した。
「キャァアアアアッ!?」
甲高い悲鳴をあげて彼女が叫ぶ。その声に少し離れた場所にいた作業員たちが何事かとその手を止めて振り向いた。そして豪速で落ちる鉄骨を認識し、その下にいる女性を認め何もできない。
だが、私は彼女が悲鳴を上げた瞬間、とっさに駆け出していた。何ができるかなんて考えていない。ただ、震えるその姿にとある人物を重ねた瞬間には、すでに彼女の下へたどり着いてその身体を抱きしめていた。
私一人が間に入ったぐらいでは降り注ぐ鉄骨は止まらないだろう。私と下で震える彼女を仲良く串刺しにして終わりだ。
……だが、本当にそれでいいのか? 私は何もできずに終わるのか? 同じように震えていた、あの子を守れなかった過去の私と同じなのか? もし、私に力があるなら、この事態を覆せる力があるなら……頼む、どうにかしてくれッ!!
次の瞬間、まるで私の身体は私の物ではなくなったかのように無意識にその手が降り注ぐ鉄骨へとまっすぐ向けられた。そしてその口から小さく言葉が発せられる。
「【流金鑠石・白之盾】」
―続く―
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~
枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。
同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。
仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。
─────────────
※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。
※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。
※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる