アザーズ~四つの異本の物語~

埋群のどか

文字の大きさ
18 / 25

18話目

しおりを挟む
「うん、しっかり変わっているわね。」
「本当だ、これなら安心だね。」

 シャルロットが満足そうに頷いた。隣のルディも同じように頷いている。それを見たシャルロットが疑問を覚えてルディに尋ねた。

「あれ、どうして変わったってわかるのよ?」
「あ、えっと……さっきの女の人、アオバ、だったっけ? あの人につかまっている間に聞かされたんだ。だって、赤ずきんを被っている女の子なんてシャルルぐらいだからね。あぁ、これはマズいなって考えたこと位は覚えているんだ。」
「ふーん、そうなの。でも、変わったこの話は物語としてはダメね。ご都合主義すぎるわ。」

 シャルロットが物語を一瞥してそう語った。自身がモチーフの物語なのにこうも酷評することはあまりないだろう。そのあまりな、しかし彼女らしい言葉にルディもクレハも苦笑している。

「む……何よ、何がおかしいの?」
「いや、シャルルらしいなって思ってさ。」
「ああ、自分の物語に難癖付けるなんてそうそう出来ないさ。」
「事実だもの。私が読者なら暖炉に投げ捨てるわね。」

 シャルロットのむくれ顔にルディとクレハの二人は顔を合わせて笑った。お互い同じ人物に苦労させられた同士で分かる何かがあったのだろう。森の中の花畑は、先ほどまでの喧騒が嘘のように穏やかな時間が流れていた。
 しかし、その時間も長くは続かない。クレハの言葉が物語の幕を下ろすブザーとなる。

「さて、ここまで付き合わせて悪かったな。これでアンタらは安心だろう。アタシはこれで帰るよ……もうじき、夜も明けるから。」

 クレハの言葉に二人は空を見上げた。見ると森に囲まれた空の端、そこが薄紫の色を覗かせているではないか。クレハの言葉通りもうじき夜が明けるだろう。

「アタシみたいな夜のバケモノは、これで消えた方が良いだろう。これ以上アンタらの日常をかき乱すのも忍びないしな。」
「――あ、あの! クレハさん!」

 振り返り、去ろうとするクレハをルディが意を決したように声をかけ立ち止まらせた。驚いたと言うような顔で振り返ったクレハに、ルディはさらに驚愕な言葉をかけるのだった。

「お願いします! 僕も連れて行ってください!」
「「……え?」」

 ルディの言葉にクレハはもちろんの事、隣にいたシャルロットですら呆気にとられたような声を上げた。信じられないような顔を二人はルディに向ける。しかし、ルディの目はその気持ちの固さを示すかのように力強い眼差しをしていた。
 その意思を汲みとったのだろうか、クレハはその表情を真剣なものに変えるとその真意を尋ね始めた。

「えっと……ルディ、で間違いないよな? 何でアタシと一緒に行きたいんだ?」

 クレハがその表情にあった真剣な口調で問う。その声色に少し押されかけるも、ルディはしっかりとした言葉で言葉を返すのだった。

「今回の事で、僕は自分の力不足を感じました。このままでは、シャルルを守れません。クレハさんの強さは身をもって知っています。それに、人狼である僕はあの街にとどまる資格がありません。」

 ルディの最後の言葉にシャルロットがその顔を曇らせた。思い出すのは十年前の事件である。かの事件でルディの父親は暴走していたとはいえ街の多くの人の命を奪った。さらにはルディの母親、自らの妻の命までをも。そのことを思えば街に戻りづらいと思うルディの気持ちが、シャルロットには痛いほどわかるのだ。
 ルディは腰を折り、頭を下げて言葉を続けた。

「だから、どうか、僕を弟子にしてください! クレハさんについていって、あの『センサー』と戦う事でシャルルを守りたいんです! お願いします!!」

 ルディの言葉が響いたのちに、花畑を静寂が包む。クレハは下げられたルディの頭を見ながら顎に手を添えた。どうやら悩んでいる様子である。そして少しの沈黙の後、おもむろに顎に手を添えたまま口を開いた。

「……まずは頭を上げてくれよ、ルディ。そのまんまじゃ話が出来ねぇ。」
「はい。」

 頭を上げてまっすぐにクレハを見つめるルディ。その様子からはたとえ断られても無理についていくと言いたげなほどの覚悟が見て取れた。その真剣さに、やりにくそうにクレハが頭をかく。

「ん~……正直、アタシとしちゃあ付いて来てくれるのは有難いんだよ。正直アタシみたいに物語を変えていこうとしている奴は少ないし、その中で戦える奴なんてアタシぐらいだからな。」
「じゃ、じゃあ……!」

 ルディが期待を込めて目を輝かせた。しかし、クレハは顎に添えていた手を前に出すと、ルディの言葉を遮る。

「だけど! アタシの進む道はいわゆる普通の世界じゃない。確かにアンタは人狼って言うバケモノかもしれないが、それでもそれを受け入れてくれる奴がいるだろう? それを捨ててまで、アタシ達の世界に来るって言うのか?」

 クレハの言葉にクレハとルディがシャルロットへ視線を向けた。シャルロットは顔を俯かせている。
 クレハの言葉通り、シャルロットはルディの正体を知りながらもそれを忌避せず、むしろ彼女をその身をもって守った。今現在ルディの正体を知るのは、クレハや「センサー」を除けばシャルロットだけである。彼女が黙ってさえいれば、ルディは今までと変わらない日常を続けていけるのだ。
 クレハはそれを心配していた。日常へ戻る道がありながら、本当にそれを拒否するのか。残されるシャルロットの事はどうするのか。クレハは無言ながらもその目で多くの事をルディに問いかけていた。
 すると、おもむろにシャルロットが顔を上げた。ルディと目を合わせ、不安げな声でルディに問いかける。

「ねぇ、ルディ……さっきの言葉、本気なの?」
「……本気だよ。僕は、強くなりたい。泣いていたあの日、君とした約束を守りたいんだ。」

 ルディの言葉にシャルロットがハッとした顔になる。思い出すのは幼き頃の約束。確かに彼女はルディと約束したのだ。自分を守るほど強くなって、と。

「で、でも……! だからって街を出ていくことはないでしょ!? どうして……どうして日常に戻れるのに……!」

 シャルロットが涙をこらえるようにルディに詰め寄る。しかし、ルディは唇をかみしめながらその言葉を否定するのだった。

「……ごめん、シャルル。僕はやっぱり、日常に戻ることは出来ない。あの街にも戻れないよ。だから、この街ではない場所で君を守る。頼む、お願いだよ。」
「……そう。分かったわ……」

 ルディの言葉にシャルロットが納得したかのように小さく一言答えた。完全な納得は得られなかったものの、ルディの言い分を認めた形となる。
ルディはシャルロットの答えを聞くと、迷いを振り切るように彼女へ背を向けた。そしてクレハの下へ歩みを進めようとする。クレハもシャルロットのその応答を聞いて、ルディへ声をかけた。

 ――いや、かけようとした。
 
 クレハがルディへ声をかけようとしたその時、クレハの下へ行こうとするルディの腕を引き留める者がいた。それは他の誰でもない、シャルロット・デュヴァラであった。

「シャ、シャルル……?」
「……ルディ。あなたの気持ち、よく分かったわ。それなら、私にだって考えがあるのよ。」

 するとシャルロットは俯かせていた顔をバッと上げると、力強い瞳で驚くべき言葉を口にするのだった。シャルロットとルディ、二人の運命を変える人生の転換点。

「――私も行くわ! ルディ、私もあなたと一緒にこの街を出る!」
「「……え?」」

 静かな薄明はくめいの空の下、聞こえるものは風の音のみだった。


――続く
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が騎士団の司令官ってなんですか!? ~聖女じゃなかった私は得意の料理で騎士たちの心を掴んだら食堂の聖女様と呼ばれていました~

あんねーむど
恋愛
 栄養士が騎士団の司令官――!?  元社員食堂の職員・白城千鳥は、ある日突然「聖女」として異世界アルゼリオン王国に召喚される。  しかし期待された聖女の力はまったく発現されず、判明したのは彼女がただの一般人だという事実。  役立たずとして放逐されるかと思いきや、千鳥は王宮食堂で料理人として働くことに。慣れない異世界生活の中でも、栄養管理や献立作りを通して騎士たちの体調を支え、静かに居場所を築いていく。  そんなある日、問題児ばかりを集めた新設部隊アルゼリオン王国騎士団戦術騎士隊【アルタイル】 が発足。なぜか千鳥が司令官に任命されてしまう。  戦えない、魔法も使えない、指揮の経験もない。  困惑する千鳥を待っていたのは、王子である身分を隠している隊長のエドガー、年下で聡明だが一途すぎるノエル、俺様で口の悪い元衛士隊のクラウディオ、外見に反してドSでマッドサイエンティストのフェルナンド、癖も事情も抱えたイケメン騎士たちだった。  最初は反発され、軽んじられ、失敗も重ねる千鳥。それでも彼女は食事、生活管理、観察力といった〝戦えないからこそ持つ力〟で騎士一人ひとりと向き合い、少しずつ信頼を勝ち取っていく。  聖女でも悪役令嬢でもない。戦場に立つことすらできない彼女は、やがて隊員たちを導く司令官として成長していく。    ★にキャラクターイメージ画像アリ〼  ※料理モノの物語ではありません。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

王女様は聖女様?おてんば姫の大冒険~ペットのドラゴンが迷子なので冒険者になって探しに行きます!~

しましまにゃんこ
ファンタジー
アリシア王国の第3王女ティアラ姫には誰にも言えない秘密があった。 それは自分が全属性の魔力を持ち、最強のチート能力を持っていた「建国の賢者アリシア」の生まれ変わりであること! 8才の誕生日を境に前世の記憶を取り戻したものの、500年後に転生したことを知って慌てる。なぜなら死の直前、パートナーのドラゴンに必ず生まれ変わって会いにいくと約束したから。 どこにいてもきっとわかる!と豪語したものの、肝心のドラゴンの気配を感じることができない。全属性の魔力は受け継いだものの、かつての力に比べて圧倒的に弱くなっていたのだ! 「500年……長い。いや、でも、ドラゴンだし。きっと生きてる、よね?待ってて。約束通りきっと会いにいくから!」  かつての力を取り戻しつつ、チートな魔法で大活躍!愛する家族と優しい婚約者候補、可愛い獣人たちに囲まれた穏やかで平和な日々。 しかし、かつての母国が各国に向けて宣戦布告したことにより、少しずつ世界の平和が脅かされていく。 「今度こそ、私が世界を救って見せる!」 失われたドラゴンと世界の破滅を防ぐため、ティアラ姫の冒険の旅が今、始まる!   剣と魔法が織りなすファンタジーの世界で、アリシア王国第3王女として生まれ変わったかつての賢者が巻き起こす、愛と成長と冒険の物語です。 イケメン王子たちとの甘い恋の行方もお見逃しなく。 小説家になろう、カクヨムさま他サイトでも投稿しています。

処理中です...