さればこそ無敵のルーメン

宗園やや

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第十七話

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 二日後。
 早朝にククラ・カカツン王子とその爺がテルラ達の宿を訪れた。
 ポツリも付き添いで付いて来ていて、眠そうな顔をしている。
「先触れも無く失礼する」
 テルラ達は全員未成年なので酒を持って来れず、代わりの手土産に肉や根菜を持って来た。
 王子の護衛の兵士二人が部屋の外で控えようとしたが、寒いので部屋の中に入って貰った。
「差し入れ、ありがとうございます。とても助かります。――で、こんな早くにどうされたんですか?」
 テルラとレイ、そしてククラ王子がテーブルに着いてすぐに話の本題に入った。
「君達が神だと言ったあの魔物の事です。リカチ王女と私で話を持ち帰り、両方の陣営でそれぞれ話し合っている事は、この幼い巫女から聞いたと伺っています」
 ポツリを示すククラ。
「だが、こちらは全く良い案が出ませんでした。煮詰まった挙句、戦争をしようと言い出す者が現れる始末だ」
 頭を抱える王子の言葉を爺が補足する。
「元々この北の地は原住民である我らの物。移民であるこの街の者にでかい顔をさせるのは許せない、と主張し続けている一族も居ますのじゃ」
「纏まらないまま話し合いの日になってしまった。何の案も無く話し合いの場に行くと、相手に主導権を握られ、我等の立場が無くなる。立場自体はどうでも良いが、聖地と王都のパワーバランスが崩れて平和が乱れるのはマズイ」
 レイも難しい顔になる。
「なるほど。ククラ様はお辛い立場にいらっしゃる訳ですね。ククラ様側に不利な結果になってしまったら過激な一派が暴走する恐れが有る、と」
「ご理解痛み入る。なので恥を忍んで相談に参った次第。何か良い案を頂けないでしょうか」
 今度はテルラが口を開く。
「女神教の教会で古い神話等を調べて頂いたのですが、荒ぶる神を鎮めた昔話はいくつか有りました」
「ほう! それは?」
 前のめりになるククラに向けて三本指を立てる金髪の少年。
「大きく分けると、結末はみっつです。1、より上位の神、僕達は女神教なので、女神ティングミア様が諫めてくださった。2、普通に人間の武力で退治した。3、原因が滅んで神が落ち着いた」
 テルラはひとつひとつの結末について説明する。

1。
 暴走した神が全面的に悪く、理不尽に人間を苦しめた為、女神様が下位の神を懲らしめた。
 この場合、吹雪の魔物は長期間に渡ってハープネット全土を苦しめているので、すでに女神様が何らかの対処をなさってくださっているはず。

2。
 退治しても復活するので、相手が神なら、神殺しの方法を探す必要が有る。
 魔物なら、不死の魔物として処理すれば終わる。

「三番しか無いんじゃない? 原因は鍜治場なんだから、鍜治場を無くせばすぐ解決だよ」
 王子が真剣に聞いている後ろで、立ったままのポツリが悪気無くテルラの言葉を先に言った。
 それを聞いた王子は再び頭を抱える。
「それが出来ないからリカチ王女は魔物を退治すると主張なさっているんだ。あの鍜治場はこの街にとって、とても大事な物だ。確かに我々サイドには無用の物だが、こちらの都合だけを押し付けたらいけない」
「でも、鍜治場か魔物のどっちかを何とかしないと終わらないんでしょ? 結局は二択なんでしょ? なら、何とかするのが簡単な鍜治場の方を何とかした方が早いですよ」
「確かにその通りだ。だが、鍜治場は武器や日用品以外にも建材等を作っていると聞く。金属製の暖房器具もだ。取り潰して欲しいと言う要求は間違っても通るとは思えん」
 ストーブを見る王子。アレが作れなくなったら、本当の冬が来たらかなり困る事になる。
 誰も止めないので、ポツリは許可無く王族と会話すると言う失礼を続ける。
「あ、じゃ、潰すのがダメなら、鍜治場をもっと離すとか。元々人里離れてるんだから、それくらいなら良いんじゃないですか? いっその事、海辺まで。漁の邪魔にならないところなら、いくら吹雪いても誰も困らないでしょ」
「言ってる事は間違っていない様に聞こえるが、問題も大きい気がするな」
 王子が苦笑すると、爺が唾を飛ばす勢いで叫んだ。
「問題大有りですじゃ! その案では海辺の民族が困るだけで、この街が救われて終わりではないか! 今度は海を汚して海の神を怒らせる気か! 我等だけが犠牲になれと言うか!」
「いやだから、人気の無いところで……」
「今だって人気の無い川で問題が起こっておるわ!」
「まぁまぁ、落ち着いて。ここは論議の場ではありませんわ」
 異国の王女になだめられ、渋々口を閉じる爺。
 部屋が沈黙に包まれる間を作ってから話を再開させるレイ。
「しかし、退治が出来ないのなら、鍜治場を壊すか離すかしかないのも現状。第三の案が出るまで結論を先延ばしにするしかありませんわね。それか、リカチ王女側で良い案が出ているかもと期待するか」
「ううむ、先延ばしか。不満しか出ない愚策だと思うが、それしかないか」
 眉間に皺を寄せて腕組みするククラ。
 口を出しても良い雰囲気だと勝手に判断したカレンは、ストーブに当たったまま案を出す。
「一旦鍜治場を止めてみて、川を綺麗にしてみるのはどうでしょうか。時間は掛かりますが、神か魔物かの判別は出来るんじゃないかな。川が綺麗になって雪が止めば、アレは川の神だったなって分かると思うんですけど」
 テルラが首を横に振る。
「神が鍜治場を原因と認識していた場合は、川が綺麗になっても、鍜治場が残っている限り怒りを鎮めないでしょう。判断材料としては分が悪いですね」
「一旦鍜治場を止める、か。先延ばしの口実として、それを採用してみようか」
 ククラが心を決めた様子になったので、レイが締めに入る。
「お力になれず心苦しいですが、よそ者であるわたくし側からはこれ以上言えません。中立な第三者として話し合いに立ち会って欲しいと要求されるのでしたら、その時は喜んで応じます」
「助かります。では、私はこれからハープネットの王宮に行き、話し合いをして参ります」
 王子は腹痛を堪えているかの様な表情のまま部屋を出て行った。
「私も一旦教会に帰って今の話を先輩に伝えなきゃ。それじゃ」
 ポツリも帰って行ったので、プリシゥアが貰った食材で朝食を作り始めた。
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