さればこそ無敵のルーメン

宗園やや

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第十七話

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 ハープネットの王宮で話し合いが行われている日の午後、昼過ぎなのに突如暗くなった。
 暇潰しで旅道具の整備と掃除をしていたカレンが光量の減りに気付いて窓の露を拭いた。
「雪だ」
「本当ですか?」
 テルラも窓の前に来て外を見た。
 熱が逃げない様にと二重窓になっているので見難いが、確かに雲が分厚くなっており、白い物が降っている。
「これは問題の魔物が復活した……と言う事でしょうか」
 レイとプリシゥアも窓の前に集合する。
「急に天気が悪くなったので、きっとそうだと思いますわ」
「前の雪がまだ全然融けていないっスのにねぇ。このペースだと遠くない未来、街が雪に沈むっス」
「気温が下がる前に食料の買い足しを済ませましょうか。異常な降雪量で頭や肩に積もったりするので、雪用の雨具も買い足しましょう」
 テルラの指示で街に出る一行。簡単な買い物は宿の周辺で事が足りるが、その短い時間でみるみる雪が強くなって行く。
「うーん。これは凄いですね。来た時もこんなでしたっけ?」
 肩に積もった雪を叩き落してから宿の玄関を潜るテルラ。
 レイも濡れた銀髪を払っている。
「来た時は周りを見る余裕が有りませんでしたから、良く覚えていませんわ。でも、魔物退治で街の外に出た時はこんな感じでしたわよ。ほら」
 レイがロビーの方を見る。
 プリシゥアとカレンがすでにストーブに当たっている。
「気温も同じくらい低かったと思いますわ」
「魔物が出る時は、いっつもこんな感じだよ」
 突然現れたポツリに驚くテルラ。
「うわ、ポツリさん! 居たんですか」
「ずっとロビーに居たよ。まぁ、防寒具のせいで耳とかが鈍くなるから、消さなくても気配が消えるからね。それはともかく、みんなが外に出ている間に話し合いの結果が出たから伝えに来たよ」
「それはご苦労様です。では部屋に行きましょう。プリシゥア、カレン、部屋に戻りますよ」
「はーい」
 勧められる前にテーブルに着いたポツリは、魔物復活の可能性が発生したから予定より早く話し合いが終わったと切り出した。
「まぁ、降雪自体が季節外れだから復活は間違いないんだけどね。これから情報収集と確認作業に入るんで、出た案をそれぞれが持ち帰って検討するって事で、結論は先延ばしだってさ」
 上座に座ったレイが小さく頷く。
「先延ばしは予定通りですので問題無しですわね。で?」
「話し合いの再開は退治した後になるので、もう二、三日待って欲しいってさ」
 プリシゥアが淹れてくれた緑茶を熱そうに飲んでから訊くテルラ。
「話し合いが済んでいないのに、神かも知れない存在を退治するんですか?」
「雪を止めないと経済が止まる前に人間も家畜も全滅するからね。次の退治は明日の朝一だと思うよ。時間が経つほど雪の処理が大変になるから」
「なるほど。王子側は退治を反対したでしょうが、この雪では反対し切れないでしょうね。――色々調べていて気が付いたのですが、僕は元気な状態の魔物を見ていません。もしかしたら潜在能力を見逃しているかも知れませんので、お邪魔でなければ僕達も参加させてください」
「自分から行きたいって言うなんて、テルラ君は仕事熱心だねぇ。断られないと思うから準備して待っててよ」
「はい」
 一旦帰ったポツリは、すぐに宿に戻って来て参加オッケーを伝えた。
 殺人級の寒さの中往復させられた事を愚痴ったが、誰もそれに反応しなかった。
 そして翌朝、宿の前に三台の犬ゾリが来た。前回と同じく、コクリとポツリが出迎えてくれた。
「今日はククラ王子も参加されるので、いったん街を守る門の前で集合待ちをします」
 前と同じ組分けで犬ゾリに乗り、門前に行く。
 魔法使い部隊も待機していたので、結構な大所帯だった。
 野性味溢れる毛皮のコートを着た一団も居て、その中から見覚えの有る男性がこちらにやって来た。
「おはようございます、レインボー姫。テルラ君」
「おはようございます。今日もよろしくお願いします」
 朝の挨拶を交わすククラ王子とレイ、そしてテルラ。
「今回は村の長老や識者も参加します。例の魔物が川の神かどうかを見て貰います」
 ククラが数人の男性を示す。毛皮の防寒具を着込んでいるので年齢や体格は分からないが、背中が曲がっているのが長老らしい。
 それ以外は、雪が降って見難い事も有って、パッと見の区別は付かない。
 コクリも王子に挨拶をし、一息付いてからこれからの予定をテルラ達に説明する。
「酸と瓶は鍜治場の方が運んでくださる手筈になっていますので、私達はここから真っ直ぐ魔物退治に行きます。出発の際は陣太鼓を鳴らしますので、それまでソリで待機してください」
「はい」
 寒さを堪えながら出発を待っていると、動物から剥いだまま未加工の毛皮を着た男性が門の外からやって来てククラに耳打ちした。
「なんだと!? 俺は何も聞かされていないぞ。爺はどうだ?」
「儂にも何が何だか」
「ううむ……。巫女様、コチラに来てください」
 驚きの声を上げたククラは、コクリと共にソリの群れから離れ、小声で何らかの指示をした。
 コクリも驚きの表情になり、手招きでポツリを呼んだ。
 巫女同士で話し合った後、コクリは魔法使い部隊の方に行き、ポツリはテルラ達の方に来た。
「異常事態みたい。これは他言無用だけど、鍜治場がテロで壊されたってさ。今確認報告待ち。もしかすると今日の退治は中止になるっぽい」
 それを聞いたテルラ一行に衝撃が走る。
 ポツリもオロオロしている。
「これって、私が鍜治場を何とかしたら良いって言ったせい? だって、今更テロだなんて、タイミング良過ぎだし」
「もしそうなら、その話を聞いていた誰かがテロの一員になります。滅多な事を言わない様に」
 レイに怒られて小さくなるポツリ。
「テロなら犯行声明が出ているはず。そこはどうなっていますの?」
「まだ分かんないと思う。でも、王都の人間が鍜治場を襲う訳が無いから、多分……」
「ククラ様の慌て様を見る限りでは、ポツリの想像通りでしょうね。よそ者のわたくしでさえそう思うのですから、冤罪だったとしても、原住民側の立場はかなり悪くなりますわ。王子の心労を思うと、わたくしも胃が痛くなりますわ」
 王子の方を見ると、無言で大きく手を振っていた。
 その所作を受け、長老や識者の護衛をしていた数人の戦士が街の外に走って行った。腕の動きが規則正しかったので、彼等だけに伝わる手話の様な物で指示を飛ばしたのだろう。
 そのククラがテルラ一行の許に来て頭を下げた。
「状況は伝わっておりますでしょうか。折角参加頂いたのに、こんな事になって申し訳ありません」
「王子が謝罪する必要は有りませんわ。それで、これからどうなりますの?」
「こちら側の強権派の仕業の可能性が有るが、まだ真偽は分かりません。調査したいので、出撃は一日待って頂く事になります。調査団を走らせたから、すぐに分かるでしょう」
 コクリもテルラ一行の許に来てククラ王子と向き合う。
「ハープネット王の許可が下り次第、こちら側でも調査をします。レイ様、テルラ様、申し訳ありませんが明日まで待機をお願いします」
 頷くテルラ達。
 大雪の中でバタバタと連絡役が行き交う中、その場はそれで解散となった。
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