魔王少女は反省中

宗園やや

文字の大きさ
6 / 18

しおりを挟む
 放課となったので、勇佐は教室の前の廊下に出て生徒会長を待った。隣のクラスの生徒会長はすぐに廊下に出て来たが、苦笑いと共に謝られた。
「ごめん。私が魔王にメイドになれって言ったのに、肝心な事を忘れてた。だから、先に帰って貰えるかな」
「先に帰るのは良いけど、肝心な事って?」
「魔王に掃除洗濯が出来るかを訊いてなかった。料理は出来ないけど頑張って覚えるって言ってたから、ついそれだけでスルーしちゃった」
「ああ、なるほど。魔王ってのが本当なら、掃除洗濯なんか出来る訳ないもんな」
「一番肝心なのは料理よ。下手したら命に係わるから、やる気を出す前にちゃんと基本を理解させないと。朝露を集めたのとか、変な虫を焼いたのとか出されたら困るでしょ?」
「た、確かに」
「確認だけど、まだ前世の記憶はまだ蘇っていないのよね?」
 他人に訊かれたら変に思われる内容だから、終木は声を潜めて訊く。
「全然」
「もしも記憶が戻ったら、まず私に相談して。出来ればエインセルに気付かれない様に」
「どうして。あいつの目的を果たしてやれば、あいつは満足してどこかに行くだろ」
「どこに?」
「さぁ?」
 終木は溜息と共に腰に手を当てた。
「もしも満足しなかったら? もしも反省がウソだったら? 相手は魔王なんだから、全てを疑った方が良いわ」
「そ、そうか」
「エインセルが全部本当の事を言っていたとしても、目的を果たしたらどうなるか分からない。相手は火の点いた爆弾みたいな存在なんだから、細心の注意が必要なのよ」
「火の点いた爆弾と一緒に暮らすのか、俺は」
「記憶が戻っていない勇佐くんに任せるのは酷だと思うけど、逆に記憶が戻ってないから一緒に暮らせるってのも有ると思うの。爆弾だって知らなければ怖いと思わないだろうから」
「爆弾本人も、俺と前世の事を語り合うまで爆発するつもりは無いから、その点でも安心、か」
「そう言う事。後でエインセルと一緒に勇佐くんの家に行くからそのつもりで。どうしても無理なら私が引き受けるから、数日くらい様子を見て頂戴」
「分かった。待ってるよ」

真っ直ぐ家に帰った勇佐は、制服から部屋着に着替えた。
「いつも通りならゲームで時間を潰した後に夕飯を漁りに街に出るところだが、今日は待ってないといけないか」
 適当にマンガを読んで時間を潰していたら、ふと思い出した。両親が海外出張に行ってから、色々な物の配置が一人暮らし用になっている。何も知らない奴が見たら散らかっていると判断されるだろう。
「家事をしてくれるんなら散らかったままでも良いけど、洗濯物だけは今すぐ片付けないといけないか。パンツとかを他人に触られるのは恥ずかしいしな」
 勇佐は、風呂場の脱衣場で部屋干しにしている下着類を片付けた。風呂上がりにここから取るのが楽だったんだがな。
 って言うか、このままで良い気がして来た。恥より面倒臭ささが勝ってしまうのは男子高校生としての性分だろう。
「いや、やっぱりそう言う訳にも行かないな。エインセルとか言う奴も女物の下着を干し出したら目のやり場に困る」
一旦手を止めていた勇佐は、思い直して片付けを再開させた。
そして久しぶりに下着を自分の部屋のタンスに仕舞う。

夕日が赤くなる頃、家の呼び出しが鳴った。
「来たな。って、なんだその格好。首輪までして」
 玄関ドアを開けると、制服姿の終木とメイド姿のエインセルが居た。二人でスーパーに寄って来たのか、ネギとかがはみ出てるビニール袋を分担して持っている。
「被服部の友達にお願いして貸して貰ったのよ。メイドをさせるんだから、メイドの格好をしないと。格好ってのは大事だからね。その格好をすればその気になったりするし。首輪はただのアクセサリーだけど、これをしている屈辱が使用人って立場を忘れさせないでしょ」
「身が引き締まる思いがします!」
 エインセルが笑顔で首輪を撫でる。見た感じの質感から判断するに、分厚い布で作ったチョーカーの様だ。
「本人が気に入っているなら良いけど。まぁ入って」
「おじゃまします。時間が無いから、すぐに台所を借りるわね」
「おう。家事の練習はしてきたのか?」
 頷く終木。
「魔王になる前は普通の妖精だったから、掃除洗濯は出来るみたい。妖精だって服を着てるし、住処の掃除もする。食事だけね、出来ないのは」
「昼も言いましたが、私の主食は朝露です。料理をする必要は生涯を通して無いんです。砂糖菓子は人間のおこぼれを貰うだけですし」
 勇佐に向けての言葉は女の子らしい口調のエインセル。
「おっと、エインセル。この国では、家に上がる時は靴を脱ぐのよ」
「む? そうなのか」
 ローファーを脱いで家に上がった終木に続き、首輪付きメイド服を着ているエインセルも赤い靴を脱いで家に上がった。学校に居た時は裸足だったので、この靴もメイド服の一部らしい。
「さすがに放課後では家庭科室の使用許可が下りなかったから、これから料理を教えるの。大丈夫。今日は私が作るから、食べられない物は出ないわ」
「明日からは私が頑張ります。ソードベガの記憶が蘇るまで頑張ります」
 自称魔王の少女は、可愛らしく意気込んだ。
 それを見た終木が溜息を吐く。
「そのソードベガって言うのも止めましょうか。彼の名前は勇佐一命よ。姓が先で名が後。私は終木ほまれ」
「では名前で呼びましょう。一命さん。一命さんの記憶が蘇るまでお世話になります。――お前はほまれで良いな?」
「私は呼び捨てか。まぁ良いわ。これを作るわよ」
 呆れた顔になった終木は、プリントアウトされた数枚の紙をカバンから取り出した。料理のレシピだ。
「数日分有るから、頑張ってレパートリーを増やしなさい。人間は偏食すると病気になるから注意しなさい」
「分かった」
 終木とエインセルは、台所で料理を始めた。手順を教えながらする料理は少し長めの一時間くらい掛かったが、ちゃんとした料理が出て来た。
「味噌汁に焼き魚、そして野菜炒めか。外食に慣れてると物足りないけど、まぁ、最初ならこんなもんか」
「この魚は私が焼きました! 野菜も半分ほど切りました! きっと美味しいと思います! 食べてみてください」
 興奮しているエインセルに促され、箸を持つ勇佐。
「はいはい。頂きます。――うん、塩コショウがちゃんとしてて美味しい。魚もほど良く焼けていて美味しい」
「本当に? 良かった」
 普通の少女の様に喜ぶエインセルを見て安心した様に微笑む終木。手際も物覚えも悪くなかったので、明日の朝からでも一人で普通の食事を作れるだろう。
「じゃ、私は帰るわね。明日も様子を見に来るから、家事を頑張りなさい。勘違いした創作料理に手を出さない限りは問題は無いから、間違っても妖精族のご馳走なんか作るんじゃないわよ」
「送るよ。もう真っ暗だし」
「冷めちゃうから、勇佐くんは食べてて。私の家はすぐそこだし」
「家の周辺は暗いから、そこの街灯まで。エインセル、ちょっと行って来るから待っててくれ。すぐ帰って来る」
「はい」
「ただ待っているだけじゃなくて、キッチンの後片付けをしてなさい。奇麗に片付けるまでが料理よ」
「分かった」
 勇佐と終木は、一緒に家を出た。
 エインセルが周囲に居ない事を確認してから、勇佐は肩を落とした。
「俺、これから大丈夫かな。正直、状況に付いて行けてない」
「心配なら、連絡用にアドレス交換しておきましょうか」
「そうだな。――よし」
 二人で携帯を取り出し、お互いのアドレスを登録する。
「生徒会の特別な用事がない限り、毎朝様子を見に行くわ。そうすればエインセルも気を抜けないでしょうし」
「悪いな。じゃ、また明日」
「ええ。また明日」
 夜の闇の中で光る街灯の下で二人は別れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【1話完結】あなたの恋人は毎夜わたしのベッドで寝てますよ。

ariya
ファンタジー
ソフィア・ラテットは、婚約者アレックスから疎まれていた。 彼の傍らには、いつも愛らしい恋人リリアンヌ。 婚約者の立場として注意しても、アレックスは聞く耳を持たない。 そして迎えた学園卒業パーティー。 ソフィアは公衆の面前で婚約破棄を言い渡される。 ガッツポーズを決めるリリアンヌ。 そのままアレックスに飛び込むかと思いきや―― 彼女が抱きついた先は、ソフィアだった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

処理中です...