魔王少女は反省中

宗園やや

文字の大きさ
12 / 18

11

しおりを挟む
「では、マキナを見付けます」
 ドレスみたいなワンピースを着ているエインセルは、事も無げに言ってから、すぐ横の脇道に入った。道と言うより、敷地外からマキナの家の庭へ行く為の隙間みたいな空間だった。
「え? そっち?」
「こっちです」
 走って行ったはずのマキナは、マキナの家の塀と隣の家の垣根の間に居た。通りから完全に外れている場所なので、エインセルがマキナの感情を読めなかったら絶対に見付けられなかった。
「ど、どうしてここが分かったの?」
 絶対に見付からない自信が有ったのか、陰でしゃがんでいたマキナが目を見開いて驚いた。
 それを無視し、表通りの方を気にするエインセル。
「奴の憤怒が消えた。我に返ったか。魔物だった時は有り得なかったが、人の身となった今は事情が違うと言う事か。一命さん、隠れましょう」
 一人納得する様に呟いたエインセルは、勇佐を手招きしてからマキナのそばでしゃがんだ。
「お前の居場所がすぐに分かった理由を教えよう。我は魔法が使えるからだ」
 偉そうに言うエインセルに冷めた目を向けるマキナ。
「何それ。バカにしてるの?」
「バカにはしていない。そもそも、我はお前など相手にしたくはない。だが、お前の心が不安定だとこちらの一命さんが心配なさるのだ。なので、幼い頃にお前と似た様な目に合っていた我の話をしてやる」
「ええ? 良いよ、そんなの」
 マキナの迷惑そうな顔を無視して自分語りを始めるエインセル。
「我は、こことは違う世界で妖精として生まれた」
「ふざけてるの?」
「黙って聞け。これはお前の兄にも関係有る話だ。兄のせいでお前がイジメられるのなら、知っておくべき話だ」
 エインセルの態度があんまりにも上からなので、勇佐がフォローを入れる。
「奇妙な話なのは分かってるけど、取り合えず最後まで聞いてあげて。もしかしたら解決のヒントが有るかも知れないし」
「はい……」
 俯き、聞く姿勢になるマキナ。
 やはりマキナは年上の人間には逆らえない様だ。これまでに色々な困難が有った事が伺える。
「ありがとう一命さん。――妖精と言う生物は、この世界の伝承の物と同じく、何らかの化身として現れる。例えば、花の妖精。宝石の妖精。と言った風にな。理解出来るか? マキナ」
「まぁ……なんとなく」
「先程出て来た花の妖精なら花の力を使えるが、普通はそれしか力を使えない。自分のルーツからしか力を借りられないのだ。だが、我は何の化身でもなかった。我は人間の様に自然の全てから力を借りられた。だから『お前は人間か』と仲間から迫害を受けたのだ」
「妖精にもそう言う差別みたいなのが有るんだ」
 話半分ながらも、マキナはそう言った。こうして会話が出来るのなら、発作的に過ちを犯す様な精神状態ではなくなっているだろう。取り敢えず一安心か、と思う勇佐。
 エインセルの話は続く。
「迫害は壮絶で、正に殺される寸前だった。何年も迫害から逃げ続けた結果、やられる前にやらなければ生き残れないと言う結論に至った。我は自然全てから力を借りられたので、ひとつの力しか使えない妖精を殺すのは容易かった。行動を起こした我は一日で妖精の里を滅ぼした」
「まるで悲劇の主人公ね。それが出来る才能が有るんなら、その選択も出来るんでしょうけど。普通は無理なの。その話を現実に例えるなら、私がこの街を滅ぼして問題を解決するって事になるでしょ? 出来る訳ない」
「かも知れぬな。だが、我はそうしなければ死んでいた。そうするしかなかった。話はこれで終わりではない。殺された妖精の絶望と悲しみは、全てを憎む我の魔力を増大させた。そこで我は更なる力を求めた」
「どうして? もう復讐は果たしたんでしょ?」
「人間は個で存在する。マキナはマキナだ。代わりはない。だが、花の妖精は花が有る限り無限に湧いて出て来る。妖精は個ではなく全で存在するからだ。だから、我を迫害した妖精達は、時が経てば復活するのだ」
 小さな手で握り拳を作るエインセル。
「我の復讐は、無限とも言える殺戮の連鎖に陥ってしまった。それを解決するには、世界を滅ぼす魔王となるしかなかった。妖精の源を潰して行く内に部下も増え、我は魔王軍の長となった。そうだったな? 火のカルカンアテス」
 エインセルが一際大きい声で名前を言うと、垣根の向こうで声がした。
「そうだったな。思い返してみると、人間の街を襲うのは魔族の仕事で、魔王は人間共の力の源である遺跡や神域、聖地や憩いの場を破壊するだけだったな」
「お兄ちゃん?」
 マキナも垣根の向こうに向けて大きめの声を出した。
 位置的に不良校の男は隣の家の庭に居る事になるが、今は余計な茶々は入れないでおこうと思う勇佐。
「小さい頃、俺が不機嫌になって暴れると、お前はここに隠れていたな。それを思い出したんだ」
「知ってたんだ」
「ああ。俺は、小さい頃から妙にイライラしていた。何でイライラするのか原因が分からなくて、余計にイライラしていた。その原因がついに分かった。俺は、エインセルに殺された怒りでイライラしていたんだ」
 エインセルは、姿の見えない兄の方に顔を向けて言う。
「マキナ。お前の兄の前世は、魔王軍四天王、火のカルカンアテスだった。我の部下だったんだ。その部下をも、我は皆殺しにした」
 垣根の向こうで何かが転がって行く音がした。不良校の男が隣家の何かを蹴ったらしい。
「この前エインセルを見て全てを思い出した。マキナを不幸にしていた俺のイライラは、そのエインセルのせいだったんだよ!」
「どう言う事なの? お兄ちゃん」
「向こうでエインセルに殺された俺は、こっちで人間として生まれ変わった。その時、前世の記憶は失われた。だが、殺された怒りは消えなかった。だからイライラしていたって訳だ」
「へぇ……。言われてみれば、貴女の髪とか目の色って、外人だったとしてもちょっと珍しい色ね。それは妖精だから?」
 マキナはエインセルの顔をまじまじと見た。物陰でも暖色であるオレンジ髪は目立つ。
「マキナがそう思うならそうなんだろう。我は外人と言う物が良く分からないから何とも言えぬ」
 話を戻すぞ、と言って続けるエインセル。
「元の世界での我の目的は妖精の根絶だった。先程も言ったが、妖精と言うのは依り代が有れば自然に生まれる存在だ。だから我は初めから全てを滅ぼすつもりだった。部下も募った覚えは無い。勝手に集まって来て便利だったから利用したに過ぎない」
「てめぇ!」
「火のカルカンアテス。お前だってお前なりの目的が有って魔王軍に入り、魔王の力を利用したんだろう? お互い様だ。勇者達の事を覚えているか? 彼等も目的が有って戦っていた。勝ち残ったのは我だった。だから我の望みが叶った。それだけだ」
 マキナの手を取り、立たせるエインセル。
「死ぬのが嫌だったら勝ち残れば良かったのだ。マキナにもそう言った。死にたくなければ相手を殺せとな。今もそう考えているから我は魔族の殺戮を謝罪しない。しかし、志半ばで無残に殺された火のカルカンアテスの怒りももっともだ。だから、我を殴ったお前を恨まない。その証に我はお前の怪我を治したい。受け入れては貰えないだろうか」
 兄が応える前に妹が口を開く。
「もしも今の話が本当なら、貴女は魔法が使えるんだよね? 本当にお兄ちゃんの怪我を治せるの?」
「骨折程度なら造作も無い」
「お兄ちゃんのイライラも?」
「それは火のカルカンアテスの心の問題だから、魔法でどうにかする物ではない。だが、怒りの矛先がどこに向いているかが分かったのだから、今後は闇雲に乱暴を働いたりはしないだろう」
「じゃ、治して貰ってよ、お兄ちゃん。そして、もう乱暴な事はしないで」
 しばらくの沈黙の後、兄は口を開く。
「マキナ。お前、自殺しようとしたって本当か? それの原因が俺ってのも、本当か?」
「……うん」
「そうか。……すまなかった。これからはお前に迷惑を掛けない様にする」
「お兄ちゃん……」
「エインセル。俺はお前を許すつもりは無いが、気持ちの区切りを付ける為に怪我を治して貰おうと思う。良いか?」
「良いぞ。お前達の家の前に戻ろう」
 全員揃って塀の隙間から道路に出る。
 兄はエインセルを前にしても興奮せずにそっぽを向いている。
「右手を出せ。折れた骨が動くので痛いだろうが、一瞬だから我慢しろ」
 兄の手を取ったエインセルは、平気そうな顔で魔法を使った。魔法を使う時のリスクは秘密にしておきたいらしい。
「……治った」
 兄は、自分の家の門柱に右手をぶつけてギブスを砕いた。乱暴な性質はすぐには治らないらしい。
「本当に治ってる! 凄い!」
 マキナは、兄の右手の指が自由に動いている様子を見て目を輝かせた。魔法と言う奇跡を目の当たりにして気分が高揚している。女の子らしくはしゃぐ事が出来るのなら勇佐の心配も解消されるだろう。
「では、我は帰る。マキナの問題は家族である火のカルカンアテスに任せるぞ」
「俺の名前は啓太だ。火野坂啓太。火のなんたらって呼ばれるのは恥ずかしいから止めろ」
「啓太か。現世ではただの人なんだから、せいぜい家族を大事にするんだな。それを捨ててでも我に復讐したいのなら、遠慮無く我を殺しに来い。我もお前を殺してやるから」
「魔法が使えるお前に勝てる訳ないだろ」
「フ。ではな」
 勇佐に意志の籠った目線を送ったエインセルは、我は一人で生きていると言わんばかりに孤独を背負って去ろうとした。
 だが、啓太がそれを呼び止めた。
「待てよ。なんでお前は魔王のままここに居るんだ?」
「向こうでの我の望みは叶った。だから我も世界と共に消えるつもりだった。我も妖精だからな。言ってしまえば自殺したのだが、なぜか我は死なずにこの世界に来た。その理由は我の与り知るところではない。神のイタズラと言うしかない」
 エインセルは、日が暮れ始めた道を一人で帰って行った。
 残された勇佐は、マキナの表情に生気が蘇っているのを確認した後、エインセルの後を追った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...