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◇ アルベールの後悔
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俺はまた、妻を失うところだった、いや今度は初めての子どもと一緒に。
医師が俺を諌めなければ俺は今日、セシルの部屋には行っていないだろう。
いや、顔を見るぐらいはしたかもしれないが。
この2ヶ月2人の生活はすれ違いで顔を合わすことが無かった。
それでもたまに会いたくなって深夜に寝室を訪れたことはあった。
寝顔を見るだけでも心が癒された。
今思えば花の一つやカードの1枚でも用意すればよかった。
そうすれば少しでも、セシルの慰めになっただろう。
家令やメイド長は別邸の王女に振り回されセシルに気が回っていなかった。
俺の代になってから高貴な客を招いた事など無かったから。
これは屋敷の主としては大きな失態だ。
もともと俺一人しかいなかったので使用人の数は最低限だったのに、別邸の方に人数を取られセシルの世話は専属の3人任せになっていた。
彼女を屋敷の中で見かけなくなっていたのに皆、おかしいと思わなかった。
専属メイドのマリーとメヌエットが家令の元に行き、奥様は体調がよくないのにボニー以外誰もセシルの部屋に入れてもらえない、会えないと訴えた。
ハロルドとメリッサはすぐにセシルの部屋に行ったものの侍女に追い返される、の繰り返しだだった。
俺もセシルが全く部屋から出なくなったと、家令も会えていないと聞いて何度か行ったが入れてもらえなかった。
俺はセシルから不興を買ってしまったと思った。
それもそうか。
ベッドを共にしたとはいえ結局、結婚してから一緒にいた日数より会っていない日数の方が多いのだ。
それなのに、気持ちが近くなったと安心していた自分が笑える。
彼女は自分の連れてきた侍女しか側に置きたくないと思ったのだ。
この屋敷はまだ『彼女の家』にはなっていなかった。
体調が心配で医師の手配をしたのだがそれが色んな意味で正解だった。
本当に、今日会えて良かった。
彼女はほんの少し食べただけだった。
こうやって起きている彼女を改めて見ると、もともと細いのにやつれているのがわかる。
肌も髪も手入れがちゃんとできていない、身なりに気を配る余裕が無いからだ。
それほど体調が悪いのだ。
いつも表情豊かな瞳は冷えて固まったかのようだった。
俺の話は聞いてもらえたが彼女は戸惑っていた。
彼女は俺の気持ちを信じられないのだろう。
反省の言葉を述べるのにすぐに又、新たに反省をしなければならない事をやってしまうのだから。
どうして俺は彼女を顧みなかったのだ。
初めて愛する事を知ったのに。
彼女は今日、俺の名前を呼んでくれなかった。
不信を持たれたらまた信用を得るのにどれほど時間を費やすのか。
これでは父と母の二の舞だ。
今回の事で俺の気持ちは固まった。
今の計画をもっと早めてしまおう。
今までだって不測の事態も考えて計画を進めて来たのだ。
完璧ではなくてもそれはもう、俺の知ったことではない。
そしてセシルと一緒にいる時間を増やしたい。
もっと俺の行動と態度で気持ちを伝えなければならない。
婚礼前だと言うのにアデリナ王女が毒を盛られるという事件が起きた。
懸命に犯人を探すも近衛兵からもめぼしい報告は上がらない。
俺はアデリナの自作自演ではないかと疑っている。
彼女はこの地に来るなり国の事を朝から晩まで叩き込まれ、勉強漬けで気の抜ける時間が少なかった。
大陸共通語は話せてもこの国の言葉も覚えなければならない。
食べ物にも多少の違いがある。
結婚相手のオーギュスト王太子は地方の河川の大規模工事の視察に出向いていて、事件の起きる前日に10日ぶりに帰ってきたばかりだった。
アデリナの容姿は美しく、王太子と並んで立っていれば立派な次期国王夫妻として見栄は良い。
が、国母になる覚悟はまだ芽生えていないようだ。
だから今回のことがどれ程、大袈裟なものになってしまうのか考えてなかったのだろう。
隣国との同盟強固のための政略結婚だったが、アデリナはこの婚姻に乗り気だった。
婚姻準備のために我国に来るまでには一度しか会っていなかったが、一目見てオーギュストに惹かれたようだった。
アデリナはもっとオーギュストに構ってもらいたいだけだと思うし、王宮にいる者に同情してもらいもっと自分の存在感高めたいと思っただけではないのか?
だから、王太子とのお茶の時間にわざわざ薬を盛ったのだ。
ほんの弱い毒を。
確証は無いが…。
アデリナはオーギュストのいない時は俺を度々呼び出していた。
彼女は見目が良く人当たりの良いオーギュストの事を好きだったから、宰相であり従兄弟である俺から色々と話を聞きたかったようだ。
で、彼女は王宮内での事件が起きたらオーギュストがもっと傍にいて自分を守ってくれると考えたが、アデリナの目論見は外れて王宮から出されてしまった。
それ程に大事になってしまったのだ。
そして俺に押し付けられたのだ!
オーギュストは多分、アデリナが画策したことだと気がついている。
それでこの婚姻を進めたうちの一人である俺に、ちょっとした意趣返しをしたのだろう。
オーギュストもアデリナをそこそこ気に入っているのだから、これはアデリナへの罰という意味も込めているのだろうが…。
嫌、アデリナの息抜き為にという方が正しいか。
アデリナを使える王妃に出来るかどうかはオーギュストの腕次第だが、俺はもう関わるつもりはない。
俺と違ってオーギュストは人心掌握が上手い。
種が同じでも違った畑で育てられると全く違うモノになるのだ。
俺達が似ているのは王族に受け継がれる金髪と碧眼だけだな。
早く適当に調査をまとめてアデリナを王宮に返そう。
医師が俺を諌めなければ俺は今日、セシルの部屋には行っていないだろう。
いや、顔を見るぐらいはしたかもしれないが。
この2ヶ月2人の生活はすれ違いで顔を合わすことが無かった。
それでもたまに会いたくなって深夜に寝室を訪れたことはあった。
寝顔を見るだけでも心が癒された。
今思えば花の一つやカードの1枚でも用意すればよかった。
そうすれば少しでも、セシルの慰めになっただろう。
家令やメイド長は別邸の王女に振り回されセシルに気が回っていなかった。
俺の代になってから高貴な客を招いた事など無かったから。
これは屋敷の主としては大きな失態だ。
もともと俺一人しかいなかったので使用人の数は最低限だったのに、別邸の方に人数を取られセシルの世話は専属の3人任せになっていた。
彼女を屋敷の中で見かけなくなっていたのに皆、おかしいと思わなかった。
専属メイドのマリーとメヌエットが家令の元に行き、奥様は体調がよくないのにボニー以外誰もセシルの部屋に入れてもらえない、会えないと訴えた。
ハロルドとメリッサはすぐにセシルの部屋に行ったものの侍女に追い返される、の繰り返しだだった。
俺もセシルが全く部屋から出なくなったと、家令も会えていないと聞いて何度か行ったが入れてもらえなかった。
俺はセシルから不興を買ってしまったと思った。
それもそうか。
ベッドを共にしたとはいえ結局、結婚してから一緒にいた日数より会っていない日数の方が多いのだ。
それなのに、気持ちが近くなったと安心していた自分が笑える。
彼女は自分の連れてきた侍女しか側に置きたくないと思ったのだ。
この屋敷はまだ『彼女の家』にはなっていなかった。
体調が心配で医師の手配をしたのだがそれが色んな意味で正解だった。
本当に、今日会えて良かった。
彼女はほんの少し食べただけだった。
こうやって起きている彼女を改めて見ると、もともと細いのにやつれているのがわかる。
肌も髪も手入れがちゃんとできていない、身なりに気を配る余裕が無いからだ。
それほど体調が悪いのだ。
いつも表情豊かな瞳は冷えて固まったかのようだった。
俺の話は聞いてもらえたが彼女は戸惑っていた。
彼女は俺の気持ちを信じられないのだろう。
反省の言葉を述べるのにすぐに又、新たに反省をしなければならない事をやってしまうのだから。
どうして俺は彼女を顧みなかったのだ。
初めて愛する事を知ったのに。
彼女は今日、俺の名前を呼んでくれなかった。
不信を持たれたらまた信用を得るのにどれほど時間を費やすのか。
これでは父と母の二の舞だ。
今回の事で俺の気持ちは固まった。
今の計画をもっと早めてしまおう。
今までだって不測の事態も考えて計画を進めて来たのだ。
完璧ではなくてもそれはもう、俺の知ったことではない。
そしてセシルと一緒にいる時間を増やしたい。
もっと俺の行動と態度で気持ちを伝えなければならない。
婚礼前だと言うのにアデリナ王女が毒を盛られるという事件が起きた。
懸命に犯人を探すも近衛兵からもめぼしい報告は上がらない。
俺はアデリナの自作自演ではないかと疑っている。
彼女はこの地に来るなり国の事を朝から晩まで叩き込まれ、勉強漬けで気の抜ける時間が少なかった。
大陸共通語は話せてもこの国の言葉も覚えなければならない。
食べ物にも多少の違いがある。
結婚相手のオーギュスト王太子は地方の河川の大規模工事の視察に出向いていて、事件の起きる前日に10日ぶりに帰ってきたばかりだった。
アデリナの容姿は美しく、王太子と並んで立っていれば立派な次期国王夫妻として見栄は良い。
が、国母になる覚悟はまだ芽生えていないようだ。
だから今回のことがどれ程、大袈裟なものになってしまうのか考えてなかったのだろう。
隣国との同盟強固のための政略結婚だったが、アデリナはこの婚姻に乗り気だった。
婚姻準備のために我国に来るまでには一度しか会っていなかったが、一目見てオーギュストに惹かれたようだった。
アデリナはもっとオーギュストに構ってもらいたいだけだと思うし、王宮にいる者に同情してもらいもっと自分の存在感高めたいと思っただけではないのか?
だから、王太子とのお茶の時間にわざわざ薬を盛ったのだ。
ほんの弱い毒を。
確証は無いが…。
アデリナはオーギュストのいない時は俺を度々呼び出していた。
彼女は見目が良く人当たりの良いオーギュストの事を好きだったから、宰相であり従兄弟である俺から色々と話を聞きたかったようだ。
で、彼女は王宮内での事件が起きたらオーギュストがもっと傍にいて自分を守ってくれると考えたが、アデリナの目論見は外れて王宮から出されてしまった。
それ程に大事になってしまったのだ。
そして俺に押し付けられたのだ!
オーギュストは多分、アデリナが画策したことだと気がついている。
それでこの婚姻を進めたうちの一人である俺に、ちょっとした意趣返しをしたのだろう。
オーギュストもアデリナをそこそこ気に入っているのだから、これはアデリナへの罰という意味も込めているのだろうが…。
嫌、アデリナの息抜き為にという方が正しいか。
アデリナを使える王妃に出来るかどうかはオーギュストの腕次第だが、俺はもう関わるつもりはない。
俺と違ってオーギュストは人心掌握が上手い。
種が同じでも違った畑で育てられると全く違うモノになるのだ。
俺達が似ているのは王族に受け継がれる金髪と碧眼だけだな。
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