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7 最終話
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◇ジュード・オブスキュア
どうしてこんなことになってしまったんだろうか。
僕はあの聡明で美しいクレア様を王太子の非道から助けたかっただけなのに。
クレア様は僕が思っていたよりもずっとずっと崇高な方だった。
それなのに僕の勝手な恋慕のせいでクレア様を王妃になれないようにした挙句、亡き者として世間から隠した。
クレア様の怒りに触れ、怖くなった僕は王城から帰る勇気が持てなかった。
クレア様の捜索に関わるふりをして騎士を率いて森を探した。
余計な証拠が残っていないか調べるために。
僕が雇ったならず者が馬車を襲ったあと、伯爵家の騎士を向けてならず者達を討伐させた。
そして…ただ1人の生存者であったクレア様を助けて帰ったきたのだ。
兵士は単純に被害者を救ったとしか思っていないだろう。
何処かの高貴な令嬢を助けたと意気揚々としていた。
僕がその時選んだのは平民上がりの新人兵士達で貴族の紋章等に疎かったからだ。
クレア様のドレスを着せた、似た金髪の娼婦を代わりの遺体として森の中に運んだ。
家令に手伝わせたが、彼もまた私が思いを寄せる令嬢を救うためならと納得して協力してくれた。
それに全く縁談に興味のなかった僕がクレア様を妻として迎えるつもりだと考えていただろうから。
遺体が見つかったのは次の日だった。
念の為に顔は潰してあったのだが、見つかった遺体は動物に食われたのだろうボロボロになっていた。
公爵家は粛々と葬儀を行い親族と王子2人と側近数名が参列をした。
僕はぼんやりとする王太子を見て、もしかしてクレア様の事が好きだったのかと不思議に思った。
散々な扱いをしていたクセに。
公爵や嫡男はずっと涙を我慢しておられ、この時僕は何ヶ月かしたらあなた達のもとにクレア様をお返ししますと誓った。
ご家族ならば僕のした行いがクレア様の為だったと理解してもらえるだろうと。
そして、クレア様の死亡は公には伏せられ諸事情により婚約解消と発表されたのだ。
僕が何日かぶりに屋敷に帰ると家令からクレア様が会いたいと言っていると聞いた。
クレア様はここでの生活受け入れようとしているのか好きな物を買ったり、衣装を整え屋敷を回って使用人たちに声をかけたりしているらしい。
さすが聡明なクレア様は自分の置かれた立場でどのようにするのが1番良いのか考えられたのだろう。
僕は自分の過ちを許してもらえるようにできる限りクレア様の為に尽くすのだ。
そして…いつか僕を好ましく思っていただけたら。
夕刻、お気に入りということで図書室のバルコニーでお会いすることになった。
夕日に照らされて、美しく装ったクレア様はいつも王城で見ていたままに美しかった。
メイドがバルコニーのテーブルにお茶を置いて出ていくと、クレア様は現在の状況をお尋ねになった。
僕からの説明が終わるとクレア様は立ち上がった。
そして手すりに近づくと僕に向かって右手を突き出して指で何かサインのような仕草をされた。
僕が何だろうと考えたほんの隙に、クレア様は手すりに手を掛けると勢いよく飛び上がりそのまま身を躍らせた。
僕は何が起こったのか理解ができず、下から悲鳴やクレア様と叫ぶ声が聞こえて我に返り手すりに近づき下を覗き込んだ。
クレア様は庭の植え込みの間に倒れて頭のあたりから血が広がるのが見えた。
どうして?
気付けば僕は騎士たちに拘束されていた。
騎士たちのせいで最後にクレア様の触ったティーカップが割れ、テーブルも椅子も倒れていた。
騎士たちに引きずられ玄関に向かう最中、あちらこちらからクレア様という声が聞こえた。
ああ…そうか。
僕や家令がクレア様の身分を隠していたけど、いつの間にか彼女は自分がここにいた事実を残すために、いつか噂で公爵家に伝わることを願って下々の使用人にまで名前を教えたのだ。
馬車止の前で同じように後手に縛られた家令と会った。
家令は私と目が合うと静かに涙した。
僕は、唯一愛した女性を、クレア様を失ってしまったのだ。
もう姿を見ることすら叶わなくなったのだ。
一際ざわつくと白い布で包まれたクレア様を抱いた背の高い人が現れた。
血の滲みが広がっていく白い布からは土で汚れたドレスの裾が出ていた。
クレア様を抱いた人は僕を一瞥すると、足早に通り過ぎて行った。
僕は舌を噛んだりできないようにさるぐつわをされ、馬車に連れて行かれた。
そこでマルタン公爵家の紋章に気がついた。
どうして公爵家にバレたのかは疑問だが、もうお終いだということはわかった。
先ほどの男はきっと外遊していた嫡男だ。
公爵と同じように高潔で冷酷な一面があると聞いたことがある。
そこで理解した。
クレア様は僕の罪に公女殺しを付け加えたかったのだ。
それ程に僕を憎んだのだ。
僕がいくらクレア様は自死したと言っても誰も信じないだろう。
あの時、バルコニーにいたのは2人だけだったのだ。
公爵はきっと僕の全てを奪い尽くすのだろう。
一生懸命、領地を守る父や弟達にも申し訳が立たない。
オブスキュアの名は消えるだろうから。
公爵は王家と交渉して僕の身柄を手に入れるだろう。
それから僕がいつまで生かされるかは分からないが…。
fin
❥❥❥最後までお読みくださりありがとうございました
どうしてこんなことになってしまったんだろうか。
僕はあの聡明で美しいクレア様を王太子の非道から助けたかっただけなのに。
クレア様は僕が思っていたよりもずっとずっと崇高な方だった。
それなのに僕の勝手な恋慕のせいでクレア様を王妃になれないようにした挙句、亡き者として世間から隠した。
クレア様の怒りに触れ、怖くなった僕は王城から帰る勇気が持てなかった。
クレア様の捜索に関わるふりをして騎士を率いて森を探した。
余計な証拠が残っていないか調べるために。
僕が雇ったならず者が馬車を襲ったあと、伯爵家の騎士を向けてならず者達を討伐させた。
そして…ただ1人の生存者であったクレア様を助けて帰ったきたのだ。
兵士は単純に被害者を救ったとしか思っていないだろう。
何処かの高貴な令嬢を助けたと意気揚々としていた。
僕がその時選んだのは平民上がりの新人兵士達で貴族の紋章等に疎かったからだ。
クレア様のドレスを着せた、似た金髪の娼婦を代わりの遺体として森の中に運んだ。
家令に手伝わせたが、彼もまた私が思いを寄せる令嬢を救うためならと納得して協力してくれた。
それに全く縁談に興味のなかった僕がクレア様を妻として迎えるつもりだと考えていただろうから。
遺体が見つかったのは次の日だった。
念の為に顔は潰してあったのだが、見つかった遺体は動物に食われたのだろうボロボロになっていた。
公爵家は粛々と葬儀を行い親族と王子2人と側近数名が参列をした。
僕はぼんやりとする王太子を見て、もしかしてクレア様の事が好きだったのかと不思議に思った。
散々な扱いをしていたクセに。
公爵や嫡男はずっと涙を我慢しておられ、この時僕は何ヶ月かしたらあなた達のもとにクレア様をお返ししますと誓った。
ご家族ならば僕のした行いがクレア様の為だったと理解してもらえるだろうと。
そして、クレア様の死亡は公には伏せられ諸事情により婚約解消と発表されたのだ。
僕が何日かぶりに屋敷に帰ると家令からクレア様が会いたいと言っていると聞いた。
クレア様はここでの生活受け入れようとしているのか好きな物を買ったり、衣装を整え屋敷を回って使用人たちに声をかけたりしているらしい。
さすが聡明なクレア様は自分の置かれた立場でどのようにするのが1番良いのか考えられたのだろう。
僕は自分の過ちを許してもらえるようにできる限りクレア様の為に尽くすのだ。
そして…いつか僕を好ましく思っていただけたら。
夕刻、お気に入りということで図書室のバルコニーでお会いすることになった。
夕日に照らされて、美しく装ったクレア様はいつも王城で見ていたままに美しかった。
メイドがバルコニーのテーブルにお茶を置いて出ていくと、クレア様は現在の状況をお尋ねになった。
僕からの説明が終わるとクレア様は立ち上がった。
そして手すりに近づくと僕に向かって右手を突き出して指で何かサインのような仕草をされた。
僕が何だろうと考えたほんの隙に、クレア様は手すりに手を掛けると勢いよく飛び上がりそのまま身を躍らせた。
僕は何が起こったのか理解ができず、下から悲鳴やクレア様と叫ぶ声が聞こえて我に返り手すりに近づき下を覗き込んだ。
クレア様は庭の植え込みの間に倒れて頭のあたりから血が広がるのが見えた。
どうして?
気付けば僕は騎士たちに拘束されていた。
騎士たちのせいで最後にクレア様の触ったティーカップが割れ、テーブルも椅子も倒れていた。
騎士たちに引きずられ玄関に向かう最中、あちらこちらからクレア様という声が聞こえた。
ああ…そうか。
僕や家令がクレア様の身分を隠していたけど、いつの間にか彼女は自分がここにいた事実を残すために、いつか噂で公爵家に伝わることを願って下々の使用人にまで名前を教えたのだ。
馬車止の前で同じように後手に縛られた家令と会った。
家令は私と目が合うと静かに涙した。
僕は、唯一愛した女性を、クレア様を失ってしまったのだ。
もう姿を見ることすら叶わなくなったのだ。
一際ざわつくと白い布で包まれたクレア様を抱いた背の高い人が現れた。
血の滲みが広がっていく白い布からは土で汚れたドレスの裾が出ていた。
クレア様を抱いた人は僕を一瞥すると、足早に通り過ぎて行った。
僕は舌を噛んだりできないようにさるぐつわをされ、馬車に連れて行かれた。
そこでマルタン公爵家の紋章に気がついた。
どうして公爵家にバレたのかは疑問だが、もうお終いだということはわかった。
先ほどの男はきっと外遊していた嫡男だ。
公爵と同じように高潔で冷酷な一面があると聞いたことがある。
そこで理解した。
クレア様は僕の罪に公女殺しを付け加えたかったのだ。
それ程に僕を憎んだのだ。
僕がいくらクレア様は自死したと言っても誰も信じないだろう。
あの時、バルコニーにいたのは2人だけだったのだ。
公爵はきっと僕の全てを奪い尽くすのだろう。
一生懸命、領地を守る父や弟達にも申し訳が立たない。
オブスキュアの名は消えるだろうから。
公爵は王家と交渉して僕の身柄を手に入れるだろう。
それから僕がいつまで生かされるかは分からないが…。
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